醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。ドキュメンタリー映画『オキナワより愛を込めて』
ファインダー越しに見た70年代の「オキナワ」は、愛と活気に溢れた時代を象徴する文化の中心だった。カメラは実像を写し、写真は真実を写す。戦後、沖縄が辿った数奇の運命に思いを馳せれば、沖縄が過ごした70年代(もしくは戦後80年)の日々にタイムスリップする。娼婦たちは身体を売ってその日の日銭を稼ぐが、彼女達が売ってるのは春ではなく、愛だ。太平洋戦争で、ベトナム戦争で傷付いた日本人や米兵に癒しを与え続けた70年代の娼婦たちの生き様が、今の世に何を問い掛けるのか?沖縄返還後における激動の時代を駆け抜けた70年代以降の沖縄が見た風景が、今の私達の生き方に波紋を投げる。現在、沖縄が抱える問題は、非正規雇用率、失業率、給食費未納率、子どもの貧困率などの貧困問題(※1)、島々を結ぶ交通手段は海路・空路に限られ、自動車への依存度が高い県内の交通手段への改善(※2)、大量生産・大量消費・大量廃棄を基調とした社会経済活動を背景にした環境問題(※3)、経済社会活動の正常化に伴い、2023年以降主要産業である観光業の持ち直し(※4)が進む。ドキュメンタリー映画『オキナワより愛を込めて』は、写真家としての石川真生のルーツをたどりながら、作品の背景となった歴史、政治、人種差別、それらを乗り越えるパワーを石川の写真とともに映し出す。今の「オキナワ」を通して、私達はこれからを生きる指針を見つける事ができるのかもしれない。
1970年代の沖縄と言えば、時代背景を考慮すれば、沖縄史の中で大きな変化を与えた時代だろう。ひとえに、1972年(昭和47年)5月15日、日本に沖縄が返還された大事な時期(※5)。この歴史的瞬間は、沖縄史に限らず、近代の日本史においても、政治的経済的社会的背景を考慮した上でも、私達日本人にとって、非常に大切な出来事だ。その沖縄返還が行われて、およそ半世紀となる50年が過ぎた今、日本における沖縄という立ち位置や立場について、今一度考える必要がある時代に到来しているのかもしれない。1970年代の沖縄、この時代には「沖縄返還」以外では、どんな出来事が起きていたのだろうか?まず、1972年にアメリカから返還される直前の1970年(この時期を返還前夜と読んでみたいところ)、沖縄は米軍や米兵問題で大きく揺れていた。それは、1970年12月20日未明に起きたコザ反米騒動(※6)だ。事の発端は、アメリカ人が運転する車両が道路横断中の男性をひっかけて怪我を負わせた事故でした。事故処理中のMP(Military Police 憲兵)を見物人が取り囲み、「糸満の二の舞を繰り返すな」と騒ぎました。この騒動の先日、糸満市で主婦を轢き殺した米兵が軍事裁判で無罪となったばかりで、米軍への反感は高まっていました。MPの威嚇発砲をきっかけに、駐車中のMPや外人車両に次々と放火した騒動があった。度重なる米軍と沖縄市民との衝突が、沖縄返還の機運を高めたと言っても過言ではない。他にも、1970年代は沖縄にとっても、日本国家にとっても、激動の時代だったのであろう。沖縄返還の50年の歩みは、1970年代に100件以上存在したコザの売春宿の存在(※6)でさえも明るいものにさせる。あの日あの時、あの場所で時代に翻弄されながら必死に生きていた島民がいた事を忘れてはならない。
それから50年、2020年代の沖縄はどうだろうか?冒頭でも少し現代における沖縄問題にも触れたが、ここではもう少し掘り下げてみたいと思う。その前に、皆さんは沖縄に対して、どのようなイメージを持っている?米軍基地問題、米兵問題、訓練による騒音問題や環境汚染、自然災害のリスク、米軍兵士による犯罪、米軍ヘリによる墜落事故問題など、多くの事案を孕んでいるが、世間一般の沖縄に対するイメージは、きれいな海、ゆったり/のんびり、温暖な気候、南国、リゾート/観光、シーサー、明るい、沖縄方言/沖縄語、自然豊か(※8)など、沖縄へのイメージは非常に明るい。その背景には、沖縄米軍基地問題(※9)の影が落としたとしても、人々が持つこれらのイメージはこれから先も崩してはいけない。また他に、現代沖縄において長寿問題(※10)が今、県内で問題視されているのも事実だ。「2020年都道府県別生命表」において、沖縄県の平均寿命は男性が80.73歳でワースト5位の全国43位。女性は87.88歳の16位と前回調査から下がっている現実、人生100年時代、ウェルネスという健康を推奨する時代に、どう長く楽しく自身の人生を生きるのかは、これは誰にとっても、死活問題だ。誰も若くして死にたくないからこそ、寿命問題への関心も高まっているのだろう。もう一点、沖縄返還50年という半世紀が過ぎ、今県内で取り組まれているのは観光業への隆盛だ。先程の沖縄のイメージに対して、リゾート/観光、自然豊か、このような印象をどう保つのか、どう磨いて高めるのか、今の沖縄県民達は今後の沖縄観光事情に対して、どう取り組んで行くのか、それを一つの課題として捉えている。今までの50年の歩みと共に、これからの未来の50年の歩みについて、沖縄県民、県外関係なく、皆さんで共に考えて行く事が、未来に沖縄を残す行動に繋がるのだろう。ドキュメンタリー映画『オキナワより愛を込めて』を制作した砂入博史監督は、あるインタビューにて70年代の沖縄に生きた女性達の力強さと写真家としての石川さんの生き様について聞かれ、こう話している。
