映画『夏が来て、冬が往く』家族や親を想う優しい心

映画『夏が来て、冬が往く』家族や親を想う優しい心

親が子を育て、暮らしを営む映画『夏が来て、冬が往く』

©MICRO ENTERTAINMENT TIMES FILM CO. LTD.

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もし自身の出生歴において、あなたが過去に養子として違う家に出されていたら?今まで一緒に暮らしていた親が、実は全くの赤の他人で、生みの親ではなく育ての親だったら?実際は、本当の親や本当の兄弟が、別の場所で暮らしていて、生涯で二度と会えないすれ違の関係だったら?あなたは、どうしますか?自身が置かれている環境を素直に受け入れられますか?それとも、泣いて泣いて泣き喚きますか?一緒に暮らしていても、遠くに暮らしていても、もしかしたら、今目の前にいる本当の親の存在は、当たり前に思っている以上に、あなたにとってかけがえのない大切な存在なのかもしれないが、それを気づけている人はほとんどいないのかもしれない。あなたにとって、家族という存在の大切さについて、どう想いを巡らせますか?あなたが思っている以上に、家族や親、兄弟姉妹達の存在はあなた自身の人生を形成する上で非常に大切な存在だろうと、いつか気付けるはずだ。映画『夏が来て、冬が往く』は、中国の海辺の町を舞台に、幼い頃に家の都合で養子に出された女性が生家の家族と初めて過ごす3日間をつづったヒューマンドラマ。季節は巡るが、変わらないものがそこにはある。時間は進むが、変わらないものがそこにはある。

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養子縁組で養子に出される子ども達の数は、国やその年によって、様々ある。たとえば、年間に成立する養子縁組の数はアメリカの場合は、11万件、日本の場合は約8万件(※1)。現在、中国における養子縁組の年間件数に関する数字は確認できないと言われている。韓国の養子縁組事情は、2020年にソウルで起きた「ジョンインちゃん事件」(養子として迎えた1歳の娘を養父母が虐待死させた事件)以後、養子縁組をした家庭への視線が厳しくなり、縁組を躊躇する人が増えたという経緯がある。その結果、2022年には養子縁組数が415人で、過去最低を記録した(※2)。養子縁組や里親制度、行政が運営する子どもを預ける施設に、実際に預けられる子ども達は、家庭内の問題から施設に預けられたり、養子に出される子どもが後を絶たないのだ。施設の存在、養子縁組制度、里親制度は一瞬、親にとっては都合の良いサービスにも捉えられがちだが、そんな事は一切なく、一人の子どもの命や人生を守る上では、非常に大切な社会的支援だ。過去に、養子に出されて大人になった方とは、ほとんどの確率で会う事はないだろうし、その上、当事者は誰かに話そうとしたり、また本人自身が事実に気づいていない事を除けば、自ら進んで自身の過去を暴露したがる人はいないから、実質、社会の中で誰が過去に施設に入っていたのか、里親制度や養子縁組で今いる育ての親と一緒に人生を歩んで来たのか、誰も他人の人生を詮索したがらないのが、今の日本の社会だ。誰も傷つかず、誰も非難を浴びず、社会の揺籃の中でスクスク育つ。縁組のメリットには、相続税の基礎控除が増える。相続税の税負担が軽くなる可能性がある。生命保険金や死亡退職金の非課税額が増える。一方で、デメリットは、相続税額が2割加算されることがある。相続税対策のための養子縁組は否認されることがある。遺産分割協議が煩雑になる可能性がある。相続人間の実利や心理面に影響することによってトラブルになる可能性がある。養子の親族側に財産が渡る可能性があるなど、養子縁組には相続権に関するメリット、デメリットがあり、書面での契約だけでは到底親子の関係は結べない。結べるとしたら、長年連れ添い、同じ屋根の下で暮らし、血縁関係ではない真の家族となった時、親子の見えない糸が紡がれるのだろう。

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時の流れは残酷で、時に人々は擦れ違い、行き違う。家族であっても、それは同じ事だ。中国のことわざや著名な方の言葉には、時の移り変わりを表現した言葉が複数存在する。東晋時代の陶淵明の詩人(365年から427年)が残した時の流れについての詩を紹介する。「盛年不重来,一日难再晨。及时当勉励,岁月不待人(最盛期は二度と来ないし、朝も二度と来ない。時間は誰も待ってはくれないので、皆を励ましなさい)」 という二度と帰らない時間の虚しさと残酷さを詩う。また、近大中国で活躍した化学者の朱子清(1900年~1989年)が残した格言「燕子去了,有再来的时候;杨柳枯了,有再青的时候;桃花谢了,有再開的时候。但是,聪明的,你告诉我,我们的日子为什么一去不复返呢?(ツバメは去ったが、またやってくるだろう。柳はしぼんだが、また緑になるだろう。桃の花はしぼんだが、また咲くだろう。しかし、賢人よ、教えてください、なぜ私たちの日々は過ぎ去り、二度と戻ってこないのですか?)」と、過ぎ行く日々への嘆きを説いた言葉には、胸迫るものがある。また、中国にも時の流れに関することわざがあり、「一寸光阴一寸金,寸金难买寸光阴(1インチの時間は1インチの金に値しますが、1インチの金では 1 インチの時間を買うことはできません)」とあるように、時間はお金になったとしとても、その時間を買う事は一生できない。いかに、お金より時間が大切なのか。この1分1秒に賭ける情熱こそが、永遠であり、未来永劫の宝だ。時は過ぎ行く、それを誰も止める事はできない。なぜ、時間が生まれたのか、これを説明できる人は一人もいないだろう。それでも、過ぎ行く時間や時代の中で変わらないものが一つあるとしたら、私自身は「人への想い」「人を想いやる気持ち」こそが、時代が過ぎ、社会の価値観が変わり、街の風景が変わったとして、半永久的に変わらない未来への贈り物なのだろうと思う。本作には、家族を想う、親兄弟を想う、そんな感情がヒシヒシと伝わる作品だ。

最後に、映画『夏が来て、冬が往く』は、中国の海辺の町を舞台に、幼い頃に家の都合で養子に出された女性が生家の家族と初めて過ごす3日間をつづったヒューマンドラマだが、時の流れと人の流れに翻弄されながら、私達は日々を生きている。邂逅の時の中で、私達家族や親子は必然的に巡り逢い、人生を共にする。家族という目には見えない深い縁が育むものは、人と人との絆だ。どれだけ時代が変わっても、どれだけ時間が流れても、決して私達には忘れてはいけないものがある。それは、「人を想う心」「人を愛する心」そして何より、家族や親を想う優しい心は、大人になっても、待ち続けて欲しいと、そう願いたくなる作品だ。

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映画『夏が来て、冬が往く』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)児童福祉としての養子制度を考える「成年養子大国・日本」と「子ども養子大国・アメリカ」の変遷を追うhttps://www.hit-u.ac.jp/hq-mag/chat_in_the_den/220_20180306/#:~:text=%E5%B9%B4%E9%96%93%E3%81%AB%E6%88%90%E7%AB%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E9%A4%8A%E5%AD%90,%E3%81%AF%E7%B4%848%E4%B8%87%E4%BB%B6%E3%80%82(2025年1月16日)

(※2)「ジョンインちゃん事件」影響、韓国の養子縁組が過去最低https://www.afpbb.com/articles/-/3443035?act=all(2025年1月16日)

(※3)时光飞逝,不容蹉跎:古今中外关于时间的名言警句,教你珍惜每一刻http://www.lubanyouke.com/15466.html(2025年1月16日)