Theater cafe 土間シネマ(小さな映画館カフェ)館長:吉田さんインタビュー

—–まず、Theater cafe 土間シネマ(小さな映画館カフェ)が誕生した経緯のお話をお聞かせ頂けますか?

吉田さん:なぜ、この映画館を作ろうかと言いますと、単純に脱サラして何かやる事もなく、「よし、映画館作ろう」なんて、そんな気持ちで始まった訳ではないんです。今まで普通に働いていて、会社を退職するタイミングで何をしようかと考えた時、たまたま夫婦で引っ越して来た先がこの家でした。ここで夫婦2人で映画を観ていて、このスタイルを近所の方々が面白がってくれたので、ご近所さん向けに何回か上映会を開いたんです。チラシを配って上映会していたら、その受けが良く、今でも常連さんとして来てくれる方々がその時から来てくれていたんです。仕事を辞めるタイミングで、ここで劇場運営をしてみようと始めたのが、初期の簡単なきっかけだったんです。
—–地域や地元の方々の為に…というお考えもあったのでは?
吉田さん:その部分は大きく占めていて、この周辺は飲食店が凄く多いんですが、お店に足を運ぶ方がいても、それ以上に蒲生四丁目という場所に来てくれる方やそれ以外の目的で来てくれる人が少ない街だったんです。この場所がお客さんを呼んで、その帰りに飲食店でご飯を食べて帰って。 よりこの蒲生四丁目を知ってもらえる機会になったらという想いは大きくあります。
—–だから、ただ食べに行く場所ではなく、人々が集える場所やお話できる場所を目指されたのですね。とてもいい事だと思いますし、今回新しく作ったアプリも含め、そのお考えが反映されているんですね。
吉田さん:この辺りのお店を紹介するのに、口頭で紹介すると、意見が偏ってしまうので、地図アプリを作って、そのアプリで行きたい飲食店さんを探してもらえると、より色んな蒲生四丁目にあるお店に行ってもらえると思っています。
—–とても素敵な取り組みと、私は思いました。それが、恐らく、去年に産経新聞さんのインタビューでも、ここに映画を観に来た方が喋り足りなくて、近隣のお店に行ったというお話がありましたね。
吉田さん:近年、サブスクリプションが流行り出して、この考えは完全に持論なので間違っている事もあるかと思いますが、映画が今、単なるコンテンツに特化した娯楽になったと思っているんです。コンテンツとして映像や映画が使われるようになってしまった今、色んな人に観てもらう手段としては良かったのかもしれませんが、コンテンツは必ず飽きられるものです。消費されていくものがコンテンツだと思っている今、僕にとっての映画は、この原体験的にツールでしかないんです。 コミュニケーションツールとして映画があって、コンテンツは消費されますが、ツールは消費されるものではなく、それが使い込まれて、残って行くものなんです。人の行動として、要は役立つと言うのか、生活の何かになるものがツールだと思っています。 僕は、映画が一つのコミュニケーションツールとして使えるものになりえるようにしたいと思ったんです。だから、一緒に観た人が同じ話題、同じシーンを観る事によって、共通の話題でコミュニケーションを取るのが一つの大きなテーマでした。それが発展して行くと、「じゃあ、一緒に飲みに行こう」と、喋り足りないからという理由で違う場所に足を運んでくれると思っているんです。だから、僕はホームページにも書いていますが、映画と映画を観る事を楽しむ為の映画館という形にしています。「モノ」として消費するのではなく、「コト」として体験して頂きたいという想いがのが、一番大きくあります。
—–否定するつもりはありませんが(私自身も昔は同じ考えでした)、今、映画ファンが言っている事は、「映画は消費文化だ」と。「いっぱい観てなんぼの世界」みたいな。私達も昔は同じで、何度も映画館に足を運んでなんぼという価値観でした。
吉田さん:提供側が、同じ思いを持っていてはダメと思っていて、僕はまがいなりにも、今のスタイルで映画を提供する側に回ったので、その視点から言えば、「消費されてなんぼ」「観てなんぼ」ではなく、同じ映画を年に一回、何度も何度も観返す度に印象が変わり、自身の状況が変われば、映画の印象は変わって行く。そんな体験や楽しみ方もあると伝えたり、機会を提供したいと思っています。
—–ここは、行きたくなるいい空間だと本当に思っています。この前、舞台挨拶の取材に来させて頂きましたが、非常にアットホームな空間でしたね。今後、あの時のようなイベントがもっと増えて行けばいいのかなと、感じました。
吉田さん:その点は、他のお客さんもとても感動してくれたんです。 舞台挨拶の後に常連さんがメッセージくれたんですが、「ほんまに映画館を作ってくれてありがとう。こんな機会、自分の人生でこんなに役者さんと近くにいる事、話ができるなんてなかったから、めっちゃ嬉しいです」みたいなメッセージをいっぱいもらったんです。それは、本当にありがたいなと思っていて。そんな空間は提供して行きたいと思います。求められている感じは、ひしひし伝わって来ます。

