インタビュー・撮影・文・構成 スズキ トモヤ
現在、全国でロングランヒットが続く映画『ひとくず』の映画監督の上西雄大さんと俳優の赤井英和さんに最新作『ねばぎば 新世界』の魅力についてお話をお聞きしてきました。
上西雄大監督「人と人を描いた娯楽作」
—–インタビューの前に、赤井さんの過去の作品『どついたるねん』や『王手』を鑑賞させて頂きました。間違っているかもしれませんが、大阪を舞台に主役されるのは、久しぶりではありませんか?
赤井英和:そうですね。30年ぶりになります。
—–ある意味、本作が大阪三部作の最終作です。そういう点で、プレッシャーなど、ありませんでしたか?
赤井英和:故郷の大阪で再度主演をさせてもらえましたので、プレッシャーよりも誇りに感じております。
—–本作『ねばぎば 新世界』は、前作『ひとくず』と同様に社会問題を取り扱っている意図は、ございますか?
上西監督:僕は、映画で人間を描こうと思ってるんです。昔の日本映画が好きで、当時の邦画は人間をくっきり描いて、それをお客さんに伝えるためのメッセージにしているんですよね。そういう“人”を描こうとすると、人と言うのは問題の側にいてこそ、真の人間の姿が現れてくると思うんです。
ですので、僕は『ひとくず』なら虐待であったり、今回なら新興宗教の問題であったり、罪を犯した人間が再就職できずに、再犯してしまうエピソードも盛り込んでおります。その問題の傍にいる姿こそ、“人間を描く”と言うことだと思います。
—–ドラマ性を描くと言いますか、ヒューマニズムを大切にされているということですね。では、前作では“暴力で人を救おう”としていた反面、本作では“暴力で人を救えない”と言う、相反するテーマで作品を作り上げているのは、なぜでしょうか?
上西監督:暴力が人を救う力としては、描いてないんです。『ねばぎば 新世界』では、人を救っているのは暴力ではあるけども、勝吉の心にある前を向いた正義感。そこが突き抜けて、問題を解決していく、人を救うと言う行動になると思うんです。
根本は、そこに置いておりまして、暴力を二つの作品で共通項にしているかと言うと、まったくそうではないんです。共通のテーマであるとすれば、人間が持つ良心や人を思いやる心と言うものが、両作に共通していることだと思います。
—–ありがとうございます。赤井さんの役柄は、映画の中で宗教団体に監禁されていた男の子を助ける立場でしたが、例えば、現実の世界でも、子供に限らず、大人でも、困っている方が目の前にいたら、助けますか?
赤井英和:今までそのような状況に遭遇したことはないんですが、串かつだるまは助けました。元々小さい3坪ぐらいの昭和4年から営んでる老舗の串かつ屋で、3代目の大将がもう辞めると言わはったんですよね。
ずっと通っていた店だったんですが、ある日、土曜日に閉まってたんです。次の日も、閉まってる。どうしたんだろうか?大将、具合でも悪いんか?と思って、家まで顔を見に行ったんです。そこで大将が店を閉めようか、と悩んでることを聞いたんです。
「私も歳やし、目も悪くなってきて、商売できへんなと思って、閉めようと思ってたんや。娘も跡を継ぎたくないと言うし、赤井くんがやってくれんか」って言われて、困った果てにパッと思いついたんが、今回出演している現在“だるま”の会長やっとる上山勝也さんなんですが、彼に大将が辞めること、跡継ぎがいないことを話して、跡を継がないか?と相談したんです。
分かりましたと返事してくれて、最初は3坪の店だったんですが、今では東京の銀座にまで店を出してるんです。本来ならあの時に無くなっていたんじゃないだろうかって、今は思う時もあるんですが、そんな大層なことはしてないんですが、そうやって老舗の味が残っていったのは、良かったなと思います。
—–お店の味を残していくって、とても大切なことですね。ありがとうございます。監督、今回『ねばぎば新世界』で、作中に宗教を全面的に出されていたとは思いますが、今回なぜこのようなテーマにされたのでしょうか?
