映画『花嫁はどこへ?』未来に託すバトンや襷

映画『花嫁はどこへ?』未来に託すバトンや襷

すべては、あり得ない“かん違い”から始まった映画『花嫁はどこへ?』

©Aamir Khan Films LLP 2024

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結婚式。それは、男女にとって人生を共にする上で非常に大切な最初の儀式だ。なぜ、人は結婚式を挙げるのか?結婚式を挙げる意味やその重要性について、少しばかり考えてみたい。結婚式は、新郎新婦が愛を誓い合う厳かな場であり、式の後に行われる披露宴はゲスト(友人、家族)へのお披露目の場として日本では認識されている。ただ最近、日本では式そのものを挙げない選択肢もまた、流行っている。いわゆる、「ナシ婚」だ。式を挙げない最もな理由は、費用面の問題だろう。それに加え、離婚率も年々増えている中、離婚する可能性があるのに、なせ「式を挙げなきゃいけないのか?」と、ここに行き着くのではないだろうか?では、世界の結婚式事情はどうだろうか?海外の結婚式(※3)は、大文化や価値観そのもの大切にする風習がまだ残っており、たとえば、タイでは僧侶によって執り行われる伝統的な儀式「聖糸」「聖水」の儀式があり、スリランカでは、糸で結ばれたふたりの小指に聖水をかける「運命の糸」、アルゼンチンでは、夜通しダンス三昧。外国には、それぞれの国に合った、それぞれの結婚式が存在し、インドでは、手足に「ヘナタトゥー」を入れるのが最も一般的ではあるが、このタトゥーが深く染まれば、「新郎に愛される」「新しい家で大切にされる」という言い伝えがある。映画『花嫁はどこへ?』は、そのインドを舞台に、取り違えられた2人の花嫁の思いがけない人生の行方を描いたヒューマンドラマだ。私達人類は、どこから来て、どこへ向かうのか?

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古代インドの結婚(※3)は、カップルが幼いうちに行われました。実際、少年の両親は少年が十代になる前に同盟を探し、少女の家族にその提案を持ちかけたと言われている。インドには、宗教や地域によって様々な解釈の結婚式があり、ヒンドゥー教の結婚の種類には、インドの風習で最も有名なカースト制度のような地位で決められた結婚の様相が存在する。たとえば、ブラフマー結婚、神聖な結婚、幸せな結婚、プラジャパティヤの結婚、ガンダルヴァの結婚、修羅の結婚、モンスターの結婚、吸血鬼の結婚の8種類ある。上から順に上下層の順位が、下がって行く。ブラフマー結婚は、両者の同意を得、同じ階級の適切な花婿と少女の結婚を決める事を「ブラフマ・ヴィバー」と呼ぶ。一般に、この結婚の後、少女は宝石で身を飾った後に送り出される。今日の「お見合い結婚」は「ブラフマ・ヴィバー」の元の形態。神聖な結婚には、何らかの奉仕(特に宗教的儀式)の報酬として自分の娘を寄付する結婚式。幸せな結婚には、少女の家族に少女の代価(通常は牛の寄付)を与え、少女と結婚する。これを「アルシュ・ヴィヴァ」と呼ぶ。プラジャパティヤの結婚には、女の子を彼女の同意なしにエリートクラスの新郎と結婚させる事。「プラジャパティヤ・ヴィバー」と呼ぶ。ガンダルヴァの結婚は、家族の同意なしに何の儀式も行わずに新郎新婦が結婚する事を「ガンダルヴァ結婚」と呼んでいる。修羅の結婚は、女の子を買って経済的に結婚する「アスル・ヴィバー」と呼ぶ。モンスターの結婚は、少女を誘拐し、本人の同意なしに強制的に結婚させる儀式「悪魔婚」と呼ぶ。そして最後に、吸血鬼の結婚は、少女の酩酊状態(深い眠り、精神的衰弱など)に乗じて肉体関係を持ち、結婚することを「パイシャハ婚」と呼ぶ。少女や女性への扱いは、下層に行けば行くほど、乱雑なものとなり、女性に対する権利などないと言わざるを得ない。それが、今日におけるインドの社会問題の一つである「集団レイプ」(※4)へも帰依しているのだろう。

