映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』団結する事。一つになる事。

映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』団結する事。一つになる事。

その歌声は世界を変えた映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』

©2024 PARAMOUNT PICTURES

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世界は今、一つなのか?世界の全人類は今、一つに団結できているのか?世界は、一つの愛に包まれているのか?ジャマイカ生まれのレゲエ歌手、ボブ・マーリーが願った「One Love」が果たして、今のこの世界に存在するのか?もし彼が今の世に生きていたら、今の世界を目の当たりにして、何を思うだろうか?悲しみ、嘆き、落胆、それとも、心の愉楽さか。それは本人にしか分からないが、彼がまだ存命だった頃、ボブ・マーリーが願ったのは、世界の平和ではなく、国と人々の平等と正義(※1)だ。1970年代、ジャマイカの政治は二大勢力の政党JLPとPNPが、政治家と支持者の間で激しく衝突し合い、その両者の激突が暴力や略奪と言った犯罪行為に発展し、多くの国民が凶弾に倒れ、流さなくてもいい真っ赤な悲しみの血を流した。当時のジャマイカは、様々な要因の元、混沌とした時代を過ごした暗黒と不遇の時期でもあった。そこに救世主のようにジャマイカの音楽シーンに君臨したのが、レゲエの神様と呼ばれたボブ・マーリー。彼は若くして病気で急逝してしまったが、生前のボブ・マーリーが望んだのは、啀み合う政党の和解であった。その願いは、1978年4月23日に開催された愛と平和を掲げる「ワン・ラヴ・ピース・コンサート」で実現するのだが、この時、ボブ・マーリーが願った愛と平和や平等と正義が、今の21世紀に存在するのか、再度、私達は考え直したい。映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は、レゲエの神様であるミュージシャン、ボブ・マーリーの生誕の秘密から世界の平和を願って行われた「ワン・ラヴ・ピース・コンサート」までの彼自身の生涯を描いた作品だが、ボブ・マーリーのライブ映画は多く存在していても、彼自身のアーティストとしての生涯を描いた伝記映画は、今まで制作される事はなかった。なぜ今、ボブ・マーリーが生きた人生の伝記映画が、この世に必要なのか?なぜ今、彼が掲げた「One Love」が、この世に出現するのか?それは、必然か、偶然か?再度、このボブ・マーリーの願いについて、考える必要があるのかもしれない。「一つの愛、心を一つに」「一つの愛、心を一つに」団結しましょう。一つになりましょう。全人類が団結するのは、今この時だ、と世代や時代を超えて、ボブのレゲエが世界を一つにしようとしている。ボブ・マーリーは死して尚、映画や音楽を通して、今でも呼び掛け訴え続けている。「一つの愛、心を一つに」と…。

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1945年2月6日に産まれたミュージシャンのボブ・マーリーは、レゲエの創始者として今も尚、レゲエ界のトップに君臨し続けているが、彼は36歳という若さで急逝している。本作『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は彼の36年間に焦点を当てた作品だが、単なる、音楽映画でも、伝記映画でもない様相を身にまとっている。生前、音楽家として数多くの楽曲を残しているが、その中にも単なる音楽というジャンルを超越し、名曲「One Love」のように世界平和や厭戦思想、世界的団結を願った曲を世に残している。たとえば、「All In One」「War」「Get Up, Stand Up」「Put It On」「Three Little Birds」などが挙げられるが、そのほとんどジャマイカ国民や全世界に向けられたメッセージの強い楽曲となっているが、その背景には当時のジャマイカの社会的背景や歴史的背景、またボブ・マーリー自身の半生の体験や見て来たままの出来事が、歌の歌手として反映されているのだろう。彼が、ミュージシャンとして活動した70年代のジャマイカは、混乱の時代でもあった。1670年(※2)から長きに渡り、ジャマイカはイギリスの植民地として栄えた国家的歴史があるが、ボブ・マーリーがまだ存命だった頃の1962年、ジャマイカは英国から独立し、イギリス連邦の一員となった背景があるが、中国では香港(イギリス領)、日本では沖縄(アメリカの植民地)が過去にあったように、これら植民地にされて他国の領土として支配されていた国が、その領土を自国の土地として返還される(1997年の香港返還、1972年の沖縄返還と同様に)時、ジャマイカもまた英国の支配から解放される時、混沌とした移りゆく時代の中で多くの犠牲を払い、ジャマイカ国民自国の自由を勝ち取った時代だ。ジャマイカに関する「ジャマイカ:楽園の真実―― ネオリベラル改革と社会の「解体」――」(※3)という論文の冒頭では、「誰もが『平和』を叫び求めるけれども,『正義』を叫び求める者は誰もいない。」ピーター・トッシュ(レゲエ・スター)の「イーコル・ライツ」の歌詞「(ジャマイカ社会の)今日の秩序の解体は、自由市場のモラリティが容認している個人主義的で反社会的な行動の自然発生的な結果であって、『社会の崩壊』(社会的内部破裂 social implosion)と定義するのがより適切である。人々の間のあらゆる形態の暴力が、ジャマイカのみならず、カリブ全域で市民社会を蝕んでいる。」(※3)とあるように、ボブ・マーリーが生きた1960年代から1970年代のジャマイカは、ジャマイカ社会内部の社会的内部分裂(すなわち、犯罪、暴動、暴力、略奪、抗議活動、民主運動etc…)が表面化し始めた時代、混乱をきしたこの10年間に、20代30代を過ごしたボブ・マーリーはジャマイカという国の混乱を音楽やレゲエで救おうとしたのだろう。