砂入:「真生さんが彼女たちを撮ったのが70年代だったということも影響しているでしょう。フリーラブ全盛期で性に対してオープンだったし、裸をいやらしいものではなく美しいものとして見るという考え方があり、ヒッピー文化があった時代ですね。いろいろな形の性器があっていいとか、毛の生え方があっていいというように全てを受け入れる土壌があったからこそ、他人の目の前で裸になることは、クールなことだったのだと思います。真生さんの写真家としての生き様、心に課したモットーの表現ですね。僕がアメリカに住んでおり、一般的な日本人のメディアの人間でなかったことも、信頼してもらえる要因の一つだったと思います。彼女は若い頃、東京で写真展をしたときに、日本のメディアの彼女の写真に対する表現の仕方に対してひどく傷つき、トラウマになっているわけですから。」(※12)と、監督は話す。つらつらと70年代以降の沖縄の歴史と社会問題について書き連ねたが、この作品が最も伝えたい事は、その時代の沖縄に暮らし、女性写真家として活躍した石川真生の為の映画だ。名前の通り、石川さんは真っ直ぐに生きた人生を送っている。率直な人柄が、作品全体から伝わって来る。この真っ直ぐに、また実直に生きる生き方は、簡単そうで、実は難しい。この生き様こそが、彼女の生まれ持った生涯の天賦だったに違いない。
最後に、ドキュメンタリー映画『オキナワより愛を込めて』は、写真家としての石川真生のルーツをたどりながら、作品の背景となった歴史、政治、人種差別、それらを乗り越えるパワーを石川の写真とともに映し出した作品だ。戦後80年が経とうとし、沖縄返還50年が過ぎた今、現代沖縄における未来はどこにあると言うのだろうか?近頃、102代内閣総理大臣に就任した石破茂氏が掲げた「日米地位協定改定」(※13)のマニフェストに対して、沖縄県民は大きな期待を寄せている。普天間、辺野古問題がこの先、どう解決するのか、これは沖縄県民だけでなく、日本国民にとって由々しき事態だ。時代の価値観の変革は待ったナシだが、それでも、私達には忘れてはいけないものがある。それは、先程述べた沖縄へのイメージ問題、これは島人ぬの宝として、未来永劫、守り抜いて欲しい。沖縄には、古くからあるあらゆる文化文明の誇りが存在し、その中でも沖縄文化の象徴とも言える沖縄民謡が、永永無窮、絶えること無く守り続けること。ファインダーを通して描かれた70年代の永久(とこしえ)の風景が訴えている事が、この「文化を守る」と言う事に直結している。沖縄民謡「デンサー節」に耳を傾けながら、文化繁栄の尊さに想いを馳せて欲しい。
ドキュメンタリー映画『オキナワより愛を込めて』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※2)克服すべき沖縄の固有課題と対応方向https://www.pref.okinawa.jp/21vision/htmlver2/problem_and_direction_index.html#:~:text=%E5%A4%9A%E3%81%8F%E3%81%AE%E9%9B%A2%E5%B3%B6%E3%81%A7%E6%A7%8B%E6%88%90,%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2024年10月13日)
(※3)沖縄県の環境政策https://drive.google.com/file/d/1BrOnOozoDCkJguZowXFhibvgc8QwNWDu/view?usp=drivesdk(2024年10月13日)
(※4)沖縄の観光客数の回復状況と今後の課題https://drive.google.com/file/d/1C0bH7-nWOBrdM61NKakg1Ndx_q2Xvvlq/view?usp=drivesdk(2024年10月13日)
(※5)沖縄返還ってなに?裏には数々の密約も いちからわかる復帰50年https://www.asahi.com/sp/articles/ASQ5D5DJWQ52TIPE013.html(2024年10月13日)
(※7)最盛期には100軒以上。米兵相手の防波堤にもなったコザ・売春街のオンナの不条理な物語「離島や大島から女売りがきた」「娘なんかパンパンさせていたよ」〈1972年、沖縄コザ・パラダイス〉https://shueisha.online/articles/-/123592?page=1(2024年10月13日)
(※8)沖縄といえば?沖縄県民以外に聞いた沖縄のイメージランキング!https://www.athome.co.jp/town-library/article/122839/(2024年10月13日)
(※9)イチから分かる!「普天間・辺野古」そもそもどんな問題?https://ryukyushimpo.jp/news/entry-2602758.html(2024年10月13日)
(※10)沖縄の「健康長寿」はどこへ…平均寿命が年々悪化 2020年都道府県別生命表https://hubokinawa.jp/archives/21133(2024年10月13日)
(※11)沖縄観光のあゆみと可能性~これまでの50年、これからの50年~https://www8.cao.go.jp/okinawa/8/2023/okinawahukki50/content/sightseeing02.html(2024年10月13日)
(※12)「僕の映画というよりは、写真家としての石川真生の生き様、心に課したモットーの表現」 『オキナワより愛を込めて』砂入博史監督インタビューhttps://cinemagical.themedia.jp/posts/55130348(2024年10月13日)
(※13)石破新内閣が発足 沖縄県民、日米地位協定改定に「期待」の声もhttps://mainichi.jp/articles/20241001/k00/00m/010/263000c(2024年10月13日)