映画『助産師たちの夜が明ける』夜明けと共に産声を上げる

映画『助産師たちの夜が明ける』夜明けと共に産声を上げる

新たな命が誕生する瞬間を描く映画『助産師たちの夜が明ける』

昼夜を問わず、今日もどこかで力強く産まれたての赤ん坊の産声が、響き渡る。私達の命は、この世で一つの大切な命。父と母に囲まれて、愛情深く育てられた子ども達。男女のセックスから精子が卵子に入り込み、受精卵となった小さな小さな命の種は、着床すべく母親が待つ子宮の中へ移動する。出産までのこの一連のプロセスは、非常に神秘的であり、人間どころか、この仕組みを作った神でさえ、立ち入る事はできない壮大さがある。その赤ん坊の出産に一際大切な存在は、医療の現場で出産を全面的に支える助産師達の活躍だ。昼も夜も関係なく、産気づいた母親達のサポートの為に、医師や看護師と共に奔走するのは助産師達。映画『助産師たちの夜が明ける』は、ルイーズとソフィアは5年間の研修を終え、念願の助産師として働き始める。貧困、移民、死産などさまざまな事情を抱える人々が産科病棟を訪れるなか、助産師たちはオーバーワークとストレスに押し潰されそうになりながらも、新しい命に出会う喜びを通して結束を強めていく姿を描く。この世界は非常に繊細であり、女性たちの心の悩みや不安をいかに取り除けるかが、助産師達の手にかかっている。昔は、産婆や取り上げ婆、助産婦と呼ばれていたが、時代の変化と共に一つの赤ん坊の命、また母親という母体の命をどう守るのか、本作がその考えるきっかけになって欲しい。

人類が、この世に誕生したと同時に、女性の出産を手助けする女性の存在が居たとされる(※1)。最初は、産婆、取り上げ婆などと言われていた。小さい命を取り上げる大切な役目や仕事であったにも関わらず、社会的地位向上に向けた取り組みは近年に入ってからだ。上記でも述べたように、2001年に保健婦助産婦看護婦法の一部が改正され、助産婦の名称が男女の区別のない「助産師」へ変更された。男女区別のない呼び方が一般的に流布されても、それでも、男性助産師は日本のどこを探しても一人もいない。なぜなら、この保健婦助産婦看護婦法の中で定められている法律には、次のような文言がある。「助産師になれるのは女性のみである」と法律によって制定されているが、これを男性差別と訴える一部の人間もいる。ただ、現在の日本において、男性が助産師になれないのは、医師ではない男性がお産に関わる事への反対意見や抵抗感が強い点も理由の一つとして考えられる(※2)と言われている。これは、差別という問題ではなく、女性や妊婦に対する配慮の問題だ。少しでも国民が、安心して暮らせる社会にする事が今、求められている。20年後、30年後というそう遠くない近い未来、助産師の仕事は減る事はない。今より更に、多くの活躍が期待される。高齢出産が増加し、それに対応した知識や技術が必要になることも予想されている。結果、助産師の仕事はなくならない、助産師の地位向上が進む、助産師という職務は人生経験が全てプラスに働く職業(※3)と言われている。

