第20回大阪アジアン映画祭 映画『サバ』映画『我が家の事』映画『サイレント・シティ・ドライバー』

第20回大阪アジアン映画祭 映画『サバ』映画『我が家の事』映画『サイレント・シティ・ドライバー』

今年もまた例年通り、大阪アジアン映画祭の季節が訪れた。今年は第20回を迎え、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。第20回の上映作品本数は、新たに67作品が上映される。上映作品の製作国 ・地域は19の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。世界初上映19作、海外初上映6作、アジア初上映4作、日本初上映31作。3月14日(金)から3月23日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。

映画『サバ』

一言レビュー:主人公サバは脚が不自由で心臓の悪い母親と二人暮らし。ギリギリの生活の中、母親の手術費を稼ぐためバーで働き始めるが、金のために同僚を告発してしまう。都会の片隅で必死に生きるサバを通してバングラデシュの今が垣間見える作品。介護問題、ヤングケアラー(児童労働、若年層の介護)。バングラデシュ社会を取り巻く社会問題は、日本と然程変わりがない。それに加えて、裏社会や犯罪、治療費高騰、様々なネガティブな事柄が主人公達に襲い掛かる。時に笑顔を振り撒き、時に守れそうもない嘘を言い、時に親友を裏切る。それでも、サバという主人公の女性は、強く逞しく生き抜こうとする。バングラデシュにおける介護問題やヤングケアラー(児童労働、若年層の介護)(※1)は今、同国で大きな問題となっており、世界の最貧困国と呼ばれたバングラデシュは如何にして、この経済的貧困格差を解消させるかを国を上げて取り組んでいる。一方日本では、文部科学省と日本総研が小学6年生と大学3年生を対象におこなった実態調査によると、小学6年生の15人に1人、大学3年生の16人に1人(※2)が家庭内にケアを必要としている人がいると回答している。消して多いとは言いにくいが、それでも、今の日本社会には確実にバングラデシュと同じようにヤングケアラー(や児童労働、若年層介護)によって苦しめられ、人生を狂わされている若い世代、子ども達がいる事を知っておく必要がある。今この瞬間から未来に向けて、一人でも多くヤングケアラーの若者を減らす事を社会課題に知らなければならないだろう。

映画『我が家の事』

一言レビュー:ごく普通の家族の歴史に脈々と引き継がれる秘密。その秘密によって苦しみ、引き裂かれ、再び結ばれる姿を、家族それぞれの視点から丁寧かつ滑稽に描く。家族には、家族にしか分からない秘め事や暗黙の了解がある。種違い腹違いの子ども、夫婦の不仲、血の繋がりなの薄い兄弟姉妹。同じ父母から産まれて来る子どもの存在は、もしかしたら、奇跡なのかもしれない。今、世界中の家族が抱えている問題(※3)には、離婚や家族の離散、家族の精神的乖離や家庭内暴力、高齢化と単独世帯の増加、不公平な家事労働と介護負担がある。それが、台湾なら?少し違った視点で台湾における家庭内の問題について目を向けたい。たとえば、台湾の労働基準法(※4)では、8週間の出産休暇(産前産後含む)を義務づけている。多くの女性は、産前ぎりぎりまで勤務し、出産後に8週間の産後休暇だけを取得。子どもが3歳になるまで、最大2年間の育児休暇を申請することができ、その間は雇用保険から最大6か月、給与の60%を受給できる。一方日本における家庭内問題では、日本の家族は今、離婚や虐待、貧困、孤独死など、様々な社会問題課題がある。現在、これらは深刻な社会問題として各方面に多くの影響を与えている。高齢化と単独世帯の増加。不公平な家事労働と介護負担。親からの虐待。コロナ禍が拍車を掛けた孤独・孤立化。物価高騰、経済不安における貧困問題。虐待問題は今、早急に解決しなければならない目の前の課題の一つ。出産や子育て等の生活面を支援し、母子保健、保育サービス、就学前教育(幼稚園)、ひとり親世帯に対する支援、育児休業制度など、政府が打ち立てた家族政策にも力を入れている。専ら、家庭内の問題は政府や地方自治体が手を加えるのではなく、当事者間で問題を解決するしか道は残されていない。

