映画愛の行方は。映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』
僕は、映画が好きだ!三度の飯より映画だ!寝ても覚めても、映画の事しか考えていない。映画、映画、映画。人生の9割以上は、映画でできている。レンタルショップで働いた事がある人も、そうでない人も含めて、全映画ファンに捧ぐ、映画民の為の作品だ。今、日本では「レンタル」という言葉が死語(※1)となって来ている昨今、アメリカ映画がレンタルDVDを題材に作品を発表するのは非常に驚きを隠せない。なぜなら、米国のレンタル業界の最大手ブロックバスター(※2)は日本よりも早く見切りを付けて、さっさと撤退したからだ。同社は、1985年に設立後、成長を遂げ、2004年のピーク時は6万人以上の従業員で、9,000店舗以上展開していたが、2013年11月6日に倒産している。また、アメリカで第2位のシェア率をり、1988年に創業開始されたハリウッドビデオは、2010年には既に廃業していた。日本で言うならば、株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と株式会社ゲオホールディングスが展開する日本が誇るレンタル業界のトップシェア企業TSUTAYAとGEOが、早い段階からさっさと事業を撤退させたというイメージだろうか?2025年現在、日本はビジネスとしてレンタル業は縮小したが、まだ一部では残っている。米国の場合、社名まで消えてしまったが、日本はまだTSUTAYAとGEOは従来のレンタル形態の主流から方向性を変えて、この社会で生き残ろうとしている。TSUTAYAはカフェや書籍に。ゲオは、モバイルや買取をより強化し、生活用品を導入しようとしている。将来は、TSUTAYAは図書館に、GEOはドラッグストアにビジネス転換しようとしているのか?今、世界中でエンタメに対する見方が変わりつつある。それは、ITやネットの台頭が私達の生活を後押ししている。映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は、レンタルDVD全盛期の2003年カナダを舞台に、他人との交流が苦手でトラブルばかり起こしてしまう映画好きな高校生の奮闘を描いた青春コメディだ。海外では、2010年前後からレンタル業界の撤退が始まったと考えると、その10年後にあたる今から見た20年前の2000年代を描くのは、懐古的な側面から来ていると考えられる。アメリカやカナダにとって、レンタルは既に昔懐かしい思い出を思い起こすツールに過ぎないのだろう。
次に、ここではレンタル業界の昔懐かしいあれこれを書き綴りたいと思う。と言うのも、僕自身が現役でレンタル店舗に勤める最後の生き残りだからだ。日中は、ライター業を中心に日本の映画業界の片隅で映画普及活動に勤しんでいるが、ひとたび、深夜になると夜勤アルバイトとして地元のGEO店舗での就業が始まる。僕が、客としてレンタルに出会ったのは、恐らく、1990年代初期だ。TSUTAYAが、業務形態を伸ばす90年代後半の日本の黎明期に親と一緒に家族でお世話になっている。小学生、中学生、高校生を通して、近所のレンタルショップを利用していた。その期間の間に映画好きになった僕は、大学生の頃に地元のTSUTAYAのアルバイト面接を受ける。結果は惨敗であったが、その頃から自分のレンタルカードを発行し、バイトで稼いだ給料を握り締めて、毎日レンタルを繰り返した。そして2008年、僕にとって、大きな転換期が訪れる。21歳の大学生の頃、僕は僕は、アルバイトでTSUTAYAで勤め始めた。まだ、日本のレンタル業界が全盛期だった頃、世代で言えば、レンタル界が最も隆盛を誇った最後の年代だ。そこから、20年近く、今も低迷期は続いている訳だが、僕が21歳から今まで勤めたレンタル業界での勤務は、毎日映画に触れれて、楽しい一時であった。接客業でもあったので、仕事は非常にキツかったが、好きな映画のコメントを書いたり、好きな作品の商品陳列したり、コーナー展開を作ったり、そして何より好きな作品を沢山鑑賞し、映画の知識はTSUTAYAで学んだ。非常に大切な時期だった。20代でのTSUTAYAの経験がなければ、今のライターとしての僕の存在はなかっただろう。