映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』団結する事への重要性

映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』団結する事への重要性

2024年7月22日

ばいきんまんが愛と勇気の戦士に!?映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV ©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

「本当の正義の味方は、戦うより先に、飢える子供にパンを分け与えて助ける人だろうと。そんなヒーローを作ろうと思った。」

パンの種類の中で代表格となる「あんぱん」を中心に、食べ物を擬人化した日本が誇るアニメーション「アンパンマン」シリーズは、アメリカのアニメ業界を代表するピクサーにも影響を与えたのではないだろうかと思えるほど、あらゆる食べ物が擬人化されて、子ども達のヒーローとして大活躍する姿に、誰もが幼少期に勇気づけられた記憶が思い出として残っているだろう。顔の一部をちぎる姿には複雑な気持ちを植え付けないが、弱い者を守ろうと奔走するアンパンマンの姿勢には、今の世にない「人情」のすべてが詰まっている。アンパンマンが日本のエンタメ業界にデビューしたのは、1968年から1969年と言われている。68年頃からは、まだ普通の人間として描かれ、原作者やなせたかし先生の作品「バラの花とジョー」や「チリンの鈴」に端役として登場しているが、翌69年10月発売の『こどものえほん』内にて、今の原型となる「アンパンマン」の姿として初出として登場している。あれから45年が経過し、今では日本が誇る子ども達の強きヒーローとして長らく日本のアニメ業界の看板として大活躍してくれている。「アンパンマン」というキャラクターが生まれた背景には、やなせたかし先生が若い頃に経験した戦争で感じた悲惨さ、ひもじさ、貧しさ、虚しさを昇華させて、その時の感情をすべて否定する設定のキャラクターを作り上げている。それが、やなせたかし先生が生み出した唯一無二の「アンパンマン」だ。彼は、自身が経験した戦争体験について、こう話している「戦争はとにかく腹が減る。人間いちばんつらいのはおなかが減っていることなんだ。人間、飢えてくると、人を裏切ってでも何とか食べようとする。考えもおかしくなってくる。僕がアンパンマンの中で、描こうとしたのは、分け与えることで飢えはなくせるということです。」(※1)と、自身が幼少期の頃に目の当たりにした戦争での実体験が、アンチテーゼとして今の世に生きる子ども達を鼓舞する願いが込められている。そんなやなせたかし先生の願いを引き継いで今年も制作されたアンパンマンの劇場版最新作『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』は、1冊の絵本を見つけたばいきんまん。絵本の中から助けを求める声が聞こえたかと思うと、絵本の中に吸い込まれ、そこで森の妖精ルルンと出会う。怖がりで勇気が出せないルルンは、森で大暴れする「すいとるゾウ」をやっつけてほしいと懇願され、嫌がりながらも、悪役すいとるゾウに立ち向かう姿が描かれる。かくして、バイキンマンは、正義の味方であるアンパンマンなしに立ち向かう事ができるのか、これはアンパンマン立っての願いを叶える事ができるのであろうか。

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

劇場版『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』は、劇場版アニメーションでは1989年に初めて制作、公開された映画版『キラキラ星の涙』から数えて通算35作目、35周年目にあたる記念碑的作品だ。この35年の間には数々の名作も生まれており、1999年公開の『勇気の花がひらくとき』2006年公開の『いのちの星のドーリィ』2001年公開の『ゴミラの星』2012年公開の『よみがえれ バナナ島』そして、2002年公開の『ロールとローラ うきぐも城の秘密』(※2)などが、挙げられる。『よみがえれ バナナ島』では、2011年3月11日に起きた東日本大震災への復興の願いを込めて作られた背景もあるそうで、その時代その時代に起きた時代背景も作品に盛り込んでいるあたり、子供向けアニメと侮らず、大人の心の琴線にも触れる何かがあるのではないだろうか?近年では、2018年年公開の第30作『かがやけ!クルンといのちの星』2019年公開の第31作『きらめけ!アイスの国のバニラ姫』2021年の第32作 『ふわふわフワリーと雲の国』2022年公開の第33作『ドロリンとバケ〜るカーニバル』2023年公開の第34作『ロボリィとぽかぽかプレゼント』と、軒並み名作を制作、公開し続けている。アニメシリーズは、1988年10月からテレビ放映が始まり、2018年には30周年、昨年の2023年には35周年を迎え、今の祖父祖母世代から若手の父親母親世代、そして幼い孫世代、親子三世帯に跨り、アンパンマンは日本中の家族層、親子層から絶大な人気を獲得し、今もその人気は衰え知らずだろう。劇場版シリーズは、今作で35本目に到達し、ある種、シリーズにおける分岐点、ターニングポイントを迎えていると、私は考える。本作におけるバイキンマンの立ち位置や活躍度合いは後に後述するとして、今までのイメージを覆す物語やキャラ設定が今、注目を浴びているのだろう。善が悪を倒すお約束の勧善懲悪の世界で、悪が悪ではなく、あくまで善として活躍する姿には、エールを送りたくなる事必須だ。アンパンマンが強いのか、バイキンマンがずる賢いのか、またはそれぞれがそれぞれの力関係で、経済が発展するのではなく、両者が団結する心強さこそが本作の30数年目の魅力であり、35作目の真実だろう。この団結力は、何年にも何作にも架けて、両者が育んだ絆以上の何物でもなく、30年以上、苦楽を共にして来た彼等の証が、本作で見事に花開き表現されていると見て取れる。この点を踏まえて、本作の世界観に没入すれば、自ずと新しい発見を得られるはずだ。

