突然、彼女が消えた映画『傲慢と善良』
現在、マチアプと呼ばれて、誰もが親しみながら利用しているマッチングアプリ。日本国内では、およそ280万ユーザーが、各々にあったマッチングアプリを利用している。まさに今、令和時代におけるマッチングアプリの戦国時代が幕を開けている。でも相手が何者で、何をしているのか、スマートフォンの画面だけでは、到底推し量る事はできない。にも関わらず、現代人は目で見た物しか信用せず、画面の中の情報がすべて正しいと誤想する。アプリの中の出来事すべてが、リアルな生活のように錯覚させ、リア充と呼ばれる見栄と虚栄心が横行する。アプリの相手のどこに実像があり、真実があるのか?誰もが、虚実が織り交ぜとなったマッチングアプリという理想の世界の真偽は掴めない。年齢を若く体重を軽く設定し、投稿された顔写真には少しでも可愛く見せようと加工を施す。この世のどこにも存在しない理想の自分を生み出す事によって、少しでも空の虚栄心で自身を良く見せようとする。自身で作り上げたSNSという虚構の世界で、見栄の張り合いをする多くの若者たち。映画『傲慢と善良』は、現代に生きるマッチングアプリに没入して行く人々のリアルな恋愛観と価値観を描いた同名ベストセラー小説を映画化した恋愛ミステリー。マッチングアプリや一昔前の出会い系サイトを利用するには、対象となるサイトやアプリを上手に使いこなせる自身の技術力を磨く前に人としてのやるべき事はたくさんあるだろう。
ここ数年で国内シェアを急激に伸ばしているマッチングアプリが、いつ誕生したのか、それはいつの事だろうか?そもそものマッチングアプリの起源は、1995年のアメリカで開発されたオンラインデートサービス「match.com」が始まりだ。インターネットの普及とほぼ同時に始まったアプリ「match.com」は、世界中で人気が瞬く間に広がり、出会いのオンライン化が進んでいるのは言うまでもない。また日本では、1996年に「Yahoo! JAPAN」が普及し始めると同時に、掲示板での出会いが爆発的に広がり、有象無象の出会い系サイトが爆誕した(この人気の影では、出会い系サイトが犯罪の温床にもなった事もまた事実だ)。2000年には、日本初のインターネット専業結婚情報サービスとして「ブライダルネット」が開始し、従来の結婚相談所に対してオンラインでの出会いが、10分の1ほどの価格で出会える仕組みに大きな反響を得た。マッチングアプリが誕生して、30年近くが経過した今、コロナ禍における不要不急の外出が禁止され、緊急事態宣言下の日本国内において、直接他者と会わなくても気軽に出会いを求められるマッチングアプリの存在は、今の時代の若者を中心にユーザーが爆増した背景を伺い知れる。その一方で、マッチングアプリには大きな落とし穴と罠が潜んでいる事がある事も事実だ。次の項目では、その事について書きたいと思う。
マッチングアプリが、日本に普及して四半世紀以上が過ぎた今。手軽に身近で利用ができ、何十万人のユーザーと繋がれる利便性のあるマッチングアプリには、人知れず大きな落とし穴がある。それは、ネットの世界特有の犯罪の温床になっている事だ。まず手始めに、最も多い被害が婚約詐欺(※1)だろう。つい先日、2024年10月25日に報道された事件では、10人以上の女性から総額1億円以上をだまし取った事件が発覚した。また、その次に事件化になるのが、レイプドラッグの事案(※2)だろう。つい1週間前の2024年11月11日にフライデーにてスクープとして報道されている。「22年11月に東京・銀座の飲食店で、30代の女性がトイレに立った隙に睡眠薬を飲み物に混入させ、抗拒不能状態にした上でわいせつな行為をした」非常に悪質な手口であり、日本だけでなく海外でも問題になっており、人事とは考えられないだろう。つい数時間前に報道された事件では、甘い言葉で誘い出し、10代少女に不同意性交に及んだ男の逮捕(※3)の報が流れた。女性ばかりを狙ったマッチングアプリでの事件が多いが、一方で男性が被害に遭うケースもある。たとえば、恋愛感情を抱かせた上、「給料が盗まれ託児所代が払えない」と嘘を伝えて、90人の相手男から総額1億円を搾取した疑い(※4)で女性3人が逮捕された。男も女もどちらも騙される生き物だ。騙す方が100%悪いが、騙される方ももっとしっかりと相手を警戒しなければならないだろう。映画『傲慢と善良』を制作した萩原健太郎監督は、コメントにてこう残している。
