映画『真夏の果実』「葡萄をめぐる愛の話」いまおかしんじ監督、女優のあべみほさんダブルインタビュー

映画『真夏の果実』「葡萄をめぐる愛の話」いまおかしんじ監督、女優のあべみほさんダブルインタビュー

切なくて 恋しくて、妻が恋したひと夏のラブストーリー映画『真夏の果実』いまおかしんじ監督、女優のあべみほさんダブルインタビュー

©2025「真夏の果実」製作委員会

©2025「真夏の果実」製作委員会

©2025「真夏の果実」製作委員会

©2025「真夏の果実」製作委員会

——まず、映画『真夏の果実』の制作経緯を教えて頂けますか?

いまおか監督:いつもお世話になっているレジェンド・ピクチャーズという制作会社の方から、また新しく映画を作りたいと相談を受けまして、何度かプロデューサーの方たちと打ち合わせをして、どんな方向で企画を進めようかと話し合いました。いろんなアイデアが出たんですが、今回は農家の奥さんが主人公の物語を作ろうとなったのが本作の出発点です。農家の夫婦の奥さんが不倫をする。なんだかんだと揉めた挙句、奥さんが家を出て、それを夫が追いかけようとする物語。脚本の松本稔さんと話し合いながら、プロット、シナリオと作業を続けて、最終的に本作の物語に仕上がりました。

—–どの作品もいまおか監督らしい作品ですが、今回の作品は非常に分かりやすく観やすかったです。前作品に比べたら、今回はスタンダードなストーリーに仕上がっており、物語が分かりやすかったです。どんな方が観ても分かりやすい万人受けするストーリー展開が良いと改めて思いました。でも、嫁や農家をテーマにした映画は、以前にも作っていませんでしたか?

いまおか監督:はい、何本か作っています。エロス作品では「農家の嫁」モノっていうジャンルがありまして、割とヒット企画なんです。今回もその流れの中で出てきた企画だと思います。

—–それに加えて、今回なんか新しい要素を何か加えたなど、ございますか?

いまおか監督:前回やった時は、農家の奥さんが探偵みたいなことを始めるコメディータッチの作品だったんですが、今回はメロドラマというか、どこにでもいる夫婦の情愛の話に焦点を絞ったつもりです。ドラマチックな出来事はそんなに起きないんですが、それなりに夫婦には悩みやトラブルがあって、そういうささやかな出来事を丁寧に掬い取りたいと、そういうつもりで作りました。

—–目新しくはないけど、逆に、共感性があり、誰もが刺さるものがあるんじゃないのかなと思うと、この映画は良い作品だと私は思います。あべさんは、主人公のあゆみをどう捉えていますか?

あべさん:私は脚本を読んだ時、なんだか自分に似ているようで似ていない部分を感じつつ、でも自由に素直に好きと言ってくれる人の事が好きという点が少し似ていると思いました。一見、素直だけど、一度決めたら、何を言われても貫いちゃうという姿に共感をしました。

©2025「真夏の果実」製作委員会

——あゆみは、強気な女性にも勝気な女性にも見える印象を受けました。あべさん自身、あゆみと似ていると感じるところは何かございますか?

あべさん:強気な女性と言うのではなく、10年間、あゆみは龍馬さんとの結婚生活を我慢して、上手く行くように陰ながら取り繕って来ていたんだと思いますが、葡萄農家として頑張っているにも関わらず、残念な扱いだったので、それが我慢できなくなって、ある日突然、ポッと旦那が出稼ぎでいない間にプレゼントをくれた草壁さんに惹かれていく彼女の姿に共感してしまいます。

——同じ女性として、彼女自身を応援したいなど、何かございますか?

あべさん:あゆみがしている事は、許される事ではないと思うんですが、私自身、脚本と向き合って、映画に出る事も主演を務める事も初めてだったんですが、あゆみを客観的に見ていなくて、あゆみになりきる事を意識していました。客観的に見ていたどうかという点では、感想は出て来ません。彼女を応援する事より、素直に不倫関係になってしまった事を見つめ続けたいです。

