互いに寄り添い、土に寄り添い続けたある夫婦を描く映画『小さき麦の花』
二人の育む小さき愛は、秋に育つ小麦のように麗しい。
夫婦には、と範囲を狭めなくても、人にはそれぞれ、生きる上で障壁があったり、何かしら問題が起きたりするものだ。
それでも、時間が進む限り、前を見て生きようと足を踏ん張る生き物だ。
親には親の、子には子の、夫婦には夫婦の、それぞれが抱える秘密や悩みは必ずある。
そんな中、昨今、夫婦間で起きる揉め事は、後を絶たない。
2020年に東洋経済オンライン版が発表した(※1)コラムによれば、実際、殺人事件が起きた場合、その割合で言えば、全体の2割が夫婦間で起きていると書いている。
それほどまでに、近い距離感であっても、他人同士となる夫婦の関係性は、非常に複雑なのだろう。
そこで想像してみて欲しいのだが、夫婦のうち、どちらかが障害がある場合は、どうだろうか?
日本に居るどちらかが障害を患っている夫婦の割合は、身体障害者、知的障害者、精神障害者の3つの部類で分けた時、最も夫婦として同じ時間を過ごしている組み合わせとして多いのが、身体障害者の方々という統計が出ている。
その反面、知的障害者や精神障害者のほとんどが、夫婦で同居をするより、親族間で同居している割合が占めていると言われている。(※2)「2.同居者及び配偶者の有無より」。
それでは逆に、中国ではどうだろうか?
調べてみても、障害者に関する記事は、乏しいと言えるかもしれない。
勝手な憶測では何も書けないが、恐らく、中国では昔の日本のように障害者に対しての扱いにおいて、現代社会の中でも環境整備が整っていないと言える可能性もある。
それでも、雲南省昆明市東川区平子村に暮らす、(※3)ある夫婦に取材を行った2年前の記事がある。
田舎で暮らす彼らには、それぞれがそれぞれに身体的な障害を抱えつつも、日々農作業で生計を立てていると、記事では伝えられている。
では、都会の暮らしと田舎の暮らしでは、人に与える癒しの影響力は、如何に違うのだろうか?
まず、人々は田舎暮らしに関心があるのか、どうかだ。
数年前に、(※4)日本政府が調査した所に拠ると、都内在住者で地方に興味があると回答した人は、全体の49.8%。
また、地方出身者は6割に昇る結果が出た。
あの東日本大震災以降(帰宅難民問題含め)、東京在住者は少なからず、地方での暮らしを意識しているのがよく分かる。
東京一極集中の時代は、終わりを告げつつある中、如何に都会より田舎の生活に憧憬の念があるのか、理解できる。
改めて、都会と田舎での癒し指数は、どう違うのか?
(※5)田舎に移住し子育てストレスが減少したり、(※6)都会にはない田舎の良さはたくさんある。
その反面、デメリットもたくさんあり、車社会のため、自家用車を持っていないと交通の便が悪かったりと、良いことだけでは無い。
それでも、田舎への移住生活は、メリットがあると言えるのかもしれない。
また、それほどまでに、東京進出を念頭にしなくても、地方には地方のいい所があると、自覚したい。
さて、本作『小さき麦の花』は、田舎でひっそりと暮らすある夫婦の姿を描いた中国映画だ。
先に紹介した中国の山村部で暮らす夫婦のように、奥さんが知的障害を患いながらも、2人二人三脚で助け合い、支え合いながら、仲睦ましく生きる人間の姿を、寡黙に静かに、それでいて、どこか風刺的に鋭く捉えた秀作だ。
本作は、ベルリン国際映画祭にて最優秀賞を受賞すると目されながら、結局は無冠に終わり、中国国内でも小規模上映に留まった作品だ。
だが、SNSを介して、中国の若者たちを中心に口コミが広がり、奇跡のヒットを飛ばした事で注目を浴びた。
その一助には、中国の動画サイトBilibliで田舎に暮らす障害者の叔父から癒しを得たと紹介した動画を観た若者たちが、「リアル「隠入塵煙」だ」と、作品とその動画を比較して、そのまま映画は人気を博したという少し変わった経緯を持つ。
本作『小さき麦の花』を監督したのは、今後台頭して来るであろう中国第7世代(第5世代には、チャン・イーモウ、チェン・カイコー、ティエン・チュアンチュアンを中心に、呉子牛、胡玫、周暁文らがおり、第6世代には王小帥、張元、賈樟柯、婁燁などがいる)と称されるリー・ルイジュン監督だ。
他には、ビー・ガンやグー・シャオガンらが同時代の監督にいる。
この先、これら若手監督達の動向から目が離せなくなるだろう。
本作『小さき麦の花』を監督したリー・ルイジュン監督はインタビューで、中国語のタイトル「隠入塵煙」が、監督自身のクリエイティブなビジョンにどう影響を与えたかと聞かれ
