映画『鬼才の道』友と共に歩める人生

映画『鬼才の道』友と共に歩める人生

私達が見つめる視点のその先。映画『鬼才の道』

©Activator Co., Ltd.

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見つめる視点のその先には、恐怖ではなく、夢や希望を打ち砕かれた幽霊たちの末路。事故や殺人、突然亡くなった死者は、霊界で存在し続ける為の方法を模索する。少しでも霊界で貢献できなかった者たちは、容赦なく淘汰される階級社会。現世の世界で落ちこぼれの劣等生と浮きこぼれの優等生の格差があるように、幽霊たちの世界にも霊界から追放される者と不死者として存在し続ける者としてふるい落とされる現実が待っている。幽霊として霊界に残るには、冥界タレント協会に所属し、現世の人間を怖がらせる幽霊エキスパートにならないといけない。幽霊として怖がらせの達人として活躍しないと、霊界のタレント協会からも干されてしまう。実際の日本のタレント界でも、業界に貢献できず、悪の道に踏み外した者(※1)は、無慈悲にも業界的社会的知名度的にタレントとして存在がほぼ抹消される。また、現世に残された家族達が自身の記憶を忘れても、否応もなく幽霊としての価値を損なわれ、排除されてしまう。もし、死後の世界でも俗世と同じような自然淘汰される未来が待っていたら、あなたはどう受け止めるか?映画『鬼才の道』は、不慮の事故で幽霊となった主人公が死後の世界で奮闘する姿を描いたオカルトコメディ。30日以内に「恐怖の芸」を会得し、霊界で名を上げないと存在を消されてしまう運命を背負った普通の幽霊少女が、自身の存在証明を賭けて一世一代の大舞台のステージを踏む。生きていても過去や人に未練を持つ人は大勢いて、霊界での未練はその延長線に過ぎない。過去の後悔を抱えるすべての人に贈る痛快エンタメ・ホラームービー。

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本当に霊の世界にも、タレント協会は存在するのか?単刀直入に言えば、霊界にタレント事務所は存在しない。それは至極当然の事であり、それ以上も以下もない。そもそも死者が霊界の事情を教えてくれる事はなく、誰もあの世の諸事情は知らない。だから、冥界タレント協会と言うのは架空の物語であり、単なる寓話的な御伽噺に過ぎないかもしれないが、本当に霊の世界にもこの世と同じようにタレント業界があったとしたら、ほんの少し期待したい。それはそれで、非常に興味深い事だ。「霊界」の概念において、その考え方は宗教や思想によって大きく異なりがある為、冥界タレント協会のような団体は霊界そのものに存在しないという見方が妥当だ。結果的に、霊界において特定の団体を客観的に示す事ができないのが事実だが、実際の世界では国内外問わず、多くのスピリチュアル関係者や団体が霊界についての定義を示している。スピリチュアリズム系の団体(※2)では、国内の日本心霊科学協会や海外のスピリチュアリズム団体がある。たとえば、イギリスを中心に発展したスピリチュアリズムでは、霊界に「階層」や「領域」が存在すると考える団体が数多く存在し、霊との交信を試みる活動を行っている。一例として、英国スピリチュアリスト協会(Spiritualist Association of Great Britain)が代表的だ。また日本の新興宗教では、死後の世界や霊界の教義を持つ団体が多数存在する。一例を上げると、仏教系の新宗教で、先祖供養を重視し、霊界との関係を説く霊友会。岡田茂吉を開祖とする新宗教で、死後の世界に関する教義を持つ世界救世教。高橋信次によって創設された新宗教で、霊的な真理を探求するGLA(ジー・エル・エー)。神道系の新宗教で、神霊や霊界についての教えを説くワールドメイト。霊言を教義の中心に据え、霊界や宇宙人など、さまざまな存在について諭す幸福の科学など、多くの新興宗教が霊界に関する考えを持っている。その根源として考えられているのが、18世紀の霊的求道者のエマヌエル・スウェーデンボルグ(※3)。霊界を階層的な「霊界の階層(sphere)」として描写し、多くのスピリチュアリズムに影響を与え、世界中に霊界観の概念を提言した人物として今でも影響力を持っている。スウェーデンボルグは、元々は自然科学者としての地位を持っていたが、彼が50代を過ぎた中年の頃に体験した幻視や霊との対話、霊界探訪の記録が今も残っている。人生の前半生は科学者として、後半生における生涯では自身の神秘体験を記録し、霊界での人間関係、死後の魂の状態などについて独自の思想を述べ続けた人物。世界的有名なヘレン・ケラーが信奉し、ドイツの哲学者イマヌエル・カント(他に、ゲーテ、バルザック、ドストエフスキー、ユーゴーなどがいる)にまで影響を与えたスピリチュアル学のパイオニアとして霊界論を発表し続けた心霊研究家。スウェーデンボルグが体験した神秘的な内容には、肉体を自由に抜け出して霊界を訪れ、死者とコミュニケーションして紛失物を見つけ、故郷で起こっている大火災を透視し、自身がいつ死ぬかを予言し実際にその日に寿命で尽きたりと、18世紀から19世紀にかけて超弩級の能力を発揮して当時のヨーロッパを震撼させたりと、華麗なるエピソードは枚挙に遑がない。スウェーデンボルグの宗教観や霊感観には、「唯一なる神を愛すること、隣人愛の実践、不倫などの悪を避けること、誠実に人と接すること」(※4)と著書に記述しており、より道理的な価値観を有している。「神とは何か、霊界は実在するか、メシアとは、罪とは、救いとは、人間とは、人生の目的とは、歴史とは….。この確かな実相を知りたい」と言葉を残している。霊界が本当に存在しているのか、霊界に本当に冥界タレント協会が存在するのか、まだまだ不明瞭な事がたくさんあるが、本作の台湾霊界界のような面白楽しい世界があるなら、それならそれで良いのではないだろうか?ここで一つ、死ぬのは悪くない、一度でいいから死んでみたいと切に願いたくなるなるのではないだろうか?

