映画『コヴェナント 約束の救出』絆について考え直す

映画『コヴェナント 約束の救出』絆について考え直す

2024年3月14日

今なお続く、アフガニスタン問題を描く映画『コヴェナント 約束の救出』

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

2001年9月11日(日本時間午後9時き時間午前8時45分)。日本では、ちょうど火曜日の夜、午後9時からの関西テレビ放送のゴールデン枠ドラマの放送中に突然、臨時ニュースに切り替わり、日本中の日本人が事態の収集、処理に追われ、現地アメリカで何が起きているのか固唾を飲んで見守った。空高く聳える巨大なツインタワーである世界貿易センタービルが、一瞬にして瓦礫と灰に化した世界でも類を見ない世界同時多発テロ事件が発生。当時の人々の生活を一変させ、数千組という家族の数奇な運命を翻弄させた。グランドゼロと化した旧世界貿易センタービルの跡地には、犠牲者やその家族たちの哀しみだけが残る。「歴史上の人物の事柄について調べよ」という社会科の授業で赤点評価を下された私の14歳の秋七月。何故か今でも、この911と社会学という観点から連想され、結び付けられる忘れられない9月の新涼の頃。記憶の断片として忘れられなくなった世界同時多発テロとその後、何年にも続くアフガニスタン戦争は、私の学生時代の部分的な側面において、暗い影を落とした。テレビの画面奥から一基の旅客機が、アメリカを代表する建物、巨大な貿易センタービルに突っ込む場面は衝撃的で、ビルから黒い煙が濛々と立ち込め、一体何が起こっているのか、そして、これから何が始まるのか、その時のニュース画面がリアルタイムで報じていた。翌朝のニュースからは連日、アメリカにおける世界同時多発テロのニュース報道が各社、各放送局が挙って行われ、世界規模の大きな事件となった。アフガニスタン紛争とは、当時、このテロを首謀したとされるサウジアラビア出身のイスラム過激派テロリスであったウサーマ・ビン・ラーディン(通称、ウサマ・ビン・ラディン、ビン・ラディン)への報復として始まった。このテロリストの名前は全世界でも報道され、この日本でも例外が作られないほど、至極一般的に何年間、ニュースで取り上げられ、その時ティーンエイジャーであった私自身の耳にも自然と入ってくるほど、メジャーな存在となっていた。新しい時代21世紀が始まって、最初の戦争となったアフガニスタン戦争。それ以降も、全世界では戦争が各国、各地域で頻繁に起こっている。日本は戦争とは無縁な存在で、70年以上、平和が保たれている以上、戦争が起きている国や地域の過酷さは想像でしか体験できない。それでも、戦争の是非は平和の国、日本からでも問う事はできる。何がどう起きようとも、私達はアジアの東の小さな島国から戦争に対して「No」を突き付ける事はできるはずだ。戦争のない平和な社会を作り上げる事が、今を生きる私達の課題だ。

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

映画『コヴェナント 約束の救出』は、今でも問題が続くアフガニスタン問題を扱った戦争作品だ。本作を監督したガイ・リッチーが、過去にアメリカ兵とアフガニスタン通訳者についてのドキュメンタリーを観て衝撃を受けたから、本作の制作が始まったと公に発表している。監督が鑑賞したとされるドキュメンタリーを調べてみたが、結果的に見つからなかった(どの品が分からなかった)ので、私が発見したアメリカ兵と現地の通訳者達の姿を追った作品を見つけたので、ここで紹介しておく。以下、YouTubeでアップされている海外向けの動画だ。

The Afghan Interpreter (Full Documentary)

