関西でご活躍されている衣装部担当の冨本康成さんへインタビュー
—–初めに、関西の映画業界で衣装担当になられた経緯をお話頂けますか?
冨本さん:少し話がそれるのですが(笑)。
梅田の服飾の専門学校に通っていて、卒業後すぐには就職をせず友達とクラブイベントをしようと話になりました。
「楽しいことをしたいね。」と。そのイベントでDJさんがプレイしてもらうバックに、映像を流そう!という話になり、映像クリエイターの方にお願いしたのですがイベントが終わった後、その方から映画を撮ろうと思っているので、衣装部として参加して欲しいと誘って頂きました。
それが一番最初でしたね。20年くらい前の話なんですが。
その後は結婚などもあり、映像の世界からは離れていました。
—–その期間は、服飾関係のお仕事を別に、されていらっしゃったのでしょうか?
冨本さん:その期間は、ショップ店員として働いてました。スーツ売ってましたね。
—–現在は、そのようなご関係のお仕事は、どうされておられますか?
冨本さん:現在は勤めていた店舗がコロナの影響で閉店になり、他府県の店舗への異動を打診されました。
ただ、ちょうど映画の撮影と被っていて、異動してしまうと撮影に参加できなくなる状況だったんです。
もうこれはフリーランスの衣装部としてやっていけってことなんだなと(笑)。
会社を辞めて映画を取りました(笑)。
それが松本大樹監督の『極道系VTuber達磨』でした。
—–去年ぐらいのお話なんですね。
冨本さん:そうなんです。松本監督の映画『コケシ・セレナーデ』や『みぽりん』は、ショップ店員しながら参加していました。
もちろん仕事の日は行けませんが、その他の日は参加します。
参加できない日は現場の人に無理言って衣装を渡して撮影してもらっていましたね。
—–映画の現場以外で、MVやモデル撮影など、様々な現場でお仕事されていらっしゃるのでしょうか?
冨本さん:はい。映画以外にも、おっしゃっていただいたように、WEBCMやMV、PV、モデル撮影などもやっています。
映画との違いは撮影期間であったり、コンセプトやテーマにより明確に合った衣装を用意する、ということだと思います。
—–テーマが決まっていると、冨本さんもイメージしやすいのでは?
冨本さん:そうですね。一概には言えませんがイメージしやすい場合が多いです。
映画だと、日常の人々が登場しますし、個々のキャラクターを大切にする必要があります。
MVやモデル撮影では、登場人物を大切にするというよりかは全体を見た時のビジュアルなどが重要になる場合が多いので、そこは楽しめる部分ですし、拘る事ができる部分ですね。
—–同じ映像でも、映画とMVとでは、フィールドがまったく違うのですね。MV含め、様々な作品に携わっておられ、どの映画も印象に残っていらっしゃると思います。今まで冨本さんが関わった作品で印象深かった現場は、ございますか?
冨本さん:それで言えば僕の復帰作である、映画『みぽりん』が現場としては印象に残っております。
一番印象に残っているのは、ラストの場面を撮影する時でした。
あの時は、一泊二日で、スタッフもキャストさんも総出の泊まりがけで、六甲山で撮影しようという話で。
実はラストでは、それまで監督や脚本からは、最後のオチが明かされてなかったんです。
合宿前に、監督から「皆さんお集まり下さい」と部屋に召集が掛かりました。
「実は、作品のラストではこうしたいんです。」と、初めて説明を受けました。
—–ラストの「あれ」ですよね?(笑)
冨本さん:そうです。「あれ」です(笑)。
—–あのラストの構想を、監督は事前にお話されていなかったという撮影秘話があったのですね。
冨本さん:はい。脚本上では、神田優花役を演じる津田さんとボイストレーナーのみほ役の垣尾さんが掴み合う場面はありますが、「これ以上はシナリオには書けません。」で〆られていました(笑)。
—–みぽりん役の垣尾さんも、あの状況を直前まで知らなかったんですね。
冨本さん:集められて、監督からお話をお聞きした瞬間、皆さん「シーン」となっていましたよ(笑)。
—–ありがとうございます。衣装部として、製作の現場に携わり、様々なご経験をされておられますが、過去に関わった作品の中で、良かったこと、大変だったこと、思い出に残っている事がございましたら、お話して頂けますか?
