特集上映「映像詩人アルベール・ラモリスの知られざる世界」空に向かって前を向いて生きてみたい

特集上映「映像詩人アルベール・ラモリスの知られざる世界」空に向かって前を向いて生きてみたい

魔法のような奇跡の映像が美しい夢のひと時へ誘う特集上映「映像詩人アルベール・ラモリスの知られざる世界」

©Copyright Films Montsouris 1956

特集上映「映像詩人アルベール・ラモリスの知られざる世界」は、『赤い風船4K』『白い馬4K』の公開を記念し、3作品の4Kデジタル修正版の一挙上映が実現した特集上映。こんなにも豪華な特集上映は、今まで聞いた事がない。この豪華絢爛なアルベール・ラモリスの世界に浸り、没入できるこの瞬間にこそ、映画を観る価値がある。魔法の力に逆上せあげ、美という美しい感性に絆された映像世界は唯一無二の特別感ある存在だ。

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映画『赤い風船』

あらすじ:街灯に赤い風船が引っ掛かっているのを見つけた少年パスカルは、そこから風船を取って大切に扱いはじめる。やがて風船はパスカルの行く先々に勝手についてくるようになるが、いたずらっ子たちの標的にされてしまい……。

一言レビュー:真っ赤な風船が、パリの中心街をふわふわと飛び回る映像を想像しただけで、ファンタジー情緒溢れる不思議な世界観を思い浮かべるだろう。その上さらに、小学低学年ぐらいの幼き少年とその風船が神秘的な縁で引き寄せられる姿が、物語の主軸として描かれる。真っ赤な風船は、まるで少年の友達のような、または幼い恋人のような立ち位置で男の子の背中を追いかける。幼子達の友情か、それとも恋心か。たった30分という短い映像の中に収められているのは、生き生きとした少年の風船の掛け合いだ。人間と物の間には、単なる道具の使用・被使用の関係を超えた、友情とも呼べる深いつながりが生まれる事がある。心理学や社会学の観点から見ると、これは「愛着」や「擬人化」(※1)によって説明できると言われる。人間とモノの絆に関するいくつかある主なポイントのうち一つを取り上げて、説明して行く。人間が物に愛着を感じる理由は様々あるが、その中でも3つの点に焦点を当て、考えたい。①子供が毛布やぬいぐるみに愛着を持つように、大人でも特定の持ち物に安心感や安らぎを感じる心理的安定(コンフォート・オブジェクト)、②過去の経験、場所、人を思い起こさせる「ノスタルジー」の対象として、思い出の品に強い絆を感じる思い出の定着、③大切な道具や持ち物は、自分自身の延長線上にあると感じられ、それが壊れたり失われたりすると、自分自身が傷ついたように感じる自己延長などが、ある。私たちが大人になっても尚、物に対する執着心や愛情を持てるのには、モノ自体に人格を持っているのではなく、人間側がモノに自分の感情を投影し、信頼や思い出を共有している状態と言える。大切にされたモノは、人間の生活に安心感と豊かさを与え、生涯にかけてかけがえのない「パートナー」となる。少年と風船の関係性は、少年から見た自己投影の延長線として風船を友達や恋人のように錯覚する作用が働いた結果の小さな冒険譚が綴られる。 

©Copyright Films Montsouris 1956
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©Copyright Films Montsouris 1953

映画『白い馬(1953)』

あらすじ:南フランスの荒地に、野生馬が群れをなしていた。牧童たちは群れのリーダーである白い馬を捕獲しようと躍起になるが、なかなか上手くいかない。そんな中、同じく白い馬に魅せられた漁師の少年フォルコは、牧童たちから馬を守ろうと奮闘する。やがて馬もフォルコに心を許し、ともに牧童たちの追跡から逃れようとする。

