信念を試す異端の脱出スリラー映画『異端者の家』


あなたは、どっちの扉を選びたいか?右か、左か。鍵が掛かっている方か、掛かってない方か。その扉の先には、あなたが選んだ未来が待っている。閉じ込められた家の中で起きる出来事は、あなたの未来を予知する。神の存在が、あなたの存在を揺るがし続け、その存在有無への肯定否定を繰り返す。世界は有神か、無神か。あなたは有神論者か、無神論者か。今、世界が試されている。神の存在が否定され続けた世界の中心で、私達は神の有無を探らなければならない。生きるか死ぬかでは無いが、神仏混淆、怪力乱神の精神が私達の生死に直結する。その扉の先に広がる雄大な宇宙の神秘が、神の存在を肯定してくれそうだ。あなたは、どの扉の未来を選ぶのか?その選んだ結果によって、私達の未来の行く末は変わる。扉のドアノブを回すのは、今しかない。今この瞬間を逃せば、きっとあなたはこの先、後悔する人生を送る事になるだろう。神は、あなたの手の中にいる。神は、あなたの決意の中にいる。その手の先に開けているのが、神が創造した何千年にも渡る未来のビジョン。映画『異端者の家』は、天才的な頭脳を持つ男が支配する迷宮のような家に足を踏み入れた2人のシスターの運命を描いた脱出サイコスリラーだ。

古びた一軒家の豪邸で繰り広げられるのは、神の存在の肯定と否定に対する押し問答だ。有神論者の2人のシスターと無神論者の1人の怪しい男の間には、埋められない深い溝がある。それを大きく解釈すれば、この地球上に存在する有神論に覆い尽くされた国と無神論に毒された国同士の一騎打ちを縮図として描いているようでもある。古めかしい一軒の豪邸を地球に見立て、その世界観で繰り広げられる狂気の脱出ゲーム。今も世界中で有神論が信じられている国は、有神論(神の存在を信じる考え方)を持つ国は、世界中で非常に多く、特定の国を挙げるとすれば、キリスト教やイスラム教、ヒンドゥー教や仏教が盛んな国々などが挙げられる(※1)。たとえば、キリスト教が盛んな国と地域と言えば、西洋文化に特化した地域と言える。一部を挙げるとすれば、アメリカ合衆国、ヨーロッパ諸国、中南米諸国の地域がキリスト教信心が盛んに行われているのは、周知の事実だろう。逆に、イスラム教やヒンドゥー教の信徒がどの国や地域に点在しているのか、ほとんど聞いた事がないだろう。イスラム教で有名な国と言えば、チュニジア、モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、スーダン、ジブチ、ソマリア、レバノン、ヨルダン、サウジアラビア、イエメン、オマーン、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、イラク、モルディブ、バングラデシュ、マレーシア、インドネシア、ブルネイの他23か国(※)が挙げられ、特に中東や東南アジアが多い印象を受ける。ヒンドゥー教もまた、どの地域に信者が数が多いのか、ほぼ聞かない。ヒンドゥー教は、インドを中心とした南アジアで広く信仰されており、特にインド、ネパール、バングラデシュ、スリランカ、インドネシア(バリ島)(※3)が挙げられる。こうして見て、見えて来る事がある。それは、世界全体に存在する有神論の割合だ。世界人口の約6割が有神論者と言われ、先に挙げた、キリスト教(約32%)、イスラム教(約25%)、ヒンドゥー教(約15%)の信者がこれに該当する。また一方で、無神論者は全世界の約16%(約12億人)が存在すると言われている(※4)。

その無神論と言われている国々には、ここ日本を含め、チェコ、エストニア、中国とこれら3つの国が含められる。他にも、ベラルーシ、キューバ、ロシアが無神論者の割合が多いと言われており、世界は有神論と無神論で真っ二つに分断され、無神論者と有神論者間の紛争は、歴史的にさまざまな文脈で存在しており、宗教、哲学、倫理、社会といった分野で論争が起こっている。たとえば、宗教的観点、哲学的観点、科学的観点、倫理的観点、社会的観点と様々な観点で論争が語られる。また、古代から現代まで様々な紛争が起こっている。たとえば、16世紀には宗教改革が起こり、キリスト教の内部における無神論や非伝統的な考えの登場を招き、激しい紛争となっている。また、18世紀には啓蒙思想が広がり、合理主義と科学主義を重視した宗教的な偏見を否定する思想が認知された。そして現代、多様な宗教や無神論が共存し、宗教的な自由の保障、宗教と科学の調和などが世界レベルで議論されている。それでも争いが絶える事はなく、互いの宗教の違いを理由に宗教的な争い、宗教的な倫理観と無神論的な倫理観が対立し、議論や論争の倫理的な議論、宗教教育の必要性や無神論的な教育の導入、教育に関する議論が紛争の火種となる教育に関する議論がしばしば発生している。また、NHKが去年10月から11月にかけて行った「宗教」に関する世論調査(全国の18歳以上対象)の結果によると、「仏教」と答えた人が31%、「神道」が3%などと、何らかの宗教を信仰していると答えた人は合わせて36%という結果に。非常に少ない過ぎる数字だ。宗教紛争を解決する解決策には、互いの対話、教育、法の尊重、双方における相互理解が求められている。より分かりやすく言えば、「相手の考え方を尊重する」「自分の考え方を押し付けない」「冷静に対話し、議論する」のこれらを忘れない事だろう。映画『異端者の家』を制作したスコット・ベック&ブライアン・ウッズの両監督は、あるインタビューにて本作について、こう話す。