今振り返ってみても、楽しかったが多くを占めるが、それでも大変だった思い出もある。僕が初めて働いたTSUTAYAでは、レンタルの洋画専門スタッフとして働き、海外テレビドラマの「フリンジ」盛り上げ隊に認定されたり、映画『Dr.パルナサスの鑑』の売り場展開を任されたり(この時は、店から予算をもらって、通常の業務展開から煌びやかに装飾を展開できた)、この時から来店客に向けたスタッフレコメンドとしての商品コメントを書き始めたが、まさか自分がこの延長として映画レビューを書く人間として将来活動するとは、考えもしなかった。最も、思い出に残っている作品は映画『ラ・ラ・ランド』だ。地区全体で競う売り場展開に店舗として出場し、全体の3位入賞した。他に、テオ・アンゲロプロス監督やアレハンドロ・ホドロフスキー監督の特集コーナーやアカデミー賞の時期に合わせて、歴代第1回の作品から揃えたアカデミー賞特設コーナーも自作で作成した。結果的に、学生アルバイトから初めて店舗の店長にまで駆け上がったが、映画業界の道が諦め切れず、キャリアを捨てて、今は本格的にシネマ・ライターの道を選択した。これが吉と出るのか、正解なのか分からないが、ただ僕はこの映画に登場する青年のように映画が好きという事実は変わらないだろう。
先程、アメリカにおけるレンタル業界の浮き沈みについて書いたが、本作『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』の舞台は、カナダだ。では、カナダにおけるレンタルDVD事情は、どうだろうか?カナダのレンタル屋(※3)は、そもそも少ないと言われている。あるフリーの掲示板(基本、信憑性のないネット掲示板は引用しないが、2010年代当時のユーザー達の生の声を目にする良い機会と引用する)で、「バンクーバーにはTSUTAYA的なレンタルDVD屋さんは無いのですか?」というスレが掲示板に立てられた。その中身の返信は、当時のレンタル業界撤退の生々しさを物語る。一部、抜粋しようと思う。「ロジャーズやブロックバスターズが有ったんですけどね。ブロックバスターズは全店舗閉店。ロジャーズもアビュータスに一店舗残して、後は全部閉店したはず。このご時世、レンタルは経営難のようです。去年の話です。」「昔はたくさんあったんですけど、バタバタ無くなりましたね。レンタルの自動販売機みたいのが、セブンイレブンとかにあったような気がしますが、今の時代、わざわざ現物のDVDを借りて返しにいく人は少数でしょうね。今はオンラインのレンタルが主流だと思います。」「ウォールマートとかに行くとDVD$5で売ってる時世だからレンタル屋はここ最近なくなりましたね〜。もしあれだったらトピ主さん、Netflixとか契約したらどうでしょうか?月$8でパソコンやTVで映画見放題ですよ。ネット上でのレンタルな感じかな」これが、当時のユーザーの声だが、2010年代初期のレンタルからネットに移り変わる世間の流れが少しばかり理解できるだろう。幼い頃からレンタルに慣れ親しみ、学生期から現在に至るまで、日本のレンタル業界の実情を瞼の裏に焼き付けた僕にとっても、この2010年代初期に起きた海外でのレンタル業界衰退から撤退の流れは、どこか物悲しさを感じて止まない。レンタルはもう、オワコンか?映画はもう、オワコンか?「スクリーンで映画を観る」「レンタルして映画を観る」という鑑賞スタイルが崩壊しつつある今、映画という価値が人々の何にあるのか、考えなければならない。時代の流行り廃りがある中でレンタル業界は淘汰されてしまったが、その根本にある映画そのものは時代の流行り廃りとは少し身を離して、エンタメや娯楽、文化や芸術としても未来に残していく素晴らしい媒体だ。僕が、レンタル業界の全盛期に働いた時代から早10年以上が経過した日本社会において、人々から求められるコンテンツが変わりつつある今、もう従来の上映スタイル、鑑賞スタイルでは今の世間にはそぐわなくなっている。映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』を制作したチャンドラー・レバック監督は、あるインタビューにてこれから映画を作ろうとする若者達に向かって、こう話している。