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私達は私達自身を死んだ後に現世で生きた証をどう証明すれば、良いだろうか?死後、私達は自身が生きていた事実に対して、証明する方法はまず難しいだろう。生存証明をどれだけ訴えても、死んでしまったら人間はそれまでだ。死んでしまえばもう二度と、この世界で生きていた事を立証する事は不可能だろう。ただ一つ方法があるとすれば、生きている間に有形無形のものを残して、旅立つ必要がある。具体的に、死んだ人間が生きた証を残す方法には、形あるものから、もしくは人々の心に残る無形のものまで多岐にわたる。より詳しく記述すると、物質的な遺産の形あるものには、故人を偲ぶために亡くなった人が愛用していた遺品や形見(品物、手紙、写真など)を遺す事。財産を家族に残すだけでなく、社会貢献として生前に慈善団体や公共機関に寄付する事。ブログやSNSアカウントに投稿された文章、写真、動画としてのデジタルデータは、死後もインターネット上に残り続ける。小説や絵画、楽曲、手工芸品などの創作物となる作品は、後世に残る生きた証となる。ゼロから立ち上げた事業や会社を次世代に引き継ぐ事ができる事業は、社会への貢献として形に残せる。一方で、非物質的な遺産となる形のないものとしては、故人との楽しい思い出、感謝の気持ち、生き様そのものが人々の記憶に残り、周囲の人々の心に深く刻まれる。生前に伝えた人生の教訓や、物事に対する考え方は、価値観や教えとなり、受け継いだ人々の行動や選択を未来に導き続ける。他者への奉仕活動、社会問題への取り組み、地域社会への貢献は社会的影響力となり、死後も社会に良い影響を与え続ける。そして最後に、故人から受け継いだ家族の習慣や地域の風習は伝統の継承として、次の世代へと受け継がれ、故人の存在を語り継ぐ。 物質的、非物質的に関係なく、私達が人生を生きた事実をこの世に残す為に具体的な行動には、エンディングノートの作成、人生の閉幕に向かう為の終活、他者との積極的な交流(※5)が挙げられる。日本で有名な歌人の松尾芭蕉は、逝去する4日前に人生最期の俳句を詠んで旅立った。彼は最後に「旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる」(※)と元気になって次の旅を夢見たか、俳人として50年間、俳句を詠み続けた人生を振り返ったのか、それは松尾芭蕉自身本人しかその真意は分からないが、この世で生きた来た意味について向き合った俳句には、生きる事に対しての彼の最後の想いが俳句に刻まれているのだろう。私達は今、何のために生きているのか?死後、この世に生きた証を残すため?今を一生懸命生きる事が、未来に何かを残す生きた証となるだろう。映画『鬼才の道』を制作したジョン・スー監督は、あるインタビューにて本作の本質について、こう話す。

