映画『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』「今」を懸命に生きて

映画『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』「今」を懸命に生きて

ふたりの関係が終わろうとする1999年の夏。映画『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』

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双子には、双子にしか分からない価値観がある。それは、親家族兄弟とは全く違う人としての特別な繋がりが双子にはあり、分かち合う喜びも悲しみも、恋愛もすべて一心同体だ。同じ日の、同じ時間の、ほぼ同じタイミングで産まれた双子(特に、一卵性双生児の双子)は、産まれてから死ぬまでの運命を共に生きる。その数奇な運命に彩られた二人の人生は、他者とは交わる事がなく、二人だけの世界、時間、価値観を構築する。この感覚は、私達一般の人間には分かり得ない彼ら特有の特別な体感な為、非常に不思議なパワーが双子の関係性の中に存在するのであろう。同じ位置にホクロがあったり、同じ物を好んで手にしたり、好物の食べ物が一緒だったりする。海外の二人の幼い女の子の双子が、面白い試みとして、双方の間に敷居を置いて、同じ色の風船を手にするかどうかという実験動画があるが、その時の幼い双子の姉妹の本人達の反応が、非常に興味深い。示し合わして同じ色を選ぶ訳ではなく、偶然一致する直感と好みの色を選ぶ両者が、各々にその偶然性の一致に素の顔をして、驚く姿が収められている。ここで言いたいのは、双子当事者の本人でさえも、偶然の一致に驚くほど、そのシンクロ性は未知の領域なのだろう。また近頃、関西ローカル中心に放送されている探偵ナイトスクープの視聴者の依頼を通して、瓜二つの顔を持つ母と叔母は本当の双子かどうか確かめて欲しいというユニークな回があったが、結論から言えば、その双子の方はDNA鑑定の結果、本物の双子だった訳だが、彼女達は同時期に同じ空間で生活していた訳では無く、幼少期から似たような人物が身の回りにいるが、果たして、その人物は誰なのか判別できていなかった。ある時、真相を確かめる為、会う約束したその日に、同じ位置のホクロ、持ってる物が同じ、食べ物の好き嫌い含め、お互い遠くに暮らしていたにも関わらず、偶然性の一致が数多くあり、自身をお互い、双子と認め、科学的医学的検査をしないまま、40年間、同じ屋根の下で暮らして来たという映画のような話が、実際の世界で起きている。事実は小説よりも奇なりという言葉があるが、それを地で行くような出来事が、私達気付かない所で、実際数多く起きているのだろう。双子の運命性や偶然性は、人間の人智や科学の領域で計り知れない非常に不思議な力が働いている事だろう。映画『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』のあらすじは、一卵性双生児のユーとミーは、ずっと一緒に生きてきた中学生。合わせ鏡のように似てる2人。食べ放題のレストランも話題の映画も1人分の料金で2人分楽しみ、双子の特権を最大限に利用しつつ、どんなこともシェアして人生を歩んできた。でも1999年の夏、2人は思いがけない人生の岐路に立たされる。という物語だが、どれだけ同じ人生の道を歩んでも、初恋までは共有できないもどかしさに翻弄されながら、青春期や思春期のその一瞬の時間を過ごす双子の運命は、その時にしか経験できない彼女達だけの特別なモノだ。