上西監督:ヤクザの相手であったり、フロント企業※1であったり、そういう物語って、想像できると思うんです。けど、とにかく勝吉は真っ直ぐな正義を持っており、弱者を助ける、困った人をほっとけない、シンプルに真っ直ぐに向かう正義なんです。その敵対するものが複雑な組織の方が、描きやすいかと思って作品に盛り込みました。
やはり昔、オウム真理教のニュースをテレビで見てて、今だに怖いし、おぞましいなと思うんですけど、最近になって、当時関わっていた方の手記を読んでみて、尚一層のこと、人の心を吸い上げるような恐ろしい団体って、本当に悪いなと、思わされたんです。オウムをモデルにしている訳ではないんですが、勝吉が立ち向かっていく相手を新興宗教にした。
—–ありがとうございます。次に、赤井さんはアクションシーンやボクシングシーンなど、比較的激しい場面が多かったと思うんですけど、体力面、演技面で大変ではなかったですか?
赤井英和:冒頭のサンドバッグのシーンは結構、しんどかったです。私元々セリフを覚えるのが苦手で、よくNGとか出してしまうんです。NGの多い役者で、ドラマにしても映画にしても舞台にしても、本当にもういつも台本を持って挑んでるんです。
でも今回は、ほとんどワンテイク目で、OK頂いたんです。と言いますのも、勝吉の言いたいことが理解ができたと言いますか、口でセリフを喋ってるのではなく、心でセリフを喋ってたのが大きかったです。今回、撮影も順調でしたし、お客さんが心を震えるのは、脚本の力やと思うんです。
—–そうですね。役柄と赤井さんが、ピッタリあっていましたね。セリフも赤井さんらしい、いいセリフばかりで、観ていてすごく共感できる場面もありました。
赤井英和:それは一重に、上西監督の脚本の力やと思います。
—–そうですね。脚本の力もありますね。
赤井英和:はい、もちろん。
—–すごく分かりやすいストーリーの展開で、落としどころ、泣かしどころ、アクションシーンもあって、そのアクションの中にも笑いがありますね。気になったんですが、アクションの場面で、看板に小便するな、自転車置くなとか書いてありましたが、あれはワザと演出されたんですか?
上西監督:そうですね。あれは、バーンと殴った時に、バラバラになるように、ワザと作ったんです。
—–看板の文章もまた、面白かったんですよね!
赤井英和:新世界なら、あんな看板、置いてますよね!
—–置いてますね!それをワザとカメラで長く捉えたりとか、そういう演出もまた、とても細かいなって思って、観ておりました。すごく笑いどころもあったりして、関西の方にはピッタリ合うんじゃないかと思いました。『ひとくず』は重いテーマではありますが、それとは対象的に明るく、でも伏線の回収もあって、アクションもあって、すごくいい作品だと思います。
—–上西監督、失読症と失語症と言う設定を、勝吉と男の子に対比として描いておりましたが、なぜ特徴的な要素を作品に取り上げたのですか?
上西監督:元々、僕の舞台で『コオロギからの手紙』と言う作品があるんですが、それは昭和の貧しくて学校に行けず、字の読み書きができないまま、ヤクザになった男の話です。
その後教師と出会い、読み書きを習うと言うお話があるんです。そのキャラクターを本作に持ち込んだんです。さっきも話しましたが、人間性を描くのであれば、やはり、ハンデを持った、何かを背負った人物の方が、人間性を表現できるかと思いました。
僕の本(脚本)って、登場人物が多いんです。僕は人は人で描こうとするんです。コオロギがどんな人間か見せるためには、周りの人が彼に対して、どういう態度をとる人間か、どんな人間なのか、しっかり作って、勝吉を表現するために、コオロギを作ってる。コオロギを表現するために、勝吉を作ってるんです。
人で人を表現し合うことで、人間の体温だったり、そういうものが作品の中で実体化していくし、僕としては人を人で表現することでしか、映画を作れないので、如何にキチンとした人間関係を構築することが、作品を構築することだと思っています。
—–仰る通り、化学反応とでも言いましょうか。シーンの中でも、リング上でコオロギと少年・武が交わる場面は、素敵だと思います。
上西監督:コオロギを助けたいと思った武の気持ちが、彼を助けてやろうとする気持ちに、反応している場面なんです。人のために、人が何かをしようとすることで、何かが出来るとおもうんです。本作はバディ映画だったので、この作品の中にそのような要素を散りばめました。
—–多くの人と人との繋がりの中で、人を描いているのがすごく分かりまして、“雨ニモマケズ”の場面も、すごく感動的でした。
上西監督:ありがとうございます。
—–構成などもしっかりされていて、すべてが繋がった時のカタルシスは感無量でした。分かりやすい物語が、人の心を打つんだと思います。最後にお2人に2つ同時に、同じ質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?
