見えない悪意と隣り合わせ映画『Cloud クラウド』
曇天が、密かに笑う。太陽を下隠しに、陽光の下、密かに笑う曇り空。曇った不穏の空気に包まれて、今日も裏社会では転売ヤーが暗躍する。1万人の良ユーザーを下敷きにして、たった一人の転売屋が自身の成功報酬に微笑みかける。曇り空に隠れて、世間では多くの転売ヤーだけが得をする。今の日本は、正直者が馬鹿を見る不公平な社会。どれだけ発売日を楽しみにしていても、その商品だけでなく、楽しみもワクワク感もすべて、横取りする転売屋の横暴さを法の名の下に取り締まる事ができない。一人一人の倫理観の問題であり、法による強制執行ができない現状が長年続いている。映画『Cloud クラウド』は現在、日本社会で問題になっている転売ヤーの立ち振る舞いをテーマに、憎悪の連鎖から生まれた集団狂気に狙われる男の恐怖を描いたサスペンススリラー。男が行う転売行為の転売先に待ち受けていたのは、裕福な生活ではなく、狂気に支配された恐怖の人間狩り。この転売問題はいつ、終止符が打たれるのであろうか?末端の末端まで根絶させる為には、今問題を解決しなければ、いつまで経っても、解決しないままだ。現実社会でも、法の名の元によって、転売屋達が人間狩りに遭い、一網打尽にされる事を心から願うばかりだ。
現在では、転売ヤー(もしくは転売屋)という言葉が一般的に周知されているが、一昔前はダフ屋ややみ屋、せどり、仲介屋なんて呼ばれていた。前者のダフ屋の語源は、チケットを意味する「札(ふだ)」を逆さにすると「ダフ」で、「札を売る人」だから「ダフ屋」という隠語で呼ばれるようになったという説が有力(※1)だと言われている。2019年にチケット不正転売禁止法が施行されてから、ダフ屋行為は違法となり、コンサート会場前で頻繁に見掛けていた年配男性によるダフ屋行為は見かけなくなった。それだけでなく、ネットでの若いファン同士の間で行われていたチケット転売行為もまた、捜査対象として扱われる。ダフ屋行為の歴史は、物資が不足していた終戦直後、配給券を買い占めて転売した輩が誕生したのが、始まり(※2)とされている。 せどり(背取り、競取り)は、副業の種類として一時期、人気を得た職種だ。起源は定かではないと言われているが、18世紀には一つの商いの方法(※3)として既にやり取りされていたという。こうした競取りやダフ屋の行為の延長線上にあるのが、転売ヤーという存在だろう。問題になっているのは転売行為そのものだけでなく、ある在庫すべてを買い占めするその悪質さが問題視されている。
その転売ヤーが近年、現在における日本社会で暗躍している。いつから転売ヤーが問題視され始めたのかは定かではないが、今の転売屋がロックオンしている商材は、トレーディングカードやゲーム機本体、ゲームソフト、おもちゃ(※4)など、多種多様だ。転売できるものなら、何でも転売する。それが、現在の転売ヤーの鉄則だ。2020年以降に世界的に起こったコロナウィルスによるパンデミック下でさえ、大量のマスクやアルコールがすべて買い占められ、路上で高額転売(※5)されていた。近年では、このマスクの大量転売行為に対して、法律が有効活用されている。転売ヤーが非常に悪質なのは、たとえば、朝早くから販売される商品を買う多くのユーザーの列に並ばせて、代理に購入してもらう為に老夫婦に並んで購入させても、彼らに報酬を支払わない輩も存在するからタチが悪い。また、来月12月販売のトレーディングカードのデッキが、フリマアプリサイト「メルカリ」(※6)では既に空在庫のまま店頭に並んでいる。メーカー側にも、ユーザー側にも害悪でしかない悪質転売ヤーは、早くこの社会から抹殺されるべきである。もっと早く、法で取り締まるべきでありが、その法律が施行されていない今現在、ユーザー一人一人に倫理観を呼び掛けるしか方法がない状態は、転売ヤーに対して甘すぎる上、転売ヤーも舐めてかかっているのが目に見えて分かる。物品を簡単に転売できないように、ガチガチに取り締まるべきだ。本当にその商品を買って、純粋に遊びたいと思っているユーザーへの配慮が足りなすぎると、もっと声を上げるべきだろう。映画『Cloud クラウド』を制作した黒沢清監督は、あるインタビューにて本作における相手の顔が見えない中で、インターネットで悪意や憎悪が広がる閉塞した現代社会について聞かれ、こう話している。
黒沢監督:「インターネットが全ての原因という物語にはせず、インターネットは現代社会のありふれたものとして使わせていただきました。きっかけはインターネットですが、一番の問題は普通に生きてきた人たちが、気がついたら「殺す」「殺される」みたいな状況になるギリギリのところにいた、ということなんです。いろんなところでいろんな人が、実は崖っぷちギリギリまでいってしまっている、というのが今の社会なのかな、と思いますね。それがテーマではなかったのですが、結果的にこの映画は現代社会を描いたものにもなっていると思います。」(※7)と、話す。上級国民への国の対応、多発する高齢者による交通事故、日常に潜む殺人事件。殺すか、殺されるか。明日、そのどちらにもなってしまいそうな世の中。憎悪は、憎悪しか産まない。悪意は、悪意しか呼ばない。今は、普通の人間と呼ばれる人々が、殺人という深き罪を犯す。この閉塞した日本社会で生きる私達ができることは、自分自身の理性を保つ事だろう。