一言レビュー:言葉以上の友情がある。想い以上の心の通わせ方がある。一匹の馬と一人の少年の目には見えぬ言葉を越えた友情(※2)は、観る者の瞳に「あの頃」を鮮烈に想起させる来る。幼少期の思い出は、何十年経とうと色褪せない。友と共に過ごした遠い記憶の日々の彼方、友情だけをそこに残して来た大人達は、馬と少年の心が通う姿に自身の幼年期の頃の胸にしまった友との友情を回想するだろう。追憶の彼方から聞こえる自身の名を呼ぶ友の声は、大人になった今でも耳から離れてくれない。映画『白い馬(1953)』において特筆すべきは、全編セリフを排した静かな演出が目立つ。耳に聞こえて来るのは、馬の寂しそうな鳴き声と陽気で明るいリズムの映像音楽だ。

©Copyright Films Montsouris 1953
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©Copyright Films Montsouris 1965

映画『フィフィ大空をゆく』

あらすじ:ある邸宅から時計を盗み、サーカス団に逃げ込んだフィフィ。支配人は警察に突き出さないかわりに、フィフィを背中に羽をつけて空中を飛ぶ危険な演目を披露する鳥人間に仕立てようとする。団員のミミに一目ぼれしたフィフィは練習を始め、やがて空を飛べるようになると、天使のふりをして再び時計を盗み、ミミに贈る。しかしミミに思いを寄せる猛獣使いと争いになり、サーカスは崩壊。警察の追跡がはじまるなか、フィフィは空高く舞い上がっていく。

一言レビュー:1960年代頃のフランスでは、泥棒家業の少年がたくさんいたのだろう。1960年代のフランスにおける「泥棒少年(少年非行)」は、戦後の社会変化や都市化の影響を受け、特に後半にかけて増加傾向にあった。統計的に見て、戦後1950年から1975年の間に有罪となった少年犯罪者は約1.8万から約5.8万へと激増し、その多くが窃盗を主とする財産犯が多くいた。第二次世界大戦を通して、多くの子ども達が戦争孤児となり、空腹の末に盗みや窃盗を繰り返した。これは、社会が産んだ負の産物ではあるが、本作の監督はこのマイナスな一面をすべて空想物語へと昇華させた。「もし、少年の背中に天使の羽があれば?」(※4)という荒唐無稽な投げ掛けが、この作品を生み出させた。悪人から天使に生まれ変わろうとする一人の少年の姿を通して、私達の内に善なる心と悪なる心の改心と葛藤が少年の姿を合わせ鏡として映される。

©Copyright Films Montsouris 1965

©Copyright Films Montsouris 1960

映画『素晴らしい風船旅行』

あらすじ:パスカルの祖父は学者で、気球を発明し、フランス中を旅する計画を立てていた。冒険を夢見る少年パスカルは、こっそり気球のゴンドラにしがみつき、そのまま乗り込んでしまう。北フランスのベテューヌを出発し、パリを通過してブルターニュから南へ進む中、2人は次々と災難に見舞われる。それでもアルプスを越え、ニームで海水浴を楽しむが、闘牛場での一時着陸の際に、気球はパスカルひとりを乗せたまま空に上がってしまう。

一言レビュー:もし世界中の大空を気球を使って、旅できるとしたら、それはそれでロマンに溢れている。けれど、その冒険は危険を伴うものでもある。危険とロマンの先にあるのは、果てしなき冒険野郎のデッカイ夢だ。そんな理想ばかりの滑稽な事が現実世界でも起きているとしたら、それはそれでお笑い種だ。物語に登場する人物のキャラクターの出現は空想の世界だけに留めて欲しいものだが、この映画に登場する冒険好きなお爺さんのような人が、ここ日本にもいた事を日本人は覚えていない。平成初期に突如として現れた「風船おじさん」(※5)の無謀な冒険譚は、世間から大きな失笑と共に受け入れられた。当時、世間で話題を攫い、ワイドショーなどで取り上げられ一躍時の人となった「風船おじさん」の職業はピアノ調律師であったが、ピアノの修理はできても、自身の頭のネジを調律するのはできなかったようだ。冒険は男のロマンではあるが、ロマンばかり追い掛けると、必ず失敗する。荒唐無稽な夢物語にうつつを抜かしても構わないが、より地に足が着いた大きな夢を抱いて欲しいものだ。空撮に拘り続けたアルベール・ラモリス監督もまた、この男のようなロマンの中でしか生きられなかった寂しい男なのかもしれない。監督自身の空撮への熱意は熱く、今作でも空から見たパリの大空が印象的にレンズに収まっている。

