映画『近畿地方のある場所について』近畿地方以外の地方のある場所について

映画『近畿地方のある場所について』近畿地方以外の地方のある場所について

あなたも一度は目にした事がある。映画『近畿地方のある場所について』

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

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怪奇現象、都市伝説、未解決事件は、日本の古今東西からいくつもあった。たとえば、都市伝説に関して言えば、地方の一つ一つに噂話が広がって、今も言い伝えられている。北から順に辿って行けば、北海道では小樽で冬の夜に出現するとされる「アナタニサマ」や、札幌の団地で深夜に鳴り響く赤電話の話、函館を舞台とした「砂浜に消えた村」が今でも語り継がれ、新たに噂が生まれている。東北地方では、青森県に実在するとされる誰もが知っている有名な「杉沢村」や、宮城県七ヶ宿町に伝わる「振袖地蔵」(※2)。関東地方の都市伝説(※3)には、東京タワーの呪いや新宿駅地下の海、都庁がロボットに変身する話、渋谷スクランブル交差点の幽霊など、様々な都市伝説が存在する。他にも、将門塚、増上寺の亡霊、巣鴨プリズン、万世橋の幽霊屋敷など、歴史的背景を持つ怪談や都市伝説が数多く伝えられている。中部地方の都市伝説と言えば、愛知県の「犬山城に伝わる幽霊話」や岐阜県の「白川郷の白山信仰と絡んだ怪異談」、富山県の「黒部ダムのダムダム、ダムの底に沈んだ人柱伝説」、そして静岡県の「天狗の鼻伝説」などがある。この多くの伝説は、その土地の歴史や自然、信仰と結びついて語り継がれている。中国地方には、「あまんじゃく伝説」「河童猿猴伝説」「妖怪伝説」などの都市伝説や伝説が存在する。四国地方の都市伝説には、主に水辺に現れるとされる「七人ミサキ」が有名。これは、水難や戦などで非業の死を遂げた七人の怨霊が、今も水辺で人を襲うという伝承がある。九州地方には有名な「松浦佐用姫伝説」や「犬鳴村伝説」(※4)といった都市伝説がある。「松浦佐用姫伝説」は、佐賀県の鏡山にまつわる悲恋の物語で、佐與姫神社に伝わっている。一方、福岡県を舞台にした「犬鳴村伝説」は、外界から隔絶された村が存在するという話で、インターネット上で語られ続けている。そして最後に、沖縄の都市伝説には、首里城に現れる「幽霊侍」のほか、夜に灯りが飛び交う「伊良部大橋の不思議な灯」、海中から姿を現す「幻の海中ロード」、そしてガジュマルの精霊「キジムナー」などがある。こうして見ると、全国至る所に都市伝説があり、いつでも誰もがその恐怖の扉を開けれる位置にいる。映画『近畿地方のある場所について』は、オカルト雑誌の編集者が行方不明になった。彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪事件や中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象の数々だった。無理やり禁断の扉をこじ開けると、その者は得体の知れない何者に祟られる。触らぬ神に祟りなしとは言うが、触れてはいけない禁制の場所や言い伝えに首を突っ込んではいけない。いつか魂を奪われ、呪い殺される。