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スー監督:「もし私がこの映画の観客だったら、セリフの最後の一文は本当に重要でした。なぜなら、私が子供の頃に誰かに教えてほしかったことだったからです。「自分の人生を生きるために特別である必要はない」ということです。私は全く逆のことを言われました。だから、主人公が実家に行って、妹の生まれたばかりの子供たちにこのことについて話すという設定にしたのは、私が生まれた時に本当に望んでいたことだったのに、得られなかったからです。でも、すごく幼い頃にこの言葉を聞くと、本当に大切なもの、つまり他人には見せない自分自身のイメージを心に留めることができると信じています。 」(※7)と話す。「自分の人生を生きるために特別である必要はない」この言葉には、今の時代を生きる私達の胸に響くものではないだろうか?誰もが特別でありたい、有名でありたいと強く望む世の中になったと、私は感じている。たとえば、テクノロジーやSNSの発展は若い世代を中心に人気者になれる、知名度を上げられるツールとして認識されている。でもそれは、SNSを使う人にもよるところがある。先日、日本のある地方の女子高生が、某回転寿司チェーン店(※8)でモラルを欠いた行動を動画で撮影し、その様子をSNSにアップした。SNSさえなければ、この迷惑行為が世に知られる事はなかっただろうが、今はSNS全盛期の時代。他人への迷惑行為は、SNSを介して必ず拡散される。他には、某ラーメン屋チェーン店でも、廃棄予定だった商品の卵をキャッチボールし合う動画(※9)が物議を醸した。また、某ファストフード店では、商品をおもちゃのように投げる動画(※10)が、面白半分でSNSに投稿され、拡散された。今の若者は他人とは少し違った目立つ事をして、世間から有名になろうと逸脱した行為する世代が一定数増えた。けれど、この物語に登場する主人公の若い少女の幽霊の姿から、「平凡でいい。普通でいい。今を一生懸命生きていれば、それだけで人は輝いている。」と教えてくれているようだ。

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最後に、映画『鬼才の道』は、不慮の事故で幽霊となった主人公が死後の世界で奮闘する姿を描いたオカルトコメディだ。「鬼才の道」は、冥界タレント協会にて有名な幽霊になる為の修行の道ではなく、自身が現世で生きて来た存在証明を見つける為の道だ。ジョン・スー監督は、「ホラーとコメディは紙一重」と言う。もしかしたら、私達が今生きている人生の半分以上が、ホラーでありコメディであるのかもしれない。どこかで聞いた事あるようだが、私達の人生は客観的に見れば滑稽洒脱に笑えて、鬼気森然に恐ろしいものかもしれない。恐ろしさの中にバカバカしさはあるが、仲間と大笑いできる人生こそ、より豊かな人生を送れると信じたい。私達が見つめる視点のその先には、大切な仲間がいる。たとえ、どんな死に方をしても、友と共に笑い、共に生き、共に歩める人生が美しいと、幽霊たちが教えてくれている。

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映画『鬼才の道』は現在、公開中。

(※1)広末、沢尻、瀧…芸能人「次々復帰」を読み解くカギ性加害と薬物・不倫への怒りに温度差が生まれる理由https://toyokeizai.net/articles/-/736492?page=2(2025年10月14日)

(※2)世界救世教が世界メシア教に13億円の解決金支払いhttps://newscast.jp/news/0018168(2025年10月14日)

(※3)スウェーデン・ボルグが天才科学者から霊界を説く神秘思想家に転身するまでhttps://www.sougiya.biz/kiji_detail.php?cid=1716(2025年10月14日)

(※4)スウェーデンボルグの世界と原理観① 霊界とは何かhttps://www.reiwa-revival.com/post/%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%83%BC%E9%9C%8A%E7%95%8C%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B(2025年10月14日)

(※5)「生きた証」とは何か…現世に残したい本当に“大切なもの”https://shuchi.php.co.jp/article/224(2025年10月14日)

(※6)生きた証を残すために生きるhttps://true-buddhism.com/teachings/meaning/livingproof/(2025年10月14日)

(※7)John Hsu talks the creativity behind Dead Talents Societyhttps://screensphere.co.uk/interviews/film-interviews/john-hsu-talks-the-creativity-behind-dead-talents-society/(2025年10月14日)

(※8)くら寿司で「レーンのすしを素手で」「しょうゆ差しから直飲み」動画拡散…店舗と実行者は特定https://www.yomiuri.co.jp/national/20251014-OYT1T50109/#google_vignette(2025年10月14日)

(※9)弊社従業員による不適切な動画投稿に関するお詫びとご報告https://www.kairikiya.co.jp/news/%E5%BC%8A%E7%A4%BE%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E4%B8%8D%E9%81%A9%E5%88%87%E3%81%AA%E5%8B%95%E7%94%BB%E6%8A%95%E7%A8%BF%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8A%E8%A9%AB/(2025年10月14日)

(※10)ケンタッキー、ツイスター生地で遊ぶ“バイトテロ動画”を認める「店舗での撮影を確認」https://www.jprime.jp/articles/-/38665?display=b&_gl=1*156g85e*_ga*TzF0RmpiRzVfdE5fZnQ2R0VySmk4TlF1NmRrZDhrYzNETWswUFBIOF84TWpiY0ZRelRfTTlISlpFNE5Ma2RTNg..#google_vignette(2025年10月14日)