この動画の中では、戦場の現状と兵士や通訳者達の過酷な日常が映し出され、インタビュー映像を交えながら、戦争の峻厳さが語られる。映画では得られない生の現実が突き付けられる訳だが、この現実を映画として訴える事が人々の感情にスっと入り込みやすいのだろう。だから、この作品はフィクションではあるものの、実際問題、この映画が取り上げているような問題は今もずっと続いており、問題視されている。戦争の非情さを分かる者は、その場を体験した者しか分からない。遠く国の平和しか知らない小さな島国の人間達が、映画を観ただけで、何を得られると言うのだろうか。本作は、エンタメに特化した作品ではあるものの、その奥にある真髄が何たるものなのか、私達は再度、考え直す必要がある。名も無きアメリカの市民とアフガニスタンの市民が、兵士と通訳者という立場を通して、戦場という名の窮状を生きる。これは、その場から脱出し、今も元気に生きる生存者達の克明な記録だ。戦場における兵士と通訳者の熱い友情は、どんな戦争にも打ち克つ真実の物語。このエピソードは、映画で語られている2人の男の話だけではなく、このバッググラウンドには多くの兵士と通訳者の報道されない、注目されていない小さな小さな友情が存在する。偶然にも、本作の監督が彼らの現状を知って映像化したから、全世界に事の真相や現状の熾烈さを発信する事ができたが、今でも戦場のどこかで、本作に登場する2人の人物のように、兵士と通訳者という立場で懸命に友情を育み、生き延びようとする名も無き兵士達の姿が脳裏をよぎって、離れない。懸命に戦場を生きる彼らが無事に帰国し、平穏な日々を手に入れる事を願わずにはいられない。余談ではあるが、2018年制作のドキュメンタリー映画『THE INTERPRETERS』では、アメリカ兵とイラン人通訳者についての作品もあり、これは私達日本人が考える以上に深刻な問題なのかもしれない。

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

また、21世紀が始まって、今年で24年が過ぎた。科学や文明、テクノロジー、文化が日々、進歩していく中、過去数十世紀の間、全く変わらないものが一つある。それは、私達人類が仕掛ける「戦争」という名の2文字だ。私達人類は、過去数十年の間、幾度となく人類同士の戦いを繰り返して来た。学習の一つもせず、ただひたすら、私達は人類同士の醜い争いを全人類に強いて来た。21世紀の今、たった24年間という月日の中で、世界中ではどこかの国、どこかの地域が必ず戦争を行っている。戦争とは無縁の日本人にとって、常日頃、戦争を繰り広げる国と地域の過酷さは想像のひとつもできないのではないだろうか?たとえ、どんな現状であるのか想像ができたとしても、戦争に翻弄されるその国の名も無き市民の窮愁を理解する事は一生、できないだろう。ここに、過去20数年の間、ある国と地域で起きた戦争のリストを共有しておく。

「2001年 – 2001年バングラデシュ・インド国境紛争、2001年~2021年 – アメリカのアフガニスタン侵攻(対テロ戦争)、2001年~(継続) – パキスタン紛争、2003年~2011年 – イラク戦争、2003年~(継続) – ダルフール紛争、2004年~(継続) – サリン紛争、2004年~(継続) – タイ紛争、2004年~(継続) – ワジリスタン紛争、2006年 – 東ティモール内乱、2006年 – イスラエルのガザ侵攻・レバノン侵攻、2006年 – エチオピアのソマリア侵攻、2006年~2009年 – スリランカ内戦、2008年 – 第二次南オセチア紛争(グルジア紛争)、2008年~2009年 – イスラエルのガザ紛争、2011年 – シナイ紛争、2011年 – リビア内戦、2011年~(継続) – シリア内戦、2012年~(継続) – マリ北部紛争、2012年~(継続)- 中央アフリカ共和国内戦、2013年 – スールー王国軍によるラハダトゥ侵攻、2014年 – イスラエルのガザ侵攻、2014年〜(継続) – ウクライナ紛争、2014年〜2020年 – 2014年リビア内戦、2015年〜(継続) – イエメン内戦、2016年 – 2016年ナゴルノ・カラバフ紛争、2017年 – マラウィの戦い、2020年〜(継続)2020-2021ミャンマー反乱、2020年 – 2020年ナゴルノ・カラバフ紛争、2021年〜(継続) – パンジシール紛争、2022年〜(継続) – 2022年ロシアのウクライナ侵攻、2023年 – 2023年ナゴルノ・カラバフ衝突、2023年~(継続) – 2023年パレスチナ・イスラエル戦争」