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日本における子どもの失踪に関して 警察庁の発表によると、日本では2023年に9歳以下の子どもが1,115人、10歳以上の子どもが17,000人以上行方不明者として届け出られている。現在、行方不明者数の増加傾向にあり、この中には事件に巻き込またケース、自ら家出をしたケース(※5)も含まれ、どのように失踪したのか不明が多い。日本では、年間1000人以上の子どもが行方不明(※6)となっており、いつどの子が姿を消すのかは紙一重だ。過去の行方不明事件を頼りに、どのように子どもが失踪するのか辿りたい。過去に起きた日本の子供の失踪事件には、1948年に東京で発生し、メディアで大きく取り上げられたトンちゃん事件、1984年の城丸君事件や1989年の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件、1992年の飯塚事件、2019年の山梨女児不明事件(道志村のキャンプ場で行方不明になった小倉美咲さんの事件)(※7)など、未解決のまま時効を迎えたものや事件の背景に多くの情報が残されているものがあった。これら多くの事件は、当時のメディアで大きく取り上げられ、未解決事件として今日でも多くの人々の関心を集めている。平成15年5月20日(火曜日)午後3時頃、泉南郡熊取町で発生した小学生女児誘拐失踪事件(※8)は、20年以上が経過した今でも事件は未解決のままだ。吉川友梨(よしかわゆり)さんは今、どこで何をしているのだろうか?彼女の安否が、気遣われる。子どもが消える要因をアンケートの結果(※)で見ると、「ネグレクトを含む虐待」が最も多く512人。全体の6割強にあたる。次いで「貧困」や「借金からの逃避」といった経済的理由が249人、「通学への無理解」が224人、「保護者の障害や精神疾患」が220人と続いた。さらに、無戸籍によるという回答も25人。事件事故だけでなく、子ども達の養育環境や家庭環境が一つの減員とも言えるが、その内情は非常に過酷だ。たとえば、「無戸籍。発達の遅れ、学習の遅れ」保護されるまで一度も学校に通っていなかった中学生。母子家庭で水道も止められるような状態。小学生の弟はオムツをしていた。「家から一歩も出たことがない。髪は伸び放題。言葉が話せない。食事は犬のように押し込んで食べる。飢餓状態の子どものように腹が膨れている」その後も体の発達と学力に課題を抱えている。「中学生で保護されたが自転車にも乗れなかった。幼児期よりほとんど教育を受けていない。大人への言葉使い、学校での授業の受け方がわからず大声を出していた」母親の意向で小中学校に通わせてもらえず。布団で寝たこともない様子だったという。など、劣悪な環境下で養育されていた背景を知れる。子どもは忽然と姿を消すのではなく、もしかしたら、人生設計の中で消える(消される)運命の子だったのかもしれない。それが、過去から現在、日本全国で発生している事実に恐れおののき、膝から力が抜けるような感じに愕然となる。

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この作品が題材にしている近畿地方のある中学生達が林間学校で体験した林の向こうの「誰か」にまつわる恐怖のお話。林の奥から「おーい!」「おーい!」という人間の声に反応して、冷やかし半分に男子中学生が「おーい!」と返事する。その怪しい声が、一際近付いて来ると、近くに呼びかける声は聞こえるのに、姿は見えない。「おーい!こっちにおいで。おいしいかきがあるぞ!」と誘って来る得体の知れない声。当事者の一人は、「あれは集団ヒステリーではなく、実際に起こった事」と話が、世間は中学生による集団ヒステリーが起こっただけと片付けた。集団ヒステリーであっても、そうでなくても、実際には正体不明の「何か」が林の中に存在したのだろう。日本では、他にも集団ヒステリーは起きている。最も有名な出来事で言えば、1970年に大阪で起きた石油危機(オイルショック)における「トイレットペーパー騒動」(※12)だろう。この珍事が、直接的に公式な現象として結びつかないと言われているが、ある種の集団ヒステリーの一例として挙げられる事がある。石油危機による物価高騰への不安から「紙の節約」が呼びかけられた際、デマ情報によって「紙が無くなる」という不確かな情報が広まった結果、実際に多くの国民がトイレットペーパーを買い占める現象に発展した。不安心理が特定の行動や購買行動を過熱させる「集団的パニック」または「買い占め」のような状況は「集団ヒステリー」と類似した心理的側面を産む。購買行動を過熱させる「集団的パニック」または「買い占め」で言えば、昨年から現在まで続いている「令和の米騒動」(※12)は、まさに近代における集団ヒステリーの一つと言えるかもしれない。また2013年、東京都港区の秩父宮ラグビー場で開催されたアイドルグループ「NEWS」の屋外コンサートが開催された際、突然の雷雨に見舞われ、主催者側がイベントを翌日に順延する決断をした。3万5000人の来場者の一部が、宿泊先を決めておらず(日帰りでの参加予定)、多くの宿泊先難民者が産む結果となり、それが瞬く間に集団ヒステリーとなり、SNS上では多くの賛否両論が巻き起こる結果となった。これを「パーナさん騒動」(※13)と呼ばれ(パーナさんとは、アイドルグループ「NEWS」のファンの愛称)、これもまたある種の集団ヒステリーの一つと言えるかもしれない。また、北海道では昭和52年、某高校のマラソン大会が行われた時、多くの生徒が突然、過呼吸を起こし、会場は騒然となった出来事(※14)がある。これもまた、学生による集団ヒステリーとして数えられる。過呼吸での集団ヒステリーでもう一つ挙げられるのが、兵庫県上郡(かみごおり)町の県立上郡高校の4階廊下で起きた集団ヒステリー(※15)だ。また昨年2024年に東京の某高校で起きた激辛のポテトチップスを食べた高校生18人(※16)が、身体に異常をきたし緊急搬送された事件が、全国トップニュースで報道されたのは記憶に新しいが、この騒動もまた集団ヒステリー(パニック)として考えられている。これらの騒動や事件を踏まえて、集団ヒステリーは決められた年代や場所でおきるのではなく、ある日突然、どこの地域でも必ず起きる騒動だ。あなたの住んでいる地域で、一度は集団ヒステリーは起きているだろう。集団ヒステリーが起きるメカニズム(※17)には、集団内で何らかのヒステリー症状が連鎖的に伝播する現象。その時に起きる心理状態には、発端者の症状が周囲の被暗示性の高い人々に無意識的に同一視され、感情や身体症状が伝播する事によって起こると考えられている。ストレスや人間関係の葛藤が、背景にあることが多い。集団ヒステリーを改善するには、3つの要素が組み合わさった時に効力を発揮する。集団に対する直接的な改善策には、①安全の確保。②一時的に距離を取る。③傾聴と共感の3つがあるが、これを上手にコントロールできないと、また同じ事が全国のどこに居ても必ず繰り返される。映画『近畿地方のある場所について』を制作した白石晃士監督は、あるインタビューにて人間が持つ恐怖心について、こう話している。

