ライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』1000年後における未来の答えと1000年先にある未来の扉

ライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』1000年後における未来の答えと1000年先にある未来の扉

三つの魂が交錯し響かせた祈りが蘇るライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』

©株式会社K3企画

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「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ」。

およそ1400年続いた平安時代と60年ほどしか時代が続かなかった南北朝時代の間に位置する鎌倉時代は、文治元年1185年(時代がいつ始まったのから諸説ある)から正慶2年1333年の150年の時代(※1)が動いた。この鎌倉時代には、鎌倉幕府による武家政権に対して不満を募らせていた後鳥羽上皇を首謀者とする、朝廷側が仕掛けた承久の乱(※2)、倒幕計画に同調した勢力が蜂起して起きた元弘の乱(※3)、北条貞時が平頼綱から実権を取り戻した争い平禅門の乱(※4)など、激しい内乱が絶えなかった。地震、飢饉、疫病が多く発生し、50回もの元号改元(そのうち災異改元が30回)が余儀なくされ、世の人々の不安が、仏教(鎌倉仏教)の大きな布教と繋がり、庶民と武家にまで広まった時代。特に、これら地震、飢饉、疫病についてクローズアップすると、地震は鎌倉時代の間に7回以上複数起きており、1293年5月27日に発生した永仁鎌倉地震(※5)は、死者2万人という甚大な被害を与えた。飢饉では、1230年から1239年まで続いた寛喜の飢饉(※6)が、大きな被害を与えた。最後に、疫病もまた鎌倉時代に蔓延した。鎌倉時代は、震災や疫病に何度も苦しめられた時代。この時代背景を加味して、人々の不安を払拭させ、生活を潤わせ、生きる活力を与えた大衆文化の小説「平家物語」が生まれたのだろう。ライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』は、一夜限りのライブイベント「平家物語 諸行無常セッション」を記録した臨場感溢れるライブ映像。高知県には、平家物語に関する伝説、伝承が多数存在する中、まるで帰依するかのように、あの忌まわしき高知の地で平家物語のセッションを行う意図が、図式として見えて来るだろう。なぜ、高知県なのか?なぜ、コロナ前の2017年なのか?そして、なぜ今年2024年に本作が必要だったのか?その答えをここで、少しでも解き明かしたい。

まず改めて、平家物語とは何なのか、その点からお浚い、復習したいと思う。小中高で学習した一種の国語、古典、日本史A.Bの授業と私自身もそう思って、振り返って行きたいと思う。そもそも平家物語は、いつの時代、誰の書物なのか?鎌倉時代の中期に完成したとされ、作者不詳の軍記物語。平家の栄華と没落、武士階級の台頭が描かれ、ある一族の繁栄と衰退が壮大な大河ドラマとして昇華されているが、その内容はより庶民的であり、一般的だ。概要は、「平清盛ら平家一門が一度は全盛を極めながら、やがて源氏との戦いに敗れて滅んでいくまでのありさまを、主に平家方の立場に力点をおいて描いた物語」(※7)とざっくばらんな説明だが、これが本来の大筋だ。これを現代に置き換えてみると、近年ではNetflixにて『平家物語』がアニメとして制作され、また劇場版アニメ『犬王』(古川原作の『平家』のスピンオフ作品)として新解釈が加えられ、作者の「古川日出男が語る、いま『平家物語』が注目される理由 「激動する時代との親和性」」(※8)の中で現代における平家物語がいかに必要であるのか説いている。まさに、「今」なのである。今、なぜ平家物語なのか?およそ1000年近く前の読み物が、なぜ今の21世紀の、令和の時代に、私達日本人に必要なのか?鎌倉時代と令和時代の親密性は、一体何なのか?本当に、その答えを導き出せると言うのだろうか?

本作『平家物語 諸行無常セッション』のライブ会場に集められた関係者の小説家である古川日出男氏、サックス奏者である坂田明氏、ロック・ミュージシャンである向井秀徳氏は皆、自身が得意とする分野において文献や音楽を通し、現代における平家物語という存在が何たるものかを見つめ続けて来た人物達だ。そんな彼らが2017年の一晩に邂逅して、織り成すライブセッションは鎌倉時代に遡り、平清盛、平重盛、平宗盛の三人が姿かたちを変えて、現代に蘇った様を映す。1000年という古の時を超えて、一つの舞台上に彼等が一様に会した類まれなるファンタジーな映像美なのだろう。これは、朗読やライブ映像の類ではなく、あの一瞬の会場のその瞬間瞬間が鎌倉時代への扉を開けんとするある種の儀式的様相が見え隠れする。ここには、三者三様の現代の平家物語が鎮座し、鎌倉時代の世界と現代の世界を繋げる一枚扉がそれらの間を隔てる。その扉を開けようとする三人の姿こそに、平家の関係者の魂が乗り移る。今、NHKで放送されている『大河ドラマ 光る君へ』は、時代背景は少し違えど、小説「源氏物語」を書いた紫式部の半生と一度の人生で女性が輝く姿を描いている。その一方で、本作では「平家物語」に関係する男達が、1000年という時を超えて、現世に平家物語を甦らせる。この男と女という二項対立する2024年の世に、およそ1000年前の人々は何を見るのか?ジェンダー論の法整備(※9)が叫ばれる昨今において、本作が示すものはなんであろうか?ライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』を制作した河合宏樹監督は、本作の解釈について、こう話す。

