映画『蝶の渡り』私達、一羽の蝶のように

映画『蝶の渡り』私達、一羽の蝶のように

かつて、輝いていた若者たちへ。映画『蝶の渡り』

©STUDIO-99

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蝶は、自らの意思で世界の6つの大陸を移動する。蝶は、外からの圧力によって季節の大移動を余儀なくされる事はない。冬から春へ。春から夏へ。自ら季節を選んで、何度も引越しを繰り返す。何らかの見えない力や権力が、蝶の生涯を左右する事はない。でも、人間は違う。戦争や災害、国家の崩壊によって、住む場所も故郷も、財産も家族もすべて奪われ、どこか他所の国に排斥されてしまう。避難という言葉が相応しいが、結局は迫害される運命でしかない。故郷が故郷でなくなった時、祖国が祖国でなくなった時、初めて自国の素晴らしさに気付かされるはず。日本は、移民という概念には程遠い国民性かもしれないが、他の諸外国は何世紀にも渡り、この移民問題に頭を悩ませて来た。どこに行っても自身の居場所がなく、どこの国の人間でもない壁に挟まれ、身動きが取れなくなっている。自らの意思で移民を選択する者もいれば、時の政治や社会情勢によって、否応無しに止むを得ず移民を強いられる人間もいる。この物語に登場する人物は、後者の方だ。映画『蝶の渡り』は、ジョージア独立のために闘った若者たちの27年後の姿を描く。自身が生き抜くために他国へ「渡り」を行うジョージア人の姿を蝶に託しつつ、ユーモアと希望に満ちた眼差しで溢れ出す。自国に残って留まるか、まだ見ぬ未来の為に自国を飛び出すか、その決断は本人次第だ。

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近年、世界中で問題視されている移民問題(※1)は、解決の糸口を見出せずにいる。ここ日本でも、海外からの外国人をどう受け入れて良いのか、常に受容派と排除派の意見が真っ二つに割れている。私は、本当に日本にとって有益(や優秀)な人物であるなら日本に残ってもらい、逆に有害な(他人や日本に迷惑をかける)外国人は残念ながら、彼らの住む自国に送り返しても問題ないと考えている。にも関わらず、外国人は皆、一纏めに見られる傾向があり、どれだけ優秀である人物であろうと、「外国人」という見方だけで、どこの国でも迫害や差別を受けている。それは、日本人も同じで、日本国内における外国人を排除しようとする一方で、外国に足を運べば、アジア人差別が横行している。移民は、非常にナイーブな問題を含有し、一筋縄では問題が解決しない構造を持つ。ソ連崩壊の混乱に巻き込まれたジョージア(グルジア)の当時の若者達と同様に、近年はロシアによる軍事侵攻の混乱で祖国を奪われたウクライナの若い世代が祖国を捨て移民(※2)を余儀なくされている現状がある。ウクライナ避難民は、日本国内でも多く見られ、開戦後、時間が経った今、自国の祖国に戻るか、日本に留まるか選択を迫られているウクライナ人(※3)も少なくはない。また、ロシアにいる不法滞在の移民(※4)がロシア=ウクライナ戦争に駆り出されている現状もまた、看過できない。移民政策に対して、問題が今、複雑化している状況が見えて来るだろう。

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そして、日本人の私達が見過ごしていけないのは、他国に移民する選択を選ぶ人々の想いだ。私達は、彼らの心情を想像し、理解した事はあるだろうか?また、移民をする外国人の視点に立って、物事を想像した事があるだろうか?なぜ、彼らが祖国を捨ててまで、他国に移り住もうと行動する考えに思いが至るのだろうか?たとえば、アメリカ移住を一例として挙げてみると、①様々な文化を持つ人々が一つの国の中で生活しており、一言で「アメリカ」と言っても多種多様な文化がある。②また、マイノリティ(社会的少数派)である移民側の視点を重視する学問分野が盛んに研究されており、それが「エスニック・スタディーズ」③最後に、「アメリカへの憧れ」や「政治的・経済的事情」など、アメリカ移住の動機を与えて、アメリカが自らの手で移民を生み出していると指摘されている点(※5)。アメリカとは全く真逆の経済を持つアフリカでは、どうだろうか?多くのアフリカ人(特に、ナイジェリア人)が日本に移民として渡って来た過去があるが、近年、「移民二世」(※6)と言われている日本とアフリカのハーフの若い世代が、著名なスポーツ選手や他分野の人物として注目を浴びており、アフリカ人移民が「可視化」されるようになって来た。それでも、日本は今、ここ10年ほどの間、長年悩まされている事、それは人口減少だ。少子高齢化の並と共に、結婚を望まない世代、結婚しても子どもを望まない世代も増えてきて、世帯数に対する人口の減少が著しく、どう人口を増加させようかと国策が練られているが、その一番の解決策が移民の受け入れ(※7)である。人口減少への歯止めだけでなく、労働力の確保など、多くの社会課題に対して解決の糸口となるのが、外国人移住者の受け入れだ。それが、2016年頃から課題として挙げられ、2030年、2040年とこの先に続く社会課題を解決する契機となる事を祈りたい。映画『蝶の渡り』を制作したナナ・ジョルジャゼ監督は、あるインタビューにて本作の意気込みについて、こう話す。

