映画『メンドウな人々』「素材を完成品としてまとめる、重要な作業」編集 藤沢和貴さんインタビュー

映画『メンドウな人々』「素材を完成品としてまとめる、重要な作業」編集 藤沢和貴さんインタビュー

2023年10月11日

映画『メンドウな人々』編集 藤沢和貴さんインタビュー

©Tiroir du Kinéma

—–まず、どのような経緯で編集の世界に辿り着きましたか?

藤沢さん:高校生の頃から、放送部で、オープンリールのテープをハサミで切り貼りして音を編集していましたが、その頃はさほど、映画の製作には興味を持っていませんでした。大学の映像学科での4年間は、録音を担当していました。卒業制作でトータル4本、作品を制作したんです。その時に初めて編集に携わって、非常に楽しく感じたんです。その後、撮影所に入所しました。

—–藤沢さんは、本作では編集として携わっていますが、ポストプロダクションのみのご参加でしょうか?

藤沢さん:初期段階から、『メンドウな人々』の企画やプロットは聞いていました。台本が上がった段階から読ませて頂き、感想を伝えたりと、企画の立ち上げから参加しています。安田監督作品は、毎回、企画段階から意見交換しています。安田さんと初めてご一緒したのは、映画『オーライ』(2000年 製作 関西テレビ放送)の編集でした。その時は、現場で録音とスチールも担当しました。翌年の安田監督作品『ひとしずくの魔法』(2001年 製作 関西テレビ放送、吉本興業、和歌山マリーナシティ)では、記録をしつつ、スチールを撮り、録音もして、編集、MA(整音)も担当しました。だから、企画から仕上げまで携わっているんです。

—–編集作業をする上で、監督とはどういうやりとりをされているんですか?

藤沢さん:編集は、現場で撮影した素材をつなぎますが、まず監督の意図を汲み取ろうとつとめます。そして監督のイメージする映像に、より近づけていきます。なので、監督が想定したカット順があっても、監督の想いを反映する、より良いカット順やタイミングがあれば、それを提案します。

—–編集は、表には出ない仕事ではございますが、編集作業に携わる中、良かったと思える事はございますか?

藤沢さん:自分の編集を監督に褒めてもらえたら、それが一番嬉しいことですね。編集の仕事はキリがないんですよ。完成作品を見た時も、あと数コマ切れるな…と思ったりすることはありますね(笑)

—–本作は、「ぼくらのレシピ図鑑」シリーズの第三弾として制作されましたが、私はこのテーマを通して、「食育」や「子ども食堂」というキーワードを連想しました。「ぼくらのレシピ図鑑」は、地域密着で食をテーマにして、若者たちの笑顔を増やす目的がありますが、この点、どうお考えでしょうか?

藤沢さん: 「ぼくらのレシピ図鑑」シリーズは、各地の高校生たちが普段食べているご当地グルメを物語に織り込むのがおもしろいですよね。僕は、料理を作るのが好きなんです。自分が作ったものを、他の方に提供して、楽しんでもらえるか。映画の編集にも通ずるところがあります。『メンドウな人々』では、熱心なうどん部員たちがうどんを料理して、お客さんに提供します。主人公はそれに巻き込まれて、うどん作りを手伝っていきますよね。僕自身も巻き込まれやすい人間なので、主人公に共感するところがあります。少しずつ、前に進んでいく成長物語です。

—–映画には、演出や演技、脚本にはそれぞれテクニックがあったり、メソッドがあるものですが、編集におけるメソッドがあるとすれば、それは何でしょうか?また、本作で取り入れているとすれば、どのようなアプローチをされましたか?

藤沢さん:僕が通っていた大学では、編集のメソッドを教える授業がなかったんです。編集協会から出している教科書的な本や、ハリウッドの編集マンのインタビューを集めた本はありますね。結局、何人もの師匠のもとで、助手としてさまざまな作品に参加した際、素材をどう使い、どう活かして行くのかを経験させていただいたことが、自分なりのメソッドとなりました。

—–今作において、何かテクニック的な編集はされましたか?

藤沢さん:特にテクニック的なことはしていません。『メンドウな人々』の主人公は、引っ込み思案なので、印象が薄まりがちです。主人公を目立たせるために、カットを多めにしたり、長めにしたりしました。

—–主人公の気持ちを演出や撮影で表現するのではなく、編集を通して表現できるとは、考えが至らなかったです。出来上がった素材を切って繋げるのが編集ですが、それでも表現することができるのは、編集の凄みだと思います。

藤沢さん:先程のメソッドのお話に戻しますと、役者が芝居をする中で、監督の意図にはない、想定外のニュアンスが生まれることがあります。しかし逆にそれを活かして、監督の意図により近づける編集にしたりします。

—–安田監督とは、20年来のお付き合いで、共に映像制作をされておられますが、監督の意図を汲み、シナリオを基に編集が上手にできたと、考えられますか?

藤沢さん:やれるだけの事はやるというスタンスで取り組んでいます。安田監督の場合、キャストに恵まれていますね。キャスト一人一人ではなく、全体としてのアンサンブルがまとまっているので、いつも驚かされます。脚本のイメージに、キャスティングが加わり、更に美味しくなっているのが、安田監督の作品ですね。

—–今回の編集作業に携わり、藤沢さん自身が思い切って編集された場面や泣く泣くカットせざるを得なかった場面はございますか?

藤沢さん:今回は、特に外した場面もなく、ほぼ予定通り組み立てました。

—–その予定は、企画段階からの話ですか?

藤沢さん:そうですね。毎回、撮影前にカット割りが出来た時点で、打合せをしています。

—–食べ物が登場する場面や、食べ物を食べる場面が特徴的に映りましたが、藤沢さんは編集面で何か気を付けた事はございますか?

藤沢さん:実は、今回の作品は食べ物のカットは少ないんです。素材としてはすべて挿入しています。カット数は少なかったですが、うどんが美味しく見えるよう、食べている人たちが嬉しそうに見えるよう、心がけました。

—–食べ物に関する作品だからこそ、編集でその場面をしっかり残しているのは、僕としては、非常に印象が良かったです。
—–映像制作における編集の重要性は、なんでしょうか?

藤沢さん:素材を完成品としてまとめる、重要な作業ですね。中身を編集して繋ぐ作業(オフライン編集)もありますが、実際に納品する完パケデータを作る作業(オンライン編集)もあります。本作では両方を担当しました。完パケデータは、昔のフィルムの映画製作では「上映用プリント」にあたります。完パケデータが完成すると、自分が仕上げたという達成感がありますが、さらに試写をスクリーンで観ると感慨深いですね。

—–最後に、本作『メンドウな人々』の魅力を教えて頂きますか?

藤沢さん:内気な男の子とおじさんとの交流が描かれています。普段は接点のない世代の二人が出会って、主人公の少年だけでなく、おじさんも一緒に成長するので、幅広い世代が楽しめる青春ドラマになっています。唯一無二の存在である「うどん部」の活動を軸にしているのが、本作の魅力ですね。モデルとなった、ひばりが丘高校うどん部もそうですが、調理して、人に提供して、食べてもらうという活動が、非常に面白いですね。その活動に着目して映画が作られたのは、とても良かったと思います。

—–貴重なお話、ありがとうございました。

映画『メンドウな人々』は現在、10月7日(土)より大阪府のシアターセブンにて、上映中。また、11月17日(金)、18日(土)は兵庫県の神戸三宮シアター・エートーにて、上映予定。