まず1つ目が、お2人はすごく息の合った演技が、バディ映画として昇華されてましたが、今回この作品で一緒に組んでみて、お互いどう印象を受けましたか?
赤井英和:私はコオロギと勝吉のシーンで、好きな場面があるんですが、宗教に殴り込みに行く前に、焼肉屋で乾杯する時に、勝吉がコオロギに「お前のこと、ホンマの弟やと思うとる。」「泣かすなよ」と言うようなシーンが、一番個人的に好きで、2人の間柄と言うか、絆をすごく感じる場面やと思います。
—–お2人のセリフの掛け合いがすごく良く、とてもいいシーンがたくさんあって、冒頭場面で通天閣に登って2人で「ねばぎばや」と話す場面もとても記憶に残っております。上西監督は、赤井さんと組んでみて、どう感じられましたか?
上西監督:やっぱり、そうですね。赤井さんと言う存在が、とても大きいと思うんです。僕にとっても、関西の方にとっても、色んな特別な意味が籠るじゃないですか。僕も、本当に憧れていたし、役者としてぶつかって、横でお芝居させてもらってましたけど、刑事に向かって「弱い者の味方をしろ!お前ら警察だろ」とか、「世の中には人のために何かするのが当然だろ」と言うセリフがすべて真っ直ぐで、本当に心が見えて、横で本当に上西としても、コオロギとしても、感動してましたね!
—–演技や芝居を飛び越えて、人として感動されたんですね。
上西監督:それを顔に出すと作品としてはNGなので、結構そこは顔に出さないように気をつけてましたね。でも、コオロギとしても、親分にのその姿が誇らしくて、感動的に受け取れる場面だと思います。
—–かっこよく見えてしまいますね。
上西監督:その親分の背中に付いて行くことで、自分も力を得られるし、輝きも増すと。それはもう、体で実感しております。
—–ありがとうございます。それでは、最後に。今でも一部の地域で緊急事態宣言が発令されており※2、精神的にも辛い思いをしている方もおられると思うんですが、本作をご覧になって頂いて、お客様自身に何か感じ取って欲しいことはありますか?
赤井英和:コロナ、コロナ、自粛、自粛で、大変な社会になっていますが、この作品をご覧になって頂いて、朝の来ない夜はないから、諦めないでネバーギブアップの気持ちでいて下さい、と言う気持ちを伝えたいです。
—–ありがとうございます。
上西監督:ネバギバですね。この環境から諦めずに、立ち向かって、乗り切ってやると言うような想いになってくれたらと思います。これだけ長く続くと、皆さん、塞ぎ込んで来ると思うんですけど、この映画は本当に昭和の時代の痛快さを持っている作品なので、ぜひ劇場に行って、“痛快”という爽快な感動を受け取ってもらえたらと思います。
赤井英和:私たちの同年代、または先輩型方のお客さんにご覧頂いてたら、「あー、懐かしい昭和の映画やな」と思ってくださると思います。また、若い世代も、新鮮な気持ちでご覧頂ける、作品になってると思いますので、世代問わず、観て頂けたら、ありがたいなと思います。
ありがとうございました。
※1暴力団が仮の姿を借りて経営している会社のこと
※2インタビューは6月1日に行いました。
映画『ねばぎば 新世界』は、関東では7月10日(土)から東京都のK’s cinemaにて、関西では7月16日(金)から大阪府のなんばパークスシネマ、MOVIX堺、京都府の京都みなみ会館にて上映開始。兵庫県の元町映画館は、8月7日からです。全国順次公開予定。