最後に、映画『Cloud クラウド』は現在、日本社会で問題になっている転売ヤーの立ち振る舞いをテーマに、憎悪の連鎖から生まれた集団狂気に狙われる男の恐怖を描いたサスペンススリラー。映画では、ネット内の憎悪が膨大に膨らみ、その結果、我が身を追われて、集団人間狩りが行われる様を描いているが、現実社会には、多くの転売ヤーが存在する。近年は、トレーディングカードやゲームの転売に留まらず、街中ではチェキのフィルムを店頭で購入後、その場で路上販売する不届き者の存在(※8)もあり、この無法地帯化した転売ヤー業界を一網打尽にするような法律が施行される事を祈るばかりだ。この転売行為は、犯罪の温床にもなり、また裏社会へと活動資金が流れているであろう背景も考慮すると、この問題は根深く、由々しき問題だ。厳しく法律で取り締まり、人間狩りならぬ、転売ヤー狩りを盛大に行って欲しい。そして、今の社会を悩ませる転売屋の末路が、一斉摘発にあって欲しいと願わざるを得ない。
映画『Cloud クラウド』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)その行為は禁止です!チケット不正転売禁止法https://www.gov-online.go.jp/article/202406/radio-1993.html#:~:text=%E3%81%84%E3%82%8D%E3%82%93%E3%81%AA%E8%AA%AC%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%BF%E3%81%9F%E3%81%84,%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%82%82%E3%81%AE%E3%80%82(2024年11月19日)
(※2)ダフ屋は人気の証明だがhttps://www.sankei.com/article/20151104-YQ5R5DODGNMJFLFSKZL2JRRYPU/#:~:text=%E3%83%80%E3%83%95%E5%B1%8B%E3%81%AE%E8%AA%9E%E6%BA%90%E3%81%AF,%E3%81%A7%E7%A6%81%E6%AD%A2%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82(2024年11月19日)
(※3)江戸から伝わる古書用語 1 セドリhttps://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=3816#:~:text=%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%BB%E3%83%89%E3%83%AA%E3%81%8C%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%8B%E3%82%89%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%81%A3,%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E5%95%86%E6%85%A3%E7%BF%92%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82(2024年11月19日)
(※4)「転売ヤー」ネットで高額販売おもちゃまで 規制や対策 その言い分はhttps://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20221222d.html(2024年11月19日)
(※5)マスクの転売が法律で禁止に。知人に売却した場合は罰則の対象になる?https://criminal.darwin-law.jp/column/1234/(2024年11月19日)
(※6)返品めぐり「メルカリ」で利用者トラブル 何が…?https://news.ntv.co.jp/category/society/3ce1f21074ad462cb745391ff67f0a43(2024年11月19日)
(※7)菅田将暉 × 黒沢清 映画「Cloud クラウド」が描く「普通の人がギリギリに追い込まれる現代社会」https://www.wwdjapan.com/articles/1925568(2024年11月19日)
(※8)人気のチェキのフィルム買い占めか?路上販売者を直撃「お前関係ないだろ!」携帯奪い暴れる…外国人観光客に人気も転売横行かhttps://www.fnn.jp/articles/-/782700#google_vignette(2024年11月19日)