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

このリストから日本の現状が、見え隠れするのではないだろうか?アジアの中でも日本は、太平洋戦争以降、一度も戦争をしたことが無い国なのは、周知の事実だろう。その点を踏まえて、紛争地域は現在、発展途上国や貧困地域で多く確認する事ができる。これが、今の世界の現状だ。日本人は、世界中で起きている戦争や紛争に対して、意識を向けた事があるだろうか?21世紀の今も、多くの国では紛争が起きているが、私達日本人はそれに気付く事もなく、日常を過ごしている。リストや紛争地域の画像を確認すれば分かる事だが、日本の報道がニュースとして取り上げているのは、ほんの一部の戦争に過ぎない。ロシアやウクライナ、パレスチナにおけるガザ地区問題以外にも、現在でも多くの地域で継続して戦争が勃発している。これが、今の国際社会の現状だが、この事実を私達はどこまで受け入れる事ができるだろうか?問題は、ロシア=ウクライナ戦争やパレスチナにおけるガザ地区問題以外でも、多くの国が継続して戦争を行っている事が問題だ。以下の分布地図を頼りに、どこの国で現在、戦争が起こっているのか参考にして欲しい。

茶色に塗り潰された地域は、大規模戦争、今年または昨年に1万人以上が死亡。赤色に塗り潰された地域は、戦争、今年または昨年に1,000~9,999人が死亡。橙色に塗り潰された地域は、小規模紛争、今年または昨年に100~999人が死亡。黄色に塗り潰された地域は、小競り合い、今年または昨年に1~99人が死亡。と、今でも多くの人間が戦争で犠牲になっており、そこにはウクライナ戦争やパレスチナによるガザ地区問題の犠牲者だけでなく、他の戦争からも多くの犠牲者が発生している現状に対して、日本の報道が如何に限定的であるか、私達は知る必要がある。本作『コヴェナント 約束の救出』を制作したガイ・リッチー監督は、抽象的ではあるが、戦争について言及している。

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

Ritchie:“I was moved by the rather complicated and paradoxical bonds that seemed to be fused by the trauma of war between the interpreters and their colleagues, so to speak, on the other side of the cultural divide and how all of that evaporated under duress,” Ritchie said. “The irony of war is the depths to which the human spirit is allowed to express itself that in any other sort of day-to-day situation is never allowed. It’s very hard to articulate the significance and that profundity of those bonds. My job was to try and capture that spirit within a film and within a very simple narrative.”

ガイ・リッチー監督:「私は、いわば文化的隔たりの向こう側にいる通訳者と兵士の間の、戦争のトラウマによって、融合されたように見えるかなり複雑で逆説的な絆と、そのすべてが強迫の下でどのように蒸発していくかについて感動しました。戦争の皮肉は、日常のいかなる状況においても決して許されない人間の精神の深層表現が許されていることだ。その絆の重要性と奥深さを説明するのは非常に難しいです。私の仕事は、その精神を映画の中で、そして非常にシンプルな物語の中で捉えようとすることでした。」と話す。人と人の絆は、目には見えないからこそ、表現するのは難しいと話す。その一方で、映画ではその絆を非常にシンプルな題材として取り扱ったとも言う。人と人の間に横たわる絆(※2)とは、何か?その答えは、物語の中にあるのかもしれない。

最後に、映画『コヴェナント 約束の救出』は、アメリカ兵とアフガニスタン通訳者の戦場での彼らの深い絆について、描かれた戦争映画だ。ただ、本作は単なる戦争映画ではなく、私達は皆、この作品から試されている。彼らと同じ状況になった時、あなたは自身を犠牲にして大切な友を助ける事ができるのか?それは、戦争という現状だけでなく、たとえば、何かに悩んでいたり、苦しんでいる友を目の前にして、あなたは彼に手を差し伸べれるかどうか、あなた自身が振り返ざるを得ない状況が、映画の中で描かれる。昨今、コロナ禍が人々の関係性を分断させ、コロナ禍以前からは、テクノロジーが発展し、わざわざ会いに行かなくても、携帯電話一つで人と人は繋がれてしまう時代、人と人との関係性や絆が今、若年層を中心に非常に希薄化されている。私達は本作を通して再度、絆について考え直さなければならない時期に来ているのかもしれない。そして2001年9月11日、この日を忘れてはいけない。

©2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

映画『コヴェナント 約束の救出』は現在、全国の劇場にて上映中。

(※1)Afghan Interpretershttps://www.vice.com/en/article/qbewvb/afghan-interpreters-full-length-122(2024年3月13日)

(※2)深いつながりだけが人の絆ですか?https://xtech.nikkei.com/it/article/OPINION/20081112/319086/(2024年3月14日)