古典的ティーン映画の裏側を描いた「オムネス・フィルムズ特集」

「オムネス・フィルムズ」とは、エマーソン大学に在学中の学生たちが 2010年に築いた友情がきっかけで創設されたロサンゼルスを拠点とする 映画制作者の集団。卒業後、ロサンゼルスで共同制作を始めたのがスタートで、今では短編、ミュージックビデオ、本格的な低予算長編まで手掛けるようになる。オムネス・フィルムズは正式な法人組織ではなく、親しい友人同士が自然発生的に協力する“ゆるやかな共同体” として機能しており、メンバーが互いのプロジェクトに役割を担い合うスタイルが特徴だ。少し実験的な雰囲気を兼ね備えているから、なかなか受け入れられない部分もあるかもしれないが、映画の教科書に則った従来の制作手法とは一線を隠す制作方法は商業主義では真似できない。インディペンデント映画だからこそ、製作者自身のやり方や思想を全面に押し出す事ができ、それが個性に繋がる。個性的すぎる作風ゆえに、ポピュリズムに欠けるかもしれないが、マイナリティの分野に特化している。万人受けするか、マイノリティに受け入れられるか、そのどちらも大切だ。

『ノー・スリープ・ティル』
あらすじ:ハリケーンが接近する街にとどまることを選んだ人々の姿を、不気味さと夢幻的な感覚を交錯させて描く。
一言レビュー:太古の昔から世界中で自然災害は、起きている。ここでもあそこでも、地震、津波、台風、豪雨・洪水、土砂災害、火山噴火、豪雪、竜巻。多くの自然災害が、私達の生活に襲いかかる。あらゆる国と地域で、常に天災は私達に牙を剥く。天変地異をテーマにした映画は、そんな私達人類に、もし災害が起きた時にどうするかを試す為にある。襲いかかる猛威に対して、逃げ切るのか、留まるのか。その判断が、生死の境や運命の決断を左右する。災害は、いつも私達の隣にいて、誰かの命を狙っている。日本を含めたアジア地域では、台風の被害(※1)に悩まされる。日本に留まらず、アジア諸国への被害(※2)は常に甚大だ。北米では、台風ではなくハリケーンの被害は深刻だ。アメリカの歴代ハリケーン(※3)では、2005年のウィルマは、中心気圧が882hPaで観測史上最強と呼ばれる。1900年に発生したガルベストン・ハリケーンでは死者数が最悪級を記録。2005年のカトリーナは、米国史上最も経済的被害が甚大だったことで有名だ。これら記録に残るハリケーンとして挙げられる。他に、1780年のグレート・ハリケーンは世界史上で最も被害が大きかったとされる。1988年のギルバートは、前述のウィルマの前に観測史上最強の記録を保持(888hPa)。1935年のレイバー・デー・ハリケーンは、フロリダを襲い、非常に強力だったとされる。日本の台風もアメリカのハリケーンもすべて、絶えず身近にいる。いつでも人類を襲う準備はできており、爆発するエネルギーを蓄え、時機を見て一気に噴き出す。災害が起きた時、その場に留まるか、自身の命を自力で守るかの判断が迫られる。危機に陥った時、私達は正常な判断ができるかは、その時の自身の行動に委ねられている。心理学的側面の「正常バイアス」(※4)がちゃんと機能するかどうかは、日々の訓練や予行演習(メンタルリハーサル)をスタンバイする備えが必要だ。でも時に、災害ではなく、人災が壊滅的な被害を与える時がある。先月、香港で発生した高層マンション火災(※5)は、現場の作業員や会社の体制など、様々な不備が重なり、大災害へと発展した。この事故での社会の責任は、非常に重い。映画『ノー・スリープ・ティル』は、災害が起きた時に私達はどう行動するかを問う作品だ。タイトル「ノー・スリープ・ティル」の後ろに続くのは、「ハリケーンが立ち去る」まで眠れない人々の感情が盛り込まれている。自然災害が襲って来た時、人間は何をすべきか今から考える必要があるだろう。