冨本さん:まず衣装部として良かったことは、用意した衣装で、監督やキャストさんに喜んでもらえること、もちろんお客さまにも可愛い!格好いい!というお声がSNSや感想で聞こえてくると嬉しいですね。
—–逆に、大変だったことはございますか?
冨本さん:衣装部としては、衣装のケアが大変ですね。
連日撮影が続くような現場だと、撮影が終わって、皆さんがお帰りになった後に、僕らも帰るんですが、帰宅後に衣装の汚れやシワになっている所をスチームで伸ばしたり破損したものは直したり。
睡眠時間もほぼ取れずに、次の日現場に行く時もあります。
—–夜遅く2時、3時まで、衣装部として残る時もありますよね?次の日、朝6時から撮影開始の時もあると思いますが、その時もスチームをかける時間を大切にしていらっしゃるのでしょうか?
冨本さん:基本的には、毎回そうしております。
夜遅い時間ではありますが、汚れた箇所が、洗濯機で回せない時は、手で取り払う時もあります。
乾燥機が使えない素材の衣装は、ドライヤーを使用して、温風で温めるのか、アイロンが使えるのか、乾かし方も衣装によって変わってきます。
—–監督さんや役者さんよりも、寝られてない時もあるんじゃないでしょうか?
冨本さん:そうですね。他の現場の衣装さんも、あまり寝られてない方が多いと思いますよ。
—–また、衣装部として、思い出に残っていることは、ございますか?
冨本さん:まだ上映されていませんが、僕としては初めて着物を取り扱う時代劇の撮影現場に参加しました。その作品に携わって、多くの学びを得ました。
—–時代劇の衣装を用意するのは、本当に大変だと思います。
冨本さん:衣装のために監督たちと一緒に、買い物に行ったこともありますね。あとは、知り合いの方が衣装を持っていれば、お借りする時もあります。
—–製作現場での衣装部さんが、活動する大まかな流れを教えて頂きたいです。例えば、クランクイン前、撮影中、そしてクランクアップ後と、それぞれどのような事をされていらっしゃりますか?
冨本さん:まずは、クランクイン前。キャストさんとのやり取りをさせて頂き、お一人お一人サイズ表を確認します。
その後、監督と脚本を元に、登場人物がどのような服を着るのか、趣味やバックグラウンドなどをお聞きして、僕の中でこのキャラにはこの衣装が合うだろうとキャラクターの資料や写真などを監督と共有していきます。
共有後、ゴーサインが出れば、それを基に衣装を調達して行きます。
衣装の調達は、予算があれば、購入し、難しい場合は無償リースや条件付きリース(金額の発生する、しない等)という種類があります。
撮影時の衣装は購入か、リースのどちらかで、衣装あわせ当日までにご準備致します。
その後、衣装合わせを行います。洋服などに問題がないのか確認して、その時にご本人と衣装の撮影をしておき、その写真を(※1)衣装香盤表に落とし込みます。
ここまでがだいたいクランクイン前にすることです。
—–クランクイン後は、主に現場でどのような事をされておられますか?
冨本さん:最初に行なうのが”着替える場所作り”ですね。
きちんと更衣室がある場合はいいのですが、特に着替える場所がない場合は自分で作ります。
ハンガーラックやブルーシートを駆使して(笑)(ロケの場合なら、現場の近くに部屋をお借りできる場所があるのか、なければ最悪車の中などを撮影開始日までに確認しておきます)。
着替える場所が作れたらその日の撮影の香盤表と衣装香盤をもとに、キャストさん達が着られる衣装を順番に準備して待機します。
例えば10時からの撮影の場合は、9時頃からキャスト様には衣装を着てもらって、ヘアメイクさんの元へ送り出しています。
撮影中に関しては、モニターを確認しながら、衣装の乱れや汚れがないかとか、細かい所までチェックしていきます。
—–クランクアップ後は、もちろん後片付けになるとは思いますが、どのようなお仕事が待っていらっしゃるのでしょうか?
冨本さん:基本的には”保管”と”返却”です。
購入したり、元々自分が持っていた衣装であれば、また汚れや破損がないかチェックして保管します。
リースした衣装があるのであれば綺麗にして返却。
クリーニングに出したり、自宅でケアできる衣装があれば、自身の手でケアしてから、お返ししております。
—–衣装香盤表とは、どんなモノでしょうか?
