ドキュメンタリー映画『東京組曲2020』
あの日、私たちは突然世界から遮断された――全世界を揺るがしたパンデミック<コロナ>。
2020年1月、日本で最初の感染者、2 月には死者が発表された。
不穏な空気が流れ始めた2020年初め。
最初の段階では、まだ実感できなかった人も多数いる中、4月7日に新型コロナウイルス対策の特別措置法(特措法)に基づく「緊急事態宣言」が初めて発令され、私たちの生活は一変した。
都道府県知事から飲食店やスポーツジム、映画館やライブハウスなど幅広い業種に休業要請があり、全国的かつ大規模なイベントは中止や延期などの対応が主催者に求められた。
他にも、舞台挨拶のイベント、演劇公演、音楽コンサートなどもあり、エンタメ業界にとっても未だかつてない事態となり、商業的にも大打撃を受けた。
ドキュメンタリー映画『東京組曲 2020』は、映画監督・三島有紀子が2020年の4月22日に実際に体験したことを元に、20名の役者たちが各自撮影、その映像全体を三島が監修して一緒に作ったドキュメンタリー。
NHK在籍当時はドキュメンタリー番組を手掛けていた彼女は、現在、劇映画監督として活躍し続ける中、同社退社後、本作が初のドキュメンタリー映画となる。
最初の緊急事態宣言後、街から人が消えたあの時、皆さんは、どうしていたのか、何を感じていたのか…。
4月22日は、ちょうど三島監督の誕生日。
明け方、どこからか人の泣き声が聞こえてきたその時、この映画の企画を思いつく。
「このコロナ禍で何を感じているのかが忘れ去られる前に、映像に残し、記録として確認しよう」と。
本作は、3 つのポイントをもとに撮影された。
一つめは、役者たちの暮らしぶりや感じていることを三島監督が引き出す形で共に作ること。
二つめは、役者たちが自分もしくは同居人が撮影すること。(緊急事態宣言下、不要不急以外の外出自粛を余儀なくされる中、日常を共にする同居人が撮影することは可とされた。情景カットなどは三島監督も撮影に参加。)
三つめは、「明け方(朝 4 時)に女の泣き声がどこからか聞こえてくる」というシチュエーションをすべての出演者共通の出来事として描くこと。この女の泣き声は事前に録音。
8分にも及ぶその声を実際にイヤホンで聞いてもらい、その時の感情の動きやリアクションが記録された。
日々の日記をつけようと決めた男性、舞台が延期となり自宅で過ごすなかで家事に追われる女性、楽しみにしていた出演作品の映画の舞台挨拶が中止になった女性、自宅で一人黙々と仕事をする女性、など 20 人の役者たちのコロナ禍第一波で過ごした自分たちの日常がつぶさに切り取られた。
また本作の制作スタッフとして、ラストカットの撮影に今井孝博、音楽は田中拓人等が参加。作品のキーとなる女の泣き声は、女優の松本まりかが担当した。
三島有紀子監督からコメントが届いた
2020 年 4 月の日本では、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため緊急事態宣言が出され、ロックダウンの状態となりました。気にも留めていなかった当たり前のことが、断層ごとずれていくような感覚に陥りました。ちょうど 51 歳の誕生日、居場所を求めてベランダに座り、ひと夜を明かしていると、明け方、どこからか、人間の泣き声=生の声が聴こえてきたのです。その時、このコロナ禍で何を感じているのかが忘れ去られる前に、映像に残し記録として確認しようと考えました。それで、リモートで声をかけた役者のみなさんに、カメラをまわしてもらいました。集まってきた映像素材から垣間見えたのは、人間の弱さと人間が希求してやまないものは何かということでした。それは、私にとって「人間の再確認」という作業となったのです。それらをクラウドファンドに参加してくださったみなさまやたくさんのみなさまの応援のおかげで、映画というひとつの作品にすることができました。あれから三年、今、わたしたちは人間らしく生きられていますか?この映画を観た帰り道、ふと考えてもらえたら幸いです。ドキュメンタリー映画『東京組曲2020』は、5月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次上映決定。