映画『システム・クラッシャー』健康的に元気に育ち、大きく成長する事

映画『システム・クラッシャー』健康的に元気に育ち、大きく成長する事

ぶち切れるのは愛の不足の裏返し映画『システム・クラッシャー』

©2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschrankt), ZDF

©2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig,
Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge
Film UG (haftungsbeschrankt), ZDF

時に、人は理由もなく何かに怒りをぶつけたくなる時もあるだろう。叫びたくなる時や悪態を付きたくなる時もあるだろう。思い通りに行かない人生。ままならない生活。大人の世界は、そんな日々の連続で成り立っているが、子どもの世界だって、大人達と同様に本人の思い通りに事は進まない。スクールカースト、校内暴力、いじめ、親との確執、生きている限り、子どもにだって、子どもなりの問題は山積みにある。クラスの友達の仲に溶け込めなかったり、家に帰れば親や兄弟とケンカしたり、なかなか心穏やかに過ごせない日々を送る。本作『システム・クラッシャー』は、ある一人の少女の姿に焦点を当てた子どもの世界を描く。作品では、主人公の少女が発達障害と言及されておらず、「社会に居場所をなくしてしまった」や「父親から受けた過去のトラウマを抱える」と表現されているが、この少女の言動は紛れもなく発達障害の症状だ。現に、作中では薬剤を内服する場面があるが、恐らく、あれは発達障害の症状をコントロールするADHDの2種類の治療薬、コンサータかストラテラ(※1)のどちらかだろう。少女は常に一人で、誰にも理解されず発達障害の症状と戦い、向き合っている。粗野で暴力的で、叫んでばかりいる少女の気持ちの裏では、誰からも愛されたい、誰とでも仲良くしたい、もっと相手の事が理解したいという感情が心の中にあっても、それを言葉として上手に発するのが困難であったり、自身の思いや考えを形として表現するのが難しいため、結果として、暴言が先に出て、暴力がその後に付き纏い、そして他者と相容れなくなり、ケンカをしてしまうという負の悪循環が彼女を襲う。ただ少女は、普通のお友達のように、クラスメートや親、兄弟と日々の日常を穏やかに共に過ごしたいと思っているが、それを相手に伝える手段や術を知らずに、生きている。自身の心の中にある伝えたい気持ちを、上手に言葉として変換できない以上、それは暴言や暴力として先に出てしまう。少女が、少女らしく生きるには周りのサポートだけでなく、本人自身の内から来る気付きも必要となる。彼女を特別視するのではなく、彼女がどう社会や世間と折り合いを付けて、心穏やかに過ごせるのか同じ視点に立って、考えて行く必要がある。

©2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig,
Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge
Film UG (haftungsbeschrankt), ZDF

日本国内における発達障害児は現在、2006年における発達障害の児童数は7000人余りだったのが、2019年には7万人(※3)を超えたと入れており、今年2024年はデータとしての統計は出ていなくても、5年も経てば、5年前の数字より、より多くの児童が発達障害児として診断を受けているだろう。今後、ますます教育現場や社会では発達障害を持つ子ども達は急増するであろう。別作品の作品レビューにて、発達障害の種類について項があったと思うが、改めて、お浚いしてみると、発達障害にはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、学習障害(LD)の3つに分類されると分かっている(※4)が、この3つの病名の中には多くの症状があり、その症状によって、発達障害児(者)それぞれによって生活での困り事は大きく変わってくる。ASD(自閉スペクトラム症)は、・言葉の遅れ、・周囲とのコミュニケーションが苦手、・こだわりが強い・変化が苦手、・かんしゃく・自傷行動、・感覚過敏、・感覚鈍磨が挙げられる。ADHD(注意欠如多動症)には、課題に集中できない、・忘れ物や不注意が目立つ、・我慢ができず、感情がコントロールできない、・行動がコントロールできないが、挙げられる。学習障害(LD)には、読むことが苦手、・書くことが苦手、・算数が苦手、・なぜできないのか理解してもらえないなど、それぞれの症状に悩まされながら、子どもたちは日々を過ごしているが、周囲の子ども達と何ら変わりもなく過ごしているため、どうしても当事者の苦悩や悩みは見落とされ、気付かれない事が多くある。2020年以降に行った発達障害における認知度調査の結果、明確になった事、それは「発達障がいの認知度は高いが、当事者や家族の多くは十分に理解されているとは感じていない」(※5)という当事者や当事者家族の真の声だ。「発達障害」という言葉に対しては認知していても、その症状における当事者達の一般とは少し変わった行動に対しては、世間から理解されていないのではないかと、心配する親や家族の本音が調査結果として判明している。他者に理解を求めようとするのは非常に困難な事であり、第三者が当事者の苦悩を理解しようとする事もまた、非常に難題でもある。障害者と健常者、当事者と第三者の間でより深く、より親密な関係性を築ければ、当事者の子ども達も第三者の人間もより穏やかな関係を紡げるはずだ。その為には、当事者間の歩み寄りが今、最も必要とされている事だろう。

