映画『永遠の待ち人』あなたにとって大切な「待ち人」

映画『永遠の待ち人』あなたにとって大切な「待ち人」

生きる事の意味を改めて考える映画『永遠の待ち人』

©太田慶

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「素晴らしい夜であった。親愛なる読者諸君よ、われらが若き日にのみあり得るような夜だったのである。」

ドストエフスキーの名作短編「白夜」の書き出しを引用してみたが、人はその一時の瞬間の大切な出会いに、心の安らぎを求めるものだ。たとえ、それが儚くも短い逢瀬だったとしても、その時得られる愛の感情が永遠の情景として心に刻まれる。ドストエフスキーの短編「白夜」では、サンクトペテルブルクの約3週間の白夜のうちの4日間、孤独な青年が偶然知り合った少女に恋をする。婚約者の帰りを待つ少女に気持ちが揺らぐが、4日目の日、その少女は婚約者と再会し、遠い地へと旅立ってしまう。また孤独になった青年は、白夜の日々の中で何を思うのか?白夜は、所によって、期間の長短があり、長い期間であれば1ヶ月から半年間。白夜の期間が短い地域は、夏至の時期が近く、白夜の期間が短い地域。具体的には、フィンランド南部のヘルシンキや、スウェーデンなど。白夜の期間が短い地域は北極圏に近づくほど短くなる(※1)。1年の間の数日間から数週間、長くて数ヶ月の短い期間に突然現れては、白夜と共に消える儚い恋は人間の生命の儚さを象徴する。映画『永遠の待ち人』は、文豪ドストエフスキーの短編小説「白夜」に着想を得て、紅葉の美しい秋の日本を舞台に「白夜」とは異なるエンディングで描いた人間ドラマ。永遠の待ち人とは、どんな存在か?永遠に待ち続けた先にある幸せとは、どんな幸せだろうか?

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ドストエフスキーの短編小説では、北欧に自然現象として現れる「白夜」の期間が舞台になっており、この作品では「白夜」を秋の期間に置き換えて、男女の恋の行方を描く。近頃、日本の季節は気象異常も相まって、四季が存在せず、春の訪れも秋の気配も感じさせず、夏から冬へ、冬から夏へと、巡る季節がスピード感を持って、目まぐるしく変わっているが、本来、日本の秋の期間は、気象学では9月から11月とされている。この短い数ヶ月の間に、一組の男女の恋路が描かれる。日本には白夜のような気象状況は存在しないが、気象上や暦での短期間の短日(※2)は存在する。2月の立春から始まり、3月の春分の日、5月の立夏、6月の夏至、8月の立秋、9月の秋分の日、11月の立冬、そして最後に12月の冬至と1年12ヶ月の暦の中に8回、季節の変わり目となる四季の変化の中に尊ぶべき運命の出会いが隠されているのかもしれない。秋の気配を感じつつ、刹那的な永遠の虚ろさに胸が締め付けられ、心酔の念に駆り立てられる。秋の訪れと共に、もしたった1日でも永久(とわ)の逢い引きがあるとすれば、どんな出会いが待ち受けているのだろうか?永世無窮の時の中、邂逅相遇の偶然の巡り合わせが真実の愛の糸を手繰り寄せる。

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白夜や暦上の四季の移り変わりのように、時の流動は日数や時間で表現できるが、人が感じる孤独を数字で測定する事はできない。人が感じる「孤独」(※3)とは、誰かと繋がれないと感じる精神的な状態が続く事。その感情を特定の期間で測る事は不可能だ。四文字熟語には、「天涯孤独」という言葉があるが、身寄りがなく遠い異郷にいる状態を指す。また「生涯孤独」とは、一生涯孤独である事を意味し、「孤独」とは一生の生涯で人生と共に付き合っていかなければならない感情だろう。「孤独」とは、年齢に関係なく誰にでも訪れる可能性のある精神的な状態。孤独感を解消するためには、信頼できる人に相談する、体を動かす、一人で楽しめる趣味を見つけるなどの方法がある。日本の中高年は、世界でいちばん孤独と言われている。孤独は「心の飢餓」であり、寂しさを募らせ、そう感じさせる心の病にこそ、深刻さを伺える。著書「『世界一孤独な日本のオジサン』 」では、「社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下する」と書かれ、「人との温かいつながりによって人は健康になり、幸福感を持つ。日本では、そういう認識や考え方がまだ広まっていない」(※6)と書いてある。人の心に空いた孤独の空洞を埋めるには、大切な人との出会いが効果的なのだろう。愛する人との邂逅にこそ、心の孤独を埋める答えが詰まっている。映画『永遠の待ち人』を制作した太田慶監督は、あるインタビューにて、本作の作品内における哲学的なセリフについて聞かれ、こう話している。

