創作の喜びと痛み、そして時間がもたらす変化を優しく描く映画『Retake リテイク』中野晃太監督インタビュー
—–まず映画『Retake リテイク』の制作経緯や舞台裏について何かお話しして頂けますか?
中野監督:映画の登場人物と同じように、私も高校生や大学生の頃の学生時代ぐらいから映画を作り始めました。しかし卒業後、ずっと作る側ではなく、子ども達や高校生達に映画・映像を教えるワークショップや授業を開いて、教える立場として作らせる方をずっとやっていたんです。講師として10年以上携わり、作る側を怠っていました。そのときに教えている高校の受講生として本作の出演者の水口遊役の麗さんが授業の終了制作として、大作企画を考えていたんです。大作すぎて、高校卒業後も含めて、ずっと撮っていたんですが、映画の構成上、必然的に奥多摩の廃墟の危なっかしい所で撮ってもいたので、講師として見守り手伝っていたんです。麗と途中からアリサ役のアレイナさんも彼女の映画作りに参加したんですが、彼女達の映画作りの様子をずっと見ていて、それこそが映画のようだと感じたんです。作っている様子や彼女達のキャラクターも含めて、撮影現場の人間関係のトラブルもあったり、それが本作『Retake リテイク』の発想に繋がったんです。また、ここまで本当に本気で作る子達には、今までなかなか出会えなかったので、僕も何か取り組まなければという気持ちにされて、この企画を作りました。
—–無意識かどうか分かりませんが、恐らく、監督自身が彼等に感化されたのでしょうね。若い子の姿を見て、めっちゃ作りたいとなったのでは?
中野監督:自分自身の、高校、大学の頃に過ごした学生時代の映画作りで経験した出来事やトラブルや、映画を作っている間「ずっとこの時間が続けばいいな」という気持ちになっていた事も思い出して、自分自身の経験も交えて、麗さん以外にも、子どもたちや学生たちの映画作りを10年以上見て来た経験すべてを作品に込めています。
—–とてもいい化学反応だと、私は思いました。30代、40代の世代の私達が動く事によって、上の世代の先輩方がもっと頑張ろうという気持ちになって、業界自体が気持ちの循環によって、もっと盛り上がればいいのかなと一瞬思わされました。その発端が、本作のような作品から生まれて行く。私は今、非常に感動しています。恐らく、私達もどこかで刺激を受けて、誰かに刺激を与えられる存在になるでしょう。グッと来ますね。
中野監督:ありがとうございます。
—–たとえば、この映画の設定を「映画内映画」にする事によって、青春映画の特性に何か変化は生まれましたか?
中野監督:この作品は青春映画でもありますが、「時間」をテーマとする部分もあるんです。映画はまさに、時間の芸術と言われていますが、この映画を作っているお話は、さっきお話したように、自分がずっと仕事として見てきたものでもあり、自分自身の経験でもあるんです。過ぎ去る時間としての青春が、この映画の本質なんです。
—–お話をお聞きして、この作品の取り組み自体が過去の自身の青春への取り戻しだと思えました。映画を通して、青春の素晴らしさに出会えたと同時に、私はなんで今まで青春をやり過ごして来たんだろうと後悔を知りました。青春映画は、過去に残した事への「取り戻し」だと思います。監督自身、恐らく、そんな体験や想いを何かお持ちではないでしょうか?
中野監督:だから、映画『Retake リテイク』は、「撮り直す」という意味もありますが、僕の学生時代の映像制作を通しての失敗も要素として入っています。本当に、劇中と同じように、一緒に映画を作っていた女の子がいるんですが、途中で相手の事を好きになってしまって、告白したんですが振られてしまって、一緒に関わっていた人にも迷惑をかけてしまい、「作らない方がいいのでは?」と大学一年生の時に思い悩んでしまったんです。未だに、その時の経験が、この年になっても凝りとして残っているんです。映画を作る事は人間関係なんだと痛いほど実感しました。その時の失敗の後、別の友人と別の映画作りに関わったんですが、その時はあらためて、映画制作が自分の居場所みたいに感じられたんです。「ずっと、この時間が続けばいいな」と本当にその時感じていた事がすべて、作品に入っています。
—–凝りやトラウマを乗り越えて、やっと過去を精算できたんじゃないのかと思うんです。
中野監督:その通りです。
—–この映画を観て一番喜ぶのは、その時のお友達じゃないのかなと思います。あの頃の仲間に届ける事もできるんじゃないのかなと私は思いました。
中野監督:あの時、僕を振った女の子も、何かで本作を知って、観てくれたらどう思うのかな?と思います。
—–その子が一番、足を運んでくれると私は信じます。映画産業は現在、縮小しつつあると私は思うんです。それは、劇場だけでなく、映画ファンやユーザーも同時に、減りつつあるのかなと私は感じます。映画を観てない世代も増えて来ています。でも映画を作る学生という題材を通して、これからの映画産業の発展に関して、何かお考えはございますか?
