映画『ウエスト・サイド・ストーリー』「映画とは何か」を考え直すきっかけをくれる作品

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』「映画とは何か」を考え直すきっかけをくれる作品

2022年2月16日

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』

(C)2021 20TH CENTURY STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

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美しい物語に、美しい音楽。美しいダンスに、ステップ。

全世界を代表するあのスピルバーグが、往年の名画『ウエスト・サイド物語』を見事にリメイクとして蘇らせた本作『ウエスト・サイド・ストーリー』は、映画史に残るだろう。

本作は、過去にブロードウェイのミュージカルとして、また1961年に公開されたオリジナル『ウエスト・サイド物語』として、2度作品化されてきた。

名戯曲『ロミオとジュリエット』の物語を下敷きに、再度現代版として、映画化したミュージカル巨編だ。約50年以上にわたり、あらゆるジャンルの作品を製作してきた監督スピルバーグにとって、ミュージカル映画を製作するのは、初の試み。

「思い出の作品」を映像化するのが、彼の願いだったと言うが、その長年の強い想いが、リメイク作品に滲み出ている。

オリジナルのストーリーを土台にしつつも、アメリカが近年抱える問題(世界中で注目されているジェントリフィケーション(住居が取り壊された低所得者が住む地域の跡地に、富裕層の住民が家屋を立てて、居を構えること)の問題。米国が古くから抱える移民問題や人種問題など)を作品に盛り込んでいる。

これらの論争は、昔も今もまったく変わらない。そんな事案を華やかなミュージカル映画に要素として挿入し、社会的側面をのぞかせる。

監督のスティーブ・スピルバーグは、インタビューにて本作について、こう語っている。

「 本作『ウエスト・サイド・ストーリー』は、一度に2世代の方々が楽しめる作品で、すべての世代を対象としています。そして、この映画を見に行くほとんどの方は、 名画『ウエストサイド物語』を見たことがないだろうと感じました。これは、現在の世代に持ち帰る価値があると、私が本当に信じている物語です。」

(1)“‘West Side Story’ is for all the generations, one– you know, two generations at a time. And I just felt that– that most people who go to see this movie will not have seen ‘West Side Story’ in a theater.This is a story I really believe is worth bringing back to current generations,”

スピルバーグ監督は、本作を世代を超えて楽しめる作品に仕上げたと語っている。

50年前のオールドファンからオリジナル『ウエスト・サイド物語』を知らない現代の新しいファンまで、多くの人々が「ミュージカル」という夢の世界へ没入できる唯一無二の映画だろう。

「世代を超えて愛される」という言葉が似合う映画は、いつになっても「不朽の名作」として語り継がれる。

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また、本作において製作総指揮としても、役者としても作品に参加されたリタ・モレノを知っているだろうか?

彼女は、前作『ウエスト・サイド物語』において、プルエトリコ系アメリカ人の女性アニタ役を演じ、この年のアカデミー助演女優賞、ゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞した女優だ。

名画『ウエスト・サイド物語』を語る上で、作品を代表する避けれては通れない主要人物を瑞々しく演じている。

前作出演時の華々しい経歴にも関わらず、この作品以降、彼女は本作のような大作映画には、それほど出演していない。

その背景には、出演オファーされる役柄が、差別的な意味合いの持つキャラクターが多く、アニタ役のイメージで苦しめられたと、本人が語っている。

本作『ウエスト・サイド・ストーリー』が、本人にとっても実に約20年振りとなるスクリーン復帰作だ(映画作品、日本配給作品に限る。海外TVドラマやアニメでは、ゲスト出演や声優として活躍している。また彼女を被写体にしたドキュメンタリー映画『Rita Moreno: Just a Girl Who Decided to Go for It』という作品にも製作され、昨年6月に全米公開されている)。

その上、本作『ウエスト・サイド・ストーリー』では、キャストとスタッフを兼ねており、前作以上に作品の深淵部まで携わっている。

そんなリタ・モレノは「61年の映画『ウエスト・サイド物語』は、あなたの人生にどのような影響を与えたか?」という質問を受けて彼女は、話している。

(2)“It changed my life. It made me known the world over. But what’s interesting is that I couldn’t get a job for months after that, because I had played the definitive Hispanic woman. And I kept getting offered minor roles of Hispanic characters. After winning an Oscar and the Golden Globe, I said, “I’m not going to accept any more of those. Not anymore. This is it. That day is over.” And, ha ha, I showed them. I didn’t work for years in movies. It was absolutely heartbreaking.”

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映画出演後、彼女は自身の人生が大きく変わったと言う。

ヒスパニック系の女性を演じたため、その後数ヶ月は仕事を得ることができずにいた。

その上、オファーされる役柄は、ヒスパニック系の役柄ばかりが続いたと話す。

そして、何年もの長い間、ハリウッドで役者として働いていなかったというのだ。

悲痛の出来事だったと、話している。それでも、本作のオリジナルとそのテーマの関係性について聞かれると、リタ・モレノは脚本家で劇作家のアンソニー・ロバート・”トニー”・クシュナーの名前を挙げて、彼が作品に取り入れた政治色について褒めている。

作中の建物の表面には「ヨーク市週委員会は何か?この地域は取り壊されるだろう」というジェントリフィケーションを作品のテーマのひとつに掲げている点について言及している。

ちなみに、脚本家のトニー・クシュナーは、HBO製作の海外TVドラマ『エンジェルス・イン・アメリカ(2003)』の舞台版の戯曲を書き、ドラマ版の脚本も書いている。

その後、スピルバーグの作品『ミュンヘン(2005)』『リンカーン(2012)』そして本作『ウエスト・サイド・ストーリー』でペンを握る作家で、スピルバーグ作品になくてはならない存在の一人だ。

