完璧な家族の崩壊が始まる映画『満ち足りた家族』


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完璧な家族。完璧な親。完璧な夫に妻。そして、可愛い子ども達と要介護の祖母。彼らは、何一つ変わりなく、どこにでもいる普通の家族。時にケンカをしたり、時に笑い合い、互いの信頼関係を築く。そこには、一点の穢れもない清い家族像が存在するが、実際には誰もが誰にも言えない秘密と虚実で塗り固められた嘘を抱え、仮面家族として日々を過ごす。誰も、親戚一族、隣近所の家族の裏側を知る者はいない。皆、自身の都合の良い嘘を身にまといながら、暮らしている。誰もが、嘘に秘密、隠し事を抱えて、日々笑顔を付き合わせながら、自身の想いを隠して生きている。日本では、「本音と建前」という言い回しがあるが、それは日本の文化として根付いており、人間関係において波風を立てないよう人との関係性を構築する習慣があるが、それは家庭内における関係性でも言える事。たとえ家族であっても、人間レベルで言えば、血の繋がりがあろうが、残念ながら赤の他人。家族関係が満ち足りていると思っていても、そこには大きな落とし穴がある。映画『満ち足りた家族』は、一つの事件をきっかけに、ある兄弟とその家族が崩壊していく様を描いたサスペンス。あなたの家族との関係性、大丈夫だろうか?

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映画の物語では、韓国のある家族の関係が一つの出来事を契機に崩壊しバラバラになって行く様子が描かれているが、現実問題、韓国における家族関係とはどんなものだろうか?韓国の家族への価値観は、日本にも似た一面を持っているだろう。長子相承による永代父系直系家族を理想とする伝統、家族愛を重んじる風潮が今でも強く残る。親から子への世代交代と共に、一家の大黒柱の地位は父親から長男へと受け継がれる文化が今でも残る。また長男が結婚すると、その花嫁は夫の家族に加わり夫や両親と共に暮らす風習がある。また、家族愛を重んじる習慣が根強く残る。韓国の企業では、週1回「家族愛の日」(※1)が設けられており、定時と同時に一斉に仕事を切り上げ帰宅を推奨される日がある。友人間でも仲間意識が強く、少し重すぎると感じてしまうかもしれないが、他人を大切にする関係性を築く。また、日本と同じように「核家族化」論への疑問が提起され、同じ問題に直面している昨今。たとえ血縁関係にあっても、家族はどこまで行っても家族だ。親子は親子、親は親、子は子なのだ。親や家族を大切にする習慣は、世界万国共通なのだろう。

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では、日本における家族に対する価値観は、韓国とはどう違うのだろうか?日本での家族に対する価値観はご存知のように、伝統的な価値観(※2)が強く反映されつつも、近年は変化の兆し見えつつある。たとえば、「夫は仕事、妻は家事・育児」という従来の性別役割分担への賛成が減少している。その背景には、結婚に対する価値観(※3)に変化が見られ、結婚する事だけが必ずしもすべてではないという考え方が広まっている。この考えが、上記の性別役割分担の変化に影響を与えているのだろう。また、結婚をしたとしても、自由のある関係性や過去にあった価値観の型に囚われない結婚観が若い世代の中で新しい考え方として定着しつつある。この考え方が端を発し、個人の自律性や選択の自由が増え、女性の社会進出に伴い、夫婦間の役割も固定化されない関係性が当たり前になって来ている社会的背景が伺える。ただこれからの課題として、①離婚や家族の離散②家族の精神的乖離や家庭内暴力③高齢化と単独世帯の増加④不公平な家事労働と介護負担が挙げられ、早急に社会的解決が望ましい事案として扱われる。その上で、家族間関係は団らんの場、休息・やすらぎの場、絆を強める場、 親子が共に成長する場としての重要な役割を担う。若者世帯の中で子どもがいると回答した家庭を対象に、子どもを持つ事へのアンケート(※4)に対して「子育てを通じて自分も精神的に成長した」と回答した人が最も多くいた結果も出ている。子どもという存在が、各々の親へ良い刺激を与えている。また韓国と日本での家族に対する思い方への違い(※5)だが、たとえば、夫婦の日常では連絡頻度は高く、意思をはっきり伝える。夫婦別姓では、韓国では結婚しても夫婦別姓のまま。国際結婚の場合は、どちらか選択する事もできる。家族の日常では、数日に1度は子供から両親に電話をする家庭が多い。家族の集まりは比較的カジュアルになって来ているが、日本の「お正月」「お盆」のような行事の、旧正月「설날(ソルラル)」と中秋の名月の秋夕「추석(チュソク)」に加え、日本の○回忌などにあたる「法事」である祭祀「제사(チェサ)」が、毎年行われる。その上、長男家族は3代前の先祖の為にも集まっている。非常に家族や先祖の繋がりを大切にする国民性を伺い知る事ができる。映画『満ち足りた家族』を制作したホ・ジノ監督は、あるインタビューにて原作を映画化にする難しさについてこう話している。