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ジョルジャゼ監督:「これは私のお気に入りの脚本、ストーリーの一つです。そしてもちろん、私の全身全霊がこの映画のために生きているのです。」(※8)とジョージア国立映画センターにコメントを寄せたナナ・ジョルジャゼ監督。ジョージア(グルジア)映画の最重要人物にして、レジェンド級の映画監督が、自身の映画人生を全身全霊に賭けて制作した作品は、1990年代における旧ソ連(現ロシア)とジョージアの関係性。歴史や時代、政治に翻弄された若き芸術家達は、ジョルジャゼ監督自身が経験したジョージアを描きたかったのだろう。約30年間のジョージアの歴史における時代の変革を、間近で見て来た監督にとって、この作品は特別な思い入れがあったのだろう。

最後に、映画『蝶の渡り』は、ジョージア独立のために闘った若者たちの27年後の姿を描く。自身が生き抜くために他国へ「渡り」を行うジョージア人の姿を蝶に託しつつ、ユーモアと希望に満ちた眼差しで溢れ出しているが、最もこの作品が伝えたい事は、人間の中の尊厳についてだ。私達は、蝶のように自由に羽ばたける権利を持っているはずだ。自由に労働をし、自由に恋愛をし、自由に文化活動をする。国の弾圧や迫害、国家権力による圧力が、私達の自由を略奪し阻害してはならない。私達人間は、一羽の蝶のように自由に美しく、思いのままに華麗に大空を飛べる羽を持っているはずだ。

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映画『蝶の渡り』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)移民問題とは? 難民との違いや日本と諸外国の移民政策を知ろうhttps://www.worldvision.jp/children/crisis_07.html#d0e9d87eb78fa54e47cd213ca7606442(2025年2月27日)

(※2)ウクライナ難民が牽引するドイツへの移民記録https://etias.jp/%E8%A8%98%E4%BA%8B/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E9%9B%A3%E6%B0%91%E3%81%8C%E7%89%BD%E5%BC%95%E3%81%99%E3%82%8B%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%A7%BB%E6%B0%91%E8%A8%98%E9%8C%B2#:~:text=%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E6%B5%81%E5%85%A5%E3%81%8C,%E3%81%AB%E5%AF%84%E4%B8%8E%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82(2025年2月27日)

(※3)祖国へ帰る人、日本に残る人——ウクライナ避難民それぞれの思い。いまできる支援とは?https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2024/103458/ukraine(2025年2月27日)

(※4)【ロシアが仕掛ける不法移民を使った「ハイブリッド戦争」】欧州で移民懐疑論が高まる実態https://wedge.ismedia.jp/articles/-/35596?layout=b(2025年2月27日)

(※5)なぜ、人々はアメリカに移住するのか? 移民の視点から考えるhttps://yumenavi.info/vue/lecture.html?gnkcd=g008514(2025年2月27日)

(※6)アフリカ日本協議会 -Africa Japan Forum-アフリカから日本への人の移動の傾向 ナイジェリアの当事者団体の組織化Mobility and social network among Africans living in Japan Self-help organizations formed by Nigerianshttps://ajf.gr.jp/https-ajf-gr-jp-africanow113-nigerias/(2025年2月27日)

(※7)「移民」は人口減を救うか 日本の将来を考える4人の視点https://news.yahoo.co.jp/feature/362/(2025年2月27日)

(※8)”Вынужденная миграция бабочек” – Джорджадзе снимает кино о недооцененных художникахhttps://sputnik-georgia.ru/amp/20201210/Vynuzhdennaya-migratsiya-babochek—Dzhordzhadze-snimaet-kino-o-nedootsenennykh-khudozhnikakh-250303247.html(2025年2月27日)