特集上映『ラース・フォン・トリアー レトロスペクティブ2023』トリアー作品の中に眠っている

特集上映『ラース・フォン・トリアー レトロスペクティブ2023』トリアー作品の中に眠っている

2023年7月8日

特集上映『ラース・フォン・トリアー レトロスペクティブ2023』

ヨーロッパだけでなく、世界で活躍するデンマーク出身の巨匠監督ラース・フォン・トリアーの14作品が、新作『キングダム エクソダス〈脱出〉』の公開を受けて、この度日本国内で特集上映される。監督デビューから来年で40年を迎えるトリアーは、幾度の鬱病や精神疾患を乗り越え、常に第一線で脅威の作品を全世界に届けている。その作風は、ごく一般の作品とは一線を画し、観る者に不快感、鬱感、疎外感、拒絶感、孤独感、嫌悪感、悲壮感など、数々の負の感情をスクリーンから与えて来た。あの行き場のない、どうしようもない感情の行方を消化する術もなく、観客は底知れぬ負のループの渦に投身させられる。今回、『ラース・フォン・トリアー レトロスペクティブ2023』にラインナップされた14作品は、代表作の『ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000年)』から初期ヨーロッパ三部作の『エレメント・オブ・クライム(1984年)』『エピデミック~伝染病(1987年)』『ヨーロッパ(1991年)』など。他には、『奇跡の海(1996年)』『イディオッツ(1998年)』『ドッグヴィル(2003年)』『マンダレイ(2005年)』『アンチクライスト(2009年)』『メランコリア(2011年)』また、 『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦(2003年)』『ボス・オブ・イット・オール(2006年)』は、日本劇場初公開。『ニンフォマニアック Vol. 1(2013年)』『ニンフォマニアック Vol. 2(2013年)』の両作ディレクターズ・カット版は日本初公開。そして、ラース・フォン・トリアーの短編作品『ノクターン(1980年)』が、プログラムの一つ「エレメント・オブ・クライム」の本編上映前に併映される事が決定した。それでは、陰鬱で挑発的、それでいて非常に繊細なトリアー世界に浸ってみてはいかがだろうか?

©1984 Liberator S.A.R.L.

映画『エレメント・オブ・クライム(Forbrydelsens Element)』1984年公開。

一言レビュー:ラース・フォン・トリアーの記念すべき長編第一作は、近未来のヨーロッパを舞台に描く実験的ネオノワール犯罪映画。ある一人の刑事が体験する現実とも、悪夢とも判断しにくい世界の中で展開される犯人探し。フィッシャーという海外駐在員の男が、自身が最後に担当した事件の犯人を、催眠療法で捜索しようとする。この男が、無意識の世界で迷い込んだのは、ディストピアのような近未来のヨーロッパであった。本編は、全編セピア調で表現されており、リアルか、夢想かの中で繰り広げられる追跡劇は、初めから犯人がいたのか、いなかったのか判別つかない物語が用意されている。本作『エレメント・オブ・クライム』は、トリアーの初期ヨーロッパ三部作の第一作に当たる。

©1987 Zentropa Entertainments1 ApS

映画『エピデミック~伝染病(Epidemic)』1987年公開。

一言レビュー:ヨーロッパ三部作の二部作目を飾るのは、前作『エレメント・オブ・クライム』の世界観を踏襲したような、地続きの向こう側にあるような、世界を描く。でも、物語はまったくの別物だ。5日で脚本を書き上げたラース・フォン・トリアーと脚本家のニルス・ヴァセルは、友人でもあるウド・キアの家を訪ねる(本作が、後に続くトリアー×キアの組み合わせが初めて実現した作品)。監督と脚本家は、彼の出生の秘密に耳を傾けた後、ヴァセルは真の「パンデミック」の意味を理解する。トリアーとヴァセル、そしてウド・キアが出演し、物語が虚像の作り話なのか、制作陣が出演する物語が真実なのか、現実と虚実の綯い交ぜの中、繰り広げられるペストや感染症の類といった伝染病の恐怖を生々しく描く。この現実の幻影の狭間で右往左往する人物を描く描写は、前作からしっかりと引き継がれている。本作では、全編色彩を落としたモノクロ映像で表現している。この色のない世界が、ウィルスの伝染の恐怖をじわじわと描写しているようである。また、断末魔のような女性の叫び声は、スクリーン越しにも恐怖と震えを催す迫り来る脅威を描く(この女優さんの演技が、非常に素晴らしい。撮影も長回しをほぼ採用しており、臨場感を与えつつ、彼女の苦しみが全身に伝わって来るようだ)。本作『エピデミック~伝染病』は、コロナ禍に陥った3年間の世界を予知的観点を持つ作品だけあり、今の時代に観たら、間違いなく、ウィルスへの脅威に身震いするだろう。ラストのスコアが、作品の恐怖指数を上げている。

©Liberator S.A.R.L, UGC-
Gerard Mital & Telefilm Essen.