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白石監督:「根本的に、人が感じる“恐怖”は、いつの時代も変わらないと思っています。メディアが進化しているので、見え方の怖さに違いはあるかもしれないけれど、怪談が流行ってるところを見ると、言葉で伝える、昔からある恐怖も、今でも人は「怖い」と感じているんですよね。これはイマジネーションの産物なので、人間ならではの恐怖です。だから僕は、映画はあまり時代に寄せなくていいと思っています。怖い話に限らず、感動する話、笑える話、人間のドラマはイマジネーションがあるから、よりおもしろくなる。なかでも怖い話は実体がわからない分、その部分が強いと思います。」(※18)と話す。人が抱く恐怖とは、イマジネーションから産まれる。たとえば、扉の向こうの黒い影が人影に見えて驚いた。お風呂に入って目を瞑っている間に後ろに誰かが立っていたら?隣の部屋は無人のはずなのに、誰かの話し声が聞こえてきたら?と、これはすべて私達がありもしない想像をして、恐怖心を自ら煽る結果だ。これは、集団ヒステリーも同じと言える。見えもしない何かを見たその場の全員が、見えた聞こえたと信じ込み、集団的パニックを引き起こす。人の想像の先にある不確かな存在にこそ、人は恐怖の対象として対峙する。勝手な人の妄想が、恐怖心を生み出し、それが人から人から伝染する。恐怖とは、そこに元からあったものではなく、私達が想像した範疇の中で生み出された厄介な存在だ。

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最後に、映画『近畿地方のある場所について』は、オカルト雑誌の編集者が行方不明になった。彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪事件や中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象の数々に挑む物語だが、作品の主役は怪奇現象や都市伝説などではなく、私達が日頃から抱く恐怖心そのものが作品の核となる。その恐怖とどう立ち向かい、どう対処するのか。恐怖という目に見えない存在にこそ、恐怖心を駆り立てられる。「恐れ」に押し潰されそうになっても、それの存在をしっかり理解する事で、あなたが抱く恐怖に打ち克つ事ができる。幼女失踪事件や中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットは、近畿地方に限らず、年代問わず全国津々浦々に存在する。原作のキャッチコピー「見つけてくださってありがとうございます。」と受動態として物事を捉えるのではなく、あなたの居住する地域にも様々な都市伝説や心霊夜話、怪奇事件などが存在しているからこそ、その真相にたどり着く為に一度、自らの足で見つけに行き、自らの目で見つめに行けば、恐怖を超えた真実にたどり着ける。その禁断の扉の先に待つモノは、恐怖の対象ではなく、あなた自身が心や想像の中に抱く恐怖心そのものだ。恐怖の物語は近畿地方に限られた話ではなく、あなた達の隣に存在する恐怖と共存共生する事が大切だろう。近畿地方以外の地方のある場所について。