©Copyright Films Montsouris 1960

最後に、今回の特集上映「映像詩人アルベール・ラモリスの知られざる世界」のラインナップに組み込まれていないが、短編映画『恋人たちの風』もまた、アルベール・ラモリス監督の作品だ。メルヘン・タッチの映像で人気を博したアルベール・ラモリス監督による、イラン上空からイランという国そのものを捉えた短編だ。ラモリス監督がヘリコプターの空撮を用いてイランの風景を収めた。彼は、空撮のスペシャリストとして知られ、本作もその集大成となるはずだった。ただ、撮影中の事故により、ラモリス監督が急逝し、彼の死後に残された映像を元に完成させたシネポエム(映画詩)作品となった。 この度、日本初公開となるのは、ドキュメンタリーからキャリアをスタートしたラモリスの劇場長編映画監督デビュー作となる『小さなロバ、ビム』。北アフリカ、チュニジアのジェルバ島を舞台に、ロバと少年たちの愛らしい友情を描く。そして、祖父と少年の冒険旅行に胸が躍る『素晴らしい風船旅行』は、ヘリコプターに耐震装置を付けた「ヘリヴィジョン」を使用して撮影され、フランス全土の風景を気球に乗った主人公の視点で楽しめる。さらに、人間がもし鳥のように自分の翼で空を飛べたならという、人類の永遠の願いを映画化した『フィフィ大空をゆく』。初公開時は日本でも大ヒットを記録したロマンティック・ファンタジーだ。ラモリスが映画にしたのは、誰もが子供の頃に見ていた夢。映画館の暗闇の中、一瞬で子供時代へと送り込たちは、あの頃の希望と自由、遊び心とユーモア、そしてまっすぐな瞳を取り戻す。そんなかけがえのない映像体験こそが、ラモリスの起こした“奇跡”なのだ。子ども心に抱いたファンタジーへの憧れが、映像として表現された時、子ども達の生活は一変しただろう。魔法や不思議な世界に引き込まれていた幼少期を思い出して、風船や気球の小さな冒険から大きな冒険まで、おとぎ話を地で行く荒唐無稽な物語ばかり。この冒険を通して、私達はまた一つ大人になる事ができる。この空の先には、まだ見ぬ大空があると考えれば、その空に向かって前を向いて生きてみたいと思える。

特集上映「映像詩人アルベール・ラモリスの知られざる世界」は現在、全国の劇場にて公開中。

(※1)Why do some people give human feelings to inanimate objects? What experts sayhttps://edition.cnn.com/2024/09/07/health/empathize-inanimate-objects-anthropomorphize-wellness#:~:text=Anthropomorphizing%20household%20objects,need%20from%20humans%2C%20she%20added.(2026年1月26日)

(※2)ペットは飼い主の対人関係を豊かにする 心理学に基づく2つの理由https://forbesjapan.com/articles/detail/72176(2026年1月26日)

(※3)The growth of crime in the 20th and 21st centurieshttps://www.bbc.co.uk/bitesize/guides/z2cqrwx/revision/8#:~:text=The%20crime%20rate%20increased%20in,technological%2C%20social%20and%20economic%20changes.(2026年1月26日)

(※4)【宗教画がおもしろい】天使には翼がついている、と思っていませんか?https://inoparis.com/angel-wings/(2026年1月26日)

(※5)「風船おじさん」事件から33年 “太平洋横断”めざして空へ…行方不明になった50代男性「無謀な夢」の結末https://news.livedoor.com/article/detail/30052024/