河合監督:「観終わった後、何かを感じてくれてもいいし、〈これ間違って流れちゃってるんじゃないの?〉って思ってくれてもいいと思ってます。全員が全員同じ解釈で帰ってほしくないんですよね。それぞれ違う心で感じたことを持ち帰ってほしい。」(※10)と話す。本作の捉え方は、人それぞれだ。スっと自身の感性に溶け込むように作品が入ってくる人と頭の中で無理な拒絶反応を心地良いと思う人と、反吐が出そうな幻想的幻惑的美装に酔い知れる人と。それは、三者三様の受け取り方があり、すべてにおいて、誤謬という言葉は存在しない。誤謬という価値観が存在しない現世の世界において、今を生きる人々に平家物語がどう解釈されるのか。この興味は、1000年経とうが、色褪せる事はないだろう。

最後に、ライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』は、一夜限りのライブイベント「平家物語 諸行無常セッション」を記録した臨場感溢れるライブ映像だが、これは単なるライブ・パフォーマンスを映像として切り抜いた作品ではなく、その奥にあるのはおよそ1000年前に存在した平家物語の人物が、姿かたちを変えて、今の世に訴えかけている。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ」とあるように、私達は皆、儚い生き物である。瞬きの瞬間を一所懸命、生を謳歌する。1000前の鎌倉時代で起きたとされる戦争、地震、疫病、飢饉は、1000年後の令和の時代にも繰り返されている。ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル問題、台湾有事。東日本大震災や令和6年能登半島地震。2020年から世界中を襲ったコロナのパンデミックは疫病だ。そして、今年2024年における令和の米騒動(※11)は、ある種の飢饉であると解釈した時、私達が生きるこの世界は、鎌倉時代であり令和時代である。その一方で、令和時代が鎌倉時代であるかのように、1000年という時の隔たりはあってないようなものだ。1000年の時を超えて伝えられるものと、1000年後の未来に私達は何を残し、託して行けるのか?1000年後における未来の答えを知りたければ、それはこの作品とあなた自身の中に眠っている。1000年先にある未来の扉を開けるのは、今の私達だ。

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ライブ映画『平家物語 諸行無常セッション』は現在、関西で絶賛公開中。

(※1)日本史/鎌倉時代https://www.meihaku.jp/japanese-history-category/period-kamakura/(2024年11月2日)

(※2)承久の乱https://www.touken-world.jp/tips/11062/(2024年11月2日)

(※3)元弘の乱https://www.touken-world.jp/tips/56975/(2024年11月2日)

(※4)鎌倉幕府9代執権/北条貞時https://www.touken-world.jp/tips/76731/(2024年11月2日)

(※5)相模トラフM8級 600年間に3回、鎌倉時代の発生初認定https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-46660.html(2024年11月2日)

(※6)【中世こぼれ話】鎌倉時代に日本を襲った、寛喜の大飢饉について検証してみるhttps://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7c991b47b475db75095d647058ba93eb571a0b10(2024年11月2日)

(※7)コラム1「源平合戦図屏風」とは?「平家物語」についてhttps://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/digital_museum/etoki/about_heike/#:~:text=%E3%80%8E%E5%B9%B3%E5%AE%B6%E7%89%A9%E8%AA%9E%E3%80%8F%E3%81%AF%E3%80%81%E9%8E%8C%E5%80%89,%E3%81%84%E3%81%A6%E6%8F%8F%E3%81%84%E3%81%9F%E7%89%A9%E8%AA%9E%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(2024年11月2日)

(※8)古川日出男が語る、いま『平家物語』が注目される理由 「激動する時代との親和性」https://realsound.jp/book/2022/05/post-1031489.html(2024年11月2日)

(※9)性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律に関するQ&Ahttps://www8.cao.go.jp/rikaizoshin/qa/index.html#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%81%E3%80%8C%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6,%E3%81%AF%E7%A6%81%E6%AD%A2%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年11月3日)

(※10)映画「平家物語 諸行無常セッション」を劇場で体感してほしい。河合宏樹監督&細井徳太郎が語る一回性と記録の矛盾や葛藤https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/39038(2024年11月3日)

(※11)「令和の米騒動」の原因は猛暑やインバウンドだけじゃなかった…深刻な米不足が今後も起き続ける「本当の理由」https://gendai.media/articles/-/138798#goog_rewarded(2024年11月3日)