『アステロイド・シティ』私達が向き合える何か

『アステロイド・シティ』私達が向き合える何か

まぶしい太陽と陽気な音楽の元で大事な何かに気づく映画『アステロイド・シティ

©2022 Pop. 87 Productions LLC

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作品冒頭で流れるジョニー・ダンカン&ザ・ブルーグラス・ボーイズが唄うスタンダード・ナンバー「サンフェルナンド行きの最終列車」が誘うウェス・ワールドは、今回もまた、唯一無二の異彩を放つヒューマン・SFコメディだ。全体の様相は、2012年に公開された同監督の映画『ムーンライズ・キングダム』にも非常に似ている。ドタバタコメディであり、大人達が右往左往し、子供達が最後まで金襴緞子に大活躍する。今回は、前回のようにカウボーイの物語ではなく、架空の砂漠の町「アステロイド・シティ」で展開される宇宙人による地球侵略計画。これは、アンダーソン流の映画『宇宙戦争』であり、これらSF侵略古典ものへの、ある種、コメディタッチに仕上げた彼なりのアンサー映画だろう。ただ、映画『インディペンデンス・デイ』シリーズで描かれた侵略ものの映画は、多くの考察が行われ、あれはアメリカが最初に起こしたアメリカ独立戦争(※1)をSFという形で表現していると言われている。異論は必ず放出するかもしれないが、本作『アステロイド・シティ』もまた、作品のバックグラウンド・背景には、このアメリカ人にとって初めての戦争、アメリカ独立戦争をSFコメディという視点から描いていると一考できる。単なるコメディ映画という枠を越えて、宇宙人の侵略、宇宙人との交流を通して、ウェス・アンダーソン監督が描こうとしたのは、今世界的に揺れている移民問題(※2)を緩く犀利に切り込んだ作品という側面もある。近年、フランス経由でイギリスへの亡命を企てようと、不法移民、不法滞在の数(※3)が年々増え続けている。近頃、トラックの荷台に乗車して、海を渡ろうと企んだ4人のヴェトナム人女性(うち1人は未成年)が、移民を諦め自身の危機的状況にSOSを発したニュース(※)が、世界中を駆け巡った。2019年には、ベトナム人死者39人を出した大惨事(※5)が起きたのも記憶に残っているかもしれない。移民や亡命は、まさに命懸けでもある。自身の、家族の幸せを求めて、より安定した人生や生活を得るために、自身の命を差し出し、捧げなければならない環境は、幾年先にも変わらない状況だろう。他国に亡命するには、人としての覚悟も必要だが、それ以上に自身の命を自ら、旅の旅程やトラックの荷台、トラックドライバーに献上しないといけない時代的背景、国際的背景、貧困問題の背景が大きく関係し、それがベトナム人の市井の人々を亡命へと掻き立て、苦しめる。問題は移民や亡命だけでなく、難民受け入れ、難民申請と言った難民問題(※6)もまた、ここでは同じ扱いとして肩を並べても遜色ないだろう。

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では、本作『アステロイド・ シティ』では、何を題材にしているのか?それは1955年を時代背景にして、砂漠の町「アステロイド・シティ」で開かれるジュニア宇宙科学大会に、突如として、突然宇宙人が現れた事による参加者家族たちのひと騒動をコメディタッチに描いたSF寓話物語だ。 宇宙人の出現襲来は、アメリカでは古くから確認されている。北米で歴史的に最も古い宇宙人と関連した地区や出来事は、エリア51(※7)やロズウェル事件(※8)が、有名だろう。他にも、エリア51やロズウェル事件だけに留まらず、近頃、日本のテレビ番組でも取り上げられた1983年から1986年の3年の間、ハドソンバレー(渓谷)で起きた怪異は、ずっと続いた。アメリカと異星人、アメリカとUFOの関係は、古くは20世紀初頭から現在まで続く世界的なミステリーで、この現象に対して、こぞって専門家と呼ばれるプロ達が日夜、未知なる飛行物体の正体を追い続ける。果たして、異星人は存在するのか?UFOは、存在するのか?ただ、未確認飛行物体の報告は、アメリカだけに留まった話ではない。イギリスでは、1987年に「イルクリー荒野の異星人遭遇事件」(※10)と呼ばれているイルクリー・ムーアという地域で異星人の出没事案が報告されている。英国には、UFO事件が10個程、紹介されており、アメリカの異星人関係と同様に、イギリスでも地球外生命体や未確認飛行物体の存在は大きく影響し合っている。イギリスには、英国における宇宙人遭遇史の中でも最大と言われる「レンデルシャムの森事件」(※11)が、最も有名だ。もう一つ米国以外の他国を挙げるのであれば、インド(※12)では近年、多くの目撃情報が寄せられている。以下、リストとして列挙。