映画『ヨーロッパ(Europa)』1991年公開。

一言レビュー:ヨーロッパ三部作に続く最後の一篇。第二次世界大戦で敗戦した直後のドイツは、政府の監視下に置かれた厳重な社会。叔父に勧めで鉄道会社に就職した若いアメリカ人青年レオポルド・ケスラーは、ドイツだけでなく、当時ヨーロッパ全体に覆い隠されていた社会的「不安」に押しつぶされそうになる。この時代の人々の心を覆った陰鬱とした空気感は、恐らく、今の世にも通じる側面がある。人間が抱く不透明な不安こそが、社会を奈落の底へ陥れ、ウィルスを蔓延させ、現実と幻想の狭間で感情を踊らせる。これら三部作が描いた世界、時代、背景は、それぞれ異なっており、唯一同一なのは「ヨーロッパ」というキーワードのみ。でも、三作品の中にあるのは、私達が生きるこの2023年の21世紀であることを忘れてはならない。

映画『奇跡の海(Breaking the Waves)』1996年公開。

一言レビュー:「神への献身と愛」というテーマに綴られるのは、熱情的な愛の裏側で起きる神との対話だ。愛を誓うはずだった男女は、男の半身不随という不運に翻弄されながら、女は性愛を求めて幾人もの男を体をまぐらわす。その背景には、不随となった男が、女に性体験をして、それを枕元で聞かせて欲しいと囁かな願いからなる。女は、愛欲の渦に身を沈めながら、男の回復ばかりを祈って、日々多くの男のために股を開く。彼女の日々、娼婦化する姿を見て、意味もなく嫌ったのは家族や親族、教会関係の人間だ。ただ、女は男の回復を祈ったばかりに、他者から信頼を失っていた。数奇の運命に晒されながらも、強い愛に惹かれ合う男女の儚いまでの人生が、キリスト的背景の元、語られる。ラスト、あなたは必ず「奇跡の海」を目撃する。果たして、信じる者は救われるのか?

©Lars von Trier

映画『イディオッツ(Idioterne)』1998年公開。

一言レビュー:1995年にラース・フォン・トリアー監督が提唱した「純潔の近い」と呼ばれる映画運動「ドグマ95」(※1)は、10項目のルールを敷いている。

1.撮影はすべてロケーション撮影によること。スタジオのセット撮影を禁じる。

2.映像と関係のないところで作られた音(効果音など)をのせてはならない。

3.カメラは必ず手持ちによること。

4.映画はカラーであること。照明効果は禁止。

5.光学合成やフィルターを禁止する。

6.表面的なアクションは許されない(殺人、武器の使用などは起きてはならない)。

7.時間的、地理的な乖離は許されない(つまり今、ここで起こっていることしか描いてはいけない。回想シーンなどの禁止である)。

8.ジャンル映画を禁止する。

9.最終的なフォーマットは35mmフィルムであること。

10.監督の名前はスタッフロールなどにクレジットしてはいけない。

これら10のルールのうち一つでも守られていなければ、ドグマ95の作品としては認めないという厳しい監視下の元、作られた作品に対してドグマ95と呼ぶ。本作『イディオッツ』は、トリアーが提唱してから初めて制作した最初で最後のドグマ95作品だ。ただ、本作はBGMが使用されており、明確なルールに従っている訳ではない。この映画運動は、2005年に解散したと言われているが、2008年までの間に280作品ほど、制作されたと言われている。この影響は、デンマークから遠く離れた韓国映画界にも多大な影響を与えたと言われている。今でこそカルト映画として評価されている本作だが、発表当初、酷い批判に晒されながらも、1998年のカンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを争った怪作だ。造語である”spassing”(「spaz 」に相当する「spasser」に由来する)と仲間内で呼ぶ行動が、映画内でも現実でも波紋を呼んだ。これらの行動をする登場人物たちを指して「イディオッツ(愚か者たち)」と呼ぶが、ある種、脳性麻痺や脊髄損傷に苦しむ人々への酷い差別的侮辱を誘発しているように見える。まるで、苦しむ人間に対して蔑み、見下すような狂気を描いた本作は、他に類を見ない不快作だ(褒め言葉として)。

