
今年もまた例年通り、大阪アジアン映画祭の季節が訪れた。今年は第20回を迎え、大阪府で開催中。テーマは「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」。第20回の上映作品本数は、新たに67作品が上映される。上映作品の製作国 ・地域は19の国と地域が集結したアジア映画に特化した映画の祭典。世界初上映19作、海外初上映6作、アジア初上映4作、日本初上映31作。3月14日(金)から3月23日(日)までの10日間、開催されている。本映画祭に出品された作品レビューと当日レポートを交えて、少しづつ紹介したい。
映画『おばあちゃんと僕の約束』

一言レビュー:エムは遺産目的で末期患者の祖母の看病を始めるが、厳格で気難しい祖母に手を焼く。毎日一緒に暮らし、早起きし、仕事を手伝い、病院にも行く。祖母に寄り添って日々を過ごすうちにエムの気持ちは変化していくのだった。敬老者の最期の言葉や願い事に耳を傾けた事はあるだろうか?人生のゴールが近付いている老人の遺言は、時に家族親族の結束をバラバラにさせ、時にその約束が家族達の心を豊かにさせる。相続問題や生前贈与、土地権利書は、欲の限りに誰もが手中に収めたい財産分与だ。でも、家族の誰にも奪えない物は個人間(祖母と孫)で交わした約束(※1)だ。この物語は、祖母と孫との交流や財産分与をどう遺族で分け合うかを主題にしているが、本当はその点を見るのではなく、生前に自身の子どもや孫とどのような「約束」をし、それを実行し守る事が大切だと説いているのだろう。孫や子どもに嘘を言ってないか?約束をしていても、それが実行可能な約束なのか?死して尚、約束を守ってくれなかったと、親族からボヤかれる可能性もある。約束事が如何に大切(※2)か、私達は今一度、基本に立ち返る時が今なのかもしれない。約束を守ることは、対人関係においても、仕事においても、社会生活の基本になります。子どもが家族や友人とする約束は、お互いの信頼関係の上で成り立っているもの。ちゃんと守れる約束、実行できる約束こそが、死後も本人の品位が保たれる。他者との関係上、約束を守る事は非常に大切な事とおばあちゃんの姿が語っている。
映画『いばらの楽園』

一言レビュー:恋人と念願のドリアン農園を手に入れ結婚するはずだった主人公。突然の事故で恋人を亡くしてから、恋人の家族に農園をじわじわと乗っ取られてしまう。愛憎入り混じる人間関係に、固唾をのむ。同性愛者の家庭や夫婦が、社会では家族や親族として認められない矛盾と真実。どれだけ共に過ごしても、どこまで行っても、書類上は「友人」だ。当事者にとっては由々しき問題であるが、その外側にいる人間は我関せずの蚊帳の外だ。同性愛の親族ではないパートナーに財産を相続させるには、遺言書を作成し、生命保険や信託契約を活用したりする必要がある(※3)。遺言書を書いていなければ、「友人」である恋人遺族がどれだけ訴えても、社会や司法は味方をしてくれない。財産の相続はすべて、遺族の家族の元に渡って行く。非常に難しく複雑な問題だが、いずれパートナーと呼ばれる同性愛者達にも死者からの財産分与が渡される時代が訪れる事を願う。どれだけ国や法律が同性婚が認めたとしても、そこに相続権や財産分与の規定(※4)が含まれていない。果たして、今の同性婚のスタイルが、正しいのか問いたくなる問題だ。今年、タイでは同性婚(※)が適用されるニュースが報道された。アジアでは、ネパール、台湾に続く3例目だ。ただ現状、同性婚が許されても、財産分与の問題は別問題だ。これは日本国内の現状だが、一方でタイではどうだろうか?タイ社会は性別、性的指向、人種、宗教の多様性を認め、尊重すると話すが、この中には相続権の考え方も盛り込まれており、タイで結婚平等法が可決され、すべての配偶者は、相続権など、法律に基づいて平等の権利と義務を有する(※6)と、法律が定義している。日本の法律もまた、このタイの価値観に一歩でも近付く事を願うばかりだ。
映画『鬼才の道』

一言レビュー:若くして亡くなった、引っ込み思案で地味な女の子。幽霊となった彼女は、人間を怖がらせないと消滅してしまうと知り、恐怖の特訓を始める。本作は、非常に単純明快な台湾のオカルト・コメディで、この作品が公開後、台湾では誰もがホラー映画を怖がらなくなったと言われる、ある種の曰く付きホラー作品。でも、この作品で描かれている死後の世界は、単なるコメディではなく、しっかりとしたドラマ要素も含まれる。それは、生前に何を遺したのか?何を成し遂げたのか?生きている間の自身の行動が、問われている内容だ。死に際に後悔のないよう別れを告げたり、感謝の気持ちを伝えておくことが大切(※7)。大きな事をしなくてもよく、大きな夢を持たなくてもいい。ただ、生きている間に何をしたいか、何をすべきか、どのように生きるかなど、人生の目的や目標、生き方についての考えを持つ事が生きている間に大切な事だ(※8)。生前と死後、どちらが大切か一目瞭然だろう。
映画『「桐島です」』

