映画『これからの私たち All Shall Be Well』「これから」の未来を作る事

映画『これからの私たち All Shall Be Well』「これから」の未来を作る事

愛と家族の定義を問い直す映画『これからの私たち All Shall Be Well』

©2023 Mise_en_Scene_filmproduction

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寄り添うとは、何か?添い遂げるとは、何か?共に人生を歩み、共に愛を育み、共に思い出を作る生涯の豊かさが、寄り添い添い遂げる事かもしれない。人々が思う家族の形はそれぞれにあり、子どもを授からず老夫婦だけでひっそり暮らす人、大家族に囲まれて賑やかに過ごす人、父親か母親の片親家庭で少し侘しく暮らす人、人の数だけ家族との過ごし方、人生の生き方は違って来るが、そこに同性愛者として仲睦ましく人生を生きる男性(女性)同士だけの暮らしも価値観の中に入れてあげて欲しい。誰もが、幸せに暮らせる豊かな社会を実現するのは、困難だ。誰かが口では「豊かな〇〇にする」と叫んでいるけど、それは口先だけのハッタリであり、本当に豊かな社会になっているなら、誰もが平等に老後の人生を幸せに歩めているのでは?世界全体を通して、今の社会のどこに豊かさがあると言うのだろうか?これを口にすればする程、豊かさとは程遠い真逆の世界が構築される。犯罪、差別、偏見、拒絶、迫害など、人の心が卑しく思える考え方ばかりが横行し、同性愛カップルの当事者達のようなマイノリティの方々が自身の行き場を失って行く。映画『これからの私たち All Shall Be Well』は、長年連れ添ったレズビアンカップルが、パートナーの急死によってさまざまな問題に直面する姿を描いたドラマだ。単に、同性愛というだけで世間から白い目で見られるだけでなく、様々な社会の問題に直面しながら、共に乗り越えて行く姿を描く。

