メキシコの「誘拐ビジネス」の闇に迫った映画『母の聖戦』
行方不明や誘拐事件は、いつの時代でも、どこの国でも必ず起きる。
特に、その件数が多い国や地域を挙げるとするなら、まずインド、アフリカ、そしてラテンアメリカ、カリブ海諸国が主な発生場所だ。
誘拐事件や行方不明者が多発するほとんどの国には、貧困問題が背景にある。
誘拐事案は、この貧困ビジネスと密接な関係性にあると言われている。
gooddoマガジンというサイト内にあるこのページ(※1)「人身取引が多い国や現状とは?法律や議定書など国による取り組みなども解説」では、世界各国の誘拐事案が、詳細に紹介されており、こちらも参考にしておきたい。
では、日本ではどうだろうか?昔から国内でも、誘拐事件、行方不明事件は数多く発生しており、その古い記録ではやはり、(※2)「吉展ちゃん誘拐殺人事件」だろう。
この事件は当時、報道も入れて大々的に取り上げられた事案としては、戦後初めてだった。
この時代は、基本的に、借金返済に困った容疑者が、身代金目的のために誘拐に手を染めていたが、時代が進むと共に犯人の狙いも変容しつつある。
近年では、主に子どもに直接的に害を与える(※3)性的事案の件数が、上回っている。
何も、行方不明となったり、誘拐事件の被害者となるのは、子ども達だけではなく、(※4)10代後半以上の成人した大人でも、このような事案に巻き込まれらることが多い。
本作『母の聖戦』はまさに、これに当たる。
誘拐ビジネスが横行するメキシコ。
略取された10代の娘ラウラを取り返すために彼女の母親が自らの危険を省みて、一人立ち上がる姿を描いている。
(※5)メキシコの治安は、世界の中でも非常に悪い。
世界には現在、196か国の国が存在していると言うが、「世界で最も治安の良い国ランキング」によると、メキシコは137位となっています。
上からよりも、下から数える方がまだ早い。
それほどまでに治安が悪いと言われている。
また、(※6)世界で最も危険な50都市ランキングが、2018年に発表されているが、栄えある1位がなんと、不名誉にもメキシコにある都市ロスカボスがランクインしている。
このランキングの上位10位以内を占めている都市のほとんどが、残念なことに、メキシコの街である。
それほどまでに、如何にメキシコの治安か悪く、犯罪に特化した国であるのか、非常によく分かる。
ただ少なからず、治安だけが悪い訳ではないと、記述しておく。
本作『母の聖戦』は、ルーマニア出身のテオドラ・アナ・ミハイと言う若手が、監督している。
作品の製作には、ベルギー出身のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ルーマニア出身のクリスティアン・ムンジウ、メキシコ出身のミシェル・フランコらが、共同製作として名を連ねている。
監督であるテオドラ・アナ・ミハイは、作品のインタビューにて、彼女はこの物語に登場する母親は、実在する人物だと話す。
ミハイ監督:「当の母親は、2017年のメキシコの母の日に悲劇的な死を遂げた後、有名になった(※8)ミリアム・ロドリゲスでした。彼女は、「母の聖戦」での母親シエロの勇敢なキャラクターに影響を与えています。」と、話している。
ミリアム・ロドリゲスとは、2014年に20歳の一人娘を誘拐された女性だ。
彼女は、たった一人で、数年をかけ、娘の誘拐事件に関与したとされる容疑者10人を執念で逮捕している。
ただ、メキシコの母の日に当たる2017年5月10日に、組織からの報復を受け、10数発の凶弾に倒れ息絶えた。
ハンドバッグに入れていた彼女の手には、しっかりと「拳銃」が握られていた。
本作の主人公シエロの物語は、ミリアム・ロドリゲス本人の人生と言っても過言ではないだろう。
「彼女に捧げた」と言っても差し支えないほど、一人の母親の強い愛と執念にしっかりと焦点を当てている。
最後に、本作『母の聖戦』は、子どもを失い、悲嘆に暮れる母親たちに、ある種の希望や勇気を与える存在になって欲しい。
本作の被写体となったミリアム・ロドリゲスの死を無駄にしてはいけない。
今でも、世界は人権擁護のために戦っている。
彼女が立ち上げた市民団体Colectivo de Desaparecidos (The Vanished Collective)のように、メキシコでは今でも(※9)行方不明者を探す親族や関係者が居ることを知っておきたい。
これは、海外に限った事ではなく、ここ日本でも行方不明になった家族を何十年かけて、探している方もおられるのも事実だ。
本作に登場する母親シエロや無念の死を遂げたミリアム・ロドリゲスと同様に、元気な姿のままの子どもの帰りをずっと待っている母親たちの存在を忘れてはならない。
映画『母の聖戦』は現在、関西では1月20日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田、京都府のアップリンク京都、兵庫県のシネ・リーブル神戸、奈良県のユナイテッド・シネマ橿原にて上映中。また、全国の劇場にて順次公開予定。
(※1)人身取引が多い国や現状とは?法律や議定書など国による取り組みなども解説https://gooddo.jp/magazine/peace-justice/human_trafficking/(2023年1月26日)
(※2)4歳児誘拐殺人「吉展ちゃん事件」死刑囚の素顔と新事実 弁護人が半世紀ぶりに明かすhttps://news.line.me/detail/oa-bengo4com/959d44c2f8b2(2023年1月26日)
(※3)【日本の行方不明者は年間8万件】日本で発生している「行方不明」の傾向と、増加する子どもの誘拐事件について(2020年11月調査)https://koumu.in/articles/201119(2023年1月26日)
(※4)年間8万人も! 行方不明者どこに消えるのかhttps://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/152005(2023年1月26日)
(※5)【2023年】メキシコの治安情勢まとめ!旅行者が注意すべき危険ポイントhttps://travel0727.com/mexico-security/#:~:text=%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81-,%E4%B8%96%E7%95%8C%E6%B2%BB%E5%AE%89%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%EF%BC%91%EF%BC%93%EF%BC%97%E4%BD%8D%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3,%E4%BD%8D%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2023年1月26日)
(※6)世界で最も危険な50都市ランキングhttps://www.businessinsider.jp/post-163382(2023年1月26日)
(※7)Cannes 2021 Women Directors: Meet Teodora Ana Mihai – “La Civil”https://womenandhollywood.com/cannes-2021-women-directors-meet-teodora-ana-mihai-la-civil/(2023年1月26日)
(※8)自力で10人を逮捕に追いやった“母の執念”娘を殺された母親は、犯人を一人ずつ追いつめた─彼女の「壮絶な最期」と「終わらない闘い」https://courrier.jp/news/archives/230516/(2023年1月26日)
(※9)Powered by grief, groups looking for missing relatives in Mexico growhttps://uw-media.lavozarizona.com/story/noticias/2021/12/05/aumentan-grupos-en-busca-de-desaparecidos-en-mexico/8871833002/
(2023年1月26日)