特集上映『ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク』日本の映画業界は試されている

特集上映『ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク』日本の映画業界は試されている

「セクシュアリティ」「欲望」「権力」をテーマにした特集上映『ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク』

©1983 Variety Motion Pictures. All Rights Reserved. ©Kino Lorber, Inc. All Rights Reserved.

ベット・ゴードン監督。彼女の監督作品が、今まで日本国内で紹介された事はなかった。1980年代のアメリカのニューヨークにおけるインディペンデント界隈では非常に重要な人物にも関わらず、今まで日本の映画界は彼女の存在すら認めようとはしなかった。米国のニューヨーク派と言えば、1957年の映画『十二人の怒れる男』から2007年公開の遺作となった映画『その土曜日、7時58分』までの50年間、非ハリウッド系のニューヨーク派の旗手として活躍した大御所のシドニー・ルメットを筆頭に、今も現役で映画を撮り続けるウディ・アレン監督。70年代から80年代にかけて、ニューヨーク・インディペンデント派として人気を得たジョン・カサベテス監督。90年代からハル・ハートリーや彼を師事したケリー・ライカート。2000年代後半以降には、マンブルコア運動がニューヨークで盛んとなり、そこからウェス・アンダーソン監督やノア・バームバック監督、そして今やハリウッドで活躍するグレタ・カーウィグやデヴィッド・ゴードン・グリーン等を輩出しているニューヨーク・インディペンデント派。このインディペンデント運動の中で80年代の動向は、今まで紹介されて来なかっただけに、今年突然彗星の如く出現したベット・ゴードン監督の存在は、今後の日本の映画業界に何らかの爪痕を残すだろう。これらニューヨーク・インディペンデント派達の系譜に初めて、ゴードン監督の名前が刻まれた。今ここに、ゴードン監督が残した初期の足跡を辿る事ができるのは、非常に有意義な事だろう。今回は、ベット・ゴードン監督の初期三部作『ヴァラエティ』『エニバディズ・ウーマン』『エンプティ・スーツケース』が、特集作品として組まれた。

タイムズ・スクエアの近くにあるポルノ映画館「ヴァラエティ」でチケットを売る女性クリスティーン。ある日、1人の男性客と言葉を交わした彼女は、それ以来その男性を追いかけるようになる初長編映画『ヴァラエティ(1983年)』

1983年の長編第1作「ヴァラエティ」の舞台となったニューヨークのポルノ映画館「VARIETY PHOTOPLAYS」で撮影された、同作のプロトタイプとも言える短編映画『エニバディズ・ウーマン(1981年)』

職場のあるシカゴと恋人がいるニューヨークを行き来する女性が抱える疎外感と孤立感を考察した実験的中編映画『エンプティ・スーツケース(1980年)』

上記、三作は80年代当時のニューヨークの風景を知る上では、資料映像的側面もあり、非常に価値の高い作品だ。単なる劇映画ではなく、歴史的価値を見い出せる作品となっている。今まで、日本はこのベット・ゴードン監督の存在を知る人は、少なかったであろう。私自身、彼女の存在をまったく知らなかった。その点、この80年代のニューヨークのインディペンデント界隈で起きたムーブメントの中心人物を発掘した関係者達の先見の明は素晴らしい。ベット・ゴードンに限らず、この時代に活躍したであろう当時の若手監督達の作品はまだ、国内にほとんど紹介されていない事だろう。今回を機に、80年代ニューヨークで起きたインディペンデントに関わる映画運動の中心人物達を再発見する事もまた、日本の映画業界は試されている。その前に、1983年の初長編映画『ヴァラエティ』以降のベット・ゴードン監督作品『Greed – Pay to Play』『Luminous Motion』『Life on the Line (TV Movie)』『Handsome Harry』『The Drowning』が、再び発掘される事を願うばかりだ。

特集上映『ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク』は現在、11月16日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開