——彼女を応援するしないではなく、あゆみ自身になりきる事を優先されたんですね。

あべさん:なり切る事を大きく意識して、あゆみという人物になる事に集中しました。その点でまず役作りを始めたので、毎日台本を読み込んで、10年間、家庭環境に我慢している農家の嫁を意識して、義母と3人暮らしの中、子どもも今はいなくて、跡取りもいない農家。その点を考えると、自分も頑張らなきゃいけないというプレッシャーは、あゆみ自身にはあったと思います。演技の面で言えば、本当にいまおか監督に自由にさせてもらったので、あの、あゆみちゃんが生まれた結果論です。それから義母役が仁科亜季子さんでしたが、自然と背筋が伸びる思いでした。現場での緊張感の部分もありますが、後付けになってしまいますが、きっと、あの家族を上手くまとめるために、食事も毎日一緒に食べているあゆみという人間を作る為に、役作りとして、まずは太る事から始めようと実践しました。納豆卵かけキムチご飯をずっと食べて、芝居で葡萄を食べて美味しそうにするシーンがあり、この場面は非常に大事なシーンなんですが、美味しそうな演技をする為に、撮影前は美味しいものを食べないように気を付けました。現場では、「食べてみなよ」と葡萄をよく差し入れて頂いたんですが、そのシーンを撮るまでは一切口にしなかったです。

—–葡萄の映画で葡萄の差し入れは、ある意味、大変でしたね。

あべさん:「食べてみたら?」と皆さんの何の気なしの心遣いだったんですが、さり気なく遠慮させて頂いていたんです。でも、その理由は皆さんには伝えていないので、多分、今初めて言ったと思います。

—–葡萄を食べるシーンの為だけに、努力なされたのですね。

あべさん:美味しいが素直に出るように、気を配りました。

©2025「真夏の果実」製作委員会

—–若い夫婦の結婚生活の危機を描いていますが、先ほどもお話されたと思いますが、再度、この物語の着想を教えて頂けますか?

いまおか監督:農家の奥さんが主人公なわけです。彼女は昼間仕事をしている。農作業は重労働です。疲れて帰ってきても夫はその苦労をねぎらってくれない。夫のお母さんも同居していて、色々大変です。ストレスが溜まっているんです。そのストレスが爆発する瞬間、彼女がやけっぱちにアナーキーになる瞬間はあると思うんですよ。家庭を捨てて不倫に走ったり、家出してどこか遠くへ行ってしまったり、そういう瞬間がエモーショナルというか感動的だと思うんです。そういうことは男でも女でもあると思うんで、全部を捨てて、素っ裸で飛び込んで行く人間の面白さを捉えられればと思っています。あとは、他の男と浮気して家出した奥さんを追いかける夫の物悲しい姿にめちゃくちゃ共感するんです。夫は腹が立って、何とかしようと思うんですが、怒ってもダメ腐ってもダメ。何も解決しない。人の気持ちはこっちの思い通りにいかないんです。映画を撮っていて、この夫はまさに俺だなと思っちゃって。

—–映画を観ながら、今回の男の姿はいまおか監督自身かな?と思っちゃう所がいっぱいあったんです。

いまおか監督:本当に、30歳の時のショッキングな出来事があって、当時付き合っていた彼女と別れることになったんですね。それが本当につらくて。もう映画にするしか耐えられなくて、その顛末をデビュー作の映画で描いているんです。他の男性の元に行ってしまった女の人との三角関係の話です。今思い出しても胸が痛いです。若かったですから。

あべさん:30年後の30周年作品になったんですね。

いまおか監督:30年間ずっと、どこまでも未練を引き摺っているんです。

あべさん:でも、それは理解できます。

——その時の経験は、頻繁によくお話していますね。

いまおか監督:一人で抱えているのはつらいんです。笑い話にするしかない。色んな場面で、ネタにしています。

あべさん:30歳ぐらいは、同じような経験を皆さん、されるんですね。私にも近しい経験があります。不倫や結婚生活ではないですが。

いまおか監督:多分みんな、同じような経験があると思いますよ。好きな人とうまくいかなくなって、どうにもできなくて悩んだり苦しんだり。

あべさん:忘れてはいたんですが、同じ経験をしていますので、いまおか監督のお気持ちは分かります。

——ある時突然、人が離れる事はありますよね。恋人だけじゃなくて、友達も離れる事もありますよね。あの時一緒に過ごしていた人が永遠だと思っていたら、そうではなかった現実と事実。監督は女性の姿をずっと描いてきて、今回は力強い女性を描いていますが、女性の姿を描く事に対して、執着ではないですが、なぜ一生懸命なんでしょうか?

