映画『スザンヌ、16歳』フランスの若手監督が描くパーソルな超自伝的ロマンス映画

映画『スザンヌ、16歳』フランスの若手監督が描くパーソルな超自伝的ロマンス映画

2021年9月3日
©『スザンヌ、16歳』

文・構成 スズキ トモヤ

フランスから届いた最高にキュートで、清淑な恋愛映画『スザンヌ、16歳』は、2020年のカンヌ国際映画祭のオフィシャル・セレクションに正式に選定された作品。

これが映画監督自身の卒業制作であり、初めての劇場公開だ。

出演には、映画『BPM(2018)』のアルノー・ヴァロワ。

映画『タイピスト!(2012)』のフレデリック・ピエロやフロランス・ヴィアラなど、フランスを代表する新旧の俳優が揃う。

少女のひと夏の初恋を瑞々しく描いた惚れ高き若き才能を堪能あれ。


あらすじは、パリ・モンマルトル。

ある年の夏。同年代の友人たちと一緒にいることに飽きている16歳の少女スザンヌ(スザンヌ・ランドン)。

年頃の少女のように、恋はしたいと焦がれるも、同年代の男の子には惹かれない彼女。

ある日、通学途中にある劇場の前で年上の男性と出会う。

彼は舞台俳優のラファエル。彼もまた、繰り返される舞台やその付き合いの日々に退屈していた。

彼らは、お互いに感じるものがあり、自身の虚無感を埋めるように、徐々に惹かれあって行く。

©『スザンヌ、16歳』

愛や夢とは、現実的でもあり、幻想的でもある。

男女の儚くも、秀麗な愛を描いた映画『スザンヌ、16歳』は、世代や性別など関係なく、多くの人の心に刺さる恋愛映画に仕上がっている。

監督は、弱冠21歳の大型新人スザンナ・ランドン。

本作では、主人公の16歳の少女スザンナも好演している。

シナリオは、10代の頃には書き上げていたという才女。

映画学校を卒業したばかりの彼女にとって、本作が彼女の卒業制作にあたる。

自身が抱く年上男性への憧れを、脚本に叩き込んだ彼女自身の半自伝的作品だ。

今回、新人でありながら、配給会社と縁があり、昨年のカンヌ国際映画祭に選定されたのは、異例のことだろう。

卒業製作の作品が、映画祭などの賞レースに引っかかることはなかなかない中、国内にもまた本作と同じような流れで劇場公開された作品もある。

2019年に全国で公開された映画『オーファンズ・ブルース』だ。

こちらも10代の少女が主人公で、薄れゆく記憶を辿りながら幼馴染の少年を探すロード・ムービー。

物語の主題やジャンルは違えど、10代の少女が抱えるヒリヒリとした焦燥感を映像で表現しているのは一緒だろう。

また、本作の監督は、若手の女性監督、工藤梨穂。

国は違うが、同時代に活躍する若き監督二人のこれからの活躍に期待がかかる。

余談ではあるが、スザンナ・ランドンの両親はヴァンサン・ランドンとサンドリーヌ・キベルランなのだ。

©『スザンヌ、16歳』

作品の話に戻して、本作『スザンヌ、16歳』には全編を通して、とても気になる描写がある。

それは、主人公である16歳の少女スザンナが、外出中に必ず背中に背負うナップサックだ。

一言で言えば、とても幼さが残る。

日本の小学生が、高学年の家庭科の授業で習うナップサックとほぼ近い。

おそらく、演出上の意図であることは間違いないだろうが、なぜ女子高生がその子どもっぽいカバンを背負って、年上男性に会いに行くのか?

そんな大事な人なら、少しは自分自身を大人の女性として演出しようと背伸びするものではないだろうか?

確かに、物語の中盤には、彼女が化粧をする場面も挿入されているわけだが、それでも一貫して背負っている彼女のカバンがナップサックのままだ。

かろうじて、10代前半のローティーンが使用しているであろうカバンを16歳の少女が背負うことで、どこか違和感を感じる。

この引っかかりは、何だろうか?

