映画『メイソウ家族』あなたが求める家族像

映画『メイソウ家族』あなたが求める家族像

交わるはずのない物語が一つの世界でつながっていく映画『メイソウ家族』

©大阪芸術大学

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足元から崩れるかのように家族崩壊への序曲が、音を立てて奏で始める。家族の関係が崩壊する要因には様々あり、たとえば、親子関係や兄弟関係、夫婦関係や親族関係など、種々様々な原因で双方の関係に亀裂が走る。ちょっとしたボタンの掛け違いや、意見の相違が家族の関係を破滅への道を歩ませる。誰にでも家族や親、子への不満を持っているもので、いつ何時、その不満の堰が決壊するか分からない。些細な出来事が家族間での不協和音を掻き鳴らし、破滅への序奏がそれぞれの関係性を狂わせる。近頃、実社会でも家族同士における愛憎たらしむ惨事が生憎、全国で起きている。お腹を痛めて産んだ我が子は骨肉之親のように愛情を持って育てていたはずだが、いつの間にか、忌まわしい存在になってしまうのか?私達は常に、近くもあり遠くもある家族の関係に迷走しながらも、家族からの愛情を探し求めている。親兄弟に対する愛情表現を自ら進んで行えば、自ずと家族からの深い愛を受けられるが、エゴイスティックで独善的な愛欲ばかりを求めれば、誰も心から愛してはくれない。他者から愛情を受ける為に最も大切な事は、自分から愛を分け与える事が重要になる。映画『メイソウ家族』は、お互いに向き合わなくなった4人家族の崩壊と思いがけない修復の糸口を描いた第1話と5年後を舞台に正体不明の生物を車で轢いて死なせてしまったカップルの運命を追う第2話と失声症で言葉を話せなくなってしまった中学生と彼女の個別指導を任された国語教師の交流を瑞々しくつづった第3話の3話構成で展開される。各々の全く違う人生(ストーリー)が、スクランブル交差点で交差するように一つの物語へと昇華する。それは、私達の人生も同じで、交わるはずのない遠い祖先や遠い孫世代の家族の人生は実は血縁という見えない糸で結ばれている。私達家族は、繋がりがないようで、見えない関係性で深く繋がっている。

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長い間、家族が家族の関係のままで均衡を保つのは非常に難しい。どれだけ仲の良い親子や夫婦でも、お互いの我慢が限界に達し、緊張の糸が切れた瞬間、その関係は音を立てて崩れて行く。何十年という家族史の中には、必ずケンカが起きたり、意見の対立が起きて来ただろう。大人には大人なりの、子どもには子どもなりの意見がある。子どもが思春期に差し掛かると、ほとんどの子どもには反抗期が訪れ、親との衝突は避けられない。そして、様々な経験を通し、子どもが成人へと成長した時初めて、親の偉大さや有難みを身を持って経験し、尊敬の念が湧いたり、感謝の言葉を口にする事ができる。その幾重にも重なる家族の時間の中で親と子の心は成長し、痛みを分かち合い、共に喜びを感じる存在となる。それが近年、家族の関係が土崩瓦解に崩れ落ちる瞬間が頻繁に起きている。たとえば、2024年2月に起きた相模原市両親殺害事件(※1)では、事件当時15歳の少年が実の両親に手を掛けた。父親の殺害後、母親が「殺して」と懇願する程の殺人現場はいかがなものだったのだろうか?少年は、「底なしの恐怖感から逃れたかった。不適切な養育」があったと話し、この事件の背景も少年の殺害動機も不明瞭な一面もあるが、ただ親を殺した少年だけを一方的に責めるのではなく、何故このような事件を起きてしまったのか、この少年の姿を通して、未来の家族の在り方について考えたい。相模原市の事件の背景にな、少年が小学生の頃から父親から暴力や暴言を受けていた。母親には「産まなきゃよかった」などと言われ育った。また、家では親の代わりに料理や掃除などの家事を任されていた事実(※2)がある。同時期に九州大生の子どもが、上記の事件と同じように親を殺害する事件(※3)が起きている。この事件もまた、子どもが幼少期の頃から虐待を受けており、特に教育虐待の背景があり、その反動で親に刃物を向けている。ただ若い世代ばかりが注目されがちだが、親がシニア層と子どもが働き盛りの世代での親子間の諍いも絶えない。いわゆる、5080問題(8050問題とは、80代の高齢の親が50代の引きこもり状態の子供を経済的・生活的に支え続ける状況を指すが、これらの事案も同問題に分類しても遜色ない)(※4)ではあるが、中年の子どもが老年の親を襲う事件(※5)も後を絶たない。家族の関係が音を立てて崩れ落ちる瞬間は事件が起きる瞬間ではなく、家族間双方の積み重ねて来た時間の中で多くのボタンの掛け違いの瞬間瞬間が、後々の関係性がヒビが入ってしまうのだろう。積もり積もった積年の恨みや宿根が、家族間における憎悪感情の根底に深い根を生やしてしまうのだろう。

