映画『KIDDO キドー』自身の未来を見つけて

映画『KIDDO キドー』自身の未来を見つけて

<ボニーとクラウド>二人だけの秘密の逃避行が始まる映画『KIDDO キドー』

©2023 STUDIO RUBA

©2023 STUDIO RUBA

母娘の長い旅は、一体どこに辿り着くのだろうか?オランダ中を車で大移動を繰り返しながら、逃避行を続けるその先に待ち受ける母娘の運命は、複雑に絡み合う。いくつになろうと、親という存在は親のまま。子どもの存在は子どものままだ。共に過ごした時間がたとえ短く、それがおとぎ話のような幻想的な体験であったとしても、親子の絆は解れない。「あー、どこに行こうか、どこまで行こうか。」何から手をつけていいか分からないが、あての無い長い旅路が、親子の何かを変える。オランダの孤児院、オランダの田舎町、オランダの夕焼け、オランダの逃避行は、現代オランダの実情を表現している。母娘が見た今のオランダという国の将来が、どこに向かっているのか示唆しているようだ。映画『KIDDO キドー』は、古びたスポーツカーでオランダからポーランドを目指す母娘の逃避行を描いたロードムービーだ。どこに行っても、何年経とうとも、親子の絆は変わらない。親は親、子は子。その関係性は、揺るぎないものでしかなく、誰にも邪魔されてはいけない。旅の終わりのその先に待ち受ける親子の未来が、明るいものであって欲しいと願うばかりだ。どこまでも辿り着かない未来への渇望を落日の夕日に込めて、今日もハンドルを握り、アクセルを強めに踏み込み、当てども無い逃亡を続ける。彼らは、明日を見つける事ができるのか。

©2023 STUDIO RUBA

私達日本人にとって、オランダにおける孤児院の現状は、まったく知られていない。ヨーロッパの国々は、福祉大国と呼ばれ、日本やアメリカ、アジア圏より一歩先に進んだ福祉活動が盛んに行われている。隣国ドイツの福祉関係者が、「我々ドイツよりオランダの方が、より更に一歩先を行く手厚い福祉が特徴」と言わしめるほど、ヨーロッパ圏におけるオランダの福祉は注目されている。ただ、調べた結果の資料は2015年と情報が古く、10年経った2025年現在、オランダの福祉活動がどう動いているのか定かではない。「オランダは、行政が民間に委託する事業が多く、里親支援に関する実務や児童と里親のマッチング、里親候補者の発掘などを、民間が一手に担って行っているようで、国内には類似の団体も複数存在する。」(※1)とあるように、行政や国だけでなく、民間レベルでの取り組みが盛んなのは、それだけ地域における福祉への関心度が高いと考えても良いのだろう。オランダの養護施設への働きかけとして、家庭内支援・家族再統合に力点を置いている点、また如何に里親の数をいかに減らすかが議論され、子どもは自分の家庭・家族で育つことが一番と結論付ける活動を行う。これを民間レベルで取り組んでいる訳であるが、日本で行政がちゃんと機能しているかと問われれば、日本における福祉への活動は無理解が多いという結果があるのでは無いだろうか?2021年のコロナ禍のある時、大阪府で起きた「3歳児熱湯虐待死」(※2)や平成30年3月に起きた「東京・目黒の女児虐待死事件」(※3)では、市民の声に耳を傾けない行政の対応や市を跨ぐ行政同士の連携が希薄という点が、事件発生当時にクローズアップされた。これはまさに、虐待事案ではなく、行政や団体における機能不全が引き起こした殺人事件と位置付けても間違いないだろう。現在におけるオランダの孤児院の現状は、日本国内向けに正確に発表されておらず、オランダ国内向けに発信されている。今年2025年4月、2025年から2027年にかけて、オランダは青少年に関するケアに関して、福祉事業に対して数十億円の政策費(※4)が投じたと報道された。オランダのヴィンセント・カレマンス青少年・予防・スポーツ担当国務大臣は、「青少年ケアの持続可能性を向上させ、子どもたちが不必要に青少年ケアを受けることがないようにし、ケアが必要な場合は、軌道のジャングルで迷子になることなく、適切な場所で適切なケアを受けられるようにするための強力な措置を講じています。」と声明を出したばかりだ。虐待、ネグレクト、家庭内不和に悩む子ども達を一人でも多く救う行動が、必要だ。