—–Theater cafe 土間シネマを開業される迄、思った以上に時間が掛かってしまったと、以前、お話されてましたが、映画館の設立を通して学べた事、大変だった事、また嬉しかった事、何かございますか?
吉田さん:本当に、何も知らずに動いたので、怒られそうですが、ほぼ無計画にノリと勢いで作ったような感じなんです。法律の事も全然知らず、配給会社とのやり取りも全然知らずに始めたんです。その点は、非常に苦労もし、僕自身は何でも知る事が好きなので、知った事による楽しさや面白みはありました。知り合ったお客さんと話する中で、始めた当初の年齢層が50代から60代以上の方だったんです。本当に、いわゆる近所のおじちゃんやおばちゃんが来てくれるようお店だったんですが、皆、自分と全然人生経験が違う中での感想を教えてくれるので、この取り組みをやったからこそ、相手のお話を聞ける楽しさはあります。
—-前回、舞台挨拶の後の回の時、3、40代ぐらいの映画ファンと思しきお客さんが来ていましたね。
吉田さん:最近、常連さんで来て頂けるようになりました。その時は、映画『アット・ザ・ベンチ』の上映会でした。
—–映画を観るスタイルは、従来の映画館のスタイルだけでなく、もっと違う方法で映画を観てもいいと思っているんです。
吉田さん:さっき言った通り、僕は本当にツールだと思っているんです。映画もそれは一つのツールで、ここでライブをやる事もあるんですが、ライブをやる時はライブがツールになります。結局、僕がやりたい事は、このコミュニティの場所を作って、みんなと仲良くしたい。みんなと仲良くお話がして、そこで様々な価値観に気付き、色んな人を受け入れ、そんな方と議論を交わしてもいいと思っています。そこを通して、自分自身に跳ね返って来るものを見つけて欲しいだけです。ここが何て呼ばれてもいいんです。