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香港における同性愛事情は作品の中で描かれている通りかもしれないが、映像だけでなく文面からも補えたらと考える。まず、近年の香港において衝撃的な出来事は、昨年2025年の9月に裁決されたパートナーシップ法案が否決(※1)に終わった事だろう。香港社会では、未だに同性愛者における婚姻やパートナーシップに関して否定的であり、国全体も保守的な姿勢を貫く。この香港の姿勢は、いつから続いているのだろうか?香港の同性愛やLGBTQ+権利に対する保守的な姿勢は、歴史的に見て1842年の英国植民地化以来、中国の伝統的な家族観と宗教的な価値観に基づいて形成されて来た歴史がある。 具体的に保守的な「法律」や「社会意識」が注目され始めた背景と時期を時代を追って判断したい。1. 同性愛に対する「保守的」な規制と意識の転換点において、1842年から1991年(植民地時代)にまで遡れる。まず、男性間の同性愛行為は法律で犯罪とされ、長年にわたり厳しい保守的な規制下にあった。また1991年には非成人男性間の同意に基づく私的な同性愛行為が非犯罪化されたが、この時点でも21歳未満の同性愛行為は違法とされ、依然として保守的な姿勢が残った。続く2005年の意識調査(※2)では、回答者の39%が「同性愛は地域社会の道徳に反する」、42%が「同性愛者は心理的に正常ではない」と回答し、2000年代初期でも社会的な保守意識が根強かったと言える。2. 2010年代〜2025年の近年の司法と議会の動向機には近年、LGBTQ+の権利拡大が進む一方、立法会(議会)では保守的な意見が依然として強い影響力を持つ。それが、2025年9月の上記の否決問題へと流れている。また2013年時点の受容度における調査では、、同性婚を支持する市民はわずか38%しかなく、2023年〜2025年(保守的な動きの継続)の近年では、2023年の最高裁が同性カップルの権利保護を認める判決を出したにとも関わらず、2025年9月、上述のように香港の立法会は同性パートナーシップを認める法案を圧倒的多数で否決した現代香港社会を象徴する出来事が起きた。この否決の際、多くの議員が「伝統的な家族の価値観を壊す」といった理由で反対しており、政治的社会的保守的な意識や意見は現在も根強く残る状況。この背景には、恐らく、中華系の思想にある家族を大切にする文化から波及していると思われる。結論として、香港のLGBTQ+に対する保守的姿勢は、1842年の英国植民地化に由来し、1991年の同性愛非犯罪化以降も、社会文化的背景(儒教とクリスチャニズム)から2000年代以降も根強く、現在(2025年時点)も立法面でその傾向が引き継がれていると言える。 一方、若年層や社会全体では同性婚への支持が60%(2023年時点)に達するなど、急速に自由化や受容が進んでいる側面があり、司法の判断と議会の対応に温度差がある「複雑な現状」にあると言える昨今。 およそ、200年近く香港は同性愛問題に対して受容的ではなく、自らの古くから続く中華的文化を最優先に大切にしようとする思想と動向が見られる。香港における同性愛問題に関して、香港人はいつ解決の糸口を見つけるのだろうか?では、1842年以前の香港の歴史(※5)において同性愛の立ち位置は、社会の中でどう変動があったのだろうか?1842年の南京条約によるイギリスへの香港島割譲(植民地化)以前の香港は、中華帝国の広東地方の一部であり、同性愛に対する認識や社会構造は、その後の西欧的規範とは大きく異なっていたと言える。たとえば、1842年以前の香港(主に清朝時代)における同性愛的傾向と社会状況のポイントがいくつかある。「同性愛」という概念の不在と性的行為の受容が存在し、当時の同性愛は「同性愛者」という固定的な「アイデンティティ」としてではなく、男性(同性)同士の性的関係(行為)として認識されていた。伝統的な中華社会では、婚姻(異性間)が家系存続のために重視されていた一方、同性間の性行為自体は家族の絆を脅かさない限り、必ずしも極端な犯罪や精神疾患とは判断されず、ある程度の寛容性があった。また中国の歴史上、同性愛は「南風」と呼ばれる「南方」の風習とされ、同性間の関係は時として「南風」と呼ばれた。香港は、地理的にこの地域に含まれ、上記のような文化的背景を持っている。次に演劇界と男性間の愛では、1842年以前、演劇はすべての役割を男性が演じ、女性役(女形)を演じる俳優と、その男性の庇護者との愛の物語(男色)は一般的に見られていた。儒教的価値観との共存において、家庭を中心に家系を残すという儒教的な価値観(孝)が絶対的であり、男性は同性愛的な指向を持っていたとしても、公的な場(結婚)では異性愛的な生活を演じ、私的な場(隠れた関係)で男性同士の関係を持つ生活スタイルが一般的でもあった。改めて、1842年以降の植民地法によって、社会の価値観が一変したと言える。イギリスの植民地法(コモン・ロー)が導入され、それまで「公にはされないが存在した」とされる関係が犯罪化され、最高終身刑に処されるなど、西欧的道徳が持ち込まれた事により、同性愛は「違法」な存在と見なされた。 このように、1842年以前の香港は、中国における伝統的寛容と制約が混在する社会(※6)であり、同性愛は特定のアイデンティティではなく、生活の一部(習慣)として存在していたと考えられる。 