冨本さん:衣装香盤表はシーンごとに着られる衣装の写真を並べた資料です。
それがあるから繋がりとか間違わずに済むんですね。
—–当然ですが、写真の通りに衣装を用意する為の資料ですよね。
冨本さん:そうですね。ただ、それだけではなく、この香盤表がヘアメイクさんや録音部さんとやり取りするには、とても重要なんです。
特に録音部さんは意外かもしれませんが、その衣装によって、マイク(ピンマイク)を付ける位置が変わってくるんです。
スーツなのか、普段着なのか、このシーンではどんな服装の場面なのか。
前回の三重県での撮影の時も、衣装香盤表が役に立ちました。
用意できずにご迷惑をお掛けしたこともありましたが…汗
—–現場に入られている方は知っておられると思いますが、音声部と衣装部には深い関係があることを初めて知りました。
冨本さん:そうですね。お互い、連携していかないといけない部署なんです。
ヘアメイクさんと衣装部は大体連携して現場でも動いておりますが、録音部さんと衣装部の繋がりは意外という方多いですね。
—–質問の参考として、冨本さんのTwitterのアカウントを拝見させて頂きました。その中で、フリースタイリスト、衣装製作、衣装協力をされていらっしゃりますが、それぞれどのようなお仕事をされておられますか?
冨本さん:フリースタイリストとは、字の如くフリーで活動する(事務所などに属さない)スタイリストです。
映画、映像作品の出演者の方が身に着ける衣装、アクセサリーなどを考えて用意します。
衣装製作は布から衣装を作ったり、既成のお洋服をアレンジしたりすることです。
僕自身服を作ることも可能ですので、その作品に合った衣装がない場合はご要望に応じて作ります。
衣装協力は意味合いが広くなりますが、何かしらの形でその作品の衣装として協力していることです。
そのまんまですね(笑)。
—–ありがとうございます。映画における衣装は、どうしても見落とされがちな一面もあるかなと思いますが、冨本さんがお考えになる衣装部の重要性は、なんでしょうか?
冨本さん:やはり衣装はその映画に出てくる登場人物の個性を決める1つの要素を担っています。
その部分を専門知識でカバーできるのが大きいと思いますね。
あと、衣装を着ることによってキャストさんの気持ちがその役により没頭できるようになればと。
「A子の服を着たから、私はA子だ。」みたいなスイッチになれば。
衣装を着てもらう事で、その役に気持ち良く変身して欲しいんです。
役になり切ってもらう事で、より演技力を高めることができると思います。
もちろん、仕上がった作品の中で彩りやバランスを綺麗な割合で見せることができる事が、衣装部の重要性だと思っております。
—–冨本さんにとって、現場において衣装担当とは、どのような役割を果たしておられますか?
冨本さん:もちろん衣装の管理が衣装部としての役割なんですが、例えば衣装部のいない現場であれば、監督やキャストさんが準備することになります。
その分だけ、”本来するべき仕事以外の仕事”で時間がかかってしまいます。
衣装のケアの面に関しても衣装部が携わることでお直しや汚れ落としなども綺麗にできますし、早いです。
衣装担当がいることによって、キャストさんなら本読みや役作りに集中できますし、監督であれば絵コンテや撮影の段取りなど撮影部や他部署との打ち合わせに時間に使って頂ければ、と思っております。
—–最後に、今後の展望や目標、チャレンジしたいことは、ございますか?
冨本さん:今後、関西で衣装に関するトータル的な事ができる会社、もしくは事務所を立ち上げようと思っております。
会社(事務所)設立から始まって、できれば、日本に留まらず、グローバルに、ハリウッドだけじゃなく、ヨーロッパなど、世界の各方面で衣装として活躍できればと思っております。
まずは日本国内で活躍の場を広げて行けるように頑張ります。
—–本日は、貴重なお話をありがとうございました。
衣装部担当の冨本康成さんは、8月9日(火)奈良の #ビッグマウンテンカフェアンドファーム様にて、『#ChamiFes.』というイベントにて、「パパカレシ変身コーデショー」というイベントに衣装関係のコーディネーターで参加されます!詳細は画像を確認してください。ご応募は7月31日まで。皆さまどうぞご参加ください!
(※1)僕の映画の作り方・覚え書き 小道具、衣裳香盤、衣裳合わせ https://note.com/okuda_an/n/n727d9cecd6d4(2022年7月18日)