リ監督:「この四字熟語「隠入塵煙」には、「塵と煙の地に隠されている」という意味があります。より深い哲学的レベルでは、彼らは失われた時間と人生を失くした訳では無く、恐らく、ほこりの中に隠されている事を示唆しています。 見えないと言う事は、それが存在しないという意味ではありません。タイトルは単純明快ですが、非常に複雑です。」と話している。
寡黙で静寂な彼らの暮らしは、障害という壁が原因で生きにくさを感じる反面、紛失したと思われている感情や時間、人生は、彼らが暮らす田舎の土地のそこかしこに眠っている。
彼らは、愛を育むように、それらを優しく育てているのだ。
小麦の芽を優しく愛でるように。
最後に、本作『小さき麦の花』は、ある中国の田舎に住む名も知らぬ夫婦の誠の姿を捉えた作品だが、昨今の夫婦の関係性はどうだろうか?
夫が妻に、妻が夫に暴力を振るい、死に至らしめる事件が少なからず起きているのでは無いだろうか?
どんな時代にでも、(※8)悲しい出来事は常に起こるものだ。
殺人だけではなく、夫婦ゲンカがエスカレートし、暴力へと発展する(※9)ケースも少なからず、多くある事案だろう。
夫婦問題で悩んだら、こちらのサイトの弁護士さんに相談へ。
それでも、司法や裁判が間に入らず、夫婦間だけで解決できることがあれば、どれだけ幸せだろうか。
でも、それは夢のまた夢の話だ。
本作に登場する一組の夫婦を姿を通して、今一度、誠の姿を考えて欲しい。
作品のタイトル『小さき麦の花』は、物理的には人が育てる作物の「麦」を指しているが、彼らが本当に育くんでいるのは、他でもない夫婦愛という名の花だったりするものだ。
映画『小さき麦の花』は現在、2月10日(金)より東京都のヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAにて、絶賛公開中。関西では、2月24日(金)より大阪府のシネ・リーブル梅田。京都府の京都シネマ。3月3日(金)よりシネ・リーブル神戸にて公開予定。また、全国の劇場にて、順次公開予定。
(※1)殺人事件の2割が夫婦間で起きている背景事情全体は減少傾向にあるが親族間は増えているhttps://toyokeizai.net/articles/-/391098?display=b(2023年2月13日)
(※2)2.同居者及び配偶者の有無https://drive.google.com/file/d/1x7vb_REoF3Xz6r7Jw9XX_aeqNbVtt6cp/view?usp=drivesdk(2023年2月13日)
(※3)残疾夫妇凭借”一只手和两条腿”的脱贫故事https://wap.nxnews.net/sh/202103/t20210306_7058186.html(2023年2月13日)
(※4)東京圏在住者の約半数が、地方圏での暮らしに関心あり ~移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業 報告書~https://drive.google.com/file/d/1xnGOkXER4HZ3cC2UkDkvaDWn6entk2uh/view?usp=drivesdk(2023年2月13日)
(※5)「なにこれ、天国?」田舎に移住して子育てストレスが激減したわけhttps://colorfuru.jp/migration/8221(2023年2月13日)
(※6)離れて気づいた!都会にはない田舎の良いところ10選https://fujifilmmall.jp/conversion/sp/column/031dvd-inakagood.html(2023年2月13日)
(※7)Li Ruijun talks filming a vanishing part of China in ‘Return To Dust’https://www.screendaily.com/features/li-ruijun-talks-filming-a-vanishing-part-of-china-in-return-to-dust/5167637.article(2023年2月13日)
(※8)《東北妊婦死体遺棄》「人間のクズ!」妊娠中の妻に罵倒され続けた夫は、延長コードで彼女の首を…“仮面夫婦”を演じた男女の悲惨な末路https://bunshun.jp/articles/-/58749?page=1(2023年2月13日)
(※9)夫婦喧嘩がエスカレート。妻への暴行で逮捕。https://www.authense.jp/keiji/case/28/(2023年2月13日)