ケララ州- 2013
ウッタルプラデーシュ州 – 2013
ウッタルプラデーシュ州 – 2015
カシミール地方 – 2013
ウッタラーカンド州 – 2013
マハラシュトラ州 – 2013
西ベンガル州 – 2007
マハラシュトラ州 – 2015
ケララ州 2013

と、全世界でUFOの目撃情報は後を立たず、世界規模で見ても、これは都市伝説という言葉として括れないほど、世界の至る各地で断続的に目撃されているのは事実としてある。また、ここ日本でも福島県福島市飯野町がUFOの聖地(※13)として非常に有名だ。近年も飯野町のUFO関連の事案(※14)が再度、注目が高まりつつある。こうして世界各地を広い視野で見渡した時、どこの地域に未確認飛行物体の目撃談が多発しており、本作『アステロイド・シティ』で描かれている未知との遭遇は実際、どこかの国や地域で、今でも同時多発的に起こっている事かもしれないが、嘘か本当か分からない実しやかに囁かれているこれらの話題が、事実であるかどうかは、受け手が得る信憑性にかかっているのも事実である。

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また、冒頭でウェス・アンダーソン監督作品が、唯一無二の作品群であると述べているが、それのどこが「唯一無二」なのか。私自身は腑に落ちていない箇所もあったが、今回改めて作品に触れて、少なからず感じたのが、監督自身の作品へのアプローチが、彼独自の向き合い方ではないだろうかと、自身の中で結論付けた節もある。現在、私自身、ライター活動の傍ら、まがいなりにもシナリオを書き始めたり、数年前には制作現場にも足を踏み入れて、これらの自身の経験を加味した時、ウェス・アンダーソンが作り出す世界観を、他の誰が同じように産み出すのは不可能に近いのではないかと、率直に純粋に感じている。彼の作品群はすべて、恐らく、スタジオ撮影が基本だ。撮影所で撮影するとなると、まず必要になるのは美術の建物だ。映像作品の美術として、建物を一棟一棟、一から築き上げるのは非常にコストもかかる上で、時間も長時間、必要となる。スタジオ撮影の上、制作費用がかかる作品はなかなか制作しにくい背景がある。その上からに、アンダーソン監督の完璧なまでに息の揃ったカメラワークやセリフの妙、シナリオの出来は業界の端っこに籍を置きがらでも、作品からひしひしと伝わって来る。今、多少、シナリオを書き進めているが、如何に作品の整合性、脚本上での物語における時間軸の操作、日常会話となるセリフとセリフの合間に、作品テーマにおける重要なセリフを織り交ぜるのは至難の業でもある。制作における一つ一つの技術や事柄を、非常に丁寧に汲み取り、ラストの展開へと私達を誘う手法は見事でもある。このような緻密に計算された作品制作は、誰もがそう簡単に行えるものではない。だからこそ、このウェス・アンダーソン作品のビジュアル・スタイルこそが、「唯一無二」であると評されるのは、この点にあるからだろう。それでも、一つの側面で言えば、アンダーソン監督は20数年という長いキャリアを持ちながら、未だアカデミー賞では作品賞にも監督賞にも引っかからない、賞とは無縁の存在だ(ただ、過去に2014年の作品『グランド・ブダペスト・ホテル』では、第87回アカデミー賞にて、作曲賞のアレクサンドル・デスプラ、美術賞のアダム・ストックハウゼン、アンナ・ピンコック、メイクアップ&ヘアスタイリング賞のフランシス・ハノン、マーク・クーリエ、衣裳デザイン賞のミレーナ・カノネロらが受賞している)。今後の監督自身の躍進に期待がかかる世界的な名匠へのリーチが、掛かる。本作『アステロイド・シティ』のあるインタビューにて、「アステロイド・ シティ」について語られているのかという質問に対して、ウェス・アンダーソン監督はこう答えている。

Anderson:“I think this one [“Asteroid City”] definitely is coming at it from the point of view of outsiders, and from the theatrical world.”(※15)