今、助産師達が置かれている環境は過酷だ。海外では、貧困、移民、死産など、多くの問題を抱えている。日本での助産師達の課題は、人手不足、配置基準の欠如、 勤務形態の不確定要素(※4)など、現場における課題や問題が山積みだ。NHKが現在も制作している番組「クローズアップ現代」において、「特定妊婦」の特集が組まれた。この特定妊婦(※5)とは、「貧困」や「DV」、「予期せぬ妊娠」、「若年妊娠」など、複雑な事情を持った妊婦たちの事を指し、医療従事者や看護師、助産師、保健師達は、特別な環境下で孤独を強いられる母親やお腹に宿る小さな命、母子共にその存在を複雑な環境から守ろうと今も必死に戦っている。「無職で保険証もなく妊娠」「未受診で自宅で出産」など、特定妊婦を取り巻く環境は非常に過酷だ。今、医療機関や産科、助産師の世界で課題になっているこの「妊婦SOS」(※6)という存在に対して、その助けをどう受け取り、困っている妊婦らをどう支援をし続け、母子共に健康な生活、健康な人生を歩ませるかが、課題の一つではないだろうか?また、「予期せぬ妊娠」「若年妊娠」に悩む若い妊婦達に対して、どう寄り添って行くのかも課題だ。「彼女たちが妊娠をしたかもしれないと不安に思っても、その戸惑いや悩みを一人きりで抱え込まざるを得ない社会の中で、全ての子どもを困難から守ることができるでしょうか?」と、NPO法人ピッコラーレの代表の方が社会に訴える。私達は、医療関係者や支援者だけでなく、一般の方も含め、差別や偏見で相手を区切るのではなく、少しでも誰もが「安心できる場」を共に作って行く未来が必要ではないだろうか?映画『助産師たちの夜が明ける』を制作したレア・フェネール監督は、本作を制作する責任についてこう話している。

フェネール監督:「この映画は、まったく目に見えない助産師という職業に光を当てようとしています。それについて語るということは、私に多大な影響を正確に呼び起こすという大きな責任を負うことでもありました。私たちは多くの助産師に会い、私たちの執筆プロセスに彼らをマッチさせ、彼らの情熱や関与だけでなく、彼らが持つフランス社会への怒りや苦悩にも非常に感銘を受けました。これらすべての結果に対して、私を含め、この映画に出演した全俳優、全スタッフが大きな責任を感じました。」と、この作品を作る上での覚悟を語っている。生半可で気持ちで助産師や命の現場を取り上げるのは、全関係者に失礼だろう。映画という非現実的な世界とは違い、実際の現場はより殺伐としており、皆が命を削ってまで、母子の体、赤ん坊という小さき命を最後まで守り抜いている。命を守るだけでなく、今社会が直面している問題に対し、憤りを感じながらも、自身の使命を全うしようとするその姿勢こそが、この作品が描く真の姿だ。

最後に、映画『助産師たちの夜が明ける』は、助産師たちがオーバーワークとストレスに押し潰されそうになりながらも、新しい命に出会う喜びを通して結束を強めていく姿をリアリティに富んだ作りで描かれている。赤ん坊を取り上げる責任とは何か?母体を守る責任とは何か?それは、出産時だけに立ち会うだけが責任ではなく、妊婦達がSOSを上げている今、私達は母親や赤ん坊達の人生に優しく寄り添い、どんな形でもいいから、支援する事が社会の責任であり、国民の責任ではないだろうか?目を閉じて、耳を澄ましてみれば、今もどこかで小さき命が、夜明けと共に産声を上げる声が聞こえて来るだろう。

映画『助産師たちの夜が明ける』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)助産師の歴史を知ろうhttps://shingakunet.com/bunnya/w0033/x0435/rekishi/(2024年10月22日)

(※2)助産師は男性でもなれる? 助産師以外の医療資格についても解説https://kango.mynavi.jp/contents/helpful/certificate/midwife/#sec3-1(2024年10月22日)

(※3)助産師の20年後、30年後はどうなる?https://shingakunet.com/bunnya/w0033/x0435/mirai/(2024年10月22日)

(※4)助産師必要人数https://www.nurse.or.jp/nursing/josan/renowned/number/index.html#:~:text=%E7%94%A3%E7%A7%91%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E5%B7%BB%E3%81%8F%E7%8F%BE%E7%8A%B6%E3%81%AF,%E6%83%85%E5%A0%B1%E6%8F%90%E4%BE%9B%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年10月22日)

(※5)孤立する母子を救えるか 増加する“特定妊婦”https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4680/(2024年10月22日)

(※6)“産まれるいのち”どう守る? 「特定妊婦」支援の最前線https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240522/k10014449491000.html(2024年10月22日)

(※7)【10代の性と妊娠】「予期せぬ妊娠」をした女性を孤立させず、支えられる社会に。NPO法人ピッコラーレが目指す「安心できる」場づくりhttps://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/47199(2024年10月22日)