自分らしい生活を送れるドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』


命は、誰でも平等にある。時間は、誰にも平等に訪れる。人生は、どの人にも平等に与えられる。それでも、平等でないものがある。それは、個人個人の生き方そのものだ。生まれてから死ぬまでの人生において、本人がどう生きたかはその人の生き方次第であり、それは最期を迎える「終わり方」にも直結する。どう生きたかで、どのような死を迎えるか。「今の人の老後の10年間は、寝たりきりで介護をしてもらうか、もしくは最後まで健康に暮らして人生の終焉を迎えるかの二局に別れる」と、ある医師は言う。あなたが、今をどれだけ一生懸命に生きたかによって、その後の人生の行く末は変わって来る。それでも、たとえ病気になろうが、認知症を患おうが、要介護の寝たきり状態になろうが、とにかく笑顔に過ごせる人生の終幕が、どれだけ尊いか。ドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』は、「在宅緩和ケア」を選択した5つの家族を取材したドキュメンタリー。在宅緩和ケアで2000人以上を看取った経験のある萬田緑平医師による適切な指導のもと、患者たちが最期まで自然体で生き抜く姿を映す。自身の人生の終演をいかに、楽しく笑って前向きに迎えられるかは、今まで生きて来た人生の積み重ねにある。あなたは、どんな人生の幕引きを望むのか、その答えはきっと、映画の中にあるだろう。

在宅緩和ケア。なかなか聞き慣れない言葉では無いだろうか?この療法は、病気や障害によって通院が困難な患者が、自宅で医療を受けながら、心のケア、生活の支援を受ける事を指し、医師や看護師が自宅に訪問して、必要な医療行為や相談対応を行うまったく新しい医療界の取り組み(※1)だ。それでも、この診療療法には、メリットもあり、デメリットもある。たとえば、患者側にとってのメリットは、①生活の質(QOL:Quality of Life)を維持・向上できる。②通院の負担を軽減できる。その反対に、患者やご家族にとってのデメリットには①家族に負担がかかる可能性がある。②使用できる医療機器や薬剤などに制限がある。③医師・看護師が迅速に対応できない場合もある(※2)。もっとも、周囲の人間、そして患者本人が、ご自身の最期をどこで、どう過ごし迎えるかが、一番大切な事ではないだろうか?ある程度の苦しみを和らげる為に入院生活を選んでも良いし、最後はご自身の愛した家族と囲まれながら、安心して自宅で最期を迎えても良い。その選択をする権利は、どの患者さんにもそれぞれあり、第三者の家族や親族が兎や角、横やりを言う立場にはない。如何に、患者さんご自身の意見や意思が大切で、しっかり反映される終末医療が望ましい。どれだけ、病気の痛みで意識混濁をしていても、本人の最後の願いを記した遺言のような手紙や発言があるのであれば、本人の願いを最優先させる事が精神的にも本人の為になるだろう。在宅緩和ケアは、単なる医療行為ではなく、ご本人の強い意思をどこまで聞き入れ実現し、健康的に死を迎え入れらるかを大事にしているのだ。

現在、日本国内にいる在宅緩和ケアを必要としている方が、どれくらいいるのか気になるところだが、実際、国内における在宅緩和ケアの患者数に関して、正確なデータは一般公開されていないのが現状だ。しかしながら、在宅ターミナルケア加算の算定患者数は、2020年には1万1034人、2021年には1万3070人。年々、増加現象にあると言える。また、在宅医療の患者数は、2023年に過去最多の約24万人にも達したと言われており、2025年現在、この数はより増大していると考えて良いかもしれず、在宅医療や在宅緩和ケアの利用者が増加傾向にあるそうだ。在宅緩和ケアの目的は、患者が自宅で快適に過ごせるよう、医療、介護、ケアマネジメントなど、様々な専門家が連携して行うケア。在宅緩和ケアの利用するには、まず医療機関や専門家のアドバイスにも耳を傾ける事が大切だ。一方で、アメリカ国内における自宅での介護や在宅緩和ケアを必要とする高齢者や傷病者は、およそ約1,000万人(※4)と言われており、高齢者の約51%が在宅医療を利用している計算だ。アメリカの人口1億4000万人に対しての1000万人なので、然程多くはないかもしれないが、それでもこれだけの数の人間が現在、他者からの支援を必要としている米国の現状が見えて来る。そして、アメリカと比較されやすいのが、大西洋を挟んだ隣国の同じ英語圏のイギリスだろう。日本国内では、この英国における明確なホスピス患者の利用数の情報は入って来ていないという結論に達しているが、英国側のより詳しい算出では「2023~24年にかけて、英国中のホスピスは31万人に緩和ケアと終末期ケアを提供した。」(※)という数字がはっきり出ている。イギリスの人口は、2023年の発表では6835万人いると発表されており、この人口の数%の31万人が在宅緩和ケア、在宅医療を求めており、この取り組みは全世界で行われている反面、ケアを必要としている人々が年々、世界規模で増えている点は、由々しき問題だろう。ドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』を制作したオオタヴィン監督は、あるインタビューにて本作のテーマになっている「在宅緩和ケア」について、こう話している。