—–では、この映画館自体は開業後、まだ日は浅いですよね。 今のこの現時点で言えば。これから、どうやって行くお考えになると思いますが、運営していて、何か気付きや日々の思う事はございますか?たとえば、この映画を上映して良かったと思えた事はありますか?
吉田さん:難しいと思うんですが、僕が観てめっちゃ面白いから、皆に観て欲しいと思うものほど観てもらえなかったりしますが、この間、映画『アディクトを待ちながら』という依存症をテーマにした映画を上映した時、来てくれたお客さんのほとんどが、依存症で悩まれている方のご家族の方ばかりでした。それは、本当に映画を観た後のお話の中で泣き出される方もおられました。お互いの深淵部までのお話をされ、半ばカウンセリングの場みたいな雰囲気になったりもしていたんです。そういう中で本当に自分の知らない世界を垣間見る事ができ、その中でお客さん同士が繋がり、僕を介して、今繋げたりもしているんです。 この点に関しては、非常に新しい試みとして、ボランティアスタッフとしてここに来て頂いた方に対して、僕から連絡を取って、悩まれている方がおられますが、一度お話聞いてもらえますか?と相談しています。
—–もう、映画の枠を超えていますね。
吉田さん:コミュニケーションの場を作る事は、平たく言えば、その人のその時だけの居場所を作ってあげる事だと思うんです。ここにいてもいいんだ、ここにいたら少し自分を出せると。コミュニケーションとは、自分を出す事、自己開示していく事が大事だと思っています。一つの場をどんどん広げられるきっかけになるんじゃないかなと思っていて、今回の体験は僕にとってすごく良かったんです。でも、この作品は本当に必要な人に必要な情報が伝達されているいい例だと思うんです。映画に観に来た方の中には、ご自身が同じ立場となって、今後どうしたらいいのか分からないと、悩みながら観に来た方もおられて、その方にとっては本当に非常に必要な情報だったと思っています。
—–リカバリー・カルチャーと、言いますよね。お互いそんな言葉を知らなかったですよね。キャンセル・キャルチャーという言葉は、よく耳にしますね。一つの悪いニュースが出ると、一気に仕事がキャンセルされて行く恐怖。それをキャンセル・カルチャーと呼ばれていますが、リカバリー・カルチャーはその逆です。失敗した人でもチャンスを与えて行こうとする動きが今、起こっています。たとえば、子どもが転んだり、何かに失敗した時、子どもたち同士で助け合える社会、その空間をまず大人達が示して行く事が大切なのでは?
吉田さん:配給会社のマグネタイズの代表の木滝さんから上映して欲しいと言われていたんですが、実は他の映画を借りようと思っていたんです。でも、一度観て欲しいと言われて、試しに観てみたら、僕自身、グッと感動するものがあったんです。
—–私自身が感じているTheater cafe 土間シネマの魅力は、日常で味わえない新感覚の空間や都市型のミニシアターやシネコンにはない要素が魅力だと思うんです。これは私が私の中で解釈している事ではありますが、たとえば、否応無く外からの自然光や環境音が入ってしまう環境で、「その点を理解した上で…」という話ですが…。
吉田さん:決して、売りではありません。売っちゃいけない部分ではあります。そこは本当に、真剣に売りにはできない要素だと思います。決して自慢できるものでもなく、ただただ申し訳なく思っていますが、対応としてホームページにお詫びの言葉を載せる事しかできず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。その環境は無くしたいと思っています。
—–光も音も入らない環境。
吉田さん:やはり、ちゃんと集中できる環境ですよね。 その方が映画を観るには良い環境と重々承知はしていますが、あえて、その話をして、そこを売りとするなら、この環境を面白いと受け入れ、許容してくれる方が集まりやすい空間だと思います。だから、それがあるから、この劇場は成り立っているんです。僕は本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

—–ただ、この映画館の魅力とは、なんでしょうか?
吉田さん:でもそれは、ここに集まってくれる人だと思います。僕もそんな方々が集まってくれている事が何よりの魅力だと思います。だから、初めての人や映画に詳しくない方でも来やすい空間だと思います。なんかあの。 自分の手柄は全くない感じですが、もうそれしかないと思っています。ここが好きだと言って集まってくれる方とお喋りするのが、楽しいと思います。イライラせずに我慢して2時間一緒に観てくれるお客さん達がいて、その後、喋っていたら楽しいんですよね。
—–恐らく、ここに来られる方は、皆さん優しい方だと思います。
吉田さん:皆、優しくて温かいです。だから、どんな環境であっても、それでも来て下さる方々いる。皆に来て欲しいけど、それはほんまにごめんやけど、我慢してという気持ちです。
—–私自身も一度、お客さんとして、ここで映像体験をさせて頂いた時、道に迷って遅刻された方がいましたが、誰一人として、怒らなかったですよね。
吉田さん:この間もありましたが、最終日でどうしても観たいと言ってくださる方がおられましたが、「上映時間に間に合いません。帰ります。」と返事が来たんです。僕は、「今どこですか?」と言って、チャリンコで駅まで迎えに行きました。
—–とても素敵なエピソードですね。
吉田さん:その間、お客さんもおられましたが、10分だけ待ってもらって、迎えに行って帰って来たら、拍手喝采で迎えられたんです。遅刻した方は恐縮されていて…。
—–遅刻したのに、拍手で迎えられて、不思議な空間ですが、素晴らしいお話だと思います。遅刻された方であっても、たった一人でも、吉田さん自身が人を大切にする方と再認識しました。正直、商業の現場なら、切り捨すててしまいますよね。
吉田さん:本当に、お断りする方がオペレーションは楽なんですが、さっき言ったように、居場所づくりをしたいと考え、コミュニケーションの場を作るとなると、オペレーションを重視しすぎると、この場の心理的な安全性が確保されないので、出来る限り許容する事を目指しています。ただ、純粋に楽しんでほしいんです。「映画楽しいなァ」と思ってくれたら、今シネコンで上映している色んな映画にも興味を向けてくれて、シネコンにも足を運んでくれる。最近は、特に常連さんですが、色んなお客さんが、これこれ観に行ったよ、今週これ観たけど面白かったから、観に行った方がいいよと、そんな事を言ってくれるのは、他の映画館の情報を皆で交換してくれているんです。
—–話題や情報が広がって行きますよね。人の輪や活動の場が、広がって行きますよね。
吉田さん:そんな活動が、したいんです。
—–少し余談なんですが、昨年の新聞でのインタビューの時は、奥さんとダブルインタビューされてましたよね。一番の立役者は奥さんだと、私は思っています。 本当に理解して頂いて、吉田さんを支えていると考えています。正直、奥さんなら、映画館作ると聞いて、反対される方もいると思います。一方で、吉田さんを支えている奥さんの存在は、私は素敵だと思います。
吉田さん:素敵ですが、少し違うのは、僕は転職をするつもりだったんです。奥さんが、映画館作るなら、やっちゃおうというタイプだったんです。影で後ろで支えくれているのは、もちろん、それは内助の功ではありますが、彼女自身も楽しんでくれている部分は多いと思っています。本当にありがたい存在です。
—–夫婦の二人三脚で、この映画館が産まれたんですね。
吉田さん:実際、僕が自分一人でやって、ついて来いなんて言うつもりは微塵もなかったです。その点は相談しながら、一緒にやっている感覚です。
—–あと一点、気になったのが劇場に感想&リクエストノートが、用意されているのはいい事だと思います。
吉田さん:12月から始めたサービスですが、ノートに感想を書いてくださいとしています。皆さん、どちからと言えば、感想を書いてくれています。最近は、ほとんど映画『アット・ザ・ベンチ』が、圧倒的です。 最近は、今は韓国に帰国しましたが、韓国からの留学生の学生の方が、短期留学で日本に滞在していて、土間シネマに来てくれたんです。「絶対、日本に戻ってくる」と言って帰って行きました。

