いま、底にある危機。映画『エア・ロック 海底緊急避難所』
エア・ロック。あまり聞き慣れない言葉だろうが、それは気圧の異なる場所を人や物が移動するときに、隣り合う室内の圧力差を調節する機能を持った出入り口として使用する通路、あるいは小部屋を指す(※1)。物資専用の出入り口と、宇宙飛行士(今回の場合は飛行機)が船外活動をする際の出入り口となり、クエスト(※2)がある部分。海底の奥深くに飛行機ごと沈んだ乗員乗客が、この密閉空間に取り残されながら、必死にサバイブしようと悪戦苦闘する姿をディザスター・アクションとして描く。本作の物語は、単なる飛行機事故の様相を描くだけに留まらず、飛行機の墜落と、併せて沈没という予想を遥かに越える未曾有のアクシデントをスリリングに描写している。飛行機の墜落と沈没の事故だけならまだ良い方かもしれず、ここから海底何千メートルにも及び沈没し、狭い空間に数名の乗員乗客が密室に閉じ込められ、その上、巨大なサメの軍団が人間達に襲い掛かる。絶体絶命、四面楚歌、九死に一生という追い詰められた状況で、数々のアクシデントから生き残った者たちが、最後の抵抗かのように、生きようと生きよう、助かろう助かろうと、最後の力を振り絞って、生きる事への生還に向けて、助け合い協力し合う。この極限状態の中で唯一の希望は、生きる事。生き続ける事を願う気持ちを持つ事。誰もがパニック状態に陥りそうな環境下において、目の前で起きている事に対してどこまで冷静に対処できるかが、大切だ。映画『エア・ロック 海底緊急避難所』は、南国メキシコのリゾート地・サボへと向かう旅客機の中。機内には、恋人や友人たちと卒業旅行に向かう女子大生エヴァ、大好きな祖父母との3人旅行にでかけた10歳の少女ローザ、彼氏との同性婚を夢みるCAのダニーロら、それぞれの理由や事情を抱えた乗客や乗員達が乗り込んでいる。しかし、飛行中に鳥がエンジンに激突した影響で機体は高度2万フィートから墜落し、海底に沈んでしまう。生き残ったのはエヴァとローズを含むわずか7人。そして、彼らが生き延びられる場所は、機内のエアロックただ1カ所だけ。生存者たちはそこで救助を待つが、襲い来る水圧や酸欠、そして人食いザメという恐怖に直面する窒息パニックムービー。事故は、いつどこでどのタイミングで起きるか分からない。この作品で取り上げているアクシデントは、バードストライクが原因であった。そもそも、このバードストライクとは何か?少し前の事故ニュースであるが、平成21年1月15日(日本時間16日)。ニューヨークにおいて、USエアウェイズ航空機がラガーディア空港を離陸直後に2台のジェットエンジンが停止し、ハドソン川に不時着水する事故が発生した(正式名:USエアウェイズ1549便不時着水事故。別名:ハドソン川の奇跡)。2台のエンジンからは鳥を吸い込んだ痕跡が、確認されている。この事故のように、航空機が鳥と衝突することを「バードストライク」と呼び、現在でも航空の発達と共に世界的な問題となっている。また、日本国内においても、年間1,000件を超えるバードストライクが発生している。特に、離着陸回数の多い東京国際空港(羽田空港)では、国内における発生件数の約1割を占めていると言われている(※3)。映画は、誰にでも起こりうる現状を描いている。私達は、このような状況に直面した時、どう向き合う必要があるか考えなければならない。
飛行機事故に関連する事故は、頻繁に起きていると推察しても良いだろう。国内外問わず、突発的にどこでも起きているのが現状だろう。たとえば、今年は年明け早々に起きた羽田空港地上衝突事故(※4)は、記憶に残っている方もおられるだろう。令和6年能登半島地震直後の出来事だっただけに、日本中が緊張に包まれた。また、この自己に関連しては、ペットは家族か貨物か論争も巻き起こり、日本社会に一つの問題を産み落とした。また近頃であると、数日前に発生した宮崎空港における不発弾爆発事故(※5)は今も日本中を不安の渦に晒している。戦時中に米軍が落とした不発弾が今でも残っている事も衝撃的な上、それが突如爆発してしまう現状もまた憤りを禁じ得ない。那覇空港でも同様に不発弾が見つかっている報道もあるが、これは国土交通省が全国の空港を一斉に不発弾の有無の調査をすべきではないだろうか?利用者の命を預かる空港で、不発弾の爆発はあってはならない事だ。次に、私達が記憶に残っている(または忘れてはならない)過去の航空機事故を数件、取り上げてみようと思う。たとえば、日本国内で最も甚大な被害を出したと言われているのが、1985年8月12日に起きた日本航空123便墜落事故(※6)だ。当時は、世界で類を見ない大惨事と呼ばれ、乗客乗員含め524名に対して、生存者がたったの4人という結果は今でも無念でならない。他にも、今から65年前の1959年6月30日に沖縄の小学校に米軍機が墜落した宮森小学校米軍機墜落事故(※7)では、住民と小学生含む18人が死亡し、210人が重軽傷を負う大惨事となった。また、同じ沖縄では、事故に関する正式名称はないが、2017年12月13日、午前10時9分頃、沖縄県宜野湾市に位置する普天間第二小学校に米軍機の窓枠が落下した事故(※8)も起きている。他にも、2004年8月13日には、普天間基地を飛び立ったアメリカ海兵隊のヘリコプターが、宜野湾市の沖縄国際大学の構内に墜落して炎上。2016年12月には、名護市の集落の近くに、県民が配備に強く反対してきたオスプレイが墜落(※10)。沖縄でのこの問題は、沖縄が返還された1972年以降、49件発生している。過去、50年間で49件は、1年に1度のペースと考えてもよい(※11)。同じく、米軍機による墜落事故を取り上げるとしたら、1977年9月27日に発生した横浜米軍機墜落事件(※12)、こちらも忘れてはならない。偶然にも、米軍機による墜落事故の過去の事案を多く取り上げたが、日本の民間機もまた同様の事故を起こしているのも事実だ。N93043 「もく星号」三原山事故やJA8764 「ばんだい号」横津岳事故、JA8012 ニューデリー事故(※13)など、多くのJALは多くの飛行機墜落事故を起こしている事。この日本の航空機業界における安心・安全神話を守る事が、今後の課題だろう。