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

先程、後述すると書いた本作におけるアンパンマンの宿敵であるバイキンマンの大盤振る舞いのような大活躍について、触れて行きたいと思う。今回の作品における目玉のひとつには、やはりバイキンマンが主役である事。30数年間、メカを作っては壊され、アンパンマンにアンパンチでコテンパンに倒され、それでも、自身が持つ力を信じ、不屈の精神で立ち向かって来た。それが、やっと彼自身の能力として認められて、作品の大骨となる主役に大抜擢されたのは、大出世の他ないだろう。ここまで出世できてしまうのは、奇跡としか言いようがないかもしれない。準主役ではあったので目立ってはいたが、それでも今まで、アンパンマンという主人公の陰日向で毎度毎度、泥水すすって負け続け、本人自身はその負けすらも認めないほど、いつもアンパンマンに闘いを挑んでいた訳だ。スポーツの世界で言えば、0勝300敗の世界線だ。いや、もしかしたら、それ以上の数を誇れるほど、負け続けているかもしれない。勝ち知らずのバイキンマンが、35年目にして初めて、協力性や協調性を自ら育もうとする姿勢には、幼児教育における基盤があるのかもしれない。幼児教育における協調性(※3)は、どの時代にも課題として保育現場、教育現場、家庭環境で必要視されており、今回のバイキンマンの立ち振る舞いは、非常に良いお手本になると信じたい。他者との協調性や協力性は、幼児教育における現場だけでなく、学校教育における場面でも重要視されているのは、周知の事実だろう。グローバル化、多様性と叫ばれる時代となった令和時代の現代、アンパンマンやバイキンマンが自らの意思で自身の想いを発信する事が大切であると諭しつつ、それがまだ、実践できていない現状に対して、急務の課題として幼児教育や学校教育の大きな壁となっている事だろう。劇中「大切なともだちは、いつも心の中にいる」と諭すアンパンマンの心情は、いつも仲違いするバイキンマンへの尊敬の念と気遣いから来る真実の言葉なのだろう。バイキンマンとしても、あれだけ協調性もなく、宿敵アンパンマンを打倒する妄想ばかりで脳が充溢していたにも関わらず、なぜ今回だけ、今までとは違う考え方を持てたのか?それは、昔からずっと、アンパンマンへの親密な関係や友好的な関係性を内心、求めていたのだろうとも読み取れる。この両者の対立する関係性の背景には、互いを同じヒーローとしてリスペクトする人としての心の温かみをずっと昔から保有していたのだろう。だからこそ、今回のバイキンマンの行動が自然にできたのは、昔からバイキンマン自身がアンパンマンと仲良くしたかったのだと、受け取り捉える事もできるであろう。本作『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』を監督した川越淳さんと脚本を担当された米村正二さんが、あるインタビューにてバイキンマンというキャラクターについて、こう話している。

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

米村:「川越監督とプロデューサー陣で打ち合わせをする中で色々な意見が出ましたが、まとまらなかったものですから、僕が一度受け取って、ざっくりとしたプロットを書いてみることになったんです。みなさんのご意見をまとめたものを作ろうとしたんですけど、なかなか難しくて……。そこで全く違う発想を思いつき、ばいきんまんがゲストキャラクターを励まして、物事を解決していくストーリーを考えてプレゼンしたところ、「そのラインで行こう」」

川越:「ただ、バイキンマンはもともとはメカの人ですから。あの世界には恐らく木と少量の鉄しかないので、やむを得ず「ウッドだだんだん(ルルンとばいきんまんが協力して生み出した木製のメカ)」を作るという。それには何が必要かというところから考えて、いちから組み上げていくんです。」