©2023 STUDIO RUBA

本作は、1960年から1970年のオランダを時代背景について考え、その背景を現代風にする事によって、見えて来るのは60年代から現代におけるオランダの福祉事業の変革だ。60年からおよそ半世紀以上に渡る子ども達が置かれる生活環境が、時代と共にどのように流れて行ったのか、この点について、少し考えて行きたいと思う。60年代のオランダの福祉ついて調べてみると、非常に興味深い歴史が見えて来た。1960年代のオランダでは、児童福祉制度における大きな変化が始まったと言われている。その特徴の一つが、プレイグループが設立。この時代、子どもの発達に焦点を当てた保育が開始された点(※5)が変革の証だ。1960年代に設立されたプレイグループとは、女性の就労を支援するだけでなく、子どもの発達を重視した保育施設として注目された。また、従来の児童福祉制度は、主に子どもたちの発達が逸脱した場合の救済措置というイメージでしたが、プレイグループの登場により、子どもの発達を促進することへの関心が高まった。この60年代から80年代にかけて、女性の社会進出や子どもの発達への支援が、この時代におけるオランダに暮らす子ども達の幸福度を上げたと言われている。1980年代には30%代だった女性の就労率は、現在では74%ほどまで回復失礼しますか。オランダの場合、働く女性の多く(73%)がパートタイム。日本とは異なり、パートタイムでも生活を成り立たせやすい環境(※7)と言える。から世界的に高い評価を受けており、2020年代のオランダの児童福祉は、以前から世界的に高い評価を受けている。2020年の「Innocenti Report Card」でも「世界一、子どもが幸せな国」と評されたばかりだ。コロナ禍においても、新しい生活様式に配慮しながら、家族が仕事を継続しつつ、子育てを両立できるロールモデルが今、注目されている。映画『KIDDO キドー』を制作したザラ・ドビンガー監督は、あるインタビューにて本作のテーマについて、こう話している。

©2023 STUDIO RUBA

ドビンガー監督:「私は子ども向けの映画を作りたかったのですが、子どもだけの映画ではありませんでした。女性もバカな事をしてもいいんだと示したかったんです。」(※8)と話す。破天荒な母親の姿には、監督なりの人物像が描かれていた。「時に、女性だって…」という考え方は、長きに渡り、オランダが取り組んで来た女性の自立と母親支援の一部と考えても良いだろう。女性が、女性らしく暮らせる社会のモデルが、この映画の中に入っているのかもしれない。子育て世代のすべての母親に捧ぐ母娘のガールズ・ムービーが爆誕した。

最後に、映画『KIDDO キドー』は、古びたスポーツカーでオランダからポーランドを目指す母娘の逃避行を描いたロードムービーだが、この旅路の裏側には、60年代から現在に続くオランダ社会における社会福祉、児童福祉の在り方を示唆しているようでもある。道から外す事なく、子ども達をどう真っ直ぐに育てて行けば良いのかを考える契機になれればと願う。子どもの未来も、親の未来も、それぞれの手の平の中にあり、互いに感情のコントロールや気持ちの調整をしながら、今を生きている。あなたは、この映画から自身の未来を見つける事ができたか?答えは簡単、「Yes」と言うだけだ。

©2023 STUDIO RUBA

映画『KIDDO キドー』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)ドイツのさらに一歩先を行く、オランダの社会的養護事情https://agora-web.jp/archives/1657738.html(2025年5月7日)

(※2)3歳児に熱湯かけ死なす 母の元交際相手に懲役10年判決https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF0572Y0V00C23A7000000/(2025年5月7日)

(※3)「ゆるして」悲痛なメッセージが国動かす 目黒女児虐待死https://www.sankei.com/article/20241220-YZO5FGSSFNLFLLVA65F5SOANA4/(2025年5月7日)

(※4)Miljarden extra voor jeugdzorghttps://www.rijksoverheid.nl/actueel/nieuws/2025/04/18/miljarden-extra-voor-jeugdzorg(2025年5月7日)

(※5)オランダにおける乳幼児の教育とケアの変容に関する研究 ―「就学前早期教育プログラム」に着目して―キーワード:オランダ,乳幼児期の教育とケア,子育て観,就学前教育制度, 保育制度https://www.hues.kyushu-u.ac.jp/–2022renewal-backups/education/student/pdf/2017/2HE15046R.pdf(2025年5月7日)

(※6)オランダが「世界一子どもが
幸せな国」になったわけhttps://www.jiam.jp/journal/pdf/107-06-01.pdf(2025年5月7日)

(※7)実は「オランダもまだまだ」?女性問題シンクタンクに話を聞いたら見えてきた意外な一面【オランダ視察レポートその2】https://florence.or.jp/news/29974/(2025年5月7日)

(※8)Regisseur Zara Dwinger over Kiddo: ‘Ik wil laten zien dat vrouwen ook stomme dingen mogen doen’https://www.cineville.nl/magazine/zara-dwinger-kiddo(2025年5月7日)