©2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig,
Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge
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また、発達障害に対する認知が世間では少し広まっている一方、発達障害の症状に対する理解は未だに、世間の中で広まっていないと、調査の結果で判明したと先程述べたが、私達はこの発達障害を理解するには、一体どのような行動を取れば良いのだろうか?まず、平成24年7月の障害者に関する世論調査の結果によれば、「発達障害への理解に関して、「発達障害に関する理解があると思うか」については、「どちらかといえば理解があると思う」を含め、33.6%となっており、「どちらかといえば理解ないと思う」人を含め、「理解がないと思う」人が59.9%となっている。」(※6)と、世間からはまだまだ厳しい現状を与えられている。この数字の結果が示すものは、この日本社会における発達障害を持つ者への世間の風当たりの厳しさを思わざるを得ない。そこで、私達が発達障害を持つ大人や子どもに対して、正しく理解するにはまず、「身近な大人たちが特性を理解し、行動をただ叱るばかりでなく、よい面を見つけて褒めてあげるなどの対応をとることが大切です。」と、専門家は話す。また、「自身の特性を伝え理解してもらった上で、職場や学校生活を過ごす」と言ってもいるが、現状、それが本当に実現できるのは、周りの理解やサポート、その場の環境が整備している背景が初めて存在し、実現する事だ。この専門家の方が話す事が絵空事とまでは言わないが、当事者と世間の間には、まだまだ「無理解」という大きな橋が横たわり、当事者の方々はそれを容易に渡る事を許されていないのが、今の日本社会の現状だ。特性を伝えようとしても、理解できる人が少ないと思ってしまうと、自身の困り事を周囲には相談できず、当事者達の悩みは蔑ろにされ、自身の心の中にしまってしまうのが現状だ。一人でも多く、発達障害への理解が深まって欲しいと願う一方で、当事者の方も症状だけのせいにはせず、健常者の方々へ理解を求めるのであれば、当事者もまた健常者の方々同様に、双方歩み寄ることが必要となって来るであろう。現状は、双方の理解が得られないから、互いに大きな溝を作り、分断が生まれ、無理解が大きな誤解を生み出し、ケンカやいじめ、仲間外れが発生しているが、双方が互いをリスペクトし、尊重し合うだけで関係性は少しばかりは改善されるはずだ。今、私達が発達障害児にできることは、その子自身が持つ特性にいち早く気付き、理解してあげる事だろう。私は、そんな社会を構築する必要があると考えている。本作『システム・クラッシャー』を制作したノラ・フィングシャイト監督は、インタビューにて自身の半生が影響されているどうか聞かれて、彼女はこう答えている。

Fingscheidt:“Also, ich war ein wildes Kind. Das stimmt schon. Insofern fußt die Geschichte in meiner Kindheit. Aber ich war nicht so wild. Ich kann mich erinnern, dass ich einen Haufen Energie hatte. Bin aber in einem Umfeld aufgewachsen, in dem das aufgefangen wurde. In der Grundschule musste ich oft raus aus dem Klassenraum und draußen stehen und Klinke runter drücken (lacht), damit ich da auf dem Flur nicht noch weiteren Blödsinn mache. Ich wollte schon lange einen Film drehen über ein wildes, aber auch wütendes Kind. Nur der richtige Aufhänger fehlte mir.”(※8)

フィングシャイト監督:「そうですね、私は野生児でした。それは本当だ。この点で、この物語は私の子供時代に基づいています。しかし、私はそこまでワイルドではありませんでした。エネルギーが溢れていたのを覚えています。しかし、私はそれが吸収される環境で育ちました。小学生の頃は、廊下でこれ以上くだらないことをしないように、教室を出て外に立ってハンドルを押すことがよくありました(笑) 。私は長い間、乱暴だが怒っている子供についての映画を作りたいと思っていました。」と、実際の自身の子ども時代の話をする監督は、実は乱暴な幼少期だったと話す。彼女自身は、発達障害とは言及していないが、少し乱暴な子どもも発達障害出で悩んでいる子どもも皆、平等に日常を送れる社会とは何か、それを大人たち皆で考えたい。子どもたちの健康や笑顔、幸福、未来を守れるのは今を生きる私達大人だ。