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香港の現代社会における同性愛に関する状態は、上述の内容で少しは理解できたと思うが、では同性愛を通した日本と香港の関係性はどうだろうか?日本と香港の同性愛に関する関係性は、両地域共に法律婚は認めていないものの、司法判断による権利拡大の動き(特に香港側)と、地方自治体レベルのパートナーシップ制度(日本側)という、それぞれ異なるアプローチで同性カップルの権利保護が進んでいる共通点がある。両国共に、アジアにおけるLGBTQ+の権利推進(※7)において重要な位置を占める一方、法的な強制力や社会的な承認の度合いには差があると言われている。 いくつかの主な比較・関連点が指摘されており、その点から見えて来る香港と日本の関係性が浮き彫りになるだろう。同性婚と法的承認の現状において香港では、同性婚は認められていないのは周知の事実だ。最高裁判所が、同性パートナーシップを認める判決を出し、2023年には海外で婚姻した同性カップルに相続や医療決定などの権利を認める判決が出された。2025年時点、さらに限定的な権利(入院、遺体引き取りなど)を認める法案が議論されている。一方で日本では、法律婚は認められておらず、国レベルでの法整備が進んでいないのが現状だ。だがしかし、2025年5月時点で530以上の自治体が同性パートナーシップ制度を導入し、人口の9割以上をカバーしている社会となる。この両国の両者の違いにおいては、香港は「司法判断主導」で、海外で婚姻したカップルに対する限定的な権利が認められやすい傾向にある。他方、日本では「地方自治体主導」で、同性関係を認証する制度が普及し、司法も違憲判決を連発しているが、国による抜本的な法改正はまだ、両国共に実現していない。社会的背景と権利運動の狭間で、2つの国は同性婚の問題に悩まされている。香港と日本の類似性において、両者とも保守的な家族観(異性婚重視)が残る一方、都市部を中心に若年層やビジネスコミュニティでのLGBTQ+受容が進んでいる。また香港の特性では、アジアの国際的金融センターとしての地位を維持する為、LGBTQ+の権利拡大が人材誘致の観点からも重要視されている。日本の特性においては、「パートナーシップ制度」という形式的行政的アプローチが先行し、同性カップルに対する「ファミリー」としての社会的認識を徐々に高めている。 日本・香港間の両国の関連性は、比較研究の対象では、同性パートナーシップの法的承認、家族研究において、日本と香港はアジアの他の地域(台湾など)とともに比較研究の対象となる事が多く、日本から見た香港、香港から見た日本の両者の視点から同性愛問題を紐解くのは正しい見方でもある。香港日本間の移動の自由においては、国際的なビジネスハブでもある香港と東京では、同性カップルが移動する際、互いのパートナーシップ認定が海外でどの程度通用するか、また税制やビザ(配偶者ビザ)が適用されるかが実務上の課題として残っている。香港での法的な勝利(最高裁での限定的な権利承認)は、日本の性的マイノリティ権利活動家にとって、司法の力を利用する事例として意識されており、法廷闘争の影響力を物語る。そして、2025年現在の香港と日本の同性愛者における権利動向(※8)では、同性カップルに限定的な権利を与える法案が立法会で審議されているが、依然として全般的な結婚の平等には至っていない香港。複数の高等裁判所で同性婚禁止を違憲とする判決が出るなど、最高裁の最終判断に向けた動きが加速し、国会での法改正の必要性が高まっている日本。両者の日本と香港は「結婚の法的な平等」という究極の目標を共有しつつも、異なるアプローチで同性愛関係の法的保護を徐々に確立している関係にあり、この2カ国の同性愛権利や同性婚における受容が進めば、アジア諸国だけでなく、世界の同性愛に対する見方は大きく変わると推察できる。映画『これからの私たち All Shall Be Well』を制作したレイ・ヨン監督は、あるインタビューにて本作の中年同性カップルの現状について、こう話す。