太田監督:「小学生の時に読んだ手塚治虫の『火の鳥』と中学生の時に読んだニーチェの『ツァラトストラかく語りき』からは大きな影響を受けました。「生の哲学」「生命の哲学」には常に興味があります。」(※7)と話す。ドストエフスキーの小説『白夜』にしても、ヴィスコンティやブレッソンの映画『白夜』にしても、すべて描かれているのは人の中にある「生と死」の相関だろう。孤独によって心が死んでしまった青年(中年男性)が、ある一人の少女(女性)と出会い、孤独感から死んでいた心を生として生き返るまでの物語。そこには、人が一生で受ける生と死の狭間にいる人生を描いている。

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最後に、映画『永遠の待ち人』は、文豪ドストエフスキーの短編小説「白夜」に着想を得て、紅葉の美しい秋の日本を舞台に「白夜」とは異なるエンディングで描いた人間ドラマだが、人との出会いは滑稽なものだ。一生の間に出会わずして生涯を終える者もいれば、何度も何度も運命の出会いを経験する者、その時の一瞬の出会いだけを経験する者、何百という人がいるからこそ、何百通りの人との出会いが存在する。日本で良く寺社仏閣のおみくじにて、「待ち人」という欄がある。「永遠の待ち人」という言葉自体が表現として「おみくじ」(※8)に登場する事はないが、私達が常に思い馳せている「待ち人」とは、恋愛相手に限らず、あなたにとって大切な人や、人生に大きな影響を与える人物や出来事全般を指す。もし「待ち人」が「おみくじ」に「来る」と書かれていたら、それは大切な人や出来事が訪れる良い兆しであり、「来ず」であっても深刻に捉えず、現状をより良くするためのヒントでもあり、当たり障りのないおみくじや占いの信憑性だけがすべてではないが、あなたにとって大切な「待ち人」は常にあなたの隣に寄り添っているのかもしれない。

「その美しい思い出が、人生の長い一生涯分に十分足りる喜びを与えてくれるだろう」

©太田慶

映画『永遠の待ち人』は現在、大阪府のシアターセブンにて公開中。

(※1)自然の神秘を楽しもう! フィンランドの白夜と極夜https://allabout.co.jp/gm/gc/448007/#google_vignette(2025年9月3日)

(※2)【2月4日は「立春」】こんなに寒いのになぜ「春」なの?https://weathernews.jp/s/topics/201802/030135/#google_vignette(2025年9月3日)

(※3)「さみしい男性」要注意、孤独は健康リスクhttps://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20180214-OYT8T50017/(2025年9月3日)

(※4)天涯孤独になったらどうする?おひとりさまの生き方と終活の心構えを徹底解説https://life.saisoncard.co.jp/post/c2910/#:~:text=%E3%80%8C%E5%A4%A9%E6%B6%AF%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%AF,%E3%81%AF%E5%BE%AE%E5%A6%99%E3%81%AB%E7%95%B0%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年9月3日)

(※5)孤独感は解消できる?孤独で不安を感じる原因から対処法まで解説https://www.mentalclinic.com/disease/p11239/#:~:text=%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E6%84%9F%E3%82%92%E6%84%9F%E3%81%98%E3%81%9F%E6%99%82%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%87%A6%E6%B3%95%20*%20%E5%AD%A4%E7%8B%AC%E6%84%9F%E3%82%92%E8%87%AA%E7%84%B6%E3%81%AA%E6%84%9F%E6%83%85%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E5%8F%97%E3%81%91%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%82%8B%20*%20SNS%E3%81%8B%E3%82%89%E9%9B%A2%E3%82%8C%E3%82%8B%20*%20%E4%BF%A1%E9%A0%BC%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%AB%E7%9B%B8%E8%AB%87%E3%81%99%E3%82%8B%20*%20%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%AA%E3%81%A9%E4%BD%93%E3%82%92%E5%8B%95%E3%81%8B%E3%81%99%20*%20%E4%B8%80%E4%BA%BA%E3%81%A7%E3%82%82%E6%A5%BD%E3%81%97%E3%82%81%E3%82%8B%E8%B6%A3%E5%91%B3%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%81%A4%E3%81%91%E3%82%8B(2025年9月3日)

(※6)世界一孤独な日本の中高年男性 心を蝕む深刻な病https://www.sankei.com/article/20220223-KELL2VQLHRNIROGV6EJTMQ5CJU/(2025年9月3日)

(※7)『永遠の待ち人』太田 慶監督 オフィシャル・インタビューhttps://www.cinema-factory.jp/2025/05/31/81833/(2025年9月3日)

(※8)おみくじの「待ち人」って好きな人?恋愛、縁談との違いや「来ず」への心得も伝授します!https://precious.jp/articles/-/38016#:~:text=%E3%80%8C%E5%BE%85%E3%81%A1%E4%BA%BA%E6%9D%A5%E3%81%9F%E3%82%89%E3%81%9A%E3%80%8D%E3%81%A8,%E3%81%A6%E3%81%AF%E3%81%84%E3%81%8B%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%86%E3%81%8B%E3%80%82(2025年9月3日)