©ZENTROPA ENTERTAINMENTS4,
TRUST FILM SVENSKA,
LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED,
FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINEMA

映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク(Dancer in the Dark)』2000年公開。

一言レビュー:公開から20年以上経った今でも、ラストのラストのあの展開に物議を醸している作品は、そうそうない。主人公のセルマは、チェコからの移民で、息子と二人暮し。先天性の病気で徐々に視力が失われつつある。彼女の息子も、遺伝により13歳で手術をしないと失明してしまう運命にある。セルマは、息子の治療費を稼ぐため工場で働くが、ある時必死に貯めたお金を盗まれる。取り返そうと躍起になるが、彼女は誤って人を殺めてしまう。世間の移民のセルマに対する風当たりは厳しく、差別にも待遇を受けた彼女は、第一級殺人として有罪に処される。移民の国アメリカで、明るい夢を見た彼女は、世間の冷たい眼差しに晒されながら、最悪の最期を迎える。この人間社会の不条理さを痛烈な物語で皮肉ったトリアー監督の鋭い眼光は、素晴らしい。この作品を観た者は、ネガティブな感情を植え付けられるかもしれないが、自身はこれをポジティブなラストとして受け入れている。確かに、不条理な物語ではあるが、セルマが妄想したミュージカルを違う場所でも楽しく踊っていて欲しい。世界は、しがらみだらけで構築されてはいるが、そこから解放された彼女には、必ず幸せになって欲しい。そう願わずに居られないラストに、一筋の涙が瞼から零れ落ちる。

©Copyright 2003

映画『ドッグヴィル(Dogville)』2003年公開。

一言レビュー:一切のセットや美術の配置を廃止して、スタジオのような、体育館のような、だだっ広い空間の床に線だけを描いて、何も無い空間で役者達に演じさせた実験的作品。これは、役者だけでなく、観客にも「想像力」が必要であると、言っているほど、複雑で理解し難い作りとなっている。物語は、あるアメリカの田舎町を舞台に、排他的な村社会の恐怖を描く。本作『ドッグヴィル』は、アメリカ三部作の一本目。続く、映画『マンダレイ』でも同じテーマが引き継がれ、三作目の制作も期待されていたが、監督自身が鬱病に罹患し、最後の作品は制作されること無く、幻の作品となってしまう。人間たちが犯す罪の業の深さは、誰が裁けると言うのだろうか?本作が持つテーマのうちの一つ「村八分」は、世界共通の問題として意識したい。近年でも、村社会のディスコミュニケーションが原因で、ある事件(※2)が起きた地域もある。この田舎特有の「村八分」が発端となる事件は後を立たず、しっかりと社会の問題として、考えていきたい。

©2003 ZENTROPA REAL,
WAJNBROSSE PRODUCTIONS,
ALMAZ FILM PRODUCTIONS, PANIC PRODUCTIONS.

映画『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦( De fem benspænd The Five Obstructions)』2003年公開。

一言レビュー:トリアーは、昔からストイックな映画監督として有名だ。それが如実に分かるのが、なんと言っても、本作『ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦』だ。作品のあらすじは、ラース・フォン・トリアーが先輩監督のあるヨルゲン・レスに5つの課題を提示して、ショートフィルムを作らせる構成。単なる映像制作の舞台裏を切り取った作品ではなく、トリアーが監督として自身の狂気ぶり、無茶ぶり、傍若無人な様をカメラに収めて行く様子は、つい先頃、NHKで放送された映画『シン・仮面ライダー』の庵野秀明監督のストイックなまでのパワハラ風景を、監督自身が意図的にカメラに収め、編集したドキュメンタリー(※3)とまったく同じ構図だ。