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映画『近畿地方のある場所について』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)真冬の夜に本を差し出してくる小樽の妖精アナタニサマ、読み出すと凍死してしまう…「目撃写真」がカレンダーにhttps://www.yomiuri.co.jp/national/20241007-OYT1T50192/#google_vignette(2025年9月5日)

(※2)日本に「地図にない村」は存在するのかhttps://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=3359#:~:text=%E6%9D%91%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%82%AA%E9%9C%8A%E3%81%8C%E3%81%95%E3%81%BE%E3%82%88%E3%81%86,%E3%81%AE%E9%9D%92%E5%B9%B4%E3%81%8C%E7%AA%81%E7%84%B6%E7%99%BA%E7%8B%82%E3%80%82(2025年9月5日)

(※3)東京都心の街の魅力に潜む都市伝説①https://www.juken-net.com/main/feature/urban-legend/(2025年9月5日)

(※4)「筑豊」という「場所」から考える、都市伝説「犬鳴村」のイメージ生成についてhttps://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1932037/p175.pdf(2025年9月6日)

(※5)【要注意】「初詣で子どもが消える…」子どもを誘拐されないために、親が注意する2つのことhttps://diamond.jp/articles/-/356126#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E8%A1%8C%E6%96%B9%E4%B8%8D%E6%98%8E%E3%81%AB,%E3%81%8A%E5%AD%90%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%82%E5%A4%9A%E3%81%8F%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年9月6日)

(※6)年間1000人以上の子どもが行方不明…「怖いと思ったら防犯ブザー」という教え方だけでは危険 犯罪学の第一人者が解説する「危ない場所」https://www.news-postseven.com/archives/20240829_1986735.html?DETAIL(2025年9月6日)

(※7)証言 当事者たちの声美咲へ ママはさがし続けるからねhttps://www3.nhk.or.jp/news/special/jiken_kisha/shougen/shougen8/#:~:text=%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99,%E6%A4%BF%E8%8D%98%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E5%A0%B4%E3%80%8D%E3%80%82(2025年9月6日)

(※8)泉南郡熊取町における小学生女児に対する未成年者略取誘拐事件https://www.police.pref.osaka.lg.jp/jiken/jyoho/2/3564.html82(2025年9月6日)

(※9)「消えた子ども」1000人超――大規模アンケートから見えてきた衝撃の事実 『ルポ 消えた子どもたち』よりhttps://www.huffingtonpost.jp/synodos/missing-children_b_8851688.html(2025年9月6日)

(※10)某月刊誌 2006年4月号掲載「林間学校集団ヒステリー事件の真相」https://kakuyomu.jp/works/16817330652495155185/episodes/16817330652620327747(2025年9月6日)

(※11)ヒステリーとは?一般で使う意味と正式な診断名、原因・症状を解説https://mencli.ashitano.clinic/2594(2025年9月6日)

(※12)「お米が手に入らない」に実感がわかない納得の理由:「令和の米騒動」は本当に起きているのか?https://www.esquire.com/jp/news/politics-and-economics/a62181080/reasons-why-rice-shortages-dont-really-make-sense/(2025年9月6日)

(※13)ムダに恐れられ差別される「魔都・東京」。集団ヒステリーを生んだ「パーナさん騒動」からコロナ差別まで【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(30)https://finders.me/kqFQpDMxNTQ/2(2025年9月6日)

(※14)某高校女子生徒に発生した集団ヒステリーについてhttps://imis.igaku-shoin.co.jp/contents/journal/04881281/21/10/1405203000/(2025年9月6日)

(※15)女子生徒18人搬送は集団パニック? 「霊感が強かった」との報道もhttps://www.j-cast.com/2013/06/20177741.html?p=all(2025年9月6日)

(※16)激辛チップスで14人救急搬送 女子高校生に体調不良続出のナゼ…内科医は「集団ヒステリー」を指摘https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/357701(2025年9月6日)

(※17)ヒステリー(解離性障害)https://kateinoigaku.jp/disease/200(2025年9月7日)

(※18)WEB版 エンタメ情報|映画『近畿地方のある場所について』
映画監督 白石晃士さんhttps://kobecco.hpg.co.jp/102108/(2025年9月7日)