ベック監督:「宗教は恐ろしいものです。歴史や、それが人々に何をさせてきたかという点からも、恐ろしいものになり得ます。儀式においても、宗教の本質に従属するものであれ、神話に染まったものであれ、恐ろしいものになり得ます。しかし、宗教には、人々を特定の考えや信念に誘導し、それを使って他者を支配する力があるように思います。まさに、宗教は恐ろしい存在になり得るように思えます。」
ウッズ監督:「10年間の宗教研究を通して、私たちは宗教を自分たちが理解できる言葉で表現しようと試みてきました。ファストフードやモノポリーに例えたり。それが面白かったんです。あの文章を書くのは、本当に大変な作業でした。私たちの執筆プロセスは、最初はぼんやりとしていて焦点が定まっていません。「よし、何かのアナロジーを提示したいのはわかっているけど、それが何なのかはまだはっきりとはわからない。でも、大まかなアウトラインは描いている」。でも、書き進めていくうちに、「もしかしたらこれとの比較かもしれないし、比較できる歴史的な出来事があるかもしれない。あるいは、何かゲーム要素と比較できるかもしれない」と考え始めるんです。何百通りもの案を練りました。最初は「チェスかな?チェスとの比較があるけど、チェッカー?あまり面白くないね。ポップカルチャー的な要素はあるかな?」といった感じでした。モノポリーはいつも参考にしています。『クワイエット・プレイス』の脚本では、モノポリーのゲーム盤が初期のセットピースの大きな部分を占めていました。それから、様々なアナロジーや比較、音楽を探しました。 再び、100通りのバージョンを書き上げました。そしてついに、このシーンに辿り着き、針の穴に糸を通すことができました。このシーンを紙面に書き上げるまでに多くの労力を要したため、非常に誇りに思えるシーンであり、仕上がりに非常に満足しています。監督として、私たちは恐怖に震えていました。「この冒涜的な映画にモノポリーのボードを使う許可は絶対に得られないだろう。訴訟に関する汚い秘密を暴露する許可も、レディオヘッドから絶対に得られないだろう。映画には絶対に反映されないだろう。」幸運なことに、このシーンには素晴らしいプロデューサー、ステイシー・シャーがいました。彼女はまさにアイコン的存在です。彼女は『パルプ・フィクション』でキャリアをスタートさせ、その後も数々の素晴らしい映画を手がけてきました。彼女と他のプロデューサー陣は、私たちがすべてのシーンを生き生きとさせ、私たちのビジョンを実現できるよう、あらゆる条件をクリアできるよう導いてくれました。大変な作業でしたが、本当に楽しいシーンでした。」(※5)と、両監督が、本作の要素について話す。ホラー要素と宗教には、切っても切れない深い縁が存在し、宗教の中に存在する恐怖と恐怖の中に存在する宗教には、背中合わせの相反する要素のせめぎ合いが人々に恐怖の化身を与える。また、日常の中に数々の宗教の現身化されたものが潜む。モノポリー、ファミリーレストラン、ファストフード店、私達が常日頃、何気無しに利用しているものには、宗教と同じシステムの社会構造が縮図として点在している。たとえば、ファストフード店で有名なマクドナルドには、思想を偏らせる旨味の要素がハンバーガーに練り込まれており、それを一口口にすれば、人々はたちまち、マクドナルド信者となる。ここには、私達が気付かない宗教の方程式が眠っており、薄ら薄ら気付かぬうちに、私達はマクドナルド信者へと泥沼化されている。

最後に、映画『異端者の家』は、天才的な頭脳を持つ男が支配する迷宮のような家に足を踏み入れた2人のシスターの運命を描いた脱出サイコスリラーだが、スリラー要素だけが一人歩きしている訳ではなく、本作の原題「Heretic」には「異端者」という意味があるように、世界中は異端者という存在で埋め尽くされている。外の世界から入って来た者、隣の国から移民として入植して来た者、大国の人種が小国を植民地化しようと大陸移動して来た者、みなよそ者であり異端者だ。世界は、この異端者で成り立ち、また両者が三者三葉にいがみ合っている。この有神論者のシスターと無神論者の謎の男の対立は、今の世界の縮図でしかなく、私達は有神と無神の間で試されている。神の存在を信じる前に、私達がこの世界で存在しているかどうか、常に試されている。あなたの存在価値を誰にも傷付けず、否定されない社会を作るには、互いの相互理解が必要となる。それがひとたび崩れてしまえば、神の存在の名の元に紛争が繰り広げられてしまう。

映画『異端者の家』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)#188 日本人で宗教を信仰している人は何%? 増えてるの減ってるの?https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/367473.html#:~:text=NHK%E3%81%8C%E5%8E%BB%E5%B9%B410%E6%9C%88,%EF%BC%85%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82(2025年5月18日)
(※2)世界遺産ガイド-イスラム諸国編-http://www.wheritage.net/ISBN4-916208-71-4.html#:~:text=%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%AB%EF%BC%8C%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0%E6%95%99%E3%82%92%E5%9B%BD%E6%95%99,%E3%81%AE23%E3%81%8B%E5%9B%BD%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年5月18日)
(※3)#What’s ヒンドゥー教? あらゆるものをのみ込む宗教 3分でわかる!世界五大宗教その4https://transit.jp/regular/theme/what-hinduism/#:~:text=%E7%B4%8411%E5%84%84%E4%BA%BA,%E3%82%92%E5%BD%A2%E6%88%90%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82(2025年5月18日)
(※4)信仰者数が多い宗教・宗派とは?日本と世界のランキングを紹介https://www.sugiurahonten.com/column/ranking-of-believers(2025年5月18日)
(※5)The Fear Of Certainty: An Interview With HERETIC Creators Beck & Woodshttps://www.fangoria.com/heretic-interview/(2025年5月20日)