オオタ監督:「末期がんで余命宣告された患者さんたちが、家族と温泉に行って、可愛いペットと触れ合って、趣味のガーデニングに勤しんで、ゴルフして……笑いながら楽しい時間を過ごすって、これまでの常識では考えられませんよね。それを実現するのが、在宅緩和ケアなのです。試写会で映画を観た方から“自分の老い方の予行練習を見ているようだ”と感想もいただきました。『ハッピー☆エンド』のテーマは、在宅緩和ケアという選択肢を伝えること。樹木希林さんが出演した広告コピーの“死ぬときぐらい好きにさせてよ”という言葉にも共感しました。がんは末期になると、終末が見えます。病院は患者の命をできるだけ伸ばすのがミッションなので、“ただ生かす”ための延命措置をします。それはいいとか悪いとかではなく、そういうシステムなのです。登場する患者さんたちは、そのシステムから離れ、自分らしく生きるという選択をします。これは、治療をあきらめることではありません。家に帰って自分らしい生活を取り戻し、トレーニングを続けて精一杯生きぬきます。入院中に弱った筋肉を筋トレで鍛え、運転して歩いて外出し、家族と食事をする。患者さんは、人間としての尊厳を保ち、人生を謳歌しながら、最期を迎えます。これは決して、積極的に死を招く“安楽死”ではなく、“尊厳死”であり“老衰死”なのです。」(※6)と話す。私は、この在宅緩和ケアこそが、一つの医療であると捉えている。病気を治す=投薬をする、手術をするだけが医療のすべてではなく、オオタヴィン監督がインタビューで話す内容の中にある「末期がんで余命宣告された患者さんたちが、家族と温泉に行って、可愛いペットと触れ合って、趣味のガーデニングに勤しんで、ゴルフして……笑いながら楽しい時間を過ごす」ここにまた、在宅緩和ケアを選択する本質が眠っている。残り少ない人生をどう過ごすのか?ベッドの上で苦しみながらその時を待つ事だけが治療ではなく、大切な家族と共に一日一日を笑いながら過ごす事。死期の迫った最後の日々を、明るく笑いながら前向きに過ごす事こそが、真の医療なのかもしれない。

最後に、ドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』は、「在宅緩和ケア」を選択した5つの家族を取材したドキュメンタリー。在宅緩和ケアで2000人以上を看取った経験のある萬田緑平医師による適切な指導のもと、患者たちが最期まで自然体で生き抜く姿を映す。映しているのは萬田医師による患者を治療する姿や最期の瞬間を生きる姿だけではなく、未来の私達の姿がそこにある。あなたは、死期の迫った数年間をどう過ごしたいと考えているだろうか?ベッドの上で苦しみながらその時を待つか、苦しさもあるが、それでも前向きに笑って残された日々を家族と共に過ごすか。在宅緩和ケアは、病の苦しみを緩和する治療だけでなく、最期に自身の人生を明るく生きる事が患者の心を治療する最先端の医療なのかもしれない。誰もが、自身の最期をどう過ごすのか、今から考える必要があるのかもしれない。

ドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)自宅での緩和ケア(在宅医療)について解説!https://www.tsubasazaitaku.com/column/column67.html(2025年4月25日)
(※2)在宅緩和ケアのメリット・デメリット。患者と家族に寄り添った支援を行う方法https://kaleido-touch.com/blog/19#66727b40ed6e2c2c5660a61b-1718778831080(2025年4月25日)
(※3)ホスピスとは?施設の特徴や病院との違い・対象者や費用について解説https://cuc-hospice.com/rehope/magazine/942/(2025年4月25日)
(※4)アメリカの介護者支援https://drive.google.com/file/d/1g-KgSYZ0dTBgPgF_hR65q6-NE44ZzJzE/view?usp=drivesdk(2025年4月25日)
(※5)Key facts about hospice carehttps://www.hospiceuk.org/about-us/key-facts-about-hospice-care#:~:text=In%202023%2D24%2C%20hospices%20across,friends%20and%20carers%20%5B3%5D.(2025年4月25日)
(※6)在宅緩和ケアを追った爆笑号泣の感動ドキュメンタリー映画「ハッピー☆エンド」に込められたオオタヴィン監督の思いhttps://dime.jp/genre/1957725/(2025年4月25日)