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総じて、私達は双子の世界線を理解する事は、到底不可能な事だ。なぜなら、結論として、私達自身が双子でない限り、実際の双子達の価値観を分かってあげる事は100%に近い99%の割合で不可能だろう。科学的に見て、双子同士のシンクロ性(※1)は、まだ解明できてない部分も多くあるだろう。周知の通り、双子が生まれる確率は非常に低く、珍しい存在と言われている。「一卵性双生児は、どちらかといえば珍しいといえるでしょう。欧米諸国で自然に双子が生まれる確率は80回の出産に対して約1回の割合で、一卵性はさらにその3分の1に過ぎない。」と話すのは、長年双子について研究している心理学者ナンシー・L・シーガル。彼女もまた、二卵性双生児の当事者でもある。また、アメリカでは個人や個性を大事にする風潮がある中、双子という特異な関係性はその文化では相反するようで、なかなか受け入れられない背景があるようだ。ナンシー女史は、双子の特性について、こうも話している。「自分と瓜二つの人間と一緒に成長するというのは、とても珍しい状況です。私はつねづね、双子は二つの特性を備えていると考えてきました。一つは二人に共通する特性、もう一つはそれぞれが独自に持っている特性です。」双子としての特性と、個々人が持つ個性には、大きな違いがあるのだろうか?アメリカにおける双子の性質は文化の中での相違があるようだが、一方、日本での双子の扱い方が、もしかしたら、一番しっくり来るのかもしれない。出る杭は打たれるという言葉があるように、個人の発信を嫌がる日本文化において、双子はその特徴に溶け込む事ができるのではないだろうかと、私は思う。冒頭で書いた離れ離れになっていた日本在住の双子の話は、頻繁に起こっているそうだ。女史は、「ミネソタ大学では、1979年以降、別々に育った双子に関する研究を行ってきました。その結果、130組を超える双子が養子に出され別々に育てられており、多くの場合、当人たちは事情を知りませんでした。ほとんどは母親が出産時に亡くなった、あるいは両親に二人の子どもを育てる経済力がないといった理由で、意図的に別々に育てられたケースです。でも中にはまれに――私は9件知っていますが――混雑した新生児室で単生児が双子の片方と取り違えられて“二卵性”とみなされ、後にまったく血縁関係がないとわかったケースもあります。こうした場合、本当の双子を再会させることが、必ずしも幸せな結果を生むとは限りません。本人たち、そして家族のアイデンティティーが突然打ち砕かれてしまうわけですから。」と話しているが、もしかしたら、今のこの時代、地球上のどこか、あの街の街角に自分と同じ顔をしたもう一人の双子の片割れがいるのかもしれない。私達は個々人の世界で生きているのではなく、運命的な血筋に誘われて、目には見えないゲノム遺伝子の波間に漂っている存在だ。

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タイに住む双子の姉妹は、この遺伝子レベルの繋がりを感じながら、1999年という日々の中で必死に生きて来たのだろう。世界中の人々が「世紀末」という破滅的な時代に、一心不乱、粉骨砕身の身を削り明日を夢見て、今を生きて来た事を窺い知れる。ある映画祭の会場にて、私と同時代を生きて来たであろう本作の双子監督ワンウェーウ=ウェーウワン・ホンウィワットと会話する機会があり、作品が舞台とする「1999年」には何を意味するのか問いてみた。彼女らの答えは、自身が過ごした時代を作品に反映させただけで、この時代を特に深くは捉えていなかった訳だが、私は彼女ら監督と同時代を生きて来たからこそ、この「1999年」が持つ時代的パワーについて考えせざるを得なかった。まるで天地が逆転するかのような時代的重力に人生を左右された1999年の一年は、ある種、特別な夢を見ていたような時代であった。この時期は、数年前から人類滅亡の予言「ノストラダムスの大予言」(※2)が、大人達の間で実しやかに囁かれていた時代。私は、子どもながらに1999年から2000年を跨いで、日本で、地球上で何かが起こるのではないかと、小学生の日常を送りながら、日々を過ごしていた。でも、それは単なる杞憂に終わり、何も起こらず、ただの迷信だと突き付けられた12歳の夏。なぜ大人は、人々はありもしない予言に踊らされたのだろうか?「そんなのウソでしょ」(※3)と誰も一蹴せず、ほとんどの日本人がこのトンデモ予言に翻弄されたが、このブームは日本だけで、世界ではノストラダムスの「ノ」の字も出なかったほど、誰も口にしていない。1999年は、そんな時代で幕を開けた訳だが、この時期は他に「東海村核燃料加工会社で国内初の臨界事故」「住友・さくら銀合併、第一勧銀など3行統合と金融再編大展開」「6月の完全失業率、過去最悪の4.9%を記録」「新幹線トンネルでコンクリ崩落事故続発」(※4)など、一大事件を挙げても、これと言った記憶が一つも残っていない1999年の出来事ばかりだ。ただ、1999年から2000年という時を跨いで、20世紀から21世紀へと変わる瞬間(本当は、2000年から2001年と後に言われたが、どっちでもいいと私は思っている)に立ち会えた世代として、この時代は何かソワソワした感覚を植え付けられた。非常に不思議な時代背景を擁した1999年だが、タイではどのような出来事が起きたのだろうか?1999年のタイでは、9月19日にチェンマイ県の龍眼乾燥工場で爆発があり、45人が死亡。10月1日には、軍がビルマ大使館を襲撃、ラーチャブリー地域病院を占拠。11月23日は、矯正局はサマイ・パンイン夫人を射殺。12月2日には、タイ石油工場パタヤ支店で石油貯蔵タンクの爆発により火災が発生。12月5日には、国王陛下の第6周期誕生日記念日を記念したスカイトレインタイ初の鉄道大量輸送システムの電車が正式に運行を開始。日本と全く変わらない一年を過ごしたタイ王国の国民たち。この国民の中に双子のユーとミーが、この時代を生きていたのだろう。1999年の同時代に生きた私達は、あの日々の「今」を必死に生きて来たのだろう。新世紀の幕が開ける1990年代後半、最後の年、あの年代の私達若者は新時代の扉を開ける高揚感は、まるで青春そのものだったに違いない。本作『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』を制作した双子のワンウェーウ=ウェーウワン・ホンウィワット監督は、あるインタビューにて、本作についてこう話している。

