恐怖映画を覆す映画『ロングレッグス』


世界には、未解決事件があまりにも多すぎる。未解決事件だけでなく、謎が謎を怪事件も多く発生しており、映画『ロングレッグス』で描かれているような物語は、現実社会でも実際に起きている。ロングレッグスのようなサイコパスもこの世に実際に存在し、本作に登場する捜査官のような刑事や警察官が事件の謎や真相を私達の知らない水面下で血なまこになって追っている。この世には殺人事件、快楽事件、誘拐事件、劇場型犯罪など、多くの難事件が日々、秒単位で起きている。右を見ても、左を見ても、街中には危険と目される危険人物が一般人に紛れ込んで、平然と普通に涼しい顔して、生きている。突然の交通事故のように、犯罪者による奇怪な事件は突如として遭遇する。映画『ロングレッグス』は、恐怖のサイコパスをモチーフにしたホラーとも、スリラーとも形容しがたい理解に苦しむ映画だ。ニコラス・ケイジが凶悪なシリアルキラー役を強烈なインパクトで演じ、全米で話題を集めたサスペンススリラー。誰も奴の恐怖を止める事はできないが、奴を殺すのは簡単だ。死を持って死で制す。恐怖心は、心の中にある恐れからだ。変態精神病質者は、貴方(貴女)の心の中に必ず存在する。貴方の中に眠る野獣が一度目を覚ませば、後戻りはできず、取り返しの付かない大事件を引き起こすだろう。そうなる前に、一度自身の胸に手を当てて、ゆっくり考えて欲しい。サイコパスの性質は、誰の心の中に眠っている事を忘れてはならない。

本作の監督オズグッド・パーキンス(ヒッチコックの名作映画『サイコ』で主人公の青年ノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスの実の息子。本作にピッタリの組み合わせ)は、アメリカ合衆国で最も有名で世界最大と言われる未解決事件「ジョンベネ殺害事件」(※1)から着想を得たと話す。ジョンベネ・パトリシア・ラムジーちゃんは一体、誰に殺されたのか?この世には、愉快犯と呼ばれる狂気と快楽に溺れた性的異常者が山ほど存在するが、その全貌は明らかにされておらず、当事者達は誰にも知られる事なく、この一般社会に溶け込みながら暮らしている。日本でも未解決事件(※2)は多く発生しており、ここで一つ一つ羅列するのはある種の苦行の為、もし一つを挙げるとするなら、少し趣旨から外れるかもしれないが、国内で起きた少女の失踪事件が発生している。事件名は、「加茂前ゆきちゃん失踪事件」(※3)と呼ばれ、ジョンベネちゃんと然程、年齢が変わらない少女がある日突然、忽然と姿を消している。他にも、大阪で起きた「吉川友梨ちゃん失踪事件」(※4)では今も事件だけが未解決のまま、失踪した少女も未だに見つかっておらず、彼女のご両親は事件から20年以上経った今でも、子どもの帰りと安否を信じて、捜索活動を続けている。未解決事件は、日本やアメリカで昔からずっと続いている。両国以外でも、たとえば、詳細は記述しないが、オーストラリアでは1948年に起きた「タマム・シュッド事件」や1958年に起きた「ボーモント姉弟失踪事件」インドでは、1985年に起きた「ストーンマン事件」イギリスでは1988年に起きた「デボラ・リンズレー殺害事件」ブラジルでは「カルリーニュース事件」や「フォルタレザ中央銀行強盗事件」などが残っており、本作『ロングレッグス』のような未解決事件は世界中で発生しており、物語だけの話ではない。実際に、サイコパスと呼ばれる人は実在する。

世間では、「精神病質者」をサイコパスと呼び、それ同等の意味として「社会病質者」をソシオパスと呼んでいる。日常会話やポップカルチャー圏において、両者を同義語となる「反社会性パーソナリティ障害」(※5)と呼称するが、実際、心理学の世界ではまったく違う意味を持つのが、「サイコパス」と「ソシオパス」だ。一般的に、どちらも危険で暴力的、恐ろしく冷酷な人の事を指す。また、共感性に欠け、非道な行為を行う事ができる人の事を反社会性パーソナリティ障害と呼んでも遜色はない。ただ、この両者をより詳しく分類すると、ソシオパスが反社会性パーソナリティ障害(ASPD)として知られる。この障害には、他者の幸福に対する無関心や侵害という特徴的なパターンがある。ソシオパスを持つ者の行動には通常、幼少期または思春期初期に始まり、成人期に続くと言われており、日本の少年犯罪に顕著に現れていると言えるだろう。たとえば、神戸連続児童殺傷事件、茨城一家4人殺傷、福岡商業施設女性刺殺事件、板橋区両親爆破事件(※7)の元少年達の幼少期から成人期における生い立ちの幾重にも重なる年輪が、もしかすると、この「反社会性パーソナリティ障害」に関係して来るのだろう。一言、他者をサイコパスと呼ぶのは簡単だろうが、少年達は単なる異常者ではなく、幼少期からの折り重なる育成記録の行く末が、重大な結果を招いているだけで、非常に根深い問題が鎮座する。生まれ持ったソシオパスやサイコパスではなく、幼少から成人へと成長する過程において、誰か彼らの側にいた大人達が少しでもその異常性を敏感に嗅ぎ取れていたら、彼等少年A達の人生は少しでも違った方向に流れ着いていたのかもしれない。私達は、サイコパスの定義を少し勘違いしているかもしれない。サイコパス=危険人物や社会に溶け込む変人として捉える風潮が散見しているが、反社会性パーソナリティ障害は生まれ持った異常性ではなく、その人物が大人へと成長する過程のどこかのタイミングで外的刺激を受けて(たとえば、虐待(身体、性的、ネグレクト含む)、家庭的貧困、いじめetc…)、分母の数で言えば、全体の1%未満かもしれないが、成育環境や生い立ちが反社会的に影響を与えていると考えられる。本作に登場する奇人変人のキャラクターである「ロングレッグス」の全貌は語られていないが、彼自身の幼少期を少しでも覗いてみれば、また違った視点の人生のストーリーを知る事ができるのかもしれない。映画『ロングレッグス』を制作したオズグッド・パーキンス監督は、あるインタビューにて本作に登場する悪役の片鱗について聞かれて、こう話している。