『トポロジー・オブ・セイレーン』
あらすじ:アマチュア音楽家がカセットテープに収録された音に誘われ不思議な旅をする姿を描いた作品。
一言レビュー:過去に録音したカセットテープの中の音声には、何が録音されているのか?もうテープ用の再生機器がない限り、その音源を聞くことはできない。カセットテープの中に何が録音されているかを確認する唯一の方法は、対応する再生機器で実際に再生する道はない。当然ながら、手元にあるカセットテープ(※6)の見た目だけで、録音内容を特定する事は不可能だ。テープに録音されている可能性のある内容には、以下のような多様な内容が録音されている可能性がある。①市販の音楽アルバム②ラジオから録音した番組や音楽③個人的な会話や家族のイベントの記録④自分で演奏した音楽や作成した音源⑤学習用の音声教材が、挙げられる。最も多いのが、①や②や④だろう。1962年にオランダのフィリップス社が「コンパクトカセット」として開発・発表したカセットテープの登場は、個人が自由に録音できるメディアとして人気を得た。カセットテープに録音された音は、アナログならではの温かみや独特のノイズ(ヒスノイズ、テープの伸び、ワウフラッターなど)が特徴的な魅力(※7)だ。私達は、中音域が豊かで丸みのあるサウンドが魅了されたが、デジタル音源にはない音質劣化や物理的な制約(テープの劣化、保管の難しさ)が、時と共に人気を急落させた。カセットテープは、デッキの性能やテープの種類、録音・再生環境、経年劣化によって音質は大きく変動する。テープの音の特徴(※8)には、温かみと丸み、アナログノイズ、音の質感、録音レベル依存がある。高音・低音再現性はデジタルに劣るものの、中音域が豊かでアナログらしい温かみのあるサウンドを楽しめる。また、ヒスノイズ、テープの伸びによる音程の揺れ(ワウフラッター)、テープの劣化によるプツプツ音など、独特のアナログ的なノイズが加わる。次に、CDラジカセでダビングすると、音の質感として音圧が強くアタック感のあるパワフルなサウンドになる事がしばしばある。最後に、録音レベルを上げ過ぎると歪みが増え、低すぎるノイズが目立つ依存には注意しないといけない。 音質に影響を与える要因には、ノーマルテープ、クロームテープなどのテープの種類。種類によって音の特性が異なる(クロームは深み、ノーマルは吸音性が良い)。録音機器のデッキのヘッドの状態、回路の品質、マイクの特性(特にポータブル機の中音域偏り)。テープの伸び、磁気の劣化、カビといった経年劣化が、音質を低下させる。録音したデッキで再生するとアジマス(ヘッドの角度)が合っていても、別のデッキによって再生環境で音質が変わる時がある。カセットテープの魅力と楽しみ方には、自分の声を録音したり、ラジオから手軽に録音できる楽しさがある。曲送りできない不自由さや、テープの巻き戻しなど、デジタルにはないアナログ的な体験ができる。劣化も含めて、デジタルにはない音の質感やアナログの魅力を味わえる音の「手触り」に耳を掠める。カセットテープの音は、単なる記録媒体としてだけでなく、テープそのものの「不完全さ」や「アナログ感」自体が魅力となり、現代でも愛されている。近年、カセットテープに対して再評価が進み、テープを愛用する人口が増えている。この作品では、アマチュア音楽家が一つのカセットテープを通して、音の旅に出る物語だ。音楽家が音を求めて旅をする主な理由には、新しいインスピレーションの獲得、多様な文化・歴史背景の理解、そして非日常的な環境での自己発見と表現の拡大にある。あるヴァイオリニスト(※9)のように、「音旅演出家」として旅を音楽で演出する活動をしている。地域の振興に繋げる活動をしている音楽家もいる。音楽家にとって音を探す旅は、単なる移動手段ではなく、音楽創作のための重要なプロセス。音を探す行為は、自身の行いを見つめ直し、新しい感性を育み、真の自分自身を発見する大事な旅だ。カセットテープに録音されている音源のほとんどは、過去に置き忘れて来た記憶や思い出だ。ひとたび、過去の扉を開ければ、私達は楽しかったあの頃の自分を思い出す心の旅だ。



最後に、「オムネス・フィルムズ」とは、エマーソン大学に在学中の学生たちが 2010年に築いた友情がきっかけで創設されたロサンゼルスを拠点とする 映画制作者の集団だ。今回は、短編映画『バーナード・チェック・イン』も併映される。アメリカの独立系から誕生した「オムネス・フィルムズ」は、まだまだ小さい無名の制作集団かもしれないが、今後、北米で成長するポテンシャルを持っていると期待したい。数年後、この制作集団「オムネス・フィルムズ」が商業的に成功を収め、メインストリームに台頭する瞬間を目撃できる日が訪れるだろう。
「オムネス・フィルムズ特集」は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)【2025年10月まとめ】 八丈島を襲った台風、その時の状況は?https://www.rescuenow.co.jp/blog/column_20251127_202510report(2025年12月23日)
(※2)超大型台風に見舞われたフィリピン 170万人超の子どもに影響 台風が相次ぎ上陸、災害の被災地に追い打ちhttps://www.unicef.or.jp/news/2025/0180.html(2025年12月23日)
(※3)アメリカに甚大な被害をもたらしたハリケーンランキングhttps://www.esrij.com/news/details/29859/(2025年12月23日)
(※4)災害時に起こる心理反応「正常性バイアス」が行動に与えるリスクと対策https://www.yhg.co.jp/taiyo33/column/%E7%81%BD%E5%AE%B3%E6%99%82%E3%81%AB%E8%B5%B7%E3%81%93%E3%82%8B%E5%BF%83%E7%90%86%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%80%8C%E6%AD%A3%E5%B8%B8%E6%80%A7%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%80%8D/#toc4(2025年12月23日)
(※5)香港火災の悲劇を世界に伝えた写真の男性は、改修工事にリスクを抱えていたhttps://www.reuters.com/video/watch/idOWjpvC8XZXZXRR6R2ZJJ8VAAWPKLRC6/(2025年12月23日)
(※6)懐かしのカセットテープが令和に大復活、デジタル化も簡単な携帯プレーヤーが登場https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00160/082700371/?P=2#:~:text=%E3%82%AB%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%AB%E8%A8%98%E9%8C%B2%E3%81%97%E3%81%9F,USB%E3%83%A1%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%AB%E8%A8%98%E9%8C%B2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%82(2025年12月24日)
(※7)カセットテープの魅力再発見!現代に蘇るレトロな音楽体験https://www.soundhouse.co.jp/contents/column/index?post=3196(2025年12月24日)
(※8)新しい音楽の聴き方?! 「カセットテープ 」の魅力とプレーヤー選びのポイントhttps://very-q.jp/labo/2632/#:~:text=%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E3%82%AB%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%AF%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB,%E9%AD%85%E5%8A%9B%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E6%8C%99%E3%81%92%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年12月24日)
(※9)音旅演出家とは 「旅」を「音楽」で演出し、「音」で「旅」を感じる事ができる演出を施す「大迫淳英」の事です。https://jun-ei.jp/project/#:~:text=%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%97%E6%97%85%E3%81%AE%E4%B8%BB%E5%BD%B9%E3%81%AF,%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%82%E3%81%94%E6%8F%90%E4%BE%9B%E3%81%84%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年12月24日)