アンダーソン監督:「ある意味、この作品『アステロイド・シティ』は、間違いなく部外者、演劇界の視点から制作しています。」と、作り手の立場や視点からでも、実際に“outsider”という言葉を用いて、自身が置かれている状況を発しているようでもある。それは、冒頭でも述べたように、地球外生命体=移民という見方にも似ている側面がある。私達は皆、ある種、移民であり、部外者であり、地球外生命体でもあるのだ。

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最後に、本作のタイトル「アステロイド・シティ」には、asteroid=小惑星とcity=町という単語を結び付けて、小惑星にある小さな町に集まる人物を表現しているようだ。そして、その町に集まる人物こそ、私達人間だ。小惑星=地球に住む人類が、空を見上げて、地球外生命体と呼ばれるまだ見ぬ何かを想いを馳せている。それは、非常に夢があって、ロマンを感じる事もできるが、その反面、地球外の空間から突如として訪問してくる何かは、他国からここ日本に安定した生活を求めて、移住をして来る外国人のさながらだ。来る2025年、もしくは2040年までには外国人の移民受け入れを緩和して、多くの外国人労働者を浮き入れようとする姿勢が、国全体から漂っている昨今の日本。それが、今の日本の現状だ。2040年問題(※16)における移民政策について、今からでも知るには遅くないだろう。移民問題が直前に迫ったここ日本では、本作『アステロイド・シティ』はまさにタイムリーだ。この作品を通して、将来訪れるであろう移民問題について、何度でも私達が向き合える何かが、物語に眠っているはずだ。

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(※1)世界史の窓 アメリカ独立戦争https://www.y-history.net/appendix/wh1102-018.html(2023年9月30日)

(※2)移民問題とは?難民との違いや日本と諸外国の移民政策を知ろうhttps://www.worldvision.jp/children/crisis_07.html#d0e9d87eb78fa54e47cd213ca7606442(2023年9月30日)

(※3)EU離脱以降の外国人の増加https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2023/06/uk_03.html(2023年10月1日)

(※4)トラックの荷台でイギリス目指した女性たち……「息ができない」とBBC記者に助け求めhttps://www.bbc.com/japanese/66956464(2023年10月1日)

(※5)冷凍コンテナの39人死亡事件、2被告が過失致死で有罪 英裁判所https://www.bbc.com/japanese/55407249(2023年10月1日)

(※6)難民受け入れ国別ランキング【2018年統計】 私たちの難民支援https://www.worldvision.jp/children/crisis_01.html(2023年10月1日)

(※7)なぜ米空軍基地「エリア51」がUFOの聖地に?https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD22CFX0S3A220C2000000/(2023年10月1日)

(※8)74年前のロズウェル事件…墜落したのは本当にUFO? 回収された物体のフィルムを持つ“意外な男”の正体https://bunshun.jp/articles/-/47296?page=1(2023年10月1日)

(※9)HUDSON VALLEY UFOhttps://unsolved.com/gallery/hudson-valley-ufo/(2023年10月1日)

(※10)英国UFO事件トップ10に数えられる「イルクリー荒野の異星人遭遇事件」とは?/遠野そら・MYSTERYPRESShttps://web-mu.jp/paranormal/5009/(2023年10月1日)

(※11)英国最大のUFO事件 「レンデルシャムの森事件」に“宇宙人映像”が存在!UFO事件は2度あった!?https://tocana.jp/2023/08/post_255336_entry.html(2023年10月1日)

(※12)インドでUFOの目撃情報が見つかった場所https://www.adotrip.com/ja/blog/places-to-visit-where-ufo-sightings-in-india-have-been-found(2023年10月1日)

(※13)福島市飯野町(UFOの里) UFOふれあい館 UFO物産館https://www.gurutto-fukushima.com/detail/200/index.html(2023年10月4日)

(※14)「オレンジ色の光が……」 目撃者相次ぐ町のUFO施設 “本気” を出したら来館者が急増https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000270404.html?display=full(2023年10月4日)

(※15)Director Wes Anderson on building ‘Asteroid City’https://www.kcrw.com/culture/shows/the-treatment/wes-anderson-asteroid-city-the-bear-lionel-boyce-jason-segel/wes-anderson-asteroid-city-interview(2023年10月4日)

(※16)「2040年問題と外国人受け入れ」(時論公論)https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/300074.html(2023年10月4日)