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ヨン監督:「私がインタビューした同性カップルの多くは、家をめぐって争いを抱えています。片方が亡くなり、そこに住んでいたもう片方が立ち退きを強いられるのです。現実には、多くの場合、両者は裁判沙汰になり、訴訟費用はどんどん高額になり、最終的にはどちらも家を手にすることができず、訴訟費用を賄うために家を売却せざるを得なくなります。つまり、訴訟の途中では、二人は家をめぐって争っているのではなく、むしろプライドのために争っているのです!」(※9)と話す。この遺産相続や土地相続の醜い争いは、まるで現代社会の縮図であるかのようだ。偏見を持ち、差別し迫害する社会の集団的心理が、よりミニマムな家族間や親族間の関係性の間で繰り広げられる。香港と日本の今の社会では、現状、同性愛者達には居場所はない。どれだけ自身の存在を世間に叫んでも、一刀両断で潰される。居場所は自分で作るものであると世間は諭すが、自分でも作れない者達の居場所はどうやって作るのか?マイノリティや個人がどれだけ権利を叫んでも、マジョリティの大衆の群れの中では小さな叫びでさえも掻き消されてしまう。臭い物には蓋をしろと古くから言われているが、その精神は今の世の中でも健在である事に肩を落としてしまいそうだ。

最後に、映画『これからの私たち All Shall Be Well』は、長年連れ添ったレズビアンカップルが、パートナーの急死によってさまざまな問題に直面する姿を描いたドラマだが、この物語が表現する悲しみは単なるLGBTQ映画ではない。香港の同性カップルの姿を通して描かれるのは、現在私達隣同士の人間が社会の中で疎遠になりつつ現象を映しているようだ。個人の中で生きている私達は、何らかの方法で繋がりたいと強く願う生き物だ。それが顕著に現れているのが、今の世を象徴するSNSアプリの存在だ。孤独が嫌いな私達人間は、誰かと繋がりたいと画策する寂しい生き物。映画タイトル「これからの私たち」が指し示すものは、彼女たち同性カップルの事ではない。主観的な「私たち」は当然に彼女たち自身だが、この場合の広義では同性愛者も異性愛者も関係なく、分け隔てを無くした全人類の「私たち」のこれからを考えたい。今回の文章では、今までの「香港」について書き記したが、私達がこの作品を通して考えるのは、2026年現在以降の「これから」の未来を作る事が大切だ。

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映画『これからの私たち All Shall Be Well』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)中国:香港で同性パートナーシップ法案否決 LGBTIの権利を軽視https://www.amnesty.or.jp/news/2025/0918_10742.html(2026年2月1日)

(※2)Inclusion of LGBTQ+ Individuals in Hong Kong: A Scoping Reviewhttps://link.springer.com/article/10.1007/s13178-024-01003-5#:~:text=The%20understanding%20of%20LGBTQ+%20inclusion,housing%2C%20immigration%2C%20and%20taxation.(2026年2月1日)

(※3)香港議会、同性パートナーシップ認める法案を否決-最高裁判決に背くhttps://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2025-09-10/T2DG0TGOT0K400(2026年2月2日)

(※4)「香港のクィアのための場所はどこにある?」LBGTQの児童書が禁じられた都市で。3人がつくるクィアジンの移動式図書館https://heapsmag.com/queer-reads-library-hong-kong-lgbtq-zine(2026年2月2日)

(※5)A Preliminary Exploration of the Gay Movement in Mainland China: Legacy, Transition, Opportunity, and the New Mediahttps://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/675538?journalCode=signs#:~:text=Although%20traditional%20Chinese%20society%20regarded,practice%20in%20many%20people’s%20lives.(2026年2月2日)

(※6)377: The British colonial law that left an anti-LGBTQ legacy in Asiahttps://www.bbc.com/news/world-asia-57606847(2026年2月2日)

(※7)2025 LGBTQ rights update: Many bright spots in Asia amid the gloomhttps://76crimes.com/2026/01/03/2025-lgbtq-rights-update-many-bright-spots-in-asia-amid-the-gloom/#:~:text=Japan:%20The%20long%20slow%20march,apply%20to%20same%2Dsex%20couples.(2026年2月2日)

(※8)Hong Kong lawmakers say no to more rights for same-sex coupleshttps://www.bbc.com/news/articles/c5yqeggvwgpo(2026年2月2日)

(※9)轉載|訪《從今以後》楊曜愷、鄧芝珊 因為一層樓,成就一個男人https://wavezinehk.com/2024/05/09/allshallbewell/(2026年2月2日)