中野監督:普段は映像を教える立場として活動していますが、映像や映画業界に行って欲しいと思って活動しているわけではないんです。映画作りのプロセスは本当に人間関係が非常に濃密になり、ただいっしょに遊ぶ時とは、また違ったコミュニケーションが生まれたりするんです。仲間内だけでなく、たとえば取材を通じて、自身とまったく違う他者や世界と出会うきっかけともなります。一つの映画をいっしょに作るプロセスの中でそれぞれの個性や得意な事を活かし合うわけです。その経験を通して、自分には出来る事があるんだと、またお友達にはこんな個性があるんだとお互いの発見に繋がって、自己肯定感を 高めてもらう。その経験が人生の役に立てるんじゃないかなと取り組んでいます。それを得て、大人になった子たちが、社会に出たときに、社会自体もより良くなっていったらいいなという気持ちはあります。
—–映画だけに拘るのではなく、本当に映像を作る事に対して、もっと楽しみを持って欲しいと思います。今、すごく映像が世の中に溢れていて、作る事自体、アプリですぐに作れてしまう時代で、映画だけじゃなく、本当に映像そのものに触れる事に楽しみを持って欲しいという監督の気持ちを私は感じ取る事ができました。それが、未来に繋がって行く。本作を通して、映画を作る楽しさが画面から伝わって来そうでしたが、今もしくはこれから映画を作ろうとする若い世代に伝えられる事があれば、何かございますか?
中野監督:本当に、映画を作る事は多分、人生の時間を凄く濃密にする事だと思うんです。もちろん、映画の道に進んでくれたら嬉しいですが、そうでなくても、絶対自分の人生の経験にとって、かけがえのないものが経験から得られると思うので、ぜひ作って欲しいです。
—–本作の物語は、映画の中で「時間の流れない世界」に行くという設定ですが、もし時間の流れない世界があるとすれば、監督の思うその世界観について何かお話し頂けますか?
中野監督:それこそ本当に僕の中ではさっき話していた大学時代、一緒に映画を作っていた仲間との時間が本当に凄く楽し過ぎて。ずっと、続けばいいなと本当に思っていたんです。そんな時間が、ひたすら続いているイメージですかね。
—–インディーズの現場は、一緒に仲間と作るあの時間がすごく楽しく、この気持ちは一番強いと思うんです。あの経験があるからこそ、映像制作を乗り切れるんだなと思います。恐らく、今後ろで聞こえている子ども達の「ジャンケンポン」の掛け声が、時間の流れない世界だと思います。
中野監督:子どもの頃の時間は、あっという間ですよね。
—–最後に、映画『Retake リテイク』が、今回の上映を通して、どう広がって欲しいなど、何かございますか?
中野監督:自分としては、本当にコアな映画ファンの方から映画はあまり観ないけどという方まで、楽しんで頂けるように作ったつもりです。本当に、今まさに青春を送っているような年代の方からかつての青春の思い出があるような方まで、年代的に幅広く観て頂きたいと思っています。 麗さんが所属しているバンド「チョーキューメイ」ファンはもちろん必見です。逆に、この映画を観て、チョーキューメイのファンにもなって頂ければと。欲張っちゃいした。
—–でもみんな、世代を問わず、今の青春を過ごしていると思います。人生そのものが、青春ですよね。本日は、貴重なお話、ありがとうございました。
映画『Retake リテイク』は現在、関西では1月31日(金)より京都府のアップリンク京都、2月1日(土)より大阪府のシアターセブンにて上映中。また、3月1日(土)より兵庫県の元町映画館