最後に、映画『システム・クラッシャー』は自身の居場所を失った暴力的な少女が、周りの大人のサポートを借りて、少しづつ成長し、もう一度、自分の居場所を見つけるまでの物語だ。私はレビューを書くために、何度も本作を鑑賞したが、その度に少女の姿を見ながら涙してしまった。なぜなら、彼女の立ち振る舞いすべてが、あの日の私自身と瓜二つだからだ。発達障害を持つ者として、少女のどこにも持って行けない怒りのやり場を暴言や暴力で表現しようとする姿に、どことなく幼少期の私自身と重ね合わせしまった。自分語りになるかも知れないが、私は物心着いた頃から友達とのトラブルが絶えず、お友達に対して「ごめんね」の一言が言えなかった子どもだ。保育園の頃の当時の担任の先生は、私の幼児教育に対して骨が折れたであろう。また、小学校に入学してから、よりもっと悲惨で、学校を脱出する、物を投げる壊す、男女問わずお友達に暴力を振るう、2階から机椅子を投げる、教師の言う事は聞かないなど、学級一、学年一の暴れん坊のきかん坊だった。それでも、5年生の時に出会った担任の先生が私自身と真剣に向き合ってくれた記憶がある。また同時期に、私の中の自我が芽生え、自身の行動を客観視した時、周囲と違った行動をしていた事に対し非常に辱めを感じ、感情のコントロールをし、多動を減らす努力を自力で気を付けた。それでも、小・中・高を通して、私の人生に影響を与える人物と一人でも出会えた事が、私自身の人生を変えるきっかけとなった。その子どもの人生において、影響与える人物と出会う事は非常に大切だ。たった一人でいい。子どもに対して理解できる大人との出会いが、その子の人生を輝かせ、明るい方角へ導いてあげられるのだ。私の幼少期をその出会いで良い方向に導いてくれた大人が居たからこそ、私自身もそんな大人になりたい。まずは、子どもが抱える悩みや感情、考えに寄り添える人でありたいし、そんな大人達がより多く居て欲しい。近頃、5月5日を迎えたが、この日は日本が制定する祝日「こどもの日」だ。各地で多くの鯉のぼりも上がった事だろうが、この「こどもの日」とは「子どもたちみんなが元気に育ち、大きくなったことをお祝いする日」(※9)だそうだが、日本に住む子ども達がこれからも、健康的に元気に育ち、大きく成長する事を願わんばかりだ。

©2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschrankt), ZDF

映画『システム・クラッシャー』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)ADHD治療薬の種類や使い分け方とは?コンサータやストラテラ、イニチュティブの効果や違いも解説https://www.mentalclinic.com/disease/p7651/(2024年5月5日)

(※2)学校で「発達障害」の子どもが急増する本当の理由特別支援学級に入る児童・生徒は10年で倍増https://toyokeizai.net/articles/-/577701#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3,%E4%B8%87%E4%BA%BA%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%81%9F%E3%80%82(2024年5月6日)

(※4)発達障害とは?種類・症状・進路・発達支援の重要性についてhttps://junior.litalico.jp/about/hattatsu/(2024年5月6日)

(※5)社会における発達障がいへの認知や理解に関する全国調査https://www.challenged-life.com/2021/03/01/coming-soon/(2024年5月7日)

(※6)第1編 障害者の状況等(基礎的調査等より)https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/zenbun/h1_03_00_02.html#:~:text=%EF%BC%886%EF%BC%89%20%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%B8%E3%81%AE,%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82(2024年5月7日)

(※7)発達障がいを正しく理解しよう。専門家の大学教員が症状や特性などを解説https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/social/developmental_disorders(2024年5月7日)

(※8)„Ich wollte einen Film über ein wütendes Kind drehen“https://www.filmclicks.at/Interviews/i-fingscheidt-909320(2024年5月8日)

(※9)こどもの日とは?(5月5日)〜子どもに伝えやすい行事の意味や由来、過ごし方アイデア〜https://hoiclue.jp/2304.html(2024年5月8日)