生と死を見つめ、すべての人へ生き方を問いかける映画『僕の中に咲く花火』


季節が変わる初秋の刻下、花火のシーズンも終結に向かいつつ、冬の寒い厳しさの前のほんの一時、まだ夏の暑さを少し感じるその間。毎夏、人々の生活をより豊かにする花火のイリュージョンは、明鏡止水に心の清らかさを表し、花鳥風月として夏の風物を彩らせている。花火は視覚的な楽しみ方がある一方で、心の奥底で留めている秘めた妬みや怒り、焦りに気落ちを爆発させる起爆剤のような存在として少年少女の内面を刺激する一端を担う。誰の中にも存在するその花火は、いつか爆発する感情を指し、必ず誰しもが持つ花火。小さな爆発から大きな爆発まで、大小関係なく、それはいつでもその人の心の感情を揺する。ダイナマイトのように炸裂する感情もあれば、線香花火のように小さくバチバチと火花を吹く情緒もある。花火のシーズンが過ぎても、心の中の感情の火花は消える事も、火を噴く事もない。優美高妙な花火であっても、時に人に牙を剥く困りものだ。心の中に隠し持った鬱屈した感情は、ひっそりと怪物のように増大する。その危険な芽を少しでも摘むのは、子ども達の周りの大人達の務めだ。映画『僕の中に咲く花火』は、自然豊かな岐阜県の田舎町を舞台に、亡き母への思いを抱える思春期の少年が、周囲の人々に支えられながら喪失感や死への恐怖と向き合い、今を生きていくことを決意する姿を描いた青春ドラマ。子ども達の孤独感や喪失感、焦燥感といった精神面を支えるのは、その子の周りにいる大人達の役目だ。

子ども達の心の中にある「花火」が爆発する瞬間は、大きく分けて2つあると提言したい。そのうちの一つは、近年問題視されているティーンエイジャー達の自殺や自死だ。自分の中にある10代特有の悩みを抱え、それを誰にも打ち明けられないまま自殺を選ぶ若者が急増(※1)している。2024年の小中高生の自殺者数は527人(暫定値)で過去最多と報告されたばかりだが、2025年の学生達の自殺が目立っている年と言えるかもしれない。1998年以降の統計で見ると、14年連続して自殺者の数が3万人を超える状態が続いている。2012年には、15年ぶりに3万人を下回ったが、2010年以降、10年連続減少にある。2019年には2万169人となり、1978年の統計開始以来最少のデータが更新された。一方、新型コロナウイルス感染症の拡大が深刻化した2020年には自殺者が2万1,081人となり、11年ぶりに増加に転じた。2020年以降は、2万1,000人台で推移し、2023年は2万1,837人となった。2025年現在、依然として、2万人を超える方が自殺を選び、自ら命を絶っており、深刻な状況が続いている。特に、今年目立ったのは学生達の電車への投身自殺だろう。現場、この電車への飛び込み自殺は社会問題化しており、学生に限らず、老若男女多くの方が電車での投身自殺を選ぶ傾向にあると伺える。ちょうど9月末となった29日午前7時35分頃、大阪府羽曳野市古市の近鉄南大阪線古市駅にて、15歳の男子中学生がホームから線路に飛び降り(※3)、大阪阿部野橋発の河内長野行きの準急電車に撥ねられて亡くなっている。また、同日の午後9時40分頃には、新三田発高槻行き普通電車に川西市の20歳の男子大学生(※4)が撥ねられ死亡した。7月には、15日午前9時10分頃、関西の阪急神戸線にて灘区に住む15歳の高校1年の男子生徒が、大阪梅田発新開地行きの特急電車(神戸市灘区篠原中町の阪急電鉄神戸線六甲-王子公園間の踏切)によって撥ねられ死亡している。偶然、今年の関西のニュースを多く取り上げているが、これが全国各地、そして毎年ごとにローカルニュースや全国ニュースで取り上げられている背景を考えると、多くの10代の学生達が自ら命を落とし、自身の人生を終わらせている。死に急ぐ学生達の生活背景に何があったのかは相当計り知れないが、たとえば、学校や地域といったコミュニティでいじめに遭っている。両親間、親子間における家庭内不和が要因。進学後の成績不振など、様々な原因が考えられるが、全国には「死にたい」と想いを抱える若者達がいる。同じコミュニティ内で気持ちを分かち合い、吐き出せる場所が大人達の手によって用意されている。たとえば、生きるのがしんどい人のためのWeb空間「かくれてしまえばいいのです」、死にたいほどつらい気持ちを置いていける、社会とつながるサイト「死にトリ」、つらい気持ちをみんなで話せるチャット「ぷらっとチャット」、生きづらさを感じている人ためのお役立ち・学び・社会参加サイト「生きづLABO」、死にたい、生きるのがつらい、そうした気持ちやメッセージを投稿できる掲示板「NHKハートネット」(※6)など、同じ悩みを抱える人々が集える場所は社会的に用意されているが、それでも追いついてないのが現状だろう。少しでも、周囲の学生や子ども達に何か生活上の異変を感じたら、周りにいる大人達が手を貸してあげて欲しい。ほんの少しの気付きと気遣いが、一人の子どもの命を救えるのではないだろうか?と、元自殺志願者の私(まだ克服はできていない)は訴える。