今回の作品では、航空機墜落事故だけでなく、墜落したその飛行機が大海原の海底の奥深くに沈没するという現実に起きたら、悪夢のような出来事も描写している。実際に墜落だけでなく、沈没まで起きるなら、世界中を駆け巡る一大事件になる可能性は高いだろう。でも、こんな偶発的な事案は映画の中だけの話で、墜落後、海に沈没する事は可能性として低く、稀ではないだろうか?でも、飛行機でなくても、実際に船舶が沈没する事件は起きている。たとえば、近年の日本で言えば、2022年(令和4年)4月23日に北海道斜里郡斜里町で発生した知床遊覧船沈没事故(※14)という海難事故は、過去の沈没事故と比較して、犠牲者や運営会社の杜撰な運営業態が取り上げられ、比にならないほどの悲惨さを呈した。また、海外の事故を取り上げるなら、2014年4月16日に韓国で起きたセウォル号沈没事故(※15)もまた、私達日本人にとっても鮮明な記憶として残っているだろう。乗船していたタヌォン高校の生徒325人のうち250人が、犠牲になっている。日本の海難事故で最も古いものなら、記録として残っているものには、653年から839年(白雉4年 – 承和6年)の間に(何度もなのか、一度きりなのかは定かではない)遣唐使船の遭難が記録に残されている。「894年(寛平6年)菅原道真は上表して唐国が衰微していることおよび途中の危険なことを理由として遣唐使をやめるよう請うて許され,その後再び遣唐使が任命されることはなかった。」(※16)また、1954年9月26日に起きた洞爺丸事故、1988年7月23日に起きたなだしお事件、1997年1月2日未明に起きたナホトカ号重油流出事故、1945年12月9日に起きたせきれい丸沈没事故、1940年3月16日に起きた和歌山中学漕艇部遭難事故、1958年1月26日に起きた南海丸遭難事故など(年代順不同)、海難事故は年代や場所を問わず、日本海側や太平洋側で数多く起きている事が、多くの事故で分かるだろう。事故はどこにでも起き、偶発的ではなく、必ず起こるべきして起こる時もある。私達は、この現象をどうする事もできないだろうが、事故は事故として受け止める必要がある。バードストライクによる墜落事故は、世界中で6件起きている。USエアウェイズ1549便不時着水事故、ウラル航空178便不時着事故、エチオピア航空604便不時着事故、オーバーシーズ・ナショナル・エアウェイズ032便大破事故、シーター・エア601便墜落事故、ユナイテッド航空297便墜落事故。日本の民間航空機が今後、バードストライクによって起きる墜落事故が起きない可能性はゼロではない。起きないだろうとは思わず、どこかで必ず起きるという意識を持つ必要があるかもしれない。映画『エア・ロック 海底緊急避難所』を制作したクラウディオ・ファエ監督は、あるインタビューにて本作が70年代のパニック映画へのオマージュについて聞かれ、こう話している。
Claudio:“Oh absolutely, and having seen those movies as a kid; having admired Airport ‘77, The Poseidon Adventure, The Towering Inferno, where the location and the circumstantial location definitely play a huge part in what this is, so of course it came right into this. And of course, like many people, Jaws is one of my all-time favorite movies and without trying to take too much from that, and being in a very different league to that, we did make some subtle homages to that too. I couldn’t resist paying tribute to a movie that’s mad me afraid of the water as a kid.”(※17)
ファエ監督:「子供の頃にこれらの映画を観て、映画『エアポート’77』、『ポセイドン・アドベンチャー』、『タワーリング・インフェルノ』を賞賛していました。これらの映画では、ロケーションや状況が間違いなくこの作品の大きな部分を占めています。ですから、もちろんこの作品にもそれが反映されています。そしてもちろん、多くの人と同じように、『ジョーズ』は私の一番好きな映画の 1 つで、そこからあまり多くを奪おうとはせず、まったく違うレベルの作品ではありますが、この映画にもさりげなくオマージュを捧げました。子供の頃に水が怖くなった映画に敬意を表さずにはいられませんでした。」と話す。70年代の様々なパニック映画を踏襲しつつも、現代風にアレンジしている。航空パニック、水害パニック、動物パニック、巨大建造物パニックなど、様々な要素を一つの映画にまとめた上げた非常に豪華な作品だ。
