アーティストを理解する鍵は必ず幼少期にあるドキュメンタリー映画『ジョン・レノン ~音楽で世界を変えた男の真実』
不遇の幼年期、少年期を過ごしたジョン・レノンは、故郷リヴァプールで世界的に有名になるロックバンド、ザ・ビートルズの前身となるバンド、クオリーメンを若くして結成。
本作『ジョン・レノン ~音楽で世界を変えた男の真実』は、彼がザ・ビートルズを結成するまでの揺籃期を辿った唯一無二の作品だ。
ジョン・レノンが望んだ世界が、本当に今の世なのか。
彼が残した楽曲たちが、今も悲しく啜り泣いているだろう。
2022年12月8日。木曜日。この日は、ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン ~音楽で世界を変えた男の真実』が、全国で公開された日だ。
ただ、木曜日に新作映画が、初公開される事はほぼ、ありえない。
基本、上映初日を迎えるのは、週末の金曜日。
にも関わらず、「2022年12月8日(木)」なのだろうか?
それは、遡ること、40年前の1982年12月8日と関係がある。
人々は、この日が何の日だったのか、ほとんどの方が忘れているだろう。
ファンが放った凶弾によって、かの世界的偉大なミュージシャンのジョン・レノンが、命を落とした日だ。
本作の国内公開日は、彼の死や生前の偉業に対するリスペクトからの待遇だろう。
クオリーメン時代、ザ・ビートルズ時代、そしてソロへと転向した晩年のジョン・レノン。
本作は、単なる音楽ドキュメンタリーに留まらず、若きジョン・レノンの人生そのものを知ることができる。
彼は生前、何を成し得て、成し得なかったのか。
この映画は、必ず今の時代に必要な作品となりうるだろう。
ザ・ビートルズを解散後、ソロ活動に転身したジョン・レノンは、反戦運動を掲げるミュージシャン兼活動家へと姿を変えた。
ソロ活動中に、彼が残した楽曲の中には、反戦や貧民層を支持する楽曲を残している。
ソロになるまでは、世界的ポップ・バンド、ザ・ビートルズのメンバーの作詞作曲担当として、ポール・マッカトニーと人気を二分化する存在としてデビューからのおよそ8年間を過ごした。
そのザ・ビートルズを結成する前には、クオリーメンというインディーズ・バンドを仲間内で組んで、日夜ライブ活動に精を出していた。
本作は、この時代にジョン・レノンと活動していた元クオリーメンの顔ぶれにインタビューを敢行している。
名前を聞いていても、実際に本人がどんな人物なのか、長年明かされていなかった分、クオリーメンのメンバーがスクリーン上でインタビューに受け答えしている映像は、非常に貴重ではないだろうか?
この時期のジョン・レノンの姿を描いた映画『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』でも描かれており、彼の幼少期は生みの親と育ての親の間で揺れ動く時間を過ごしている。
その時の感情はしっかりと楽曲でも表現されており、ソロ転向後の初期作品の楽曲として『Mother』が、それに当たる。
幼心に彼自身が抱いた父親像、母親像を曲に託している。
そんな屈折した少年時代を過ごしたジョン少年は、ザ・ビートルズというビッグ・バンドを経て、音楽家兼活動家への道を走り抜けた。
彼が、最初に自身の音楽を通して、メッセージを残すようになったのは、68年にリリースした楽曲『レボリューション』からだと言われている。
また、翌年の69年に発表した楽曲『Give Peace A Chance』もまた、反戦に対するメッセージが歌詞から色濃く表現されている。
当時のジョン・レノンの活動に対して、賛同する者もいれば、嘲笑する者もいて、賛否が分かれていた。
彼自身も、他人から冷たい言葉を幾度となく、投げかけられていたのだろう。
その頃の心情が、名曲『Imagine』で語られている。
“You may say I’m a dreamer
But I’m not the only one
I hope someday you’ll join us
And the world will live as one”
「あなたは私が夢想家だと言うかもしれません
でも私だけではありません
いつかあなたが私たちに加わってくれることを願っています
そして世界は一つとして生きるでしょう」
特に、この一節がその時の心情を物語っていると、推察もできる。
良くも悪くも、ジョン・レノンが反戦活動へと傾倒して行ったのは、ザ・ビートルズの活動後期の1960年代後半から70年代前半だ。
彼はあるインタビューで、「平和」や「運動」に対して、こう話している。
「私たちが実際に行っていること(Bed-Ins for Peace)は、主に若者、特に平和のために抗議したり、暴力に抗議したりすることに関心のある若者中心に、世界にメッセージを送信することです… 。抗議には多くの方法があります。これはそのうちの1つです。誰もが平和のために髪を伸ばしたり、平和のために休暇を 1 週間あきらめたり、平和のためにバッグの中に座ったりすることができます。いずれにせよ、平和に対して抗議してください。しかし、平和は平和的な方法によってのみ得られると私たちは考えています。彼らは常に勝利を収めており、独自の武器で権力と戦うことは良くありません。政府は、暴力的なゲームをプレイする方法を知っています。」と、平和に対する活動は、暴力ではなく、平和的活動を通して、世界平和を成し遂げるよう、訴えている。
最後に、映画『イエスタデイ』ではないが、もしこの世に、もし2022年に、ジョン・レノンが生きていたら、今の国際社会や国際情勢を目の当たりにして、何を思うだろうか?
90年の湾岸戦争、2001年から20年続いたアフガニスタン戦争。
そして2022年、今起きている(※2)ロシア・ウクライナ戦争。
大なり小なり、年代国籍問わず、世界各国で紛争は起きている。
戦争だけでなく、幾許か、悲しいニュースも後を絶たない。
ジョン・レノンが自身の目を通して、今の社会を見たら、何を想うだろうか?
彼は生前、何を成し得て、何を成し得なかったのか。
それは、音楽に込めた世界の平和への祈り。
そして、音楽を通して世界平和が、成就しなかった事。
イギリスの片田舎リヴァプールから世界に羽ばたいた孤独な少年が、インディーズ・バンドであるクオリーメンを経て、世界的ロック・バンド、ザ・ビートルズのフロントメンバーを経験し、そして反戦活動家へと変貌したその背景には、本作『ジョン・レノン ~音楽で世界を変えた男の真実』で語られている物語にジョン・レノンのすべてが詰まっている。
この点が、本作の主要ポイントだ。
最後に、この曲を聞いて、ジョン・レノンのすべてを偲びたい。
ドキュメンタリー映画『ジョン・レノン ~音楽で世界を変えた男の真実』は現在、関西では12月8日(木)より兵庫県の洲本オリオン、12月9日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田、京都府のアップリンク京都にて絶賛公開中。また、12月16日(金)より兵庫県のシネ・リーブル神戸にて公開予定。全国の劇場にて、順次公開。
(※1)John Lennon: The Last Great Anti-War Activisthttps://www.huffpost.com/entry/john-lennon-anti-war-activist_b_1948185(2022年12月12日)
(※2)【解説】 開戦から9カ月超を振り返る、ウクライナでプーチン氏の戦争目標はどうなっているのかhttps://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-63883629(2022年12月12日)