もしかしたら、少女の心の揺れや機微をそのカバンで表現しているのかもしれない。

大人になろうと背伸びをして、年上男性に恋をするも、彼女の心はまだ大人の女性になり切れない、少女のままの心情をカバンに乗せて上手に演出しているのだろう。

カメラを通して、そのような意図が見え隠れしているように感じて仕方がないのだ。

©『スザンヌ、16歳』

本編に登場するカバンについて一通り書いたところで、ひとつ思うことは監督のスザンナ・ランドンは文化系の事柄に造詣が深いことだ。

作品を観ていれば、細部の演出までの拘り方がよくわかる。

登場人物の配置が、すべて文化系の職業に就いていること。

相手の男性が舞台役者はもちろんのこと、彼の周りの登場人物は皆、舞台に関係した役柄が配置されている。

演出家や舞台美術家など。

ただ、作品内でリハーサルされている舞台の演目が一体、どの作品か調べてみましたが、詳細は分からないままだ。

その代わり、主人公がベッドで読んでいる表紙が赤色のペーパーバックは、フランスの作家、詩人家のボリス・ポール・ヴィアンが、ヴァーノ・サリバン名義で1946年に上梓した小説『J’irai Cracher Sur Vos Tombes(墓に唾をかけろ)』を手にしている。

他にも、フランスの作家で避けては通れないモリエールの戯曲『人間嫌い:あるいは怒りっぽい恋人』について話しているセリフもあることから、フランス文学への知識も兼ね備えていることが、十分わかる。

もしかしたら、劇中の舞台の演目は、この戯曲かもしれない。

©『スザンヌ、16歳』

スザンナ・ランドン監督は、音楽方面でも知識の深さがあるようだ。

劇中で選曲された楽曲にも、注目して欲しいところだ。

メアリー・J・ブライジの『Family Affair』をはじめとして、フランスのシャンソン歌手Christopheの楽曲が3曲『Señorita(1974)』『Les marionnettes(1966)』『La Dolce Vita(1977)』が劇中曲として使用。

その他、ドイツ人のクラシック・シンガーAndreas Scholl & Ensemblenの曲『Stabat Mater, Vivaldi RV 621(元は、バロック音楽を代表する作曲家ヴィヴァルディのクラシック音楽)』などが、劇中で効果的に挿入されている。

その点を加味すると、音楽も年代もジャンルも幅広く熟知している才女だろう。

この知識を武器に、新作を次々に発表して欲しい新人監督だ。

©『スザンヌ、16歳』

本作『スザンヌ、16歳』は、監督自身の実体験が盛り込まれた極めてパーソナルな一面を持った恋愛映画だ。

先ほど、彼女の両親の話をしましたが、実はこの夫婦は2008年に離婚をしている。

彼女は母親に引き取られていたとすれば、父親不在の恋しさから年上男性に恋い焦がれる感情が芽生えたのではないだろうか?

物語の中盤には、父親に明日着て行く服のコーディネートを訪ねる場面がある。

思春期真っ盛りの16歳の少女が、年上男性の恋人の存在をチラつかせながら、父親にそんな質問をするだろうか?

そこには、スザンヌ・ランドン本人の心からの父親への慕情の表れなのかもしれない。

自伝的な作品と言われているが、本作を鑑賞すると監督自身のよりパーソルな一面が見えてくる超自伝的な映画だ。

本日はこれまで。最後はこちらの楽曲映画『ラ・ブーム』より。リチャード・サンダーソンによる『Reality(愛のファンタジー)』を聞きながらお別れだ。

映画『スザンヌ、16歳』は、関西では9月3日から大阪府のシネ・リーブル梅田にて上映開始。また、京都府の京都みなみ会館にて9月10日から、兵庫県の元町映画館では9月11日から公開予定。また、関東の地域を除く、全国の劇場にて順次、公開予定。