映画『ドライブアウェイ・ドールズ』全世界、すべてのイカれたDykes(ダイク)に捧ぐ

映画『ドライブアウェイ・ドールズ』全世界、すべてのイカれたDykes(ダイク)に捧ぐ

2024年6月17日

爆笑ジェットコースター・ロードムービー、ここに爆誕。映画『ドライブアウェイ・ドールズ』

©2023 Focus Features. LLC.

©2023 Focus Features. LLC.

できるのであれば、日本列島縦断だけでなく、ヨーロッパ横断、アフリカ大陸縦断、南米大陸縦断、そして本作『ドライブアウェイ・ドールズ』のように合衆国縦断の旅に出たいものだ。でも、それは儚い夢でしかない。現実的な話をすれば、長旅には巨額の旅の資金が必要で、また長期休暇や長距離に耐えられる馬力のある車も必要となって来る。それらだけでなく、旅を楽しくするには旅のお供となる同乗者や行楽気分、滞在時間が長くなる車中生活を乗り切る楽しいゲームや観光も欠かせない。知らない街を訪れる旅は非常に興味深く、関心を寄せられるイベントだが、それを現実に実現させる為には、様々な障壁をクリアさぜるを得ない事を心得ておきたい。それでも、私自身の自国内であるなら、ほんの少し旅に出たい気持ちもあるが、現状のライティングの仕事量を考えたら、もう身動きができないほど、過密スケジュールで旅行の一つもできない。これは、非常に嬉しい悲鳴でもあるので、本作を観ながら、旅気分、ロードムービー気分、逃避行気分を味わいたい。誰か一緒に、このままどこか遠くへ配送しながら、「ドライブアウェイ」してみたいものだ。映画の世界から飛び出し、現実世界からオサラバし、今抱えている仕事もすべて、何もかもほっぽり出して、涼やかな風がたなびく、オープンカーに乗って、どこか知らない街、知らない人、知らない文化に出会いたい。それが、単なるドライブから警察の追っ手、謎のスーツケース、思わぬブツ、ヤクザ屋さんに翻弄されながらでも、旅の高揚感を完遂させたい。この作品には、現実には起こらない非現実的な出来事を通して描かれる魅力が詰まっている。映画『ドライブアウェイ・ドールズ』は、日々の生活に行き詰まりを感じたジェイミーとマリアンは、車の配送(=ドライブアウェイ)をしながらアメリカ縦断のドライブに出かける。しかし、配送会社が手配した車のトランクに謎のスーツケースがあるのを見つけ、その中に思わぬブツが入っていたことから、スーツケースを取り戻そうとするギャングたちから追われるはめに。さらにジェイミーの元カノの警察官や上院議員までも巻き込み、事態は思わぬ方向へと発展して行くドタバタ珍道中の青春物語だ。映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を連想させる、どうしようもない女性2人のどうしようもない人情喜劇を堪能できる。ただ、たった一つ断っておく事があるとすれば、本作の物語には多少の下ネタが散りばめられている点だ。作品に内包されるエロネタ含めて、ニコッと受け入れ、余裕に笑える迄がこの作品の要素でもある。

©2023 Focus Features. LLC.