次に、子ども達の心の中にある「花火」が爆発する瞬間は、大きく分けて2つあると、先程提言したが、そのうちの一つは自殺であったが、もう一つ挙げるとするなら、それは犯罪に走る事だ。最悪、殺人事件を起こす子ども達の心の中にある「花火」は、その時の一瞬まで、自身が耐えれるまでのキャパシティの限界まで達しているのだろう。他者に危害を加え、他人に迷惑をかける行為は社会的な批判や制裁に遭う確率が多くなるが、少年少女達の心の中にある声や花火に耳を傾けられる大人達がたった一人でも社会に存在するのであれば、ほんの少し、数ミリ感覚でも子ども達に寄り添う姿勢も必要となるだろう。2025年には、多くの少年犯罪が報道のトップニュースで世間を震撼させた。千葉市の路上で84歳の女性が殺害された事件では、「複雑な家庭環境から逃げ出したかった。イライラしてやった」(※7)と供述した中学3年の少年が5月に逮捕された。また、愛知県では田原市で起きた祖父母殺害事件(※8)では、加害者の少年が「祖父母が両親をたびたび叱責するなどの家庭内口論を嫌い、事件直前も言い争いを見聞きした」と供述し、事件の背景にあった家庭内における複雑な関係が浮き彫りとなっている。2024年に起きた「相模原両親殺害事件」(※9)では、当時15歳の少年だった男子生徒が、実の両親に手を掛けている。少年は、裁判の証言時にこう発言している。「小学生のころ、主に父親から暴力を受けたという。近所の家の換気扇を壊したと決めつけられ、人前で殴られた。母親からは「産まなきゃよかった」と言われた。中学生になると暴力はやんだが、両親に代わって家事を担った。感謝の言葉はなく、母親は少年が作った料理を捨てることもあった。」と。少年の家庭内における両親の子どもに対する扱いは、愛のない家庭であったと言える。長年にわたる叱責や無関心が、少年の心を蝕んでいたのだろう。そして、もう一つ近年の日本社会において忘れてはいけないのは、2020年8月28日に福岡県福岡市中央区の商業施設「MARK IS 福岡ももち」で発生した「福岡商業施設女性刺殺事件」(※10)だ。一人の尊い命を奪った責任は、重い。社会は、一人の少年に対して最も重い極刑に望んでいただろうが、司法は少年の未来までは裁けない。ならば、被害者や被害者家族の未来はどうなのか?社会も司法もどこも保証はしない。加害者を守り、被害者を蔑ろにする日本社会の今に苦言を呈する日本人は大勢いる。けれど、罪を犯した少年達の人生の背景を知る必要があるのでは?過去とやった事の関係性はないと糾弾する人がいる事も事実だが、批判するだけがすべてだろうか?この事件を起こした少年の過去の生い立ちは、親からの虐待、実の兄からの性的虐待など、不遇の幼少期を過ごしており、生まれた環境を子どもである本人の力で変える事はできない。事件が起こる数年前に戻れるのであれば、この時期の少年に何らかの支援を差し伸べていれば、未来を変える事はできたのではないだろうか?少年本人が起こした事実は社会的に重く厳しい制裁は必要になるが、それ以上に今からでも遅くない生活支援の輪を少年の身の回りで広める事が最優先ではないだろうか?きっと、同じ境遇の子ども達は日本各地に存在している。日本社会が、同じ過ちを繰り返さない為に、今の子ども達にできる最善の事に手を差し伸べてもいいのではないだろうか?未来で同じ間違いが、起こさないために。映画『僕の中に咲く花火』を制作した清水友翔監督は、あるインタビューにて本作で地元の岐阜県を舞台した事について、こう話す。

清水監督:「僕はロサンゼルスに3年半ほど住んでいましたが、コロナ禍でロックダウンが解除されたことを機に、2年半ぶりに日本に帰国して岐阜に戻ったんです。その時に改めて見た故郷の風景が、とてもノスタルジックに感じられて、「ここが自分が帰る場所だ」と強く思いました。ちょうどその時、今回の脚本を書いていたので、このタイミングで地元を舞台に映画を撮りたいと思ったのがきっかけです」(※11)と話す。2年半ぶりに帰郷した自身の地元でもある岐阜県を「ここが自分が帰る場所だ」と改めて感じた監督自身の実体験を基に、多くの若者たちが自身の帰れる故郷の在り方について、考えたい。いつか今の子ども達が、「ここが僕(私)の帰る場所」と言える居場所作りを社会や行政、私達大人が率先して作る社会づくり、地域づくりが大切ではないだろうか?