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それでも、ボブ・マーリーは36歳という若さで息絶えている。早世と言うには、あまりにも早い死に誰もが嘆き悲しみ、落ち込み、落胆したのだろう。英国からのジャマイカ独立、ジャマイカの政党JLPとPNPの二大勢力の和解を促し、これからジャマイカ社会が快方に向かい、国家として成長して行くその矢先、ボブ・マーリーがジャマイカ国民の代表として、時代の変化を目にするはずだったにも関わらず、彼は志の半ばで非業の死を遂げている。病気、殺人、事件事故、自殺など、様々な理由で活動半ばで自身の死を迎えた著名人は数多くおり、日本でも相当数の関係者(※)が突然の死に直面しているが、一方で海外ではエイズが原因で無念の死を迎えている方も多数いる(※)。たとえば、エイズで亡くなった初めてのスターは、俳優のロック・ハドソン。1987年にはド派手なエンターテイナーのリベラーチェ、1990年にはイギリスの俳優イアン・チャールソン、アメリカの芸術家キース・ヘリングが亡くなっている。翌1991年、クイーンのフレディ・マーキュリー、ヴィレッジ・ピープルを生みだした音楽プロデューサーのジャック・モラリ、オスカー監督トニー・リチャードソンが。1992年には映画『サイコ』で知られる俳優アンソニー・パーキンス、イギリスの俳優デンホルム・エリオット、SF作家アイザック・アシモフが相次いで亡くなり、1993年には元テニス選手アーサー・アッシュ、バレエダンサーのルドルフ・ヌレエフがエイズで亡くなっている。他にも、ジャック・ドゥミ、デレク・ジャーマンなど、多くの人物で病魔に倒れている。話を戻して、ボブ・マーリーの死因は、メラノーマというガンの種類の中でも最も致死率が高く、危険な種類の一つと言われている皮膚ガンだ。悪性黒色腫(メラノーマ)の5年生存率は、「1mm以下の厚みでほぼ100%、4mmを超えると50%程度まで下がります。 」(※6)と言われているように、死へのカウントダウンも非常に早く、発見だけで余命宣告を受けているようなものである。ただ、早期発見なら、メラノーマの治療を行えば、完治する可能性もあり、身体に違和感があれば、まず病院で検査をする事が大切だ。ボブ・マーリー自身は、皮膚に違和感があったにも関わらず、信仰上の理由で自身の身体を傷付けるのを拒み、早期に病院で検査を受けなかった事が病気の悪化の原因と言われており(※7)、もう少し早くメラノーマを治療していれば、助かったかもしれないと言われているが、人の死もまた運命と思えば、これはボブ・マーリー自身の人生の宿命だったのかもしれない。もし彼が、メラノーマという皮膚ガンの病魔を乗り越え、今でも存命で音楽活動していたら、彼はどんな時代を迎え、どんな世界を見つめたのだろうか?ジャマイカの社会や政治を良好へと導こうとした若き青年は、1981年に非業の死を遂げたが、もし彼が80年代、90年代も生きていたら、新しい国家としてのジャマイカの夜明けを目撃したに違いない。それが、志半ばで叶わなかったのは非常に残念だ。本作『ボブ・マーリー:ONE LOVE』を制作したレイナルド・マーカス・グリーン監督は、あるインタビューにて自身の監督作品において、すべて黒人を題材している点、その多くは社会を語るテーマ、社会正義やエンパワーメントに関する物語を扱っている点。その原動力が何かについて聞かれて、こう話している。