いまおか監督:僕のデビュー作はピンク映画で、これまでずっとエロティックな作品を作ってきているんですが、だいたい主役は女の人です。性的な要素を含めて、女性の生き様を描く事が多かったんですね。僕はその手法が一番やりやすく感じています。セックスを肯定すること。セックスはいいものだ。人が生きる上で大切なことだ。バカにするな。俺はバカにしないぞ。そういう心持ちでやってきました。

——エロい意味ではなく、女性という姿をどう捉えているとか、何かありますか?何年も女性を主人公に描いてきて。

いまおか監督:男は女に敵わないとずっと思っています。男はバカだから、間違ってばかりで負け続けじゃないですか。何をやっても女性の方が強いと、最終的には思うんです。個人的な思い込みかもしれないんですが、僕たち男は皆、女性の手のひらの上で踊らされているだけだと思うんです。女性に対しては憧れと反発の両方がありますね。悔しいというか。ぐちゃぐちゃ文句言ったり、抵抗するんですけどね。でも結局女性の方が強いし、一枚上手だと思います。

あべさん:今まで知らなかったいまおか監督の新しい話が聞けて、今日のインタビューは楽しいです。今日の監督はいつもと違うんです。

——あゆみを演じながら、あべさん自身、彼女を演じる事によって、彼女自身の気持ちや心情を知って行くと思うんですが、演技を通して、映画の完成を通して、何か彼女の心を知る事はできましたか?

あべさん:それは、たくさんあります。私はあゆみちゃんから学んだ事がすごく多いです。私自身はどちらかと言うと、男性的な思考を持っているタイプです。あゆみちゃんのように、男性に甘える事をすると、愛情表現が下手でちょっと距離を間違えてしまうんです。上手くいかなくて、男性との間でトラブルが起こりやすくなるんです。でも今回あゆみちゃんを通して素直にときめいてもいいんだよ、このトキメキは期限付きだからこそ、どんどん行っちゃえという前向きな考え方を学びました。

—–今しかできないからこそ、だと思います。

あべさん:あゆみちゃんは、お花が大好きなんですが、園芸センターでアルバイトをしていて、家出した後もお花屋さんで働く。不倫相手の草壁さんから花柄のハンカチを頂く事によって、私の事をすごい見てくれていると嬉しくなります。勘違いかもしれないですが、その部分を感じて気になってしまうのは、もうしょうがないんです。

©2025「真夏の果実」製作委員会

—–監督に質問ですが、タイトルの「真夏の果実」には、どんな思い込めていますか?すいませんが、このタイトルはサザンオールスターズの楽曲しか思い付かないです。

いまおか監督:シナリオの一稿目が上がった時には「真夏の果実」というタイトルになっていた気がします。脚本の松本さんに「このタイトル、松本さんが付けたの?」と聞いたら、「違いますよ」と言われて、「誰がつけたんだろう?」となったんです。多分プロデューサーたちが相談して決めたんじゃないかな。最初、プロットのタイトルは「農家の嫁」だったんですが、この題名だと、安直というか、あんまりいいイメージじゃないってなって、変えたと思います。しかも果実って、ちょっとエロスが漂っているじゃないですか。そういうこともあったのかなって思います。最終的に、制作会社の方が「真夏の果実」というタイトルにしたと思うんです。だからサザンオールスターズは全然関係ないです。

—–ただ、サザンオールスターズもエロい一面はありますから。

あべさん:タイトルに関しては、私もインタビューアーの方からよく聞かかれるんです。それ以外でも、「真夏の果実」という歌詞が出て来る曲は、あるんです。でも、エロティックを表現している曲が多いと思っているんです。

いまおか監督:農家に限らず、夫婦には本当に色々問題があると思うんです。何も無いようでいて、夫婦にはそれぞれの問題があって、不倫と言うとすごく悪く聞こえるかもしれないけど、誰か人を好きになる事はいくつになっても誰でも起こりうる事だと思います。恋に落ちた時、どのように向き合うのか。たとえば、取り返しのつかない事が起きた時、僕たち私たちは相手とどう向き合う事ができるんだろうという問いは、映画のテーマになりうるんです。奥さんが他の人を好きになって飛び出して行ったら、夫はどう対処すればいいんだろうと思います。人は人を許せるのか、許せないのか。そんな問題も孕んできます。そんな事を考えながら撮りました。

——他のインタビューでも聞かれるとは言っていましたが、改めて、「真夏の果実」というこのタイトルを聞いて、何か連想する事とか、思う事はありますか?