—–でも、素敵なエピソードですね。ある映画の舞台挨拶に行かせて頂きましたが、非常にアットホームなイベントで、居心地が凄く良かったんですが、今後、この空間をどう作り上げたいなど、何か目指されているものはございますか?
吉田さん:か空間自体を変えようなどありませんが、お客さんの要望に応じて、どんどんカスタマイズして良くして行きたいというビジョンはあります。ただ、できるだけ人数は定員10人を守って行きたいんです。僕が、皆さんと一緒にお話できる最大の人数だと思っています。その点は変えたくないと考え、椅子など、調度品を良くして行く流れになると思います。それ以外は、今は思い付かないんです。
—–今後、生まれて来るかもしれないですね。
吉田さん:結局、空間とはお客さんと作って行くしかないと思うんです。色んなお客さんが、要望を出してくれ、お客さんが不便そうな部分を改善し、この空間の近い距離はしっかりと感じ取って頂き、次に繋げて行く事が目標です。細かい事はいくつもありますが、ざっくり考えると、今お話した内容になるんです。
—–今後における未定もまた、一つの答えだと思います。できたばっかりですね。
吉田さん:それでも、去年10月から数えて半年近く経つんです。

—–Theater cafe 土間シネマは、まだまだこれからですね。最後に、私はこの映画館が人にとって新しく集える場になって欲しいと願っていますが。吉田さん自身は今後、この映画館を人や周辺地域にとってどう運営して行こうか、何かお考えでしょうか?
吉田さん:コミュニケーションの場として来て欲しいと考えています。今後、映画を一つのツールとして、様々なイベントをやって行こうと考えています。イベントだけでなく、フリマをやろうと考えています。もっとオープンなスペースに活用して行く予定です。マルシェもいいと思います。時々、SNSでアンケートを取っていますが、お客さんの家に余っている映画グッズに関して、ここでフリマにして、要らなくなったものをお金に替えてもらうシステムも考案中です。一度アンケートを取ってみると、皆さんやってみたいと声を出してくれています。
—–それは、非常に面白いですよね。
吉田さん:劇場としては、知って頂けるチャンスでもあります。宣伝と思ってやりますので、何もせず何もいりません。平たく言えば、映画一本を軸として、もっと違う接点をお客さんと作って行きたいと、今後の目標を掲げています。
—–貴重なお話、ありがとうございました。