日本全国一周。横断旅(もしくは、縦断旅)をしている方が、日本にはどれくらいいるのか、普段、普通に生活していたら、気にも掛けない事だろう。何気ない日常を日々、過ごしていても、全国一周している方と出会う事はまずない(ある時、私は自転車で全国一周している方を居住地で目撃した事がある。自転車の後ろに旗を掲げて、そこに「全国一周中」と書かれていた。非常に珍しい出来事だったので、私は二度見した記憶がある。YouTubeでも日本縦断の様子を紹介するチャンネルはあるそうだが、私は観ていない)。それでも、本作『ドライブアウェイ・ドールズ』に登場する女性2人のように、日本の縦断旅(もしくは、横断旅)を目標に努力している方が、近年でも存在しているのだ。彼らはなぜ、日本中を巡るのか?その目的は、どこにあるのか?それは、旅の終わりの達成感やカタルシスを味わう為のなのか、はたまた、単純に健康の為なのか?彼らの目的は、彼らにしか分からず、計らずとも、誰にも解さない事ではあるだろう。しかし、日本の旅人は確かに、存在する。近年でも、彼らは今でも旅を続けている。たとえば、70代になってから、自身のママチャリに跨って、自転車旅に精を出す老年者の方(※1)。また、社会に対して訴えたくて日本縦断徒歩の旅を敢行する方(※2)もいる。この方は、「おひとりさまを許せる社会に」というテーマを掲げているが、それが一人鍋、一人カラオケ、一人焼肉、一人映画館と言った近年沸き起こった「おひとり様」ブームに関係しておらず、身寄りのない老人が家族保証で借りれる住居がなく、困っている現状が日本にあると言う。また、「家族がいる前提の制度はもはや時代に合わない」と訴え、この問題を全国の方に知って欲しいと、自身の身を呈して日本縦断徒歩の旅を敢行。また、少し前の記事ではあるが、80代の写真家、石川文洋さん(※3)は故郷の沖縄への郷土愛を胸に北海道から沖縄まで徒歩完遂のニュースが沖縄ローカルで報道された。石川さんは、「生きている間に平和な沖縄を見たい」「基地のない沖縄を」と訴え、日本縦断旅を成功させたようだ。旅の目的は人それぞれではあるが、その旅を通して、日本社会の在り方を発信する事は非常に有意義な一面があるかもしれない。その一方で、沖縄在住のある若者が北海道までの道のりを徒歩縦断旅を挑戦しようとしたが、世間からの厳しいバッシングに遭い、断念した出来事があった。この件に対して、毎日新聞の記者が記事(※4)にした内容に対して、再度、炎上すると言う騒動が、2021年に起きた。記者は、若者の挑戦に対して、炎上するのは些か、不寛容ではないかと記事を通じて、訴えた。それに対して、一般の方が「寛容・不寛容の次元でバッシングしている訳ではなく、様々な状況を考慮して、無謀な挑戦は周囲に迷惑がかかる。また、自身の命をもっと大切にして欲しい。実行する季節さえ間違えなければ、問題ない」と、それぞれに口にしている。昨今、SNSが発達した背景の元、個人の声が浸透化されつつある時代。私自身は、「寛容、不寛容」ではなく、ネットが発達していなかった昭和の時代と比較して、令和と言う時代はネットを介して様々な意見が表出する時代となっただけ。時代の変化と共に、社会や人々の価値観が大きく変化したと考える事もできる。若者の無謀なチャレンジで言えば、1980年12月に起きた「逗子開成高校八方尾根遭難事故」(※5)を思い起こす事もできるだろう。ただ、私は周囲に迷惑かけない程度であるなら、無謀な挑戦は大いに賛成だ。実行する季節を間違えなければ、どんどんポジティブにチャレンジしてもいいのではないだろうか?それこそが、若いうちに経験できる「青春」ではないだろうか?本作の女性2人もまた、破天荒だからこそ、味わえる「青春」を謳歌している。

©2023 Focus Features. LLC.

