映画『アンジェントルメン』世界に存在するインテリジェンスの真実

映画『アンジェントルメン』世界に存在するインテリジェンスの真実

ミッション遂行は非紳士的(アンジェンルト)に映画『アンジェントルメン』

©2024 Postmaster Productions Limited. All Rights Reserved.

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第二次世界大戦下のイギリス政府も知らなかった秘密裏に結成された特殊部隊には、ブリティッシュ・コマンドス、特殊空挺部隊(SAS)、特殊作戦執行部(SOE)、長距離砂漠挺身隊(LRDG)、チンディット(※1)などがある。たとえば、ブリティッシュ・コマンドスは、1940年に設立後、ナチス・ドイツ占領下のヨーロッパで特殊任務を担う部隊となる。空挺降下、敵前上陸、破壊工作などを実施。戦後解体されたが、現在の海兵隊コマンド部隊やSAS、SBSなどの起源となる特殊部隊。特殊空挺部隊(SAS)は、空挺作戦による敵地への潜入、破壊工作などを目的として設立。世界初の特殊部隊と呼ばれ、現在はイギリス陸軍に属す。特殊作戦執行部(SOE)は、諜報、秘密作戦、不正規戦、レジスタンス支援などを担当した秘密軍事組織・諜報機関。長距離砂漠挺身隊(LRDG)は、北アフリカ戦線において、砂漠地帯を移動し、ドイツ軍の後方撹乱や補給線破壊などを実施した当時の武装集団。チンディットは、ウィンゲート准将率いる、ビルマの日本軍後方でのゲリラ戦を目的とした部隊を結成。長距離浸透作戦を重視したとされる。これら第二次世界大戦で生み出された4つの特殊部隊は、世界大戦において連合軍の勝利に貢献し、現代の特殊部隊の礎を築いた重要な役割を果たしたと言われている。映画『アンジェントルメン』は、第2次世界大戦中のイギリスでチャーチル首相もと非公式に結成された特殊部隊の戦いを活写したスパイアクション。戦争における特殊部隊は、第二次世界大戦だけでなく、21世紀に起きた戦争にも多くの特殊部隊が活動したが、今ある部隊の原点がここにあると言える。

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この時代、あらゆる国と地域で特殊部隊が結成され、秘密裏のうちに兵士達を戦地に送った。映画の舞台は第二次世界大戦下の英国だが、イギリス以外にも、たとえば、アメリカでは悪魔の旅団、またの名を黒い悪魔(別名:黒い悪魔の旅団、フレディの運び屋)と呼ばれた第1特殊任務部隊が、1942年に結成されている。第二次世界大戦が勃発した1942年、1943年頃、アリューシャン方面の戦い、イタリア戦線、南仏侵攻、アンツィオへの上陸作戦など、多くの戦場で活躍したのが、この部隊だ。戦争が集結するおよそ半年前の1944年12月に解散したが、この血は次の代にしっかりと引き継がれ、1952年に結成した通称グリーン・ベレーと呼ばれるアメリカ陸軍特殊部隊が後に活躍した。この部隊の活躍は、『ホース・ソルジャー』『グリーン・ベレー』『地獄の黙示録』『ランボー』と言った世界で人気を博したアクション映画の元にもなっている。イギリス、アメリカ合衆国の他に、フランス、ソビエト連邦、中国が連合国として枢軸国となる伊、日、独と戦った。フランスには、海軍コマンドー、空挺コマンドー。ソビエト連邦には、偵察部隊、パルチザン、スペツナズ、レジスタンスなど、他にも数え切れないほどの特殊部隊が大戦中に結成された(ソビエト親衛隊の場合、何度も部隊名が変わり、幾代にも渡り親衛隊が活躍した。併せて、第15独立砲兵偵察旅団 (ウクライナ陸軍)や第2独立旅団 (ウクライナ国家親衛隊)など、何十組以上の特殊部隊が存在する)。また中国では、中国国民革命軍(国軍)と中国共産党軍(共産党軍)が設立され、中国人民解放軍空軍空降兵が後に集結した。同時期の太平洋戦争に加担した国で言えば、1939年に日独伊三国同盟が締結したイタリア、日本、ドイツ三国の枢軸国の特殊部隊は、どうだろうか?ここでは、日本以外の2国の特殊部隊に触れたいと思う。主に海軍が指揮を取り、水中作戦に特化した部隊を編成した。デチマ・マス(10連隊)が、当時のイタリアで活躍した。第二次世界大戦における枢軸国の一つドイツでの諜報活動と言えば、ブランデンブルク (特殊部隊)、第502SS猟兵大隊、アインザッツグルッペン(移動虐殺部隊)などが(※2)、第二次世界大戦中に活躍した。