最後に、映画『僕の中に咲く花火』は、自然豊かな岐阜県の田舎町を舞台に、亡き母への思いを抱える思春期の少年が、周囲の人々に支えられながら喪失感や死への恐怖と向き合い、今を生きていくことを決意する姿を描いた青春ドラマたが、これは単なる青春物語ではなく、今の日本社会に何が必要か突き付けた題材になっている。居場所を無くして、社会で彷徨する若者たちがいる。その多くは、孤独を味わいながら生きている。自身の生きる場所を求めて、彷徨い歩いたその先には、トー横やグリ下(※12)と呼ばれる孤独を糧に生きる若者たちの居場所が生まれている。私達大人には、一体何ができると言うのか?「僕の中に咲く花火」は、文化的な日本の風物詩の「花火」ではなく、少年少女の心の中に眠る感情の火種が「花火」であると捉えた時、この小さな火種を優しく包み込む支援が必要であり、雨風に当たり野晒しとなっている怒りや妬みの感情の炎は、いつか自傷行為として牙を剥くか、他者への傷害として牙を剥くか、そのどちらかに転ぶだろう。誰もが持っている心の中にある「花火」は、きっと私自身も持っている危険物だ。夏が過ぎても、季節が巡っても、怒りに任せて、悲しみに任せて、社会の理不尽さに対して、いつその「花火」が爆発するか分からない。その悲しみの連鎖を抱える少年の葛藤を描く本作ではあるが、どの少年少女でも一線を越えてはいけないと伝えたい。なぜなら、あなたにもきっと、大切な人の存在があるからだ。

映画『僕の中に咲く花火』は現在、公開中。
(※1)小中高生の自殺者数が過去最多 こどもの自殺対策支援PTを設置https://www.jimin.jp/news/information/210031.html(2025年10月7日)
(※2)自殺対策についてhttps://jscp.or.jp/overview/reality/(2025年10月7日)
(※3)男子中学生がホームから電車に飛び込みか 近鉄古市駅ではねられ死亡、3万4千人に影響https://news.yahoo.co.jp/articles/56f9ce2bcd2991b9bad42fdf1b6b664d09278d68(2025年10月7日)
(※4)踏切で大学生が電車にはねられ死亡 JR宝塚線、上下線11本が運休にhttps://www.kobe-np.co.jp/news/jiken/202509/0019533337.shtml(2025年10月7日)
(※5)高1男子生徒が特急電車にはねられ死亡 阪急神戸線、一時運転見合わせ 神戸市灘区https://www.sankei.com/article/20250715-SEQHEL7XIVNHNISOZLGIRGIJCA/(2025年10月7日)
(※6)#いのちSOS – NPO法人 自殺対策支援センターライフリンクhttps://www.lifelink.or.jp/inochisos/(2025年10月7日)
(※7)「複雑な家庭環境から逃げ出したかった」殺人容疑の15歳少年が新たな供述…父親「どうして?という問いかけしかない」 保護者から警察に相談、定期的に面接もhttps://www.fnn.jp/articles/-/870800#google_vignette(2025年10月7日)
(※8)祖父母に不満、直前の口論引き金か 殺人容疑で16歳再逮捕―愛知県警https://www.jiji.com/sp/article?k=2025052900705&g=soc(2025年10月7日)
(※9)相模原 両親殺害事件 当時15歳長男を家裁移送の決定 横浜地裁https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014728231000(2025年10月7日)
(※10)「クズは変わらない」自嘲気味に語っていた女性刺殺少年、幼さ残る顔で「やり直したい気持ちある」https://www.yomiuri.co.jp/national/20220723-OYT1T50162/(2025年10月7日)
(※11)映画『僕の中に咲く花火』清水友翔監督、安部伊織さん、葵うたのさんインタビューhttp://cafemirage.net/archives/7508(2025年10月7日)
(※12)中1の娘を“あえて”トー横に送った母の胸中「あの場所があったからこそ、笑えるようになった」https://nikkan-spa.jp/2105173?utm_source=antenna&utm_medium=referral(2025年10月7日)