また、本作の2人の女性主人公の設定が明喩的にも、レズビアンとして描かれている点、今までのどの作品と比べても、ロードムービー×レズビアンはあまり聞いた事がない。同性愛者や女性同士の友情を通して描かれたロードムービー的な作品を挙げるとするなら、映画『プリシラ』『モンスター』『トランスアメリカ』そして、『テルマ&ルイーズ』を思い出す方もいるだろうが、本作ほど露骨に、そして笑いと下ネタに振り切ったレズビアン・ロードムービーは、私としても初めて観たのかもしれない。謎のスーツケースの中身もさることながら、終始、登場人物のキャラクター像は皆、クレイジーなヤツらばかりだが、その中でも飛び抜けて頭のネジが数本吹っ飛んでいるのは、主人公のレズビアンの2人だ。同性愛という世界は、なかなか衆目に触れる機会の少ない、僅少特殊な界隈であるからこそ、この作品に登場するビアンの2人は風変わりに映って見えるかもしれない。でも、世界にも、ここ日本にも、多くのレズビアンが存在する。世界人口の平均約8%がLGBT+。内訳には、3%がレズビアンまたはゲイ、4%がバイセクシュアル、1%がパンセクシュアルまたはオムニセクシュアル、1%がアセクシュアルだ(※6)。では、日本ではどうだろうか?日本人口におけるLGBTの割合は、「1.6%から8.9%」(100人に1人から13人に1人)といわれています。 また、欧米圏では「4%から7%」という結果も出ている(※7)。ざっと数値だけで見ても全体の1%~8%の割合で同性愛者は、然程多くはないが存在している。そして、この数%の裏には、人には言えず、自身と向き合い葛藤、悩みながら生きている同性愛者の方がいると考えたら、多くの同性愛者がこの世に存在している事にもなる。そして、彼ら彼女らは、汚い存在でも、ヤラシイ存在でもない。みんな、この世界に生きている一人の人間だ。みんな、何かのために必死に生き、輝いている。それを第三者の誰かが揶揄したり、野次を飛ばすのはお門違いだ。本作に登場する2人のレズビアンだって、旅を通して、自身の輝きを探し求めている。それは、誰もがそうであるように、同じ意識と目的を持っているのであろうと、私は思う。下ネタとか、下品とか、そう思われても仕方の無いブラック・コメディの側面のある作品ではあるが、その奥に隠されているのはレズビアン達が、世間の表に出て、必死に生きる姿を生き生きと描き切る潔さ。まだまだ差別の絶えない世界ではあるが、それでも、同性愛者の方は皆、彼女達のように必死に今を生きようとし、生きている。それは、当事者の私だから、代弁して発信できるのだ。みんな、今を必死に生きている。映画『ドライブアウェイ・ドールズ』を制作したイーサン・コーエン監督と奥さんであり同じ製作者のトリシア・クックは、あるインタビュー(記事のコンセプトは、無礼な質問を投げるスタイル)にて「なぜ、「重要」ではない映画を作ろうとしたのか?」という質問に対して、こう答えている。

©2023 Focus Features. LLC.

Coen:“Well, that’s an important thing to do. There’s an underserved audience for unimportant movies, is our belief. God. Don’t you want to go to a movie? It’s important to make important movies for sure. We don’t agree about this, because it’s so important to understand history and whatever is happening and different people’s perspectives on the state of the world. And sometimes it’s the only place that you’ll be able to learn those things. But it’s also important to make movies where you can just eat popcorn and not have to think about what your day is or what’s going on in the world. To escape.”

コーエン監督:「まあ、それは重要なことだ。重要でない映画を観る観客は十分にいないというのが私たちの信念だ。神様。映画を見に行きたくないですか?重要な映画を作ることは確かに重要です。私たちはこれについて意見が一致しません。なぜなら、歴史や今起きていること、そして世界の状況に対するさまざまな人々の見方を理解することはとても重要だからです。そして、時にはそれが、そういったことを学べる唯一の場所なのです。しかし、ポップコーンを食べながら、今日がどんな日か、世界で何が起こっているかを考えずに済む映画を作ることも重要です。現実逃避するために。」

また、最初に気に入った「Drive-Away Dykes」が、物語の何であるかを物語るタイトルを、なぜ維持できなかったのかと、聞かれ。製作者のクックは、こう答えている。

Cooke:“The filmmakers still refer to the movie as “Drive-Away Dykes.” But while distributor Focus Features gave lip service to liking the title, they explained that issues with the MPAA and theater marquees around the country made using it unfeasible. “It’s the biggest heartbreak.”