萩原監督:「「傲慢」さと「善良」さは表裏一体で、私達はきっとその狭間を行き来しながら生涯付き合っていかなければなりません。本作が、完璧じゃない他人や自分を受け入れて前に向かって進む一助となることを願っています。」と話す。確かに、「傲慢」さと「善良」さは表裏一体だ。人には、裏表の二面性があるが、その中でもこの二項対立する傲慢さと善良さは、人の心を蝕む病原性的要素を持っているだろう。特に、傲慢さは人を時に悪くさせ、周囲の他者との関係性をギクシャクさせる。人は、どんな場面でも、どんな相手でも、奢り高ぶらず、いつでも謙虚さと善良さを心の中に忍ばせておくものだ。それが、日本人が昔から美徳として考えている「奥ゆかしさ」にも繋がって来る事だろう。
最後に、映画『傲慢と善良』は、現代に生きるマッチングアプリに没入して行く人々のリアルな恋愛観と価値観を描いた同名ベストセラー小説を映画化した恋愛ミステリーだが、これは単なる恋愛ジャンルには留まらない、人の深層心理に迫った少し胸が痛い物語だ。皆さんは、我が身可愛さになってないだろうか?唯我独尊的な思想を持ってないだろうか?劇中でも、結婚相談の所長が「今の日本の婚活は、「傲慢と善良」。自分の価値観に重きを置きすぎて皆さん、傲慢です。その一方で、自己愛がとても強い。」と話している。これは、婚活アプリやマッチングアプリを利用するユーザーだけに投げかけた言葉ではなく、各種SNSやメール、ネット内における出会いを行う若い世代中心に、全世代の人間に問い掛けている。ちょうど今、私が拝読している萱野茂死が上梓した著書「アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心」の中で興味深い記述を見つけた。今回は、これを抜粋して、締めくくりたいと思う。「アイヌ語には嫁をもらうという言葉はなく、マッエドン (話すときはマテドン、妻を借りる)という言い方で、嫁さんはもらうものではなく借りてくるものと考えていた。それは、もらったらこちらのものと思って粗末にするが、借り物となれば大切にし、借りてこられた嫁さんもおしとやかにしていなければ、実家へ戻されるかもしれない。お互いに一歩ずつ後ろへさがり、ゆずり合う気持ちがあれば、夫婦は円満というものである(156頁7行目から11行目より抜粋)。」と、昔のアイヌ民族のこの価値観、今でも私達の生活の中で必要ではないだろうか?それは、男女間の結婚や婚活、恋愛だけに留まらず、また男女間も関係だけに目を向けるのではなく、性別も年代も身分も人種もすべて乗り越えて、人が人として本来持つべき人に対する配慮や思い遣り、これがいつの時代でも必要とされており、ネット内のリア充な虚構の生活を磨くより、よりリアルな世界で生身の対人間に対して、思い遣りの心を磨く必要があるだろう。
映画『傲慢と善良』は現在、大ヒット公開中。
(※1)出会いはマッチングアプリ「世界一愛していると…」総額1億円巨額結婚詐欺事件の被害女性 2700万円渡すも恋人“黒瀬舟”容疑者逮捕…手帳は「記念日」だらけhttps://bunshun.jp/articles/-/74448#goog_rewarded(2024年11月21日)
(※2)マッチングアプリで増加するレイプドラッグ事件…法廷で明かされた卑劣な犯行と被告の母親の懺悔https://friday.kodansha.co.jp/article/399132(2024年11月21日)
(※3)「スイーツを食べに行こう」マッチングアプリで出会った女性に性的暴行か 27歳の男を再逮捕 警視庁https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1568199?display=1(2024年11月21日)
(※4)ロマンス詐欺容疑で27歳女逮捕 被害1億300万円か―警視庁https://www.jiji.com/sp/article?k=2024110700651&g=soc(2024年11月21日)