一言レビュー:連続企業爆破事件に関与したとして指名手配され、49年もの逃亡の末、2024年に70歳で死亡した桐島聡。彼の知られざる半生を、報道・史実を元にフィクションを織り込んで描く。2024年1月25日、日本中に衝撃が走った。およそ半世紀に及ぶ偽名と逃亡生活の末、本名の「桐島聡」と名乗り、苦しみながらこの世を去った連続企業爆破事件の容疑者にして、長年の逃亡犯となっていた「内田洋」と名乗る男が日本の新左翼過激派集団である東アジア反日武装戦線の元メンバーの「桐島聡」であった事は、今の日本社会に70年代当時の暗鬱とした時代の暗澹さを取り戻させたような錯覚を起こさせた。一体、桐島は何をしていたのか?その全貌は明らかになっていないが、70年代当時、彼が何をしたかったのか。それは、大手企業における労働問題の是正だろう。今で言うブラック企業が、当時の社会を支えていた時代。現場に労働人として出向き、その実態を掴もうと秘密裏に活動していた。その怒りの矛先が、旧財閥系企業、大手ゼネコン社屋・施設に爆弾を仕掛けた事件へと発展している。最も有名な事件は、丸の内ビル街爆破事件(いわゆる、三菱重工爆破事件)。他に、三井物産爆破事件、帝人中央研究所爆破事件、大成建設爆破事件、鹿島建設爆破事件、間組爆破事件、オリエンタルメタル社・韓産研爆破事件、間組京成江戸川作業所爆破、間組京成江戸川橋鉄橋工事現場爆破。この一連の動きを上記の連続企業爆破事件と称するが、3つのグループ「さそり」「狼」「大地の牙」が目的としていたのは爆破事件ではなく、大手企業への労働環境への改善を求める活動だったに違いない。この連続爆破事件で多くの犠牲者が出、多くの遺族が今も悲しみの淵にいるのは確かであり、その点は深く考慮したいが、東アジア反日武装戦線が訴えていたのは労働者に対する企業の扱いだ。それは、50年経った今の時代でも、彼らが訴えた事実に変わりはない。今でこそ、労働者への扱いが悪い企業を「ブラック企業」(※9)と呼ぶが、その価値観や考え方は時代と共に変化をもたらし、残業も成長もなく、働き甲斐もない、ホワイトでもブラックでもない「ゆるブラック企業」(※10)が産まれている。時代が変わっても、企業体制は変わらない。桐島はじめ東アジア反日武装戦線の元メンバー達は何をしたかったのか?何を訴えたかったのか?果たして、ビル連続爆破という暴力への選択肢が本当に正しかったのか?その答えは、この先、50年以上経っても出てこないだろう。それでも、一つ言える事があれば、「ブラック企業」「ゆるブラック企業」と呼ばれる会社が存在する限り、この一連の事件の負傷した負傷者のような多くの犠牲者が今後、違う形で現れるだろう。それは身体的負傷ではなく、目には見えない精神的負傷として出現して行くはずだ。いや、今もどこかで、ブラック企業に押しつぶされそうになっている若者達が令和のこの時代に存在している事を忘れてはいけない。
(※1)子育て交換日記 vol.38「母として、孫として、いち人間として。前を向いて進むための、約束の話」https://nextweekend.jp/98387/(2025年3月24日)
(※2)「やくそく」ってなぜまもらなくちゃいけないの?https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/okanenone/shogaku12/sigoto104/otona.html#:~:text=%E3%80%8C%E7%B4%84%E6%9D%9F%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E5%A5%91%E7%B4%84%E3%80%8D,%E3%81%95%E3%81%8C%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月24日)
(※3)同性婚は遺産相続できない?パートナーに財産を残すには対策が必要https://life.saisoncard.co.jp/family/suddenlyinheritance/post/c2025/#:~:text=%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AB%E3%81%BE%E3%81%A4%E3%82%8F%E3%82%8BQ&A-,%E9%80%9A%E5%B8%B8%E3%80%81%E5%90%8C%E6%80%A7%E5%A9%9A%E3%81%AF%E9%81%BA%E7%94%A3%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E3%81%AE%E5%AF%BE%E8%B1%A1%E5%A4%96,%E6%8E%98%E3%82%8A%E4%B8%8B%E3%81%92%E3%81%A6%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月24日)
(※4)同性婚したカップルが離婚したらどうなるのか?https://www.saitama-bengoshi.com/mimiyori/20230707-6/#:~:text=%E8%AA%8D%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%8B-,%E8%B2%A1%E7%94%A3%E5%88%86%E4%B8%8E%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%8B%E3%80%81%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年3月24日)
(※5)23 ม.ค. 2568 วันประวัติศาสตร์ กฎหมายสมรสเท่าเทียมมีผลใช้บังคับวันแรกhttps://www.bbc.com/thai/articles/c1kmv4rr4xzo(2025年3月24日)
(※6)สิทธิ-หน้าที่ “คู่สมรส” 23 ม.ค. กฎหมายสมรสเท่าเทียมบังคับใช้https://www.thaipbs.or.th/news/content/347985(2025年3月24日)
(※7)臨終が近いときの表情とは?立ち合いのポイントや埋葬までの流れを解説https://www.osohshiki.jp/column/article/1671/(2025年3月24日)
(※8)人生の目的とは?人生の目的の見つけ方からおすすめの本まで徹底解説https://minchalle.com/blog/how-to-find-purpose-in-life(2025年3月24日)
(※9)株式会社識学、現代のブラック企業問題の実態の調査レポートを発表 〜働く環境の真実~株式会社識学によるブラック企業に関する提言と注意点https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000101.000029010.html(2025年3月24日)
(※10)働きがいのない「ゆるブラック」企業はなぜ生まれた? 若手を“鍛える”企業に共通する「4つの環境」とはhttps://hrzine.jp/article/detail/5811(2025年3月24日)