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วรรณ:“แรกเริ่มในบทมันเป็นปัจจุบัน เราก็อยากจะพีเรียดแต่ยังหาเหตุผลไม่ได้ (หัวเราะ) คือเราอยากจะพีเรียดไปในวัยตัวเองด้วย ก็นึกย้อนกลับไปว่าช่วงนั้นมีอะไรบ้าง Y2K ก็เป็นอีกปีนึงที่มีคนบอกว่าโลกจะแตกว่ะ”

แวว:“ก็เซอร์อยู่นะ มีข่าวว่าโลกจะแตก (หัวเราะ)”(※5)

ワン監督:「台本では最初は現在でした。ピリオダイズしたいけど理由が見つからない(笑)。つまり、自分たちの年齢でもピリオダイズしたいんです。 2000年もまた世界が終わると言われた年でした。 」

ワウ監督:「私はまだここにいます。世界が終わるというニュースもあります(笑)。」と、1999年から2000年の間に世界滅亡の噂が、タイでも流れていたのだろう。と、この会話の断片から窺い知る事ができる。当初の台本は、現代の予定であったと話す一方、2000年でも1998年でもなく、1999年に時代設定をした事実に対して、双子の監督にとって、この時代が何かしらの意味を持っているのだろう。彼女達自身にも、この年代の底知れぬパワーに圧倒され、影響された時代の「今」を一生懸命に生きる、それこそが私たちを含む今の時代の若い世代の青春そのものだったに違いない。

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最後に、映画『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』は、一卵性双生児として生まれ、ずっと一緒に生きてきた中学生のユーとミーの10代前半の青春と恋愛を活写した瑞々しい青春映画だ。少し話が逸れるが、今世間ではパリ・オリンピックが盛大に行われ、多くのスポーツ選手が切磋琢磨をする中、世界のトップに立とうと凌ぎを削っている。その中でも特に鮮烈な印象として残るのは、柔道女子52キロ級の阿部詩選手の世界を一つにさせた勇姿(※6)だろう。私は思う、勝っても金、負けても金、今ここに存在して、「今」を必死に生きている事こそが金メダルだ。私含め、この映画を制作した双子のワンウェーウ=ウェーウワン・ホンウィワット監督も、作品に登場する双子のユーとミーも、現代に生きる若者達は、「今」を見つめながら生きている。それこそが、青春そのものであり、生きている事こそが金メダル級だ。全世代に言える事でもあるが、今の10代から30代の若い世代の方は、「今」という時代を、「今」を懸命に生きて欲しい。その生きる事こそが、「青春」である事を認識して欲しい。

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映画『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)双子が明かす生命の不思議https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20111222/294622/?ST=m_magazine&P=4(2024年7月28日)

(※2)5月4日は、ノストラダムスの日 – 歴史を揺るがす大予言 信じるものは救われる?https://qui.tokyo/life-style/days_0504#:~:text=%E3%80%8C1999%E5%B9%B4%E3%80%817%E3%81%AE%E6%9C%88,%E6%97%A5%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年7月29日)

(※3)『ノストラダムスの大予言』なんでみんな信じちゃったのかhttps://gendai.media/articles/-/55379?imp=0(2024年7月29日)

(※4)国内1位は国内初の臨界事故=1999年10大ニュースhttps://www.jiji.com/sp/graphics?p=ve_soc_general-10bignews1999(2024年7月29日)

(※5)‘เธอกับฉันกับฉัน” เบื้องหลังความรักและการเติบโตของผู้กำกับฝาแฝด วรรณแวว-https://adaymagazine.com/you-and-me-and-me/(2024年7月29日)

(※6)阿部詩「全てをかけてきて、負けた瞬間は…」 オリンピック柔道女子https://mainichi.jp/articles/20240728/k00/00m/050/302000c(2024年7月29日)