第19回大阪アジアン映画祭 映画『スノードロップ』 映画『サリー』映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』映画『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』映画『1905年の冬 <デジタルリマスター版>』レビュー

第19回大阪アジアン映画祭 映画『スノードロップ』 映画『サリー』映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』映画『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』映画『1905年の冬 <デジタルリマスター版>』レビュー

今年は、「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」というテーマで開催した第19回大阪アジアン映画祭が、昨日の3月10日(日)に閉幕した。本年度は、上映作品本数63作品、製作国 ・地域は24の国と地域が集結したアジア映画に特化した大阪発の映画の祭典、大阪アジアン映画祭は大盛況の中、幕を閉じた。

映画『スノードロップ』名も無き市民を救う事

一言レビュー:生活保護を受給することは公的扶助を受け社会に生きる基盤を手に入れることを目的とするはずだが、そうではないケースが存在した。監督自らの生活保護経験を鑑みて、矛盾した生活保護の在り方を描くヒューマンドラマ。生活保護問題や介護問題に注目が集まりやすいが、問題は社会の片隅で今でも本作に登場する人物と同じように苦しんでいる人々がいる事実が、問題だ。苦しみに翻弄されながら今を生きている人々を救う事が、日本社会に生きる私達の課題だ。日々の生活で窮愁を強いられている市井の人々を一人多く減らして行けば、この生活保護問題も介護問題も必ず減少する。まずは、名も無き市民を救う事が、今の日本社会が求められている事を覚えておきたい。

映画『サリー』危険性に警鐘を鳴らす

一言レビュー:養鶏で泥まみれの毎日を過ごすうち中年にさしかかっていた女性が、出会い系アプリでフランス人と恋に落ちる。ロマンス詐欺だと周囲に言われるなか、彼女は愛を確かめにパリへ行き…。自分を愛する大切さを描くヒューマンドラマ。ヒロインの弟役でリン・ボーホン(『僕と幽霊が家族になった件』)が出演。釜山国際映画祭上映作。日本でも近年、問題になっている国際ロマンス詐欺(※1)を題材に、台湾の農村に暮らす中年間近の女性が、アプリの中で出会った外国人男性に恋に落ちる姿を描いたロマンス映画。ラブストーリーにコメディ要素を交えて、今の世に蔓延る詐欺問題を問う。国際ロマンス詐欺は、日本だけでなく世界中で問題となっている。台湾でも2018年頃、台湾社会で大きな問題となって報道されている。国際ロマンス詐欺を防ぐには、知識の習得と情報の共有。冷静な判断。プロフィールの確認。対面やビデオ通話の実施。お金や個人情報の提供に警戒。第三者の意見を仰ぐ事が大切だ。また、被害に遭ってしまった場合は、冷静になる。詐欺内容を記録。被害を警察に報告する。銀行やクレジットカード会社に連絡する。サポートを求める。自分を責めない。自己防衛意識を高める事(※3)が、必要となる。本作『サリー』は、この国際ロマンス詐欺の危険性に警鐘を鳴らす作品に仕上がっている。

映画『フンパヨン 呪物に隠れた闇』常に善を思い、善を思う行動

一言レビュー:出家した兄のティーに会うため、旅に出たタム。ドンシンタム島の寺院で、ティーが住職を殺して消えたという噂を耳にする。人形に妄信的な信仰を寄せる村人たち。やがて村を恐怖に陥れる奇怪な出来事が起こっていく。タイBLドラマ『Lovely Writer The Series』や『Step by Step』などに出演し、Upの愛称で親しまれるプーンパット・イアン=サマンと、『The Gifted Graduation』や『Fish Upon the Sky』などに出演し、Phuwinの愛称で親しまれるプーウィン・タンサックユーンが主演している。土着信仰や村での恐ろしい因習を描いたタイ製ホラー。「フンパヨン」という怪物が人々を襲う恐怖を描いているが、本当に恐ろしいのは怪物でも幽霊でもない。そんなモンスターを生み出し、人々を恐怖の底に翻弄させ、善人の皮を被って背信的悪徳行為を行う人間が最も恐ろしいと、作品は描いている。悪事は、必ず自身に跳ね返る。悪人の末路(※4)は、狡猾な事をして得た成功は、必ず長続きしない。いつか足元を掬われて、痛い目を見る。善の道を真っ当に歩く事が、本当の成功への近道なのだ。仏教では、「善を思い、善を行う 人の面は つねになごめり」(※4)という朝比奈宗源老師が残した言葉があるが、この意味は「常に善いことを心に思い願っていれば、それが言葉になって現われ、温和な表情となります。 そしてその思いは必ず行動として現われてくるものです。」と、常に善を思い、善を思う行動を取れば、必ずその人の元に返って来る。善徳を積む事が、如何に大切か、気付かされる作品だ。

