「どこの家族でもきっとある」6月1日(日)、大阪府の第七藝術劇場にて行われたドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』の舞台挨拶レポート

「どこの家族でもきっとある」6月1日(日)、大阪府の第七藝術劇場にて行われたドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』の舞台挨拶レポート

©Tiroir du Kinéma

©かわうそ商会

現在、大阪府の第七藝術劇場にて上映されているドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』の舞台挨拶が、6月1日(日)に第七藝術劇場にて行われた。ドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』は、2019年に92歳で他界した名脇役・織本順吉の最晩年の姿を、娘である中村結美監督がとらえたドキュメンタリーだ。

ドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』は現在、関西では5月16日(金)より京都府のアップリンク京都、5月31日(土)より大阪府の第七藝術劇場、兵庫県の元町映画館にて上映中。

6月1日(土)の第七藝術劇場の上映後には、ドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』の舞台挨拶が行われた。この日は、本作を制作した中村結美監督と俳優の佐野史郎さんが、登壇された。

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最初に中村監督は、この作品を制作したきっかけについて聞かれ「劇中にも出てきましたが、父親の記憶が怪しくなって来たんです。それの割を食うのが、一番近くにいる母親でした。迎えに行く時間に関して、3時半と聞いていたにも関わらず、父親から2時半に電話があり、「なぜ、迎えに来ないんだ?」と怒っているんです。3時半と約束したにも関わらず、2時半に約束したと言い張ったんです。元々、マネージャーも付けず、一人で現場に行く人でしたから、時間にはきっちりしている方だったんです。現場に遅れた事がなく、15分前集合の15分前には必ず現場入りする方だったんです。時間にきっちりしていた父だったので、俺が間違えるはずがないと思っている、すべて周囲のせいにするので、あまりにも頻発していたので、困った母を見かねて、それなら、父の方が間違っていると証拠を押さえようと、カメラを回し始めたんです。」と話された。

また俳優の佐野さんは、今回、劇場で作品を鑑賞した感想について聞かれ「劇場のスクリーンで観ると、最初の印象とは変わりました。今日の印象だと家族のアルバムであり、こんなにも家族に愛された俳優。逆に言えば、どれだけ愛情に飢えていた少年時代からの人生だったのだろう。言霊が、ひしひしと伝わった印象でした。パソコン上のデータで観ていた時は、「なんてわがままな男なんだろう」と。先輩ではありますが、同業として、また監督の目線になると、こんな感想が出てきます。俳優という職業の捉え方が、僕とはまったく違うと思いました。パソコンでは、観察して注意深く鑑賞しました。今日は、寄り添う気持ちで鑑賞できました。リスペクトしていますが、織本順吉という俳優に対して、正直に言えば、すべて言い訳なんです。腸が煮えくり返るほど、怒りを覚えました。どこまでも、どこまでも。自分の見たいものしか、絶対見ようとしない。自分の聞きたいことしか聞かない。エゴの塊で、同じ俳優という生き物が憎くも感じました。自分自身に対する投影でもありますので、僕の中にある生き写しかもしれないです。だから、俳優としての生き方が違うと見えているけど、現実の自分と役という自分が別だとはっきり言う織本さんの眼差しに対して、僕は同じ一つの身体が現実という時間を生きるか、虚構という時間を生きるかだけの違いで、そこに役が張り付くなどまったくなく、張り付かないように意識しても、別だと言う反面、今話している事自体、自己弁明かもしれないです。この映画を観ていると、自己対話との無限ループに入ってしまいそうになります。そして、自分とは何か?ちゃんと向き合うのか、どこまでも自分の見たいものしか見ないのか。この今の世の中の分断は、まさに今言った事だと思います。自分の思う事、自分の思う家族に対して、歴史を改竄してでも。自分の家族の暗黒の歴史を無かった事にする。どこか家族の中で話題にできなくしてしまい、どこの家族でもきっとあると思うんです。」と話をされた。

最後に、中村監督は自身の父親について、今の想いを話している。「多分、父親というものが何か、あるいは夫というものが何かを、最後まで分からなかったと思う気がします。テレビドラマを土台に仕事をしている先輩として話をしている時には、話題が尽きないぐらい、たくさん話ができました。父と娘という立場になると、中身じゃなくて、外見で怒られるんです。たとえば、口の利き方が悪ければ、それが許せないと。少し口の利き方がぞんざいだったら、その口の利き方を治して来るまで、家には帰って来るな。その姿が父親らしい父親かもしれないですが、父と娘として家族の事を腹を割って、話ができるかと言われれば、そこまでは行けないと感じています。」と。

ドキュメンタリー映画『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』は現在、関西では5月31日(土)より大阪府の第七藝術劇場、兵庫県の元町映画館にて上映中。