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より深く掘り下げてみて、この作品が題材にしている当時活躍した特殊部隊とは、一体どんな集団だったのだろうか?映像作品では、スパイアクション、スパイ活劇、アクション活劇というエンタメ要素として描かれているが、映像からでは当時の諜報活動における緊張感はなかなか伝わらない。戦時中における特殊部隊は、本当に何をしていたのか?それを辿ることは容易な事ではないが、少しでもこの作品を楽しむヒントになれればと願う。「第二次世界大戦の戦中、イギリスの特殊部隊SASは、イギリス陸軍の部隊として1941年7月にデビッド・スターリングによって編成されている。当初、「特殊空挺部隊 “L “分遣隊」と呼ばれるようになった。”L “の呼称と空挺部隊の名称は、多数の部隊が活動している空挺連隊があると枢軸国を欺くためのイギリスの情報操作に関連したもの。北アフリカ戦線で敵陣の背後で活動するコマンドー部隊として構成され、当初は5人の将校と60人の隊員だった。 1941年11月、最初の任務は「クルセーダー作戦」の攻勢を支援するためのパラシュート降下。 ドイツ軍の抵抗と悪天候のため、任務は失敗に終わった。部隊の3分の1にあたる22人が死亡、または捕虜となる。1942年9月、第1SASに改称され、イギリス軍4個中隊、第1海兵歩兵落下傘連隊、ギリシャ1個中隊、そして特殊舟艇部隊(SBS)で作られた。1943年1月、スターリング大佐はチュニジアで捕まった。パディ・メインが、彼に代わり指揮官となる。1943年4月、第1SASは司令部の指揮下で特殊襲撃部隊に改編。SBSはジョージ・ジェリコの指揮下に置かれる。 特殊襲撃部隊は、1943年に北アフリカで小規模襲撃部隊の名称を変更して編成された第2SASとともに、シチリアとイタリアで戦ったSBS隊は、終戦までエーゲ海諸島とドデカネスで戦った。1944年にはSASの旅団が編成。」(※3)。彼らの活動は、今の21世紀における世界規模の戦火でも、大いに発揮されており、この時代に諜報員として活躍したスパイ達の意思は確実に受け継がれている。映画『アンジェントルメン』の主演ヘンリー・カヴィルは、あるインタビューにて本作の実在の人物に対する役作りについて、こう話す。