映画『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』人と人とが生きる社会の潤滑剤

一言レビュー:東京に暮らす17歳の少女・ナツミは、母と絶縁状態の叔母に会いに小さな島へとやってくる。叔母から海女の技術を学ぶために、そして幼い頃に母から聞いた宝物を探す目的を密かに抱いて…。心に傷を持つ人々のつながりと再生の物語。短編作『Kofferbak』はロッテルダムで開催された48時間映画祭(2013年)で観客賞、最優秀監督賞等を受賞している。日本の孤島を舞台に海人さんという職業を通し綴られるヒューマンドラマ。親子や家族の絆を育む最も重要な要素(※5)は、お互いに思いやりを持ちながら、ゆっくりと親子の絆を築いていく事だ。思いやりの心を持つ事(※6)は、人と人とが生きる社会の潤滑剤となる。本作『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』が、訴えている。

映画『1905年の冬 <デジタルリマスター版>』発掘される事を願う

一言レビュー:日露戦争の時代に、西洋絵画と音楽を学ぶために日本を訪れ、帰国後、中国の美術界に影響を与えた若き知識人、李叔同(弘一)を描いた歴史ドラマ。エドワード・ヤンの記念すべき映画界入り初仕事作品(脚本、出演)。ツイ・ハーク出演。監督は、エドワード・ヤン作品のプロデューサーである余為彦の兄。1981年に制作された映画『1905年の冬』が、再発掘されたのは、非常に意義深い。1982年の短編オムニバス映画『光陰的故事』に先駆けて制作された本作『1905年の冬』は、台湾ニューシネマの夜明けを思わせる歴史的作品だ。長らく、映画史の影に埋もれていたのは、アジアの映画史にとっても、宝の持ち腐れであった。作品は、当然フィルム撮影のため、デジタルリマスターが施されていても、映像の粗さは残っているが、この作品が当時の形のまま残っているのは、非常に深淵だ。世界中には、発掘されず、日本に紹介されることなく、眠っている作品が数多くある。時間がかかるものだが、映画『1905年の冬』のような作品が、今後もどんどん発掘される事を願うばかりだ。

第19回大阪アジアン映画祭は、3月10日まで開催され、盛大に幕が閉じた。

(※1)特殊詐欺の手口 国際ロマンス詐欺?私の身近で起きたケース「ひと事とは思わないで」https://www.nhk.or.jp/shutoken/net/20231010s.html(2024年3月11日)

(※2)内地女性当心,台湾省出了诈骗新手法!https://m.sohu.com/a/215165622_170561/?pvid=000115_3w_a#google_vignette(2024年3月11日)

(※3)国際ロマンス詐欺|面白い特徴や事例、被害にあった場合の行動https://kizuna-mimamori.co.jp/romannsusagi.html(2024年3月11日)

(※4)つねに善を思い、善を行うhttps://www.engakuji.or.jp/blog/35971/(2024年3月11日)

(※5)親子の絆を深めるための方法と親子関係における最も重要な要素https://algento.site/parent-child-bond/#google_vignette(2024年3月11日)

(※6)思いやりとは? 思いやりがある人とない人の違いや良い人間関係を築く方法https://oggi.jp/6123940(2024年3月11日)