©Aamir Khan Films LLP 2024

インドにおける女性の立場や地位の問題は、結婚の歴史の中でも蔑ろにされている。たとえば、この興味深い記述によれば、「インドの初期の時代における結婚観は、女性は他人の所有物とみなされ、未婚の女性を家に置くことはできないと信じられていました。この考えは今でも一部のインド人に信じられています。娘は一時的なものであり、常に夫のものであり、両親の主な義務は娘の結婚を手配することであったと考えられていました。」とあるように、インドの結婚観にはいかに、女性軽視の歴史が垣間見る事ができると言える。インドにおける女性への凄惨な扱いは周知の事実であるが、結婚観における女性の扱いもまた、上記のように身分の層が下層になるにつれ、悲惨なものとなる。インド人は、平等公平という言葉を知らないのだろうか?インド人は、幼少期から道徳や倫理という学習をして来ないのだろうか?インドにおける女性への結婚観にはまず、結婚をすると仕事を辞めて家庭に入ることが求められ、配偶者や配偶者家族の世話をするべきだという風潮が強くある。幼くして結婚すると学校を辞めなければならないことから教育格差が生まれ、結婚後は家庭に入ることで労働機会を奪われるため、賃金格差が生まれる(※5)。映画『花嫁はどこへ?』を制作したキラン・ラオ監督は、あるインタビューにて本作と自身の境遇の類似性について、こう話す。

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「私は意図せずにラアパター(迷子、落とし物。原題は、「Laapataa Ladies」)でした。物語の世界にいましたが、裏方でした。正しいものを作り上げるまで待っているというフラストレーションがありました。でも、待つことで自分自身を見つけることができたと思います。技術が向上し、今では自分の技術をよりよくコントロールできるようになりました。」(※6)と話す。監督自身が、女性としてインドの映画業界や自身の結婚生活の中で自分自身の心が、「迷子」「紛失」と言った言葉で埋めつくされていたのだろう。その埋まらない喪失感を持ち続けた結果、本作『花嫁はどこへ?』を通して大きく解放して行ったのかもしれない。この作品は、キラン・ラオ監督自身の生き写しであり、自身の抑圧された心情を解放しようとした結果の物語なのかもしれない。

最後に、映画『花嫁はどこへ?』は、そのインドを舞台に、取り違えられた2人の花嫁の思いがけない人生の行方を描いたヒューマンドラマだが、作品の根底にあるのは、インドにおける女性の地位や身分への解放だ。「花嫁はどこへ?」花嫁は一体、どこに向かうのか?これは、インド社会の変革を願う物語でもある。従来の「女は結婚したら家庭を守る」という古臭い価値観を一蹴する力強さを持つ作品。「花嫁は、女性は、どこに向かうのか?」この問い掛けは、私達全人類に問い掛ける事ができる謎かけだ。私達人類は今、どこに向かって生きているのか?この疑問を自身への自問自答する。次の未来のインドの映画産業(日本の映画業界も含む)は、まだまだタブー視されている「同性婚」を描く気概が必要だ。この作品が持つバトンや襷を、未来に託す事だろう。

©Aamir Khan Films LLP 2024

映画『花嫁はどこへ?』は現在、大ヒット上映中。

(※1)結婚式をする意味とは?目的にあわせて場所や演出を考えようhttps://www.anniversaire.co.jp/brand/omotte/magazine/preparation/19936/(2024年12月7日)

(※2)結婚式を挙げない選択肢はあり?「ナシ婚」のメリット・デメリットhttps://www.styles.jp/news/_wedding-labnashikon/(2024年12月7日)

(※3)国によって挙式はさまざま!世界の結婚式スタイルをご紹介!https://m.niwaka.com/ksm/radio/wedding/ready/style/11/(2024年12月7日)

(※3)भारत में विवाहों का इतिहासhttps://hindi.gktoday.in/%E0%A4%AD%E0%A4%BE%E0%A4%B0%E0%A4%A4-%E0%A4%AE%E0%A5%87%E0%A4%82-%E0%A4%B5%E0%A4%BF%E0%A4%B5%E0%A4%BE%E0%A4%B9%E0%A5%8B%E0%A4%82-%E0%A4%95%E0%A4%BE-%E0%A4%87%E0%A4%A4%E0%A4%BF%E0%A4%B9%E0%A4%BE/(2024年12月7日)

(※4)23歳女子大生「レイプ殺人」の凄惨すぎる犯行インド集団レイプ事件、被告4人の死刑が確定https://toyokeizai.net/articles/-/170874?display=b(2024年12月8日)

(※5)インドの女性が直面する性差別問題|根絶に向けた取り組みhttps://www.plan-international.jp/girlslab/meaning-india_genderdiscrimination/(2024年12月8日)

(※6)Interview: Kiran Rao on finding herself with Laapataa Ladies and ‘rejecting’ Aamir Khanhttps://www.hindustantimes.com/entertainment/bollywood/kiran-rao-interview-on-finding-herself-with-laapataa-ladies-rejecting-aamir-khan-101709200219744-amp.html(2024年12月8日)