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カヴィル:「この作品はガイ・リッチー監督の作品なので、伝記映画のような感覚でアプローチしたわけではありません。それに、これらのファイルは2016年頃に機密解除されたばかりでした。ここにいる人々の多くは戦時中か戦後まもなく亡くなりました。たとえその後まもなく亡くなったとしても、彼らの行動はすべて極秘でした。彼らに関する情報はほとんど残っていないのです。そこにガイ・リッチー監督のキャラクターに対する誇張表現のセンスが加わるので、伝記映画的なアプローチはしませんでした。まずは「この人は誰だろう?」「どんな人だったんだろう?」「どんな原動力を持っていたんだろう?」という問いからアプローチしました。そして、ガイのやり方に傾倒しました。ガイのストーリーへのアプローチ方法は、脚本の骨組みとセリフなど全てが用意されていて、シーンの中で何が起こるかというアイデアは与えられますが、実際にそのシーンで何が起こるかは、撮影当日の朝に初めて分かります。時には、新たなモノローグが生まれることもあります。キャラクター作りも、最初から最後までやっていくんです。例えば、ガス・マーチ=フィリップスを少し傲慢な役として演じていました。確かに傲慢ではありましたが、いかにもイギリス人らしい男でした。するとガイが「ヒーローと一緒に部屋に押し入って、マシンガンで全員を撃ち殺すシーン、本当に楽しんでほしい。ちょっとクレイジーになって、舌を出して」と言ったんです。ガイのような信頼できる人物と仕事をしていると、どんなに大きな役でも演じられる。たとえ自分がおかしな役を演じてしまったとしても、彼は決してそれを映画に持ち込まない。なぜなら、彼はキャラクターを知り尽くし、優れたストーリーテリングの才能も持ち合わせ、映画を熟知しているからだ。「思いっきり大胆にやろう」という段階に達すると、思いっきり大胆に演じた。すると彼は「完璧だ。最高だ」と言ってくれた。私たちもそれに同調し、それがキャラクターの一部になった。イギリスの礼儀正しさ、あるいは英国的な礼儀作法、そして少しの狂気。それがこのようなミッションを可能にしたのだ。」(※4)と話す。実在はしているが、そのほとんどの諜報活動が謎のままで、資料も残っていない人物のキャラクターを生み出すのは、到底、容易なことでは無い。だからと言って、勝手に想像して新しい人物像を生み出すのではなく、情報が乏しいながらも、何とかして、実在の人物を今の世に送り出そうとした努力した気骨は素晴らしい。そして、またこのスパイ映画を通して、私達は実際に存在したスパイの生態を知る契機を与えられる事にもなる。そして今、その血は確実に現在に受け継がれている。

最後に、映画『アンジェントルメン』は、第2次世界大戦中のイギリスでチャーチル首相もと非公式に結成された特殊部隊の戦いを活写したスパイアクションだが、この作品の中にある様な事は、現代でも行われている。私達が常日頃、生活するその裏側で多くの諜報員やスパイ達が危険と隣り合わせに世界と戦っている。たとえば、私達日本人の近い立場で言えば、国際的に危うい関係の台中関係における中国のスパイ活動(※5)は、両国に緊張を走らせている。その一方で、ロシアとの対ウ戦争では、イギリスの特殊部隊SASがロシアのトップであるプーチン大統領と常に一触即発の関係性(※6)にある。これは、第二次世界大戦で戦った名も無き部隊達の活動が、現世に継承されている証だろう。私達が日常を過ごしていたら、スパイや諜報員達の裏の諜報活動の真実を知る事はないだろう。作品を通して、世界に存在するインテリジェンスの真実に目を向ける事も大切なのかもしれない。

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映画『アンジェントルメン』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)SAS、イギリス陸軍特殊空挺部隊とは?https://orga-inc.jp/outline/about-sas/(2025年4月20日)

(※2)アインザッツグルッペン(移動虐殺部隊)https://encyclopedia.ushmm.org/content/ja/article/einsatzgruppen(2025年4月21日)

(※3)SAS Special Air Service イギリス 特殊空挺部隊http://tryview.jp/blog/2021/09/01/sas-special-air-service-%E7%89%B9%E6%AE%8A%E7%A9%BA%E6%8C%BA%E9%83%A8%E9%9A%8A%E3%80%80vol-1/(2025年4月21日)

(※4)Henry Cavill & The Ministry of Ungentlemanly Warfare Stars Explain Guy Ritchie’s Spontaneous Stylehttps://screenrant.com/ministry-ungentlemanly-warfare-henry-cavill-hero-fiennes-tiffin-alex-pettyfer-interview/(2025年4月21日)

(※5)台湾総統、中国のスパイ活動活発化に警鐘 対抗措置を提案https://jp.reuters.com/world/taiwan/MKEDG5SK7JIHNKQSNX4CMQHUMQ-2025-03-13/(2025年4月21日)

(※6)すでに十数回の大統領暗殺を阻止…プーチンをイラつかせるイギリス特殊部隊「SAS」の仕事ぶり【2022上半期BEST5】https://president.jp/articles/-/60925?page=1