あべさん:私の大好きなロックバンドのGLAYの曲の中で出て来る歌詞の一つが、まず浮かんだんですね。そのイメージから台本を読み込んでいくにあたり、「果実」「葡萄」、そして「無花果」も出てくるんですが、「葡萄」と「無花果」、これだと思いました。「龍馬」と「あゆみ」は。

—–「真夏の果実」は、夫婦2人の事を指すんですね。男女の事が「真夏の果実」。

あべさん:美味しい龍馬とあゆみが「葡萄」。「無花果」が草壁さんと私。 甘いエロさも含め。

—– 男女の熟れさ。その熟度ですね。たとえば、身体の熟度よりも、恋愛の熟度、関係性の熟度を表れているのでしょう。それが、「真夏の果実」であると、今、私は受け取る事ができました。

あべさん:ひと夏の恋として、捉える事もできます。

——この映画『真夏の果実』と同じ若い夫婦の結婚生活や恋愛模様がこの作品にクロスオーバーしていると思うんですが、夫婦が持つ信頼関係や愛憎関係が「果実」に含まれているとしたら、それは何でしょうか?

いまおか監督:よくある事なんです、浮気や不倫は。でもよくある事だから大丈夫というわけにはいかないと思うんです。よくあるから平気だろって思われるけど、平気じゃないんだよ。世間にはよくあっても、その時の悔しさも悲しさは人それぞれあると思うんですよ。すごく傷つくと思うんです。だから、そういう事を抱えながらどう生きていくのか、悲しみも悔しさも全部抱えながら、今を生きていくしかないじゃないですか。それが夫婦だと思うんです。その中で一緒に作り上げていくもの。それが、「真夏の果実」の「果実」だと思います。

—–ある種、この物語は、「葡萄」が作中における主人公だと言っても、過言ではないと思うのですが、お2人はこの作品に対する「葡萄」の役割をどう捉えていますか?

いまおか監督:農家の話だから、何かしら農作物を作っていないとダメで、作っているものをちゃんと見せなきゃいけないんです。何を作っているのがいいかを考えました。作物にはキャベツとかトマトとか色々あるんですが、葡萄はビジュアル的にもエロスを漂わせていていいんです。丸くてぷりぷりしていて、美味しそうっていう。ロケ場所の山梨は距離的にも東京から遠くもなく近くもない、ちょうどいい感じなんです。車で2時間半ぐらいで行けるんです。あと、葡萄畑は高台にあるんですよ。だから、ポンと引きで撮ると、街や畑が一望できて、ビジュアル的にも非常に映えるんです。そんな理由で葡萄農家を設定したんですが、偶然にも、収穫の時期と撮影の時期がクロスしていたんで、撮影ができたんですね。タイミング的に葡萄に縁があったんです。もしこれが冬だったら、撮影できなかったと思います。それも含めてよかったと思っています。

—–映画の技術的な側面に対する「葡萄」の役割ですね。物語における夫婦男女の間に入る「葡萄」の役割は、ありますか?

いまおか監督:キーになるセリフで「お前の葡萄を食べる顔が見たい」というのがあるんです。二人の最初の出会いが葡萄を食べて美味しいってなるところから始まって、付き合うようになって、結婚して農家をやって二人で葡萄を作り始める。二人とも葡萄が大好きで、そのおかげでいろんなことを耐えていけたみたいなことがあって、それがギクシャクし始めて、不倫とか家出とかあって、夫が追いかけていって説得するんです。「お前の葡萄を食べる顔が見たい」俯瞰してみると、物語の真ん中に常に葡萄があって、葡萄をめぐる話になっているんです。

あべさん:私は、あります。出演して思った事ですが、映画における葡萄の役割は、あゆみにとって、甘酸っぱい出会いと龍馬と家族との繋がり。

——最後に、映画『真夏の果実』の今回の上映を通して、この作品がどう広がって欲しいなど、それぞれ何かございますか?

いまおか監督:もちろん、色んな人に観てもらいたいんだけど、本当に、映画としては小さい話なんです。ドラマチックな出来事が起きるわけでもないし、派手なアクションがあるわけでもない。本当に、その辺の身近にある夫婦の不倫や恋愛の出来事を描いています。ささやかなホームドラマです。たまたまこの映画を見つけた人がいて、観てくれて、少しでも心に感じるものがあったら嬉しいです。たくさんの人じゃなくてもいいので、1人でも2人でも、観てもらえたら嬉しいです。この先も色々な場所で上映してもらって、一人でも多くの方に届いたら嬉しく思います。

あべさん:私は自由に演技させて頂いて、気づいた事があります。自由の上にこそある愛情が大切です。身近な幸せにずっと気づけるきっかけに、誰かの何かになれたらと願っています。監督が言ったように、何かを感じて頂けたら。ありがとうと一言、夫婦で動いてみて欲しいです。行動してくれたら、私は本当に嬉しいです。それが、感じて動く「感動」だと思っています。

——貴重なお話、ありがとうございました。

©2025「真夏の果実」製作委員会

映画『真夏の果実』は現在、関西では5月31日(土)より大阪府のシアターセブンにて、上映中。