パーキンス監督:「ロングレッグスに関しては、映画の中での彼の存在の扱い方に関して、2つに分かれていました。1つは、追われるモンスターで、実際に姿を見ることはないものの、本当の力を持っているという設定です。つまり、彼は遍在的で、すべての人に影響を与え、恐ろしいことをすべて行うのですが、誰もその理由が理解できず、見つけることができません。姿を見ることすらできません。彼は総括的な力、目に見えない手のような存在です。そして、それを、確かに彼はそういう存在ではあるが、同時にひどい人間でもあり、ひどい目に遭ったひどい人間でもあるという事実と対比させたかったのです。悪魔のために働いた人間が「おお、おい、俺が何が好きなのか知ってるか? 悪魔のために働くことだ」と言うのは面白くありません。もっと「おい、俺は悪魔のために働いてきたんだ、時にはすごく興奮するし、時にはすごく退屈なこともある。そして、もう1つはロングレッグスの内面です。髪の色は抜けて、整形手術で自分を台無しにし、すごく悲しい。金物屋の女の子に優しくしようとしているだけなのに、彼女は僕をすごく気持ち悪い人だと思っている。だって僕は気持ち悪いし、気持ち悪いし、孤独で、悲しいし、モンスターでもあるし、孤独で悲しいんだ。」(※8)と話す。2つの顔を持つ悪役の全貌は、誰にも理解できない。悪魔に魂を売って、悪で居続ける反面、その内面は自身の孤独と直面しながら、生きている。誰も犯罪者の心情や過去への興味関心を持たないだろうが、凶暴な悪を生み出す背景について、少しでも考える余地があってもいいだろう。なぜ、ロングレッグスのようなサイコパスと呼ばれる人間が生まれるのか。知る必要もないかもしれないが、幼少期における生育環境、過去の出来事、見過ごされて来た生い立ちにアクセスする事によって、その人物像に触れる機会を作る事も時には必要になるかもしれない。

映画『ロングレッグス』は、恐怖のサイコパスをモチーフにしたホラーとも、スリラーとも形容しがたい理解に苦しむ映画だ。ニコラス・ケイジが凶悪なシリアルキラー役を強烈なインパクトで演じ、全米で話題を集めたサスペンススリラーだが、そのシリアルキラーと呼ばれる反社会性パーソナリティ障害を持つ人物に関して、私達は人物像のほとんどを知らない。いや、理解しようとしていない。ただ、恐ろしい、気持ち悪いと排除しようとするばかりで、なぜこの世にロングレッグスのような悪魔が生を受けたのかについて、考えていいかもしれない。もしかしたら、社会に潜むモンスターを生み出すのは、私達大人自身なのかもしれない。

映画『ロングレッグス』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)性的暴行を受け殺された当時6歳のジョンベネ・ラムジー…世界最大の未解決事件を解決に導く“決定的証拠”https://bunshun.jp/articles/-/75801?page=1(2025年3月26日)
(※2)日本の失踪/神隠し事件一覧と有名ランキング55選!未解決・解決に分けて紹介【最新決定版】https://wondia.net/missing-person-case/2(2025年3月28日)
(※3)【未解決事件】カアイソウ、トミダノ股割レ…怪文書を徹底再解読! 加茂前ゆきちゃん失踪事件の謎を探るhttps://tocana.jp/2025/01/post_276660_entry.html(2025年3月28日)
(※4)【特集】吉川友梨..自宅から400m離れた地点で・・・行方不明から20年 吉川友梨さん行方不明から20年「元気で早く会いたい」 あの日一緒に下校した同級生の思い・・・ 友梨さんの帰りを今も待つhttps://www.ktv.jp/news/feature/230517-yuri20/(2025年3月28日)
(※6)混同危険、「サイコパス」と「ソシオパス」の違いhttps://forbesjapan.com/articles/detail/70728?read_more=1(2025年4月1日)
(※7)少年事件の適正な報道等を求める会長声明https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-86.html(2025年4月3日)
(※8)Writer-Director Oz Perkins On Conjuring Up Scares For Cult Horror-Thriller ‘Longlegs’: “I’m The Only Arbiter Of What’s Good”https://deadline.com/2024/07/longlegs-oz-perkins-nicolas-cage-interview-1236008246/(2025年4月3日)