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また、本作で最も注目したいのは、圧巻のダンス・シーンだ。

オリジナル、リメイク問わず、この作品の目玉は、ミュージカル映画だけあり、役者たちが歌って踊る場面には目配せしたい。

オリジナル『ウエスト・サイド物語』で振付を担当したのは、ダンス界の巨匠ジェローム・ロビンズだ。1950年代を中心にブロードウェイにおいて『ピーターパン(1954)』や『王様と私(1951)』『屋根の上のバイオリン弾き(1964)』など、多くのミュージカルを世に送り出してきたトップ・ダンサーだ。

本作の舞台版『ウエスト・サイド・ストーリー』は、名戯曲『ロミオとジュリエット』を現代風ミュージカルに仕立てようと、彼が発案したのは有名な話だ。

ギャングたちが、指を鳴らしてストリートを歩く振付は、当時世間にとても影響を与えた演出だろう。新作『ウエスト・サイド・ストーリー』では、新生のダンサーが振付師として作品に携わっている。

34歳のジャスティン・ペックという人物で、2018年にミュージカル『カルーセル』において、トニー賞を受賞している若き天才だ。

彼が2018年頃に舞台に立ち『カルーセル』を上演している予告編の動画がある。

ダンサーたちの躍動感溢れる踊りに、圧倒させられるだろう。ひとつの参考として、目を通してもおきたい。

ジャスティン・ペックは、次世代のミュージカル界を担う注目の若手実力派ダンサーだ。

今後、新しく誕生する「ミュージカル映画」にも、何かしらの形で参加していくことだろう。

ジャスティス・ペックは、作曲家のレナード・バーンスタイン、作詞家のスティーブン・ソンドハイム、劇作家のアーサー・ローランと一緒にロビンズが生み出した期待に応えなければならないというプレッシャーについて語っている。

(3) “It’s a very fine tightrope walk. I’m standing on the shoulders of giants by taking this on and I’m trying to do right by them.”

「とても素晴らしい綱渡りです。私は振付師を引き受け、著名人の肩の上に立って、
彼らジェローム・ロビンズらの隣でひとつの作品に携わりました。」

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それでも彼は、この映画の製作プロジェクトに参加しようか、相当悩んだと話す。

自分を納得させるのに時間もかかったと言う。

それに、舞台版『ウエスト・サイド・ストーリー』には、多くの尊敬の念を持っており、その上で自分なりの声と振付を提示したいと、考えた。

この絶好の機会に対して、ノーとは断れなかったと。プロジェクトに参加するのは、一生に一度の冒険だったと話す。

幼い頃に、彼は両親にオリジナルの『ウエスト・サイド物語』を見せてもらえたのがきっかけとなり、彼のダンサー人生に多大な影響を与えたと、最近彼はインスタグラムでこのようなエピソードを投稿した。

オリジナル『ウエスト・サイド・ストーリー』から、ダンサーとして多くの薫陶を受けたジャスティン・ペックのダンスの技巧が光る点にも注目したいところだ。

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最後に、本作『ウエスト・サイド・ストーリー』は、シェイクスピアの有名な演劇『ロミオとジュリエット』を現代風に解釈したミュージカル映画だ。

オリジナル版では、物語の終盤でネッド・グラス演じるドックが、リチャード・ベイマー演じるトニーに涙ながら語り掛ける場面が、印象的だ。

ドックが「なぜ、戦争をするのか?」と。若者たちの諍い事が、悲劇を産む引き金になったことにうちひしがれる。

また、年代的に考えると、このドックは第二次世界大戦をダイレクトに経験した世代だ。

それは、オリジナルの製作者たちも同じだ。

少なからず、過去の作品には移民問題と同時に、反戦という要素も作品に取り入れていたのだろう。

二つの作品には、アメリカが抱える様々な社会問題を取り入れている。

先にも書いたように、移民や人種の問題、貧富における格差社会、ジェントリフィケーションの問題など。

この社会的な課題は、本当にアメリカだけに限られたことだろうか?

これからの日本でも、同じような出来事が、起こることだろう。

アメリカで起きていることとして、対岸の火事とは考えずに、近い将来日本でも起こりうる問題ということを覚えておきたい。

あのジョージ・フロイト事件が起きて以降、人と人との繋がりが脆弱になってきた昨今のアメリカ。

彼らは何を指針に生きていくのか、本作を通して、スピルバーグが示しているようだ。

また、今回の作品には、スピルバーグの懐古心も作品に込められていることだろう。

彼は数年前にNetflix系の配信作品がアカデミー賞に進出するのを猛烈に批判した人物だ。

若い頃に影響を受け、尚且つ映画が隆盛を誇ったあの時代の作品をリメイクすることで、「映画とは何か」を考え直す、そんな時代に突入したのだと、示唆しているのかもしれない。

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』は現在、全国の劇場にて上映中。

(1)Steven Spielberg speaks about making ‘West Side Story’ ‘authentic,’ calls musical ‘generational’https://abc7.com/steven-spielberg-west-side-story-2021-cast-rita-moreno/11297898/(2022年2月14日)

(2)Rita Moreno Reveals the Biggest Difference in Steven Spielberg’s New Version of West Side Story + How He Convinced Her to Join the CasRita Moreno Reveals What’s Different About Steven Spielberg’s New Version of West Side Story + How He Convinced Her to Join the Cast (parade.com)(2022年2月15日)

(3)Choreographer Justin Peck on Adapting West Side Story’s Iconic Dances for a New Generationhttps://www.townandcountrymag.com/leisure/arts-and-culture/a38450834/west-side-story-choreographer-justin-peck-interview/(2022年2月16日)