©Copyright 2005

映画『マンダレイ(Manderlay)』2005年公開。

一言レビュー:アメリカ三部作の二作目。前作の制作スタイルを引き継ぎつつ、今回は出演者を入れ替えて、撮影に挑む。時は、1933年。南北戦争と奴隷解放宣言が勃発してから、およそ70年。ギャング団を率いるグレースが辿り着いたのは、農場マンダレイ。そこでは、今でも奴隷差別が行われ、黒人がまさに鞭を打たれようとしていた。と、南北戦争から連なる奴隷問題や黒人差別をテーマにしつつ、より民主的な解決を望む人間の孤軍奮闘を描いた意欲作。観念的な「多数決主義」や「自由主義」を力ずくで押し付けることや、人間を類型に当てはめようとすることの愚かしさを力強く描く。この物語が、語るのは今の世だ。2023年の今が、まさにこの画面の中で動いている。黒人差別、銃社会、凶悪犯罪、時が移り変わろうと、その本質は変わらない。人々は、いつの時代も人を蔑み、奴隷のように扱う。果たして、今の社会が、この結果を誰が望んだと言うのだろうか?こんな悲劇を、これから先も繰り返したいと言うのだろうか?今この瞬間に、変えて行く必要があるのでは無いだろうか?それを身を持って変えようとしたのが、本作に登場したグレース達だ。行動一つで、社会は動く。一人でも多くグレースのような人間が、誕生してくれる事を願うばかりだ。また、この三部作の三作目『Washington(原題)』(※4)が今、動き始めているようだ。どんなテーマの作品になるのか、今からでも楽しみだ。

©Copyright 2006

映画『ボス・オブ・イット・オール(Direktøren for det hele)』2006年公開。

一言レビュー:この作品で最も注目すべき点は、トリアー監督が独自で生み出した撮影技法「オートマビジョン」(※5)だ。パソコンが、自動的に撮る対象のあらゆるものを決定して行く手法を取り、そこには人間の意思は介在できない。非常に難易度の高い撮影法の一つと言っても、過言では無い。と言うのも、パソコンが意識して捉えるカメラのアングルは、時に対象人物の頭が切れたフレーミングや手元だけ、または何を撮っているのか分からないような角度を、機械が判断して、採用する。果たして、これは映画として成立するのか、人々は疑問視する事だろう。なんせ、超絶実験的な映画に取って代わる事間違いないが、この手法を採用することによって、作品にはどんな作用が生まれるのか?結論は、作品を観た一人一人の観客に委ねられている。物語は、会社やビジネスを皮肉ったコメディとなっている。IT企業のオーナー、ラヴンは、アメリカに住む本当の上司の代わりに、彼になり切って電子メールで仕事をして来た。でも、それができるのは、終わりを告げようとしていた。会社売却を測ろうとラヴンは奔走するが、買い手は彼の上司と会いたがる。架空の人物を演じて来た彼は、困った挙句、俳優を雇い、架空の上司を演じてもらうのだが…。という、会社経営では一番してはダメな経営して来た男の末路が、ユーモアとペーソスで綴られる作品。

オートマビジョンの撮影風景とインタビュー

©Zentropa Entertainments 2009

映画『アンチクライスト(Antichrist)』2009年公開。

一言レビュー:ここから記述するのは、三作に渡って制作された「欝映画三部作」だ。本作は、その一作目に当たる作品となるが、この時期、トリアー監督は酷いうつ病として診断され、制作自体が危ぶまれた作品だ。2年間の療養生活を余儀なくされた監督は、自身の鬱と向き合いながら、生まれたのが映画『アンチクライスト』『メランコリア』『ニンファマニアック』シリーズだ。先述したように、本作がその一作目だが、タイトルが物議を醸しすぎて、本当に際どすぎる。アンチクライスト。日本語に訳せば、反キリスト教だ。全世界のキリスト信者を敵に回したタイトルに込められた監督の意図は、鬱を発症した人間による世間への宣戦布告だろう。重いうつ病は、毎日を生きるのがやっとな状態。そんな中で、映像制作をするのは至難の業でもある。それでも、本作を世に発表しようとした気概は、並々ならぬ強い意志があったからだろう。神は、果たして存在するのか?存在しないのか?反キリストと銘打った本作のタイトルが指し示す神の存在証明や神義論をどう捉えるかによって、本作の価値は変わる。