レバック監督:「自分に何ができるかが問題だと思います。ハイコンセプトの宇宙映画を作れる時期ではないかもしれませんが、おじさんがすごく面白い家具店を経営していて、すごく雰囲気が良くて、町に映画に向いていると思うすごいコメディアンがいるかもしれません。それがこの映画のインスピレーションでした。誰を知っているか?長編映画を持続できる良い環境は何か?自分の持っているリソースでそれをどう実現できるか?低予算や制限は、実際には多くのクリエイティブなアイデアを刺激することが多いと思います。それらを自分の強みにする必要があります。ロケ地を書いたり、知り合いのために何かを書いたりすると思います。映画には100万ドルくらいの費用がかかり、50人くらいのスタッフと有名人の出演が必要だと考える人が時々いると思います。しかし、毎年、本当に低予算で、キャリア全体をスタートさせたり、本当に素晴らしい俳優を紹介したりする映画が6、7本作られています。そして、私にとっては、これは、私がこれから作る4つの素晴らしいシーン、またはこれまでスクリーンに映ったことのない瞬間が何なのかということの方が重要だと思います。初めての映画で100万ドルの超大作を作らなければならないと考えるのではなく、興味深いコンセプトやキャラクターを持つ、私が書ける素晴らしい包括的な脚本とは何かということです。」(※4)と話す。今すぐ、大掛かりな大きな映画は作れないにしても、まずは小さな日常の出来事を小さくても形にする事が、実績作りの最初の一歩として相応しいであろう。この監督の言葉は、僕にとって、非常に刺さる言葉だ。去年一年間、私は映画文化の乏しい地元での野外上映イベント開催に向けて、奔走した一年だった。結果として、すべての関係者から「Noノー」を突き付けられ、大きな挫折を味わった。そう簡単に上手く事が運ぶとは思えないが、それでも、全方位から完全否定のノックアウトされるのは流石にこたえた。一発ドカンと大きい打ち上げ花火を一発目に打ち上げてもいいじゃないかと言いたいところだが、メインディシュは最後まで取っておかないとダメなのか?それでも、僕は諦めない男だ。今は、小規模ながらも、地元でイベントが開催できる場所を模索している。
最後に、映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は、レンタルDVD全盛期の2003年カナダを舞台に、他人との交流が苦手でトラブルばかり起こしてしまう映画好きな高校生の奮闘を描いた青春コメディで、この物語に登場する主人公の陰キャの拗らせ男子は、僕自身そのものだ。初めてレンタルショップで働き始めた頃のあの頃の自分をフラッシュバックさせてしまいそうだ。あの頃は良かったと懐古主義に身を投じたくないが、良かったと思えるあの頃を今の時代に再現したいと心から切実に願う。その為に、僕自身は何をどうすれば良いのか毎日暗中模索の日々だが、一つ明確な事がわかっているとすれば、それでも、やっぱり映画が好きという事だ。この一言に尽きる。
映画『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)レンタル業界の市場動向と今後の課題|解決につながるソリューションを紹介https://www.cloud-for-all.com/bizapp/blog/trends-and-issue-in-rental-industry(2025年1月14日)
(※2)現在も営業が続いている「ブロックバスター」最後の店舗 ドキュメンタリー監督に話を聞くhttps://eiga.com/extra/hosoki/1/#google_vignette(2025年1月14日)
(※3)バンクーバーにはTSUTAYA的なレンタルDVD屋さんは無いのですか?https://bbs.jpcanada.com/log/11/25695.html(2025年1月14日)
(※4)Interview with Chandler Levack – Director of ‘I Like Movies’https://www.filmslop.com/interviews/chandlerlevack(2025年1月14日)