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Green:“Bob Marley was a homeless kid from the streets of Trenchtown that rose to be one of the greatest musicians to ever do it. Richard Williams raised five girls in Compton, two of which went on to become two of the greatest tennis players to ever do it. They’re just great stories. And I’m looking for the, any filmmakers looking for a great story, fiction, nonfiction. Most of the stories that we’ve seen are based on real people, whether it’s Killers of the Flower Moon, Goodfellas. They might not call them biopics, but they’re based in some reality. And that’s what I’m looking for, human stories that resonate with global audiences. And, you know, and I do that. That’s part of the task and fun and joy, you know, but I don’t know what’s next, you know.”(※8)

グリーン監督:「ボブ・マーリーはトレンチタウンの路上で育ったホームレスの子供でしたが、史上最高のミュージシャンの一人にまで上り詰めました。リチャード・ウィリアムズはコンプトンで5人の娘を育て、そのうち2人は史上最高のテニス選手になりました。本当に素晴らしいストーリーです。私は、フィクション、ノンフィクションを問わず、素晴らしいストーリーを探している映画製作者を探しています。私たちが目にしてきたストーリーのほとんどは、キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーンやグッドフェローズなど、実在の人物に基づいています。伝記映画とは呼ばないかもしれませんが、ある程度は現実に基づいています。私が探しているのは、世界中の観客の心に響く人間物語です。そして、私はそれを実行します。それが仕事の一部であり、楽しみであり、喜びでもありますが、次は何ができるかわかりません。」と、グリーン監督はインタビューで語っているが、人々が感動し、共感できる心に響く人間物語を映画で描きたいと話す。

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最後に、映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は、一言で言えば、レゲエの神様、ボブ・マーリーの生涯を描いた伝記映画、もしくは音楽映画ではあるが、これらの括りに縛られず、一筋縄では行かない要素やメッセージを蓄えている。時は、21世紀。果たして、今の世界はボブ・マーリーが望んだ社会と言えるだろうか?あちこちで戦争が起き、ウクライナ戦争(※9)、ガザ地区の問題(※10)もさることながら、近頃では中国の天安門事件(※11)が35年目を迎えて、大きく報道されたばかりだ。時代が変わろうが、社会の価値観に変化をもたらそうが、それでもネガティブな事柄は必ず起きる。再度、この世界がボブ・マーリーが願った「平和」なのか考え直したい。今こそ、世界中の人類の団結が必要ではないだろうか?団結する事。一つになる事。

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映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)劇的な和解でジャマイカに平和の可能性を見せたボブ・マーリィhttps://mysound.jp/sp/8478/(2024年6月5日)

(※2)世界史の窓 ジャマイカhttps://www.y-history.net/appendix/wh1002-057_2.html(2024年6月6日)

(※3)ジャマイカ:楽園の真実―― ネオリベラル改革と社会の「解体」――https://drive.google.com/file/d/12zl_6-7EypsII1veyR_xksDMUL44cMKp/view?usp=drivesdk(2024年6月6日)

(※4)【閲覧注意】壮絶な死に方をした芸能人まとめ【尾崎豊 など】https://renote.net/articles/197820(2024年6月6日)

(※5)エイズで命を落とした有名人、その遺志を継いで闘う仲間たちhttps://gladxx.jp/news/2011/06/1497.html(2024年6月6日)

(※6)皮膚がんの生存率はどのくらい?症状や検査方法についても解説https://www.g-cg.jp/column/skin.html#:~:text=%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,%E6%82%AA%E6%80%A7%E9%BB%92%E8%89%B2%E8%85%AB%EF%BC%88%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%9E%EF%BC%89,%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年6月6日)

(※7)ボブ・マーリーが皮膚がんを治療していれば…https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20120830-OYTEW61435/(2024年6月6日)

(※8)Reinaldo Marcus Green on ‘Bob Marley: One Love’, Finding Kingsley Ben-Adir, & Telling Empowering Stories (Interview)https://onetakenews.com/2024/04/19/reinaldo-marcus-green-marley-interview/(2024年6月6日)

(※9)ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司令官が予想https://jp.reuters.com/world/ukraine/ZUL3KKV6LZO2LPOQBTGEHHWKNA-2024-05-11/(2024年6月6日)

(※10)1からわかる!パレスチナ・ガザ地区 かつての日常は?現状は?https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji155/(2024年6月6日)

(※11)中国 天安門事件35年 北京は厳戒態勢 追悼や抗議活動を警戒https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240604/k10014470091000.html(2024年6月6日)