©2011 Zentropa Entertainments ApS27

映画『メランコリア(Melancholia)』2011年公開。

一言レビュー:「鬱映画三部作」の二作目。その名もメランコリア。意味は、そのままの「鬱」であったり、また憂鬱症。躁鬱病の鬱の状態。メランコリー。他には、「深い悲しみ、活力の欠如」の意味がある。なかなか救われない意味が並ぶ言葉であるが、この単語を作品タイトルとしてチョイスするのは、非常にセンスを感じる。監督本人が、うつ病であったにも関わらず、自身の精神状態を映画の題名として採用するあたり、彼の「私」の中の何かと対峙していたのだろうか?うつになったら、何がどうつらいのかは、当の本人にしか分からない。その言語化しにくい感情を、映像やタイトルで指し示した監督の意欲は、賞賛に値する。誰もが、抱える負の感情をマイナスな意見で抑え込むのではなく、何か解放的な思想で外の世界に解き放つ。その時、メランコリックな感情は、より寛容に向かうのだろうか?物語は、世界の終わりを衝撃のドラマとして描く。地球の終幕に遭遇する事になった人間の姿を、圧倒的映像美と共に荘厳な筆致で描出す。監督は、うつ状態のまま、世界の終焉を願ったのだろうか?その先に、必ず希望を見出したのだろうか?鬱と地球の終末論のその先に、必ず私たち人間を明朗にさせる未来が、訪れることを願いたい。

©2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS,
ZENTROPA INTERNATIONAL KOLN,
SLOT MACHINE, ZENTROPA
INTERNATIONAL FRANCE,
CAVIAR, ZENBELGIE,
ARTE FRANCE CINEMA

映画『ニンフォマニアック Vol.1(Nymphomaniac: Vol. I)。ニンフォマニアック Vol.2(Nymphomaniac: Vol. II)』シリーズ2013年公開。

一言レビュー:セックス依存性の女性が、垣間見た性の世界は想像絶する程の性を美しく捉えた耽美的な世界だった。2部構成として描かれたエロティックな本作は、色情魔の主人公の女性が体験した50年にも及ぶセックスの旅の記録だ。4時間1分にもなる長尺なエロスの旅程は、我々を耽美な世界へと誘う。性が、如何に美麗で、如何に卑猥で、如何に醜悪なものとして描きつつ、そこにあるのは人間としての愛されたいと言う本能的な愛欲の部分が描かれる。性的欲求であるフラストレーションが溜まった社会構造の中、私達が求めるの性への捌け口か、それとも快楽的に陥る性の落とし穴か。鬱とセックスが出会う時、あなたは底知れぬ快楽的欲求の世界へと足を踏み入れる。自慰行為が、是か非か。オーラルセックスが、是か非か。複数プレーが、是か非か。SMプレーが、是か非か。セックスは、限りなく人間を動物的に解放する究極の快楽的娯楽だ。うつ病が寛解するには、「未治療の場合、うつ病は6〜12ヶ月続いた後に自然に軽快するといわれています。 適切な治療をうけた場合は、多くが3〜6ヶ月で回復します。 しかしうつ病を経験した患者さんの約60%が再発し、その多くが回復後2年以内におこると言われます。 現在のうつ症状を「治す」ことだけでなく、再発を減らす工夫を考えることが重要です。」(※6)と言われているが、再発を防ぐためには、周囲の理解も必要だ。うつは、当事者本人だけの力だけでは治せない。周りの家族や職場、友人、恋人たちの強い支えがあってこそ、再発を防げる。トリアーは、性の世界を描くことに没頭した結果、うつを克服したのだろう。寛解するのは非常に難しいが、病が感知した時、人は思いもしないほど、本領を発揮するものだ。それが、今のトリアーに如実に現れているのも事実だ。今からでも彼の新作が、楽しみでもある。

短編映画『ノクターン(Nocturne)』1980年制作。

急性光過敏症に悩む、問題を抱えた孤独な女性が、身体的試練から逃れるために力を振り絞る。しかし、ほんの数時間後に迫った運命の朝。明朝は、とても遠くて青白い。彼女は、一歩を踏み出して、外の世界に行くことができるのか?未知の変性疾患の結果、影と闇に満ちた過酷な生活を強いられる女性。急性の光過敏症に悩まされ、真夜中に汗だくの中、悪夢によって目覚めます。急性光過敏症(※7)とは、視覚に飛び込んだ光刺激に対する異常反応の症状でてんかんの一形態。 光刺激に対する耐性には個人差があり、その耐性が低い人が光を見た際に脳が興奮して発作を起こすとされている。この病気が、何万人の割合で発症するのか未知数だが、日本では昔アニメ『ポケットモンスター』内で起きた「ボケモンショック」(※8)が有名だ。また、近頃では、映画『リトル・マーメイド』の上映(※9)でも一部、この急性光過敏症が発生している。私たちの生活では、この病気、急性光過敏症が隣り合わせである事を覚えて起きたい。「えいがやテレビをみる時は、お部屋をあかるくして見ましょう!」。