米村:「普通にバイキン城にいたら、恐らくかびるんるんにやらせていますよね。頭は良い人なので、自分が楽をしても事が成しえるなら、そうすると思います。でも、ああいった何もない世界へ行った際には、自分がやらざるを得ない。最初はバイキンUFOもないですし、そういう時は自分でやるということですね(笑)。」(※4)と、初めて主役を張るバイキンマンが、過去から現在まで愚直に頑張り、苦労して、アンパンマンに勝つためにモノづくり勤しんだ経験が、今回の行動にも直結しているのだろう。近年、DIYブーム(※5)が日本国内にも広がっているが、日曜大工ばりにモノづくりに励んでいたバイキンマンは、このDIYブームの先駆けであり、先駆者の卵だったのかもしれない。バイキンマンの姿からモノづくり(モノづくりは、日曜大工やDIYだけでなく、芸術の分野もまた、モノづくりの世界だ。少しでも映像制作にも興味を持ってもらえる未来が来て欲しい)の素晴らしさを、今の、そして、これからの子どもたちにも浸透して行く事を願うばかりだ。

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV
©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

最後に、映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』は、絵本の世界に迷い込んだバイキンマンが、主人公として思わぬ活躍を見せる冒険活劇の一面を覗かせながらも、人を大切にする喜びや重要性を学べる物語にもなっている。私自身、ここ数年、アンパンマンの劇場版にはお熱を上げて、隠れて応援している。その背景には、制作陣達の並々ならぬ苦労と努力、そして、純粋に多くの子ども達がアンパンマンのアニメを通して、楽しんで欲しいと願う取り組みに強く賛同し、惹かれているからエールを贈りたくなる。その取り組みとは、「お子様の映画館デビューを応援しています!」と銘打ち、4つの映画デビュープログラム(※5)を用意している。①歌ったり、踊ったり親子で一緒に楽しめるパートもあるよ!②泣き出したり、途中退出しても大丈夫!③上映中もまっくらじゃない!場内の照明は明るめ!④短めの上映時間(約60分)とやさしい音量。と、こんなにも素晴らしい取り組みをしているにも関わらず、このプログラムがまだ、一般層に届いてないと実感している。ここ数年、映画館に通って、アンパンマンの劇場版を大人一人で鑑賞したが、「アンパンマンで映画デビュー!」の考えが、もっともっと社会に浸透して欲しいと強く願い、少しでも広まるのであれば、レビューを書きたいと思わされた。制作陣だけが取り組むのではなく、興行や劇場主、また観客である私達大人が、率先して取り組めるようになれればと願う。昨今、映画文化の灯が消えつつある今、このような取り組みが必ず未来に実を結ぶのではないだろうか?また、今回の作品では、常に仲違いしていたアンパンマンとバイキンマンが力を合わせて、問題を解決する姿には、今世界中で求められている人同士の「団結」という言葉が似合う。悪役で準主役であったバイキンマンには、長年、この「団結」という二文字の言葉が無縁状態であったが、今では彼の姿を通してその重要性が語られる。近年、あらゆる場面、あらゆる分野で「分断」が起き、社会の至る所で分断社会(※6)が問題となっている。大国で行われている大統領選でも、立候補者の前大統領が「団結を!」と、聴衆に呼びかけている。だから、今こそ、戮力協心の精神を大切にし、差別や格差に立ち向かわなければならない。かつて、悪役であったバイキンマンの姿は今はなく、日本の多くの子どもたちに、どんなお友達であろうと共に協力して、事を成し遂げる為の手段を提示している。私達大人もまた、アンパンマンやバイキンマンには負けず、自身のこの大きな背中で子どもたちに教え示して行かなければならないだろう。

「世の中というのは、決して静かにならない。その中で、我々は日々、生きていくわけです。一寸先はなんだかわからないけれど、生きていくのが我々です。それが人生なんです。」

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV ©やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024

映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)アンパンマンは作者・やなせたかしさんの戦争体験から生まれた?https://nazeikiru-web.com/news/kantou2008-2/(2024年7月18日)

(※2)大人も絶対楽しめる!オススメのアンパンマン映画BEST5http://musebinaki.com/2015/08/21/anpan-movie-2/(2024年7月20日)

(※3)現代における「協調性」の意味とは?協調性が高い子どもの親の関わり方は、ココが違った!https://benesse.jp/kosodate/202202/20220209-1.html(2024年7月22日)

(※4)映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』監督・川越淳さん&脚本・米村正二さんインタビュー|「今作でのばいきんまんの姿を見て、元気づけられる人はいるんじゃないかなと思っています」https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1719316695(2024年7月22日)

(※5)はじめての映画はアンパンマン!https://anpan-movie.com/2024/debut/(2024年7月22日)