映画『サイレント・シティ・ドライバー』

一言レビュー:霊柩車の運転手として働く男は、盲目の父親を置いて夜ごと街へと繰り出す女に出会い、犬が飼い主を求めるようにつきまとう。やがて二人の生き様が重なり衝撃の結末を迎える。沈黙の中に悲しみがある。沈黙の中に叫びがある。沈黙の中に苦しみがある。沈黙の中に助けを呼ぶ声がある。そして、その沈黙に誰も耳を傾けない。暗く濁った川の奥底で、冷たく凍えながら息絶える。一人の人間の存在と死に対して、社会の誰も気にも止めない。人間という存在は、無意識と潜在意識の間を往来している。自身の過去に秘密を隠し持つ多くの人々が、誰にも言えない大きな傷を心の中に抱えている。モンゴルのセントラルメディカルセンターの研究チームが発表した研究結果では、モンゴルにおける自殺が依然として主要な死因の一つとして挙げている。世界全体の青少年の死因は第4位という数字が算出された。自死の77%は、発展途上国と低所得国で発生している。2021年現在、モンゴルの自殺率は人口10万人あたり平均15.0人で、世界平均の4.4倍、地域平均の4.8倍。西太平洋地域では、自殺ランキングが5位となる。モンゴルの過去10年間では、年間平均16,900人が死亡し、うち約2.8%が自殺が原因。平均すると、2010年から2019年までの全死亡者の60.5%と自殺者の85%が男性(※5)だ。では日本の現状は、どうだろうか?2025年1月現在、厚生労働省が警察庁の自殺統計を基にまとめた2024年の全国の自殺者数は、23年より1569人減少して2万268人と算出(※5)。決して少ない数字ではなく、この数だけ生きている間に誰にも言えない秘密や傷を抱え、一人で苦しんでいる人々がモンゴルにも日本にも多く存在した証明だ。心の中のナイフ達が暴れ出す瞬間、誰もが自然と自死を選ぶのだろうか?映画『サイレント・シティ・ドライバー』は、心に傷を負ったすべての迷える者(もしくは、死者)に捧げる応援歌と鎮魂歌の要素を併せ持つ作品に仕上げている。全世界のすべての負傷者に捧ぐ。

(※1)【途上国だけではない児童労働】コロナ禍の国際交流を通じて、児童労働のない社会実現へ。国内NPOとダッカ大学が業務提携、初の共同プログラムを実施https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000054579.html(2025年3月24日)

(※2)家族の介護に追われる「ヤングケアラー」知っておきたい現状と問題点https://job-medley.com/tips/detail/12899/#:~:text=%E7%97%85%E6%B0%97%E3%82%84%E9%9A%9C%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%88%E3%82%8B,%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%81%A8%E7%AD%94%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月24日)

(※3)現代における家族の問題と家族に関する教育https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/16youshi/16_57h.html#:~:text=%E4%BB%8A%E6%97%A5%E3%80%81%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%AE%B6%E6%97%8F%E3%83%BB%E5%AE%B6%E5%BA%AD,%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82(2025年3月24日)

(※4)【第2回】共働き世帯が多い台湾の子育て事情とは?https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/feature/201912/25-01.html#:~:text=%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%91%20%E3%80%8E%E7%94%A3%E5%BE%8C%EF%BC%92%E3%81%8B,%E3%81%9F%E3%82%82%E3%81%AE%E3%82%92%E6%84%9F%E3%81%98%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月24日)

(※5)МОНГОЛ УЛСЫН ХЭМЖЭЭНД АМИА ХОРЛОХ ОРОЛДЛОГО, АМИА ХОРЛОЖ НАС БАРСАН ТОХИОЛДОЛ, АРХИ МАНСУУРУУЛАХ БОДИСЫН ХЭРЭГЛЭГЧ БОЛОН ДОНТОГЧИЙГ БҮРТГЭХ МЭДЭЭЛЛИЙН САНГ БҮРДҮҮЛЖ ХОЛБОГДОХ БАЙГУУЛЛАГУУДЫН НЭГДСЭН СҮЛЖЭЭГ ҮҮСГЭХhttps://sudalgaa.gov.mn/X9ELxS(2025年3月24日)

(※6)小中高生の自殺、過去最多527人― コロナ禍以降高止まり : 全世代では減少し、過去2番目の少なさhttps://www.nippon.com/ja/japan-data/h02293/#:~:text=%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%E3%81%8C%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E5%BA%81,%E4%B8%87268%E4%BA%BA%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82(2025年3月24日)