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一組の家族を個体で考えたら、家族は家族だ。他の家族や自身の親族と交わる事はない。私達には、各々に家族がいて、親族がいて、他人の家族とも親族とも関わらない、相容れない関係だ。それは当然の事であり、誰も信じて疑わない。産まれた時からの自然の流れであり、自分の父親も母親も兄弟も、皆一人だけに過ぎない。一部の国では、その土地の風習として一夫多妻制、一妻多夫制などが残っているが、基本的には家族という存在はどこまでも行っても他者とは交わらない。他者だけでなく、自身の先祖やまだ見ぬ孫や玄孫も出会う事は少ないだろう。様々な観点から考えたら、家族や親という存在は不思議な存在かもしれない。一見、自身の家族以外の他人と自分の家族間や遠い親戚、会ったことのない親族とは何の関係性もないと考えていまいがちだが、実際はもしかしたら、私達は見えない何か絆や糸で結ばれているのかもしれない。輪廻転生における家族の「見えない絆」とは何かを考えたら、前世からの因縁や魂の繋がりによって、何度も生まれ変わっても家族として結ばれる考え方。この繋がりは霊的なもので形としては見えないが、魂が惹かれ合ったり、強い愛情を感じる事で「絆」として現れると解釈(※6)されている。表面上、一切関係がないと感じていても、私達は見えない何かによって、惹き付けられている存在かもしれない。まったく違う異なった家族間の出来事やエピソードであっても、不可視の部分や側面で私達人間は繋がり合っているのかもしれない。論文「仏教輪廻説が現代社会で持つ意義」の一説(一部抜粋)によれば、「仏教の輪廻説は哲学的な縁起、倫理的な業報説と深く関連するが、非常に具体的であり、実用的であるため、理解しやすく生活に及ぼす影響力も非常に大きい。輪廻説があることで業報説と縁起説がより強力な意味を持って生活の仕方に明確な基準を提供することが可能である。それは、現代社会で起こる様々な弊害を防止、また解決できる素晴らしい死生観にほかならない。」(※7)とあるように、にわかにも信じ難い輪廻転生論の考え方を通して、私達は目には見えない何らかの繋がりによって、繋がっている。まったく違う人生を歩んでいたとしても、まったく違う時間軸にいて、各々が体験する出来事はこの転生的な考え方によって、一つの出来事として時間が繋がり、超越していると考えてもおかしくないだろう。

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最後に、映画『メイソウ家族』は、お互いに向き合わなくなった4人家族の崩壊と思いがけない修復の糸口を描いた第1話と5年後を舞台に正体不明の生物を車で轢いて死なせてしまったカップルの運命を追う第2話と失声症で言葉を話せなくなってしまった中学生と彼女の個別指導を任された国語教師の交流を瑞々しくつづった第3話の3話構成で展開される。各々の全く違う人生(ストーリー)が、スクランブル交差点で交差するように「メイソウ家族」を一つの物語へと昇華する。どんな家族でも、常に迷走する関係性だ。親兄弟とどう接すればよいのか、どんな風に日々を過ごせたらお互い気持ちよく過ごせるのか。どんな家族でも、いつでも迷走している事だろうが、でも一呼吸置いて、呼吸や身体の感覚に意識を集中させ、ストレス軽減、集中力向上、心の安定、自律神経の調整し、心の瞑想に耽ってみれば、あなたが求める家族像を手にする事ができるかもしれない。

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映画『メイソウ家族』は現在、東京都、大阪府、京都府、長野県の劇場にて公開中。

(※1)相模原 両親殺害事件 当時15歳長男 初公判 起訴内容の一部否認https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250204/k10014712061000.html(2025年9月1日)

(※2)10代少年の両親殺害で「懲役24年」と「少年院行き」、背景重なる2つの事件で「司法の判断」が大きく分かれた理由https://www.bengo4.com/c_1009/n_18641/(2025年9月1日)

(※3)“教育虐待”で「父に恨み」「仕返しを支えに生きていた」元九大生の長男(19)に懲役24年の判決、両親を殺害したとして起訴(求刑は懲役28年)https://rkb.jp/contents/202309/202309157908/(2025年9月1日)

(※4)8050問題 孤立する親子https://www3.nhk.or.jp/news/special/hikikomori/pages/articles_02.html(2025年9月1日)

(※5)京都・伏見区で高齢両親を刃物で切り付け殺害しようとした疑いで逮捕 50歳男性を不起訴処分 大阪地検https://www.fnn.jp/articles/-/925001(2025年9月1日)

(※6)ソウルメイトとは?その意味や特徴、見分け方をご紹介!運命の人の可能性も?https://e-kantei.net/lp/spiritual_00011/(2025年9月2日)

(※7)仏教輪廻説が現代社会で持つ意義https://drive.google.com/file/d/17voXfC13fJ-r17256C2sxL0ZaEQHnDGv/view?usp=drivesdk(2025年9月2日)