最後に、映画『エア・ロック 海底緊急避難所』は、南国メキシコのリゾート地・サボへと向かう旅客機が、バードストライクの原因によって、墜落し、海に沈没してしまう航空機パニックの新機軸的な映画だ。海難事故、航空機事故はいつでも、どこでも必ず起きる事を、私達は肝に命じておかなければならない。それでも、未来に起こるであろう事故はまず、航空や船舶と言った交通機関関係者が乗り物への安全性、人の命の大切さ、利益優先に考えるのではなく、それらすべてを守る意識を持って頂きたいと強く願う。また、それらを利用する私達利用者もまた、何が安全で、何が大切かを皆で共に考えて行きたい。明日の命は、未来の命。明日の命は、今日の命。私達は、今を一生懸命、生きなければならない。
映画『エア・ロック 海底緊急避難所』は現在、劇場にて公開中。
(※1)エアロック – JAXA 有人宇宙技術部門https://humans-in-space.jaxa.jp/glossary/detail/000390.html(2024年10月6日)
(※2)クエスト – JAXA 有人宇宙技術部門https://humans-in-space.jaxa.jp/glossary/detail/000408.html(2024年10月6日)
(※4)航空機 衝突事故はなぜ起きたのか その時パイロットはhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20240119/k10014323101000.html(2024年10月7日)
(※5)宮崎空港の誘導路で不発弾爆発、建設前調査も全数発見難しいhttps://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/02039/(2024年10月7日)
(※6)日航機墜落現場を写した私が伝え続けたい記憶37年前の御巣鷹山を取材したカメラマンの写真https://toyokeizai.net/articles/-/365720?display=b(2024年10月7日)
(※7)奪われた幼い命〜沖縄・宮森小学校米軍ジェット機墜落事故〜https://wararchive.yahoo.co.jp/wararchive/ryukyu2.html(2024年10月7日)
(※8)「あの日、私たちの学校で起きたこととは」 米軍ヘリ窓落下事故から6年、事故を知らない普天間第二小の児童らが集会で学ぶ 宜野湾 沖縄https://ryukyushimpo.jp/news/entry-2577387.html(2024年10月7日)
(※9)米軍基地に起因する事件や事故について教えてください。https://drive.google.com/file/d/18LQhj7KEpDGNvW4wu8ltfTZYdPbOMLVv/view?usp=drivesdk(2024年10月7日)
(※11)【図解】沖縄県内の米軍機墜落、49年で49回 復帰後、日本人犠牲者ゼロも危険と隣り合わせhttps://news.yahoo.co.jp/articles/d1565ae9203c49e1c943e2bceed7a9e4a82ba9d7(2024年10月7日)
(※12)米軍機墜落から45年 眠る母子の生きた証し 惨状伝える直筆… 遺族「忘れないで」 横浜の現場近くに資料室https://www.tokyo-np.co.jp/article/205093(2024年10月7日)
(※13)JALグループにおける123便以外の主な事故https://www.jal.com/ja/safety/center/accident.html(2024年10月7日)
(※14)知床観光船沈没、運航会社社長を逮捕 業務上過失致死容疑 海保https://mainichi.jp/articles/20240918/k00/00m/040/125000c(2024年10月7日)
(※15)救命胴衣をつけなかった娘へhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20240515/k10014450121000.html(2024年10月7日)
(※17)Interview: No Way Up Director Claudio Fäh and Star Sophie McIntosh Talk Disaster Moviehttps://www.yahoo.com/entertainment/interview-no-way-director-claudio-141400534.html?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAAN231T_4ETtowuXZqXG36EptCY_IUzLQ4QlPaAySYWQVQXrIT4rGyjAHxtab1bnewx-qyjAxHTNq8nzq5tV6bce4OYJNQrj-WImvlflkBg669sRnxq0HsBesKYPgKEwoevoWcVX6crrA7w6Di3dmTeL6djMmuisBJAzYkHPRYb3d(2024年10月7日)