トリアー監督の特集上映は、長編短編併せて全15作品が、現在公開中だ。彼の驚異や狂気を、あなたのこの目で観て欲しい。また、短編作『ノクターン(Nocturne)』が同時上映されるのは、この上なく貴重な体験なので、短編を特に気に掛けて欲しい。トリアー監督は、この短編で頭角を現した人物だが、彼は実は11歳の頃から映像制作の世界に身を投じて来たのはご存知だろうか?私は、この機会に、彼の過去の作品にも触れてみた。監督は、子どもの頃から映画を撮り始めており、その第一作目が、1967年に制作した1分程の短編アニメーション『Turen til Squashland』だ。この作品以外にも、『Et skakspil(1969年)』『En røvsyg oplevelse(1969年)』『Hvorfor flygte fra det du ved du ikke kan flygte fra? Fordi du er en kujon (1970年)』などがあり。すべて、1分から8分の短編だ。この頃から映画監督としての素質を備わっていたのだろう。11歳で監督デビューと言えば、名古屋市中川区に住む小学6年生の今井環(めぐる)くん(※10)を思い出す。ホラー映画『呪怨』を手がけた清水崇監督も作品を見て「衝撃を受けた」と話す程、才能に溢れた少年だ。子どもの才能は、しっかり伸ばして上げたい。この子の未来が、トリアー監督のような映画監督としての表現の場をであって欲しい。その為に、私たち大人は何ができるか考えたい。きっと、その答えはトリアー作品の中に眠っている。

特集上映『ラース・フォン・トリアー レトロスペクティブ2023』は現在、関西では7月7日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田アップリンク京都にて公開中。8月4日(金)より大阪府のシネマート心斎橋にて上映開始。また、全国の劇場にて順次、公開予定。

(※1)Dogme95.dk – A tribute to the official Dogme95-http://www.dogme95.dk/(2023年7月5日)

(※2)《山口連続殺人放火事件》「みんな仲良しなのに、ひとりだけ浮いた存在」近隣住民5人を殺された村人が語った「犯人の人柄」https://bunshun.jp/articles/-/61187(2023年7月6日)

(※3)『シン・仮面ライダー』庵野秀明、スタッフへの衝撃的な言動に「パワハラ野郎」巻き起こる論争https://www.msn.com/ja-jp/entertainment/celebrity/%E3%82%B7%E3%83%B3-%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC-%E5%BA%B5%E9%87%8E%E7%A7%80%E6%98%8E-%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%95%E3%81%B8%E3%81%AE%E8%A1%9D%E6%92%83%E7%9A%84%E3%81%AA%E8%A8%80%E5%8B%95%E3%81%AB-%E3%83%91%E3%83%AF%E3%83%8F%E3%83%A9%E9%87%8E%E9%83%8E-%E5%B7%BB%E3%81%8D%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%82%8B%E8%AB%96%E4%BA%89/ar-AA19xnOy?ocid=Peregrine#image=1(2023年7月6日)

(※4)WASHINGTONMatías Daportahttps://escenasdocambio.org/en/eventos/washington-3/(2023年7月6日)

(※5)Automavision: An Innovative Approach to Filmmaking and Photographyhttps://filmlifestyle.com/automavision/(2023年7月8日)

(※6)日本大通 満岡クリニック https://www.mitsuoka-clinic.com/depression2.htm#:~:text=%E6%9C%AA%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%80%81%E3%81%86%E3%81%A4,%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E9%87%8D%E8%A6%81%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(2023年7月8日)

(※7)皮膚科 Q&A先天性光線過敏症https://www.dermatol.or.jp/qa/qa36/s2_q05.html(2023年7月8日)

(※8)【ポケモンの事件】ポリゴンショックとは?症状や死亡者、真犯人についても解説しますhttps://pokemonchronicle.com/what-is-porygon-shock-incident/(2023年7月8日)

(※9)光点滅のポケモン・ショック、映画「リトル・マーメイド」でも? 公式サイトがてんかん症状の注意喚起 鑑賞した人「チカチカきつかった」https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/omoshiro/202306/0016460948.shtml(2023年7月8日)