クック:「映画製作者たちは今でもこの映画を「ドライブアウェイ・ダイクス」と呼んでいる。しかし配給会社フォーカス・フィーチャーズは、そのタイトルを気に入っていると口先では言っても、MPAA と全国の映画館の看板の問題でそのタイトルを使うのは不可能だと判断されたのは、最大の悲しみです。」と話しているが、邦題は「ドライブアウェイ・ドールズ」で、原題は「Drive-Away Dolls」で最終的に調整されているが、これは製作者達の本来の意図ではない。少女やお人形さんと言った可愛いヒラヒラなステレオタイプの表現ではなく、より露骨でセンセーショナルな表現にこそ、この世の原理が隠されているが、それでも、まだまだ世間から隠そうとする(また、世間の人々がその単語を見て、ヒヤヒヤしたり、ザワザワしたりするのも違う)この風習、そろそろ終わりにしませんか?本来、映画が伝えたかった意図から察するに、より破天荒な意味を持たせる事によって得られるプラスの肯定的思想が、人々を輝かせるはずであろう。

©2023 Focus Features. LLC.

最後に、映画『ドライブアウェイ・ドールズ』は、ドライブに出かけた2人の女性が、謎のスーツケースをめぐってさまざまな事件に巻き込まれる下ネタ満載のブラック・コメディだ。日本では、既に劇場公開されているが、作品に対する人々の声は芳しくない。「下品だ!」「下ネタだ!」と、作品を観たそのままの想いを口にしているが、敢えて、それは作品に対する最大限のリスペクトであり、賛辞だ。全体的な数値評価も平均を上回る事もなく、その結果だけを観た人は、足が遠のくかもしれないが、それは間違いである。もし、この作品の高得点をマークしていたら、それこそ非常に怪しい。何かどこかで、エラーを起こしていると疑いたくもなるが、この作品に対する平均以下の評価は、逆に大いなるリスペクトとして受け取って欲しい。拍手喝采、万雷の拍手で日本に迎えられた作品だ。そもそも、作品を数字で表現するのではなく、自身の想ったままの感情を、自身の言葉で表現して欲しい。私は、そう心掛けている。ただ、このブラック・コメディの真髄はどこにあるのか考えた時、頭の中で出て来る答えはただ一つだ。それこそが、この作品が最も伝えたかった事柄だろう。日本に住む自身の性について悩んでいる全国の学生諸君達、これだけは言わせて欲しい。まだまだ荒波は激しいが、未来は本当に明るい。同性愛者に乾杯だ!全世界、すべてのイカれたDykes(ダイク)に捧ぐ。

©2023 Focus Features. LLC.

映画『ドライブアウェイ・ドールズ』は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)78歳「ママチャリで日本縦断」達成! 自転車旅を始めたのは「体重が……」https://news.1242.com/article/362664(2024年6月13日)

(※2)52歳男性、なぜ徒歩で日本縦断? 訴える「おひとりさまを許せる社会」とはhttps://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1026483#goog_rewarded(2024年6月13日)

(※3)歩いて日本縦断10カ月 報道写真家・石川文洋さん 古里の沖縄に到着https://ryukyushimpo.jp/news/entry-923153.html(2024年6月13日)

(※4)「日本縦断」若者になぜ批判殺到?“無謀”に不寛容な社会を考えるhttps://mainichi.jp/articles/20211030/k00/00m/040/263000c(2024年6月13日)

(※5)1980年12月逗子開成高八方尾根遭難事故の真相――二つ玉低気圧のちドカ雪のち晴れ、動かなければ助かったかもhttps://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=2170(2024年6月13日)

(※6)世界のLGBT+の割合 世界には、LGBTQ+の人々はどのくらいの割合いるのだろうか?https://eleminist.com/article/3317(2024年6月17日)

(※7)LGBTの割合がバラつく理由【13人に1人? 100人に1人?】https://jobrainbow.jp/magazine/lgbt-percentage(2024年6月17日)

(※8)Ethan Coen and Tricia Cooke Answer All Our Impertinent Questions About Making Queer Caper ‘Drive-Away Dolls’https://www.indiewire.com/features/interviews/ethan-coen-tricia-cooke-drive-away-dolls-interview-1234955858/(2024年6月17日)