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ホ・ジノ監督:「最初に作られた映画があるにも関わらず、新たに監督として映画を作るのは、負担です。しかし、韓国社会とその状況を通じて、発信できる話があるのではないかと勇気を出しました。また、今まで私が作ってきた映画とは違う作風でした。その上で、原作が言う人間の両面性も以前から関心があったテーマでもあったんです。」(※6)と、人間が持つ善と悪、誠と嘘、表の顔と裏の顔と言った一人の人が持つ二項対立する両面への関心が強くあったと話すが、人間誰しもが人には言えない一面を持っている。それが、人って言うものだろう。あなたは、家族にどんな秘密や嘘を持っているだろうか?
最後に、映画『満ち足りた家族』は、一つの事件をきっかけに、ある兄弟とその家族が崩壊していく様を描いたサスペンスだが、誰一人として心が満たされていない人ばかりが登場する。満ち足りているのは金銭力や経済力だけで、心の余裕が一つも感じられない家族たち。それは、現代の日本が持つ社会問題と同じだ。家族が、家族と呼ばれなくなった昨今久しく、もう一度、家族や親子の存在について立ち返って行く必要があるのでは無いだろうか?

映画『満ち足りた家族』は現在、全国の劇場にて公開中。
(※1)韓国人の国民性と文化ギャップ:日本との驚きの違いを現地勤務経験者が語るhttps://global-saponet.mgl.mynavi.jp/culture/2900#:~:text=%E9%9F%93%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E9%80%B1,%E5%A4%A7%E5%88%87%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(2025年2月14日)
(※2)日本人の家族観 変化する意識・変化しない制度https://www.nippon.com/ja/currents/d00095/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%AE%B6%E6%97%8F%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E5%B7%BB%E3%81%8F,%E3%82%92%E5%BE%97%E3%82%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AF%E3%81%82%E3%82%8B%EF%BC%89%E3%80%82(2025年2月14日)
(※3)止まらない日本の少子化。母親・家族像の「あるべき論」も影響している?https://ashita.biglobe.co.jp/entry/2023/01/23/110000(2025年2月14日)
(※4)【調査結果速報・第2弾】結婚観・家族観に関するアンケート(個人の価値観から少子化の原因を考える)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/marriage-and-family-views2020-02.html#:~:text=%E3%81%A7%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82-,%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%82%92%E6%8C%81%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%93%E3%81%A8%EF%BC%88%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BA%BA,%E3%81%8C%E5%A4%9A%E3%81%84%EF%BC%8852.9%EF%BC%85%EF%BC%89%E3%80%82(2025年2月14日)
(※5)韓国と日本の家族観の違いhttps://wanjeon.tv-aichi.co.jp/078-article/(2025年2月14日)
(※6)[IS인터뷰] ‘보통의 가족’ 허진호 감독 “인간 양면성 보여